75話 夜襲
僕たちは、食事を済ませた後のティータイムを楽しんでいた。
もちろん、兵士たちにも、交代で休むように指示を出し、温かい食事とお茶を用意している。
僕たちだけがくつろいでいるわけではない。
戦時下だからこそ、兵士たちにも英気を養っておいてもらわないと、いざという時に動けないからね。
僕は、お茶を飲みながら、気になっていたことを思い出す。
それは、第二騎士団のことだ。
僕にはどれが、どの騎士団なのかは判別できないので、誰かに尋ねようと思っていた。
しかし、戦場では聞けずに後回しにしていたのだ。
まあ、そんな暇はなかったんだけどね。
そこで、今になって、戦場に第二騎士団はいたのかを、レイリアたちに尋ねてみた。
彼女たちの返事は、第二騎士団だけが見当たらなかったという意見でまとまった。
確かカーディア帝国には、一二隊くらいの騎士団があったと思うけど、その中の第二騎士団だけがいないのも妙だ。
僕が悩んでいると、ジーナさんから、敵陣のさらに後方に造られた陣で、第二騎士団が待機しているのを確認したことを教えてもらえた。
そんな後方で何をしているんだろう?
何かを企んでいる様で不気味だ。
リネットさんが立ち上がり、窓越しに外の様子を見始めた。
「そろそろ頃合いですわ。皆さんに見せたい物がありますので、付いて来て下さい」
彼女はそう言うと、部屋を出て行く。
僕たちは、彼女に置いて行かれないように後を追う。
城壁の屋上へと着くと、彼女は真っ暗で何も見えない城の方を指差した。
彼女の指差す方向を注視するが、何も見えない。
すると、パッと明るくなり、二つの城が照らし出された。
「「「「「おぉー!!!」」」」」
僕たちは、驚いて声を上げた。
二つの城がライトアップされたのだ。
カシャ、カシャ、カシャ。
さっそく、ヒーちゃんが写真撮影を始める。
そして、映像を確認してから満足そうに頷く。
「上手くいきました」
ヒーちゃんからつぶやかれた言葉に、僕は何となく想像がついた。
ヒーちゃん、ケイト、リネットさんで、皆を驚かせようと企んでいたのだろう。
その証拠に、彼女たち三人は、僕たちを見て満足そうな微笑みを浮かべている。
僕もこういうサプライズなら、心が和むし、いいと思った。
しかし、観光目的でするのならいいが、今は戦時下だ。
「これって、目立つけど、敵がいる前でやって良かったの?」
「「「!!!」」」
僕の言葉に三人は固まり、口をパクパクさせるだけで、声が出ていない。
やってしまったと思っているのだろう。
そんな中、兵士が慌ただしく、僕たちのそばへ駆け寄ってくる。
彼は、カーディア帝国軍に動きがあったことを報告すると、すぐに持ち場へ戻っていく。
僕たちは敵陣が見える反対側を注視した。
しかし、敵陣に少し灯りが見える程度で、暗闇の平原は黒一色だった。
こういう時に限って、月は大きな雲に隠れている。
リネットさんが、兵士たちに等間隔で置かれている布をとるように指示を出す。
兵士たちが布をとると、大きな木製の筒が姿を現した。
そして、底に埋め込まれていた魔石に、兵士たちが触れると、筒の口から強い光が放たれる。
サーチライトだ!
城のライトアップに使われている物を城壁にも設置していたのだ。
兵士たちは、側面についている取っ手を握り、平原を照らし始めると、いくつもの光の円が動き回り、何かを探しているようだった。
しばらくの間、サーチライトの光が真っ暗な平原を探索していると、動く物を見つけ、そこに複数のサーチライトの光が集中した。
そして、探索を続けている他の光も続々と動く物の影を捉えては、照らし出す。
そこには、黒い布で身を隠した複数の集団が、ゆっくりと歩を進めていた。
それは、こちらの陣のすぐそばまで近付いていた。
「シリウス、兵士に迎撃の準備を!」
「フーカ様、特殊部隊も迎撃に向かわせていいですか?」
彼に、何か策があるのか、特殊部隊の実力を確かめたいのかまでは分からないが、彼の表情を見て、任せてもいいと思った。
「シリウスに任せるよ。頼むね!」
「はっ!」
彼は、軽く頭を下げると、階段の方へと消えて行った。
僕は彼の姿が見えなくなると、ヒーちゃんに視線を向けた。
「ヒーちゃん、こちらだけが攻められて消耗させられるのは、戦いが長引いた時に不利だと思うんだけど、どう思う?」
ゲームの時のように、僕は、無意識にヒーちゃんを頼る。
「こちらは数で負けてますから、消耗戦は避けたいです。こちらも敵陣に夜襲を仕掛けた方がいいと思います」
彼女はあごに手をあてて、答えた。
「うん。だよね。ケイト、爆撃の準備はすぐにできるの?」
「は、はい! ペスたちは、汎用のベストを着たままですから、爆撃用の装備をベストに取り付ければ、すぐに飛び立てますよ!」
ケイトはニッコリと笑って、親指を立てた。
ペスたちが荷物を運ぶ時に、負担にならないようにと考えたベストが、すでに完成して、配備されていた……。
毎度のことだが、完成したなら教えて欲しい!
「ジーナさん、グレイフォックス隊で、敵陣へ夜間爆撃をして! 標的は、かがり火とその周辺を狙ってくれればいいよ!」
僕は敵陣に点在する小さな灯りを指差す。
「はい!」
彼女は敬礼してから、走り去っていく。
シャルたち皆が、僕を見てニンマリしている。
「えっ? 何?」
僕は首を傾げる。
「いえ、フーカさんが指揮官らしいことをしているので、おもしろ……コホン。フーカさんでもやる時はやるのだなと感心していたのです」
シャルの言葉に、皆が大きく頷く。
褒められては……いないよね? それに、面白いって言いかけてた。
僕が真剣な様子を面白がっていたんだ。
悔しい思いと一緒に、恥ずかしい感覚も襲ってきた。
僕が恥ずかしがっている間に、前線では動きがあったようだ。
暗くて昼間よりも見えないので、下に降りたかったが、今回は却下された。
仕方なく、暗視スコープとパソコンをケーブルを繋いで、画面の映像を皆と見ることにする。
ケイトが暗視スコープを装着したのだが、彼女は暗視スコープを覗きながら、キョロキョロとする。
パソコン画面の映像が左右に大きく揺れて、酔いそうだ。
「ケイト! ゆっくり動かして! こっちで見てると酔いそう」
「えっ? ごめんなさい!」
彼女は、ゆっくりと頭を動かした。
すると、シリウスが部隊を引き連れて、ゆっくりと敵に近付いていく映像が映りだす。
夜行性の猛獣が、獲物に忍び寄っているような光景だ。
敵は、自分たちがサーチライトで照らされて、バレていることに気付いていないのだろうか? それとも、バカなのか?
サーチライトに照らされた範囲は、暗視スコープだと逆に見ずらい。
ケイトも気付いたようで、兵士に手で合図を送る。
兵士は頷いて、魔石に手をかざすと、光量が絞られていく。
なんて便利なんだ!
これで、ストレスなくシリウスたちの様子を見守れる。と、思いきや、ケイトは別の方向に視線を向ける。
その視線の先には、ギリースーツを着た特殊部隊が敵の背後からゆっくりと近付いていた。
「「「「「ゴクッ」」」」」
僕たちは、生唾を飲む。
見ているだけなのに、こっちまで緊張してくる。
特殊部隊があと一歩と言うところまで近ずくと、映像がシリウスたちへと戻った。
「「「「「ケイト!!!」」」」」
ケイトは、皆からクレームを受ける。
いいところでチャンネルを替えられた気分だ。
画面に映っていたシリウスたちが、敵を襲い始める。
敵兵たちが次々と倒されていく。
しかし、シリウスが一人の相手に、苦戦を強いられた。
相手は、容姿と強さからアウレートのようだ!
剣同士がぶつかり合い、緑色の画面が白く光る。
二人の戦闘は激しさを増していく。
すると、皆が画面を覗き込むように前のめりとなり、僕へ押し付けられた膨らみの密着度も増した。
そして、いい匂いが鼻腔をくすぐる。
不謹慎だと思いつつも、顔がほころぶのを止められない。
急に、僕たちが画面に映し出された。
すると、僕が鼻の下を伸ばしたスケベそうな微笑みが、しっかりと捉えられていた。
皆は、蔑むように僕を見る。
そして、ケイトは暗視スコープを外して、呆れている。
「フーカ様、嬉しそうですね」
ケイトの言葉と同時に、皆は胸を押さえて、僕から少し離れた。
「ざまあみろ」とでも言いたげな悪い笑みを浮かべたケイトは、「フッ」と鼻で笑うと、再び暗視スコープをつけて、視線を戦場に戻す。
僕は悔しさを飲み込んで、視線を画面に戻した。
シリウスとアウレートの戦いは、いつの間にかシリウスが優勢に転じていた。
僕は、心の中で少しホッとする。
シリウスの勢いにアウレートが押され、後ずさりを始める。
そこで、場面が特殊部隊の方に移ってしまう。
ケイトが視線を変えたからだ。
いいところで……。
皆もケイトを睨んでいるが、彼女は気付いていない。
画面には、特殊部隊が敵兵を背後から襲い、一人ずつ確実に始末していく様子が映される。
見ていて、背筋がゾッとするような光景だった。
僕が身震いをすると、シャルたちも同じように身震いをしていた。
彼らは息を潜むように近付き、声を出させないように口を押えると、ナイフを使って一刺しで敵兵の命を絶ち、死体に覆いかぶさる。
そして、死体を引きずって後退する。
それを繰り返し、一人、また一人と敵兵を減らしていく。
オルガさんは画面を見て、満足そうな表情を浮かべているが、ルビーさんたち竜族の面々は真っ青な顔色している。
もちろん、エルさんたちも真っ青な顔色になっていた。
絶対に、敵には知られたくない戦い方だと、僕も心底思い、もし、敵に知られたらと青ざめる。
「ねえ、あの戦い方は何なのよ! ユナハ国は、あんな兵士を育てているの? 冗談じゃないわ! あんなのが襲ってくることを知ったら、ユナハ国に敵対できないじゃない!」
さっきまで青ざめていたエルさんが、僕に向かって、わめき散らし始めた。
彼女の背後では、サンナさんとハンネさん、ルビーさんたちまでもがコクコクと首を大きく縦に振っていたが、すぐに首を傾げる。
僕も首を傾げてしまう。
エルさんは、ユナハ国に敵対する気だったのだろうか?
僕は、エルさんの義理の孫になるんだけど、彼女の考えが分からない。
そして、アスールさんはこっち側なのに、何故、エルさんやルビーさんたちと一緒になって首を振っているのかも分からなかった。
「エルさん、うちに敵対……」
「エル様、ユナハ国に……」
ドーン! ドーン、ドーン――。
僕とサンナさんは、エルさんの問題発言を問いただすため、彼女に向かって口を開いたが、同時に轟音が連続で響き、言葉をかき消されてしまった。
エルさんの心のうちを聞き出す機会が……。
敵陣からは炎が上がり、数か所から煙が立ち昇っている。
ケイトが上空を見ると、画面にはペスたちグレイフォックス隊が、編隊を組んで飛んでいる姿が映った。
そして、ペスたちの着ているベストに取り付けられている箱が開き、爆弾が落とされる光景も映し出された。
ドーン! ドーン、ドーン――。
すると、再び、連続した轟音と閃光、そして、立ち昇る煙が敵陣に見える。
第二派の攻撃が、敵陣に与えられたのだ。
敵陣から悲鳴や号令、騒ぎ立てる声がこちらまで聞こえてくる。
突然の攻撃に、混乱しているようだ。
夜襲をかけている自分たちの陣地が、攻撃を受けることを微塵も考えていなかったのだろう。
サーチライトの一部が敵陣を照らすと、城壁からでも、混乱し、逃げ惑う敵兵が肉眼でも認識できた。
その後も、数度にわたり、グレイフォックス隊の爆撃が続くと、帝国軍は陣地を放棄して、後方へと撤退を始めるのだった。
ふと、シリウスのことを思い出した。
「ケイト、シリウスはどうなっているの?」
僕の言葉に、彼女はシリウスが戦っていたあたりを探す。
画面には、シリウスとその部隊が移り、健在であることが確認できた。
僕は、その映像を見て、安堵する。
ケイトは、シリウスの周辺にも視線を向け、アウレートも探す。
そして、見つけた。
彼はシリウスたちと特殊部隊によって、襲撃された部隊の生き残りとともに撤退していた。
僕たちがアウレートたちの撤退する様子を画面で見ていると、兵士が僕たちのそばへ来て、今回の戦闘での死傷者がいなかったことを報告する。
今日一日、昼も夜も戦ったというのに、戦闘での死傷者はこちらには出なかったことは奇跡だ。
そして、敵軍は陣地を放棄して撤退した。
これは、僕たちの完全勝利だ。
さすがに、夜襲まで仕掛けられると、こちらの疲労も溜まる。
僕たちは、城壁内の部屋へ戻ると、各々、好きな場所でくつろぎ始めた。
僕が提案した、床にマットを敷き、その上に絨毯を敷いた座敷のような空間は好評のようだ。
靴を脱ぎ、そこに寝そべって身体を伸ばすと気持ちがいい。
西洋風なこちらの世界には、座敷の発想がなかったせいもあり、一度その味を知った者は、すぐに寝そべって、身体を伸ばしていた。
床に正座させられた状態で、長時間のお説教を受けると足が痛いから、どうにかしたいという理由で提案したとういうことは、僕だけの秘密だ。
僕たちが足を伸ばしてくつろいでいると、ジーナさんとシリウスたちが戻って来た。
僕たちは、彼らを拍手で迎える。
本当によく戦ってくれたと思う。
シリウスは、再びアウレートを取り逃がしてしまったことを詫びてくるが、僕は、こちらの死傷者を出さずに撤退させる方が、余程難しいと思うことを告げて、敵を倒すことに執着しないようにと諭した。
彼は頭では納得したものの、気持ちは違うといった様子だった。
僕には分からないが、武人としてのプライドとかもあるのだろう。
ジーナさんからは、撤退した敵軍が、第二騎士団が宿営している陣地に合流したことを報告された。
そして、夜間だったのではっきりとは言い切れないが、ハウゼリア新教国の騎士団だと思われる部隊も見かけたそうだ。
その報告を聞いたルビーさんたちは、積年の敵に会った様な表情を浮かべ、その顔は悪そうな笑みへと変わっていった。
美人がそんな顔をすると、怖すぎる……。
僕は、ふと思った。
帝国軍が前線の陣地から撤退したなら、その陣地は、今は無人なのでは?
「ねえ、帝国軍が撤退したなら、敵陣は無人だよね? せっかく造った陣地が空っぽなのはもったいないよ! 僕たちで有効活用してあげるのはどうかな?」
皆が一斉に僕を見る。
また、何か余計なことを言ったかと不安になる。
「そうですわ! すぐに手配しますわ!」
リネットさんは、嬉しそうな顔で部屋を飛び出すと、その後をヘルゲさんとアルバンが追う。
レイリアがこちらを見て、何かを言いたげな顔をしている。
「レイリア、何か言いたいことでもあるの?」
「フーカ様って、そういうところは抜け目がないですよね」
彼女の言葉に皆が笑いだす。
いい提案をしたと思うんだけど、この扱いは納得がいかない。理不尽だ!
「城壁と違い、防御力の低い陣地同士の戦いになると、数の少ないこちらが不利になりませんか?」
サンナさんが疑問を投げかけてくる。
僕も、そこまでは考えていなかった。
皆も、確かにといった表情で考え込む。
しばらくの間、座敷で輪になるように座り、何かいい案はないかと考える面々。
一方で、エルさん、マイさん、レイリアの三人は、考えることに飽きたのか、用意されていた軽食やお茶を持ってきて、飲食を始める。
こ、こいつらは……。
「一夜城……」
ヒーちゃんがつぶやく。
「それだ!」
僕は、思わず叫んでしまった。
すると、皆の視線が僕に集中する。
「それって、何ですか?」
シャルが首を傾げると、皆も首を傾げる。
「今からだと間に合うかは分からないけど、一晩で城を建てる方法があるんだよ。それが、ヒーちゃんのつぶやいた一夜城なんだよ」
「イチャイチャする城じゃないんですね。フーカ様のことだから、てっきり……。それにしても、一晩で城が建つ方法なんてあるんですか?」
イチャイチャする城って……。
ケイトのことを叩きたいが、今は我慢。
「木材で建材を作っておいて、陣地に運んで組み立てるんだよ。立派な城を建てるんじゃなくて、戦いの時に使えればいいだけの城だから、簡素でいいんだ」
「なるほど。建材を作っていないので、朝までにとはいきませんが、早めに木材の加工をしておいたほうがいいですね。すぐに図面を書きます」
ケイトはペンを持つと、おおまかな城の図面を書き始め、イーリスさんは、一夜城のことをリネットさんたちへ報せに行く。
「出来た!」
うとうとしていたところを、ケイトの大声で起こされる。
彼女はテーブルに図面を広げる。手書きで簡単に書いていた割には、しっかりとした図面となっていた。
簡素な造りになっているので、ちょっと大きめの掘っ立て小屋かプレハブといった感じだが、別に生活をするわけでもないので、十分だと思う。
僕たちが頷いて納得すると、彼女は図面を丸める。
「これをリネットさんに渡してきます」
ケイトはそう言うと、部屋を出て行く。
ヒーちゃんは、「待って下さい。私も行きます」と言って、彼女の後を追いかける。
外はうっすらと明るくなってきていた。
結局、皆で雑魚寝だったので、寝るのが怖いことはなかった。
僕は雑魚寝とはいえ寝てしまったが、ケイトやリネットさんたちは、寝ずに仕事をしていたのだろう。
彼女たちの身体が心配だ。
僕は、徹夜で働いていた人たちに休息をとらせたほうがいいと思い、シャルに相談をすると、彼女も頷き、納得してくれる。
そして、アンさんがそのことを手配するため、部屋を出て行った。
皆の休息のためにも、帝国軍がこのまま数日間、大人しくしてくれればいいのだけど……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
そして、ブックマークをしていただき、ありがとうございます。
とても励みになっています。
誤字脱字、おかしな文面がありましたらよろしくお願いいたします。
もし気に入っていただけたなら、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。
また、この度、タイトルを変更させていただきました。
これからも、よろしくお願いいたします。




