73話 カーディア帝国からの宣戦布告
ユナハ城へ到着すると、クリフさんが出迎えてくれた。
土産話の一つでもしたいところだが、そんな雰囲気ではないことは、城内の慌ただしさからわかる。
「フーカ様、皆さんもお帰りなさい。会議室の準備は整っています」
彼もすぐに会議を始めたいようだ。
会議室へ入ると、エンシオさん、マイさん、ヘルゲさん、シリウス、アルバン、カイ、アスールさんの部下三人が、席に着いて待っていた。
僕は席に着くと、現在の状況を報告してもらう。
まだ、カーディア帝国からの宣戦布告は出されていないが、帝国の各領からは領軍と物資がアルセ市を目指しており、アルセ市近郊では、すでに帝国が陣地を造り始めているとのことだ。
宣戦布告を出すと同時に、攻めてくるつもりなのが、見え見えな気がする。
逆に分かりすぎやしないかと不安になってくる。
いや、敵の思惑を色々と深読みをする方が危険だな。
今ある情報から導き出される対処に専念しよう。
僕は頭を振って、意識を切り替える。
「こっちは、どんな対応をとってるの?」
僕の質問に、すでに増援をアルセ市に送ったことを、ヘルゲさんが告げる。
それだけ……?
僕は少し戸惑ってしまう。
アルセ市は城塞都市だから堅固だが、敵は各領から軍を集めている以上、戦いが始まったら、数でものを言わせる総力戦に持ち込むつもりでいると思うんだけど、大丈夫かな。
「えーと、新設部隊は投入できそう?」
「投入はできます。特戦群の指導もありましたから、それなりにはなりました。ただ、実戦の経験がないので、そこが心配です」
シリウスは答えるが、少し悩んでいる感じだった。
戦えるが、万全ではないと言う感じなのだろうか?
今までの戦い方とは違う戦い方を強いるのだから、不安があるのだろう。
しかし、ここで活躍してもらわなければ、近代的な戦い方への移行は無理になってしまう……悩ましい。
ここは、僕が決断しないといけない気がする。
「この戦いに新設部隊を投入します。ただし、まだ練度の足りていない者と部隊の参戦は認めません」
「「「「「はっ!」」」」」
僕がはっきりと告げると、ヘルゲさんたち軍属が返事をする。
告げた後から、人の命をゲーム感覚で扱っていないかと不安が襲ってくる。
戦争なんだから、死傷者が出るかもしれないのは避けられない。
自軍の死傷者を減らすために近代戦を取り込むことにしたのに、戦場へ送ると思うと怖くなってくる。
「フーカ殿、私たちも加勢しよう。ネーヴェもいいか?」
「はい」
ルビーさんに、僕の不安を読まれたのかな?
彼女たちから心強い申し出がくる。
「他国の戦闘ですけど、いいんですか?」
「同盟国なのだからかまわん」
再び、心強い言葉が返ってくる。
「よろしくお願いします。ただし、無茶はしないで下さい」
ルビーさんたちの参戦が決まり、少しホッとしてしまう。
彼女たちにどう動いてもらうかによって、戦況が大きく変わる。何だか、責任が重くなっていないか……?
「はい、はい、はーい! 私たちも加勢するわ!」
今度はエルさんが申し出てくる。
ここは喜ぶべきところなのだが、何故か素直に喜べない。
一応、他の人たちの表情を見る。
皆、渋い表情を浮かべ、僕を見つめていた。
見るんじゃなかった……。
「えーと、大丈夫?」
僕の返事に、エルさんが顔を真っ赤にして膨れる。
「大丈夫? ってどういうことよ! さっきと、こんなにも態度が違うのは心外だわ!」
「だって、エルさんたち三人で何をするの?」
「「えっ? 私たちも含まれているんですか?」」
サンナさんとハンネさんが声を揃えて困惑する。
あれ? エルさんだけなの?
僕も予想外の返事に困惑する。
「なっ、あなたたち、私一人を戦わせるつもりだったの? 本当に心外だわ!」
エルさんは、耳を垂らして目をウルウルさせると、泣きそうな表情をした。
「エ、エル様、私たちも参加しますから、こんなところで、そんな顔をしないで下さい」
サンナさんの言葉にハンネさんもコクコクと頷き、二人とも焦る表情を見せる。
エルさんたちに加勢してもらって、大丈夫なのだろうか? とても不安だ。
「うーん。ありがとうございます。じゃあ、よろしくお願いします」
「何故かしら、フーカ君の邪魔をしてやりたいと、うずうずする感覚が襲ってくるわ!」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
「そお? そこまで言われたら頑張るわ!」
エルさんは、まったく出ていない力こぶに手を当ててやる気に満ちた顔をするが、ほとんど、脅迫だよね。
とても不安だ。
そんな中、アスールさんの部下四人も加わると手を挙げた。
ルビーさんたちは満足そうな表情で彼女たちに微笑む。
そう言えば、彼女たちの姓がアスールさんと同じエランだということだけで、名前を知らなかった。今思えば、とても失礼だったと反省する。
彼女たちが、順に自己紹介をしてくれたおかげで、クレイオ公国へ報告に来てくれた女性がアルタさん、他の三人は、ベルタさん、カルメラさん、チャロさんだと分かった。
これで、竜族が七人も味方についたことになる。
とても心強い。
「グレイフォックスを中心とした飛竜部隊を、偵察や航空支援、連絡員で使いたいんだけど、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
シリウスが大きく頷く。
あとは、アルセ市への配置をどうするかと、装備品をどうするかだ。
僕は、ヘルゲさんが挙手をしたので、彼を指し、発言を許す。
「実は、新設された中から使えそうな部隊を、カーディア帝国の動きが見られた時点で、アルセ市に送っています。勝手なことをして申し訳ありません」
彼は僕に頭を下げる。
「今から送ったのでは間に合わなかったかも知れなかったので、助かりました。ありがとうございます」
僕が礼を述べると、彼は一礼する。
アスールさんたちに、部隊の運搬を頼むかを悩んでいたので助かった。
もう一人、手を挙げる人物がいる。
その人を見て、僕は躊躇する。
「えーと、マイさんも何かあるの?」
「ふっふーん! フーカ君の走り書きで書かれたメモを見つけて、竜族の二人も送りたいってところは無視したけど、王直下特戦群の半数のほうは、アルセ市に送っておいたわ!」
彼女は得意げな顔をして、胸を張る。
「マイさん、ありがとう! それで、僕がいない時に部屋へ忍び込んでいるのはどうして?」
「あっ! そ、それは……面白そうなネタがないかなと……てへっ」
彼女は愛嬌を振りまいて誤魔化すが、皆からはジト目で見られる。
マイさんの功績は帳消しだ。
ケイトとヒーちゃんが何やら話し合ってから、二人で手を挙げる。
「ケイトとヒーちゃんはどんなこと?」
「えーとですね。ビルヴァイス魔王国から特戦群とともに持ち込まれた装備品を調べまして、そこからヒントを得て、爆弾や迫撃砲、火砲馬車とかを、ヒサメ様と二人で、造っちゃいました」
ケイトはついでのように、「造っちゃいました」と言ったが、そんなに簡単なことではないと思うんだけど……。
この二人は、放っておくと片っ端から作り出すんだから。
どこかでセーブさせないと、危険だな。
「それで……まだ、数は少ないですけど、アルセ市にも配備しちゃってます。あっ、ちゃんとリネットさんとヘルゲさんに相談して、許可はもらってます」
シャルとイーリスさん、僕を含めた三人が唖然としてしまう。
そんな報告は一言も受けていない。
「申し訳ありません。アルセ市が兵器の試験をするのに最も適していため、そこで試験を繰り返していました。そして、試験に合格した物は、そのまま配備されています。報告が遅れ、申し訳ありません」
ヘルゲさんが僕たちに謝る。
「い、いや、かまわないよ。ただ、ちょっと驚いただけだから」
驚きはしたが、悪い報告ではない……悪い報告ではないのだが、勝手に好き放題をする人たちが、野放しになっていることに不安を感じていた。
その後も会議は続いた。
エンシオさんには、国民へカーディア帝国と戦争になる事を発表してもらうことになり、その際、国民には、避難命令が出た時以外は、普通通りの生活をしてかまわないことも伝えてもらうことにした。
皆には少し不満があったようだが、僕は、「戦争をしていても国民の生活を脅かさないように戦わなければならない」と意見を述べると、皆は驚き、賛成してくれた。
そこで驚かれたのは、何故か釈然としなかったが……。
そして、会議が終わると、エンシオさんとクリフさんをユナハ市に残し、皆でアルセ市へと向かうことにする。
◇◇◇◇◇
僕たちは、主戦場になると予測したアルセ市へと到着すると、リネットさんが出迎えてくれた。
そして、カーディア帝国軍がアルセ近郊に造った陣地を見るために、アルセ市の城壁へと向かう。
城壁へ上がると、城壁から離れた位置に、多くのテントらしき物と忙しく動く群衆が視界に飛び込んでくる。
実際に見てみると、思っていたよりも多く感じる軍勢に、「げっ!」っと言いたくなるような光景だった。
城壁の真下では、自軍が配置されており、大きな筒の付いた異様な馬車を停めては、馬だけを連れて、城壁内に入って行く。
すでに、十数台の異様な馬車が等間隔に並んでいた。
「あれが火砲馬車だよね? 何台あるの?」
「二〇台だけです」
ケイトは不満そうに答える。
「二〇台もあるの? っていうか、だけって……。ちなみに何台用意するつもりだったの?」
「五〇台です。それだけあれば、切れ間なく撃てると思うんですけど、残念です」
「……」
僕は掛ける言葉を失った。
残念って、二〇台でも過剰戦力だと思うんだけど……。
城壁の少し先には、木製のバリケードと積まれた土嚢が見え、それが何層かに別けられていた。
そして、そこで、兵士が隠れるように待機している。
一方、カーディア帝国は、陣地に柵があるるだけということに驚く。
攻められることは考えていないのだろうか?
油断しているならありがたい。
リネットさんが僕の横に来る。
「フーカ様、ありがとうございます。王直下特戦群の方々が色々と教えて下さったおかげで、陣の構築が速やかに行えました。まさか、袋に土を詰めて壁を作るなんて驚きでしたわ」
彼女は嬉しそうな表情を見せた。
「役に立ったならよかった。欲を言えば、片側に板を張り付けた荷馬車を数台、置いておきたいかな」
「それは、矢を防ぐためですか?」
「それもあるけど、荷馬車を交代させれば、敵の矢を回収して再利用できるから、こちらは矢の在庫を心配しないですむんだよ」
「なるほど。すぐに準備させますわ!」
彼女はそう言うと、近くにいた兵士を呼び、命令を下す。
着々と戦いの準備が整っていく。
それにしても、いつから、うちの兵士の服装は茶色や緑色の迷彩服になってしまったのだろうか?
剣や槍で戦う者は、迷彩服の上に簡易な甲冑をつけていた。
僕としても、軍服を戦闘服へと変えていきたかったが、まさか、ベストじゃなくて甲冑を着るとは……。
その姿に違和感を感じて、モヤモヤする。
カーディア帝国の陣地を視察した後、僕たちはウルシュナ城の会議室に集まっていた。
僕は、カーディア帝国から宣戦布告で出たいないうちに、陸軍偵察部隊を使って、敵陣地やその周辺を調べておきたいことを相談する。
すると、ヘルゲさんとシリウスが、すぐに偵察部隊を派遣すべく動き出してくれた。
しばらくして、ジーナさんが遅れて合流した。
彼女は、「上空からも偵察をしてきます」と名乗り出ると、ヒーちゃんとアンさんが彼女とともに、偵察へ向かう。
偵察の報告待ちをしている間、僕はあることに気付いてしまった。
それは、僕とヒーちゃんとジーナさんの三人以外も迷彩柄の戦闘服を着ている人が増えているのだ。
「ケイト、戦闘服を配給したの?」
「はい、こっちの方が動きやすくて丈夫ですし、ポケットが多くて便利です」
彼女は満足そうな顔をする。
「いつの間に発注したの?」
「ヒサメ様と合流してユナハに戻った頃です」
「そんな前から準備してたの!?」
「まだ、車とかの開発は間に合っていませんが、配備されたら甲冑では乗れないですよ」
「た、確かに……」
「ただ、アン様、ヘルゲ様、オルガ、シリウスから、甲冑の下やメイド服の下に着ると違和感があるので、デザインを考え直してほしいと注文が来てまして……」
「まあ、確かに……。でも、メイド服の下に着なくてもいいんじゃないの?」
「そうなんですよね。アン様とオルガには困ったものです」
「そ、そうだね……。あれ? レイリアは戦闘服だけど、大丈夫なの?」
「アレのことは気にしないで下さい」
僕とケイトは、戦闘服でウロチョロしているレイリアを温かい目で見守る。
会議室にこもりっきりの状態が続く。
もう、外は暗くなってしまった。
偵察に行った者たちの安否が気になる。
誰もが何事もなく戻ってきて欲しい。
僕は身体を揺すられて、いつの間にか、自分が寝てしまっていたことに気付く。
「フーカ様、皆、戻ってきましたよ。偵察部隊もヒサメ様たちも無事に戻ってきてますよ」
レイリアが報告してくれる。
彼女の後ろに見える時計は、深夜の二時を過ぎていた。
こんな時間まで頑張ってくれたんだ。
僕は、冷めたお茶を飲み、意識をはっきりさせる。
「それで、どうだった?」
僕が尋ねると、ヒーちゃんがパソコンを出して、上空からの写真を開くと、アンさんが上空と地上からの偵察をまとめた報告をする。
敵の戦力は、騎士団、騎馬隊、弓兵、一般兵、そして、魔術師からなる部隊もいて、その数は現在、五万人以上。
こちらに向かっている領軍が合流すれば一〇万以上になる。
さらに、攻城兵器も準備されていた。
アルセ市を落として、ユナハ国内に流れ込むつもりだろう。
一〇万以上の敵兵に流れ込まれたら、為す術がなくなる。
アルセ市で食い止めなければならないな。
こっちは、リンスバックも含めた国中の兵士をかき集めても、五万人に届くかどうかだ。
今、アルセ市に集めた兵士は、一万人くらいだろう。
それに対して、カーディア帝国軍は、アルセ近郊に五万人以上、こちらに向かっているのが五万人以上、そして、おそらく三〇万人以上が温存されている。
こちらの兵力を五万と想定して、その倍を送り込んできたのだろう。
アルセ市だけを考えれば、一対一〇だ。
籠城戦も考慮した戦略としては、敵に分がある。
ケイトとヒーちゃんが近代兵器を準備しておいてくれたことに感謝だ。
僕は戦術を決め、皆に伝える。
会議室にいる全ての面々が、賛成してくれた。
後はカーディア帝国からの宣戦布告を待つだけだ。
「一つだけ問題があるわ!」
マイさんだった。
「マイさん、どこかに落ち度があった?」
「ええ、この戦闘服だっけ、胸が苦しいんだけど、サイズは合ってるのかしら?」
こ、この人は……。
僕たちにどっと疲労感が襲ってくる。
そして、テーブルに寝そべるのだった。
締まらず、緊張感もなく、時間だけが過ぎていく。
コンコン。
扉が叩かれ、兵士が丸められた紙を持って入ってきた。
僕はその紙を受け取ると、皆にも見えるようにテーブルへ広げる。
カーディア帝国からの宣戦布告だ。
戦争行為の開始理由には、僕への罵りと正義という言葉が多く見られる。
どの理由も、くだらなさ過ぎて読む気にもなれないものばかりだった。
それを読まされるこちらの身のことも考えて欲しい。
「カーディア帝国から宣戦布告が宣言された。開戦だ。みんな頑張ろう!」
「「「「「はい!!!」」」」」
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