表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/251

72話 長かったわだかまり

 会議室には、一同が勢ぞろいしている。

 何故か、僕が上座に座り、僕の隣にシャルとイーリスさんが座っている。

 昨日、お説教されるところを披露している僕には、この席はつらい……。


 「コホン」


 イーリスさんが咳ばらいをする。

 クレイオ公国とグリュード竜王国の件をさっさと始めろと言われているようだ。


 「えー、皆さん、おはようございます。それでは、不幸な行き違いから断絶してしまった、クレイオ公国とグリュード竜王国の国交正常化について話し合いたいと思います」


 僕の言葉に皆が頷く。


 ……。

 …………。

 ………………。


 ルビーさんたちとアーダさんたちは、向かい合ったまま何も発言をせず、沈黙が続く。

 何、この空気、お見合いじゃないんだから、どちらかが話し出さないと進まないよ。

 僕が切り出さないとダメなようだ。


 「えー、この件は、クレイオ公国に現れた自称勇者と名乗る呼人(よびびと)が、名声を上げようと、この地に住んでいたホワイトドラゴンを勝手に討伐したことが原因です。それは、二国ともよろしいですか?」


 ルビーさんたちとアーダさんたちは頷く。


 「クレイオ公国は、ホワイトドラゴンを信仰していて、ホワイトドラゴンをとは友好を築いており、討伐する気はなかった。しかし、そんな事情を無視して、自称勇者がホワイトドラゴンを討伐したことに激怒したクレイオ公国は、自称勇者を捕らえ、処刑した。これであっていますか?」


 アーダさんたちは頷く。


 「クレイオ公国は、自称勇者を処刑後、グリュード竜王国へ使者を送り、そのことを報告して謝罪をした。そして、グリュード竜王国は、その謝罪を受け入れた。あっていますか?」


 ルビーさんたちとアーダさんたちは頷く。


 「クレイオ公国は、グリュード竜王国が謝罪を受け入れたことを知った後、どうしたんですか?」


 「「「???」」」


 アーダさんたちは、黙ったまま首を傾げた。

 えっ? 何でそこで首を傾げるの? 僕の方が困惑する。


 「えーと、グリュード竜王国が謝罪を受け入れたことを知ったのはいつですか? 何か記録は残ってませんか?」


 「記録は使者を送ったところまでです。それに、使者は戻って来ませんでした。ただ、グリュード竜王国が謝罪を受け入れてくれたことを他国から聞かされました」


 アーダさんの話しだと、使者が戻って来なかったところでおかしくなっているようだ。


 「グリュード竜王国は、クレイオ公国の使者をどうしたのですか?」


 「謝罪を受け入れた書簡と手土産を持たせて、我が国を出るところまでは見送った」


 ルビーさんが答える。


 「もしかして、船が事故を起こして沈没したり、漂流したのかな?」


 僕は首を傾げる。


 「事故はないとは言えませんが、記録では五隻の船を送っていますから、数隻は戻ってこれるはずです」


 アーダさんが少し戸惑う感じで答える。

 船団で送っているなら、全滅するとしたら台風とかかな?


 「その時って、嵐とかは発生してた?」


 「嵐のない季節に出ているはずですし、航海が危ないようなら船長と航海士が近くの港か沖合に停泊させるはずです」


 アーダさんも考え込んでしまう。


 「使者を送り出した後に、天候の崩れる日はあっても大きな嵐はなかったはずだ」


 ルビーさんが捕捉する。

 何だか、きな臭い感じがすると思っているのは、僕だけだろうか。


 「そうなると、海賊に襲われたとか?」


 「記録によると、五隻のうち三隻は軍艦です。それに、五隻とも兵士が乗っているので、襲われて全滅するとは思えません」


 アーダさんが答えると、ルビーさんも頷いている。

 使者がどうなったかを解決しないと、先に進めない。


 「ルビーさん、手土産って何を渡したの?」


 「宝石や宝剣、我が国の伝統工芸品、それと、クレイオ公国に持って行くといつも喜んでんくれるからと、大量の香辛料を渡した」


 ルビーさんはニッコリとする。

 使者がネコババ……ありえないな。

 兵士も乗っているし、そんなことをしても、バレたら両国から追われる身になってしまう。

 そもそも、そんな人材を使者に立てるとは思えない。

 手詰まりだ。

 僕はあごを押さえて、悩みだす。


 ふと、エルさんが視界に入る。


 「エルさんは、何か知らない?」


 「えっ? 私?」


 彼女はいきなり振られたことに驚きながらも、眉間に指をあて、記憶を探る。


 「ねぇ、その宝剣って、(さや)が黒と赤で、ドラゴンと女神の彫刻が掘られていて、刀身が薄い赤色を帯びてたりするのかしら?」


 エイヤさんが尋ねてくる。


 「その通りだ!」


 ルビーさんが答える。


 「「()には赤い魔石」」


 エイヤさんとルビーさんが声を揃えた。

 エイヤさんは宝剣を知っているようだ。

 とても嫌な予感がして、何処で見たかを聞きづらい。


 「それって、これ?」


 エイヤさんは自分の持つ剣に巻いてある布をはがして、皆にも見えるように、高く掲げた。


 「それだ!」


 ルビーさんが勢いよく立ち上がる。

 ここにありました……。

 皆の視線がエルさんたちに集中する。


 僕は恐る恐る尋ねる。


 「もしかして、プレスディア王朝がクレイオ公国の使者を襲っちゃった?」


 エルさんたちはブンブンと大きく首を横に振る。


 「なら、何でエイヤさんが持ってるの?」


 皆の視線がエイヤさんに集中する。


 「いやよ。これ気に入ってるんだから、返さないわよ!」


 「お母さん!!!」


 ミリヤさんがエイヤさんを怒鳴り、エルさんたちは頭を抱えた。

 話しの焦点はそこではないのだが、話しがおかしな方向へと転がりだしていて、僕も困惑する。


 「これは戦利品なの! ハウゼリアの聖騎士団団長を倒した時に拝借……コホン。戦利品として奪い取ったのよ!」


 エイヤさんはドヤ顔をする。


 「ハウゼリアが領土を広げるために、北へ進軍してきた時ですか?」


 「そうよ! 結局、敗戦しちゃったけどね」


 アンさんの質問に、彼女は残念そうに答えた。


 「使者を襲った犯人は、ハウゼリアの可能性が出てきたね。軍艦や兵士がいても、襲う側も軍艦……海軍だったら、全滅、もしくは捕獲されてもおかしくないね」


 僕の推測に、皆が頷く。

 ルビーさんたちとアーダさんたちは険しい表情に変わっている。


 「これ、返さないとダメ?」


 エイヤさんが、空気を呼んだのか、切なそうに尋ねてくる。

 ルビーさんとアーダさんから、そのまま持っていていいと言われると、パアっと彼女の表情が明るくなり、剣に頬ずりをする。


 「良かったね。一緒に居られるよ、『唐辛子』!」


 彼女の言葉に、皆の視線が再び集中する。


 「エイヤさん、その剣って、『唐辛子』って銘なの?」


 「そうよ!」


 僕は彼女の返事を聞いて、ルビーさんを見ると、彼女は首を横に振る。


 「その剣の銘は、『ルージュラム』だ。『唐辛子』ではない」


 唐辛子は、エイヤさんが勝手につけた銘だった。

 皆は呆れるように、エイヤさんを見つめるのだった。




 「コホン。話しがそれてしまいしたが、今回の一件の原因は、確かではないですけど。まあ、仮にハウゼリアに聞いても答えないだろうし、一々調査するのも面倒くさいから、ハウゼリアが原因でいいですか?」


 僕が同意を求めると、皆は頷いた。

 この時点で、ハウゼリア新教国は、クレイオ公国とグリュード竜王国の二国から敵国として認められた。

 これで話しが進む。


 この後はどうしたらいいんだろう?

 お互いに悪くはないとしても、踏ん切りというか、けじめみたいなものは必要だよね。


 「では、アーダさん。ホワイトドラゴンを討伐した事を再度謝って下さい」


 僕がそう言うと、アーダさん、オレールさん、マクシムさんは立ち上がる。

 そして、アーダさんが代表して、ルビーさんたちに謝罪をした。

 よし、次はルビーさんたちだ。


 「ルビーさん、クレイオ公国が見せた誠意に返事をしなかったことを謝って下さい」


 彼女は僕を見て頷くと立ち上がる。

 ネーヴェさんも立ち上がるのだが、アスールさんは座ったままだ。


 「アスール」


 ネーヴェさんが声を掛ける。


 「わしの所属はユナハ国になったから関係ないぞ」


 パシーン。


 ネーヴェさんに後頭部を叩かれ、アスールさんは後頭部をさすりながら、渋々と立ち上がった。

 そして、ルビーさんが代表して、アーダさんたちに謝罪をした。

 これで、国交も回復するだろう。


 僕は、ルビーさんとアーダさんを呼んで、二人の手を取ると、握手をさせて、その手を包むように手を添える。


 カシャ、カシャ。


 ヒーちゃんがその様子を撮影すると、フラッシュがたかれる。

 こういう写真は撮っておかないと、後で必要になるかもしれないと、シャルたちと相談して決めた撮影だ。


 パチパチパチパチ――。


 フラッシュがおさまると、すぐに拍手が二人へ贈られた。

 これで、長かったわだかまりが解消された。


 「フーカ様、皆さん、ありがとうございます」


 アーダさんは、僕たちに頭を下げる。

 そして、少し間をあけると、オレールさんと目を合わせ頷きあった。


 「これから先、少しでもこの度の恩に報いるため、我が国、クレイオ公国は、ユナハ国と同盟を結びたいと思います。どうぞ、ご検討下さい」


 彼女の言葉に、僕たちの表情が明るくなる。


 「クレイオ公国に同盟を結んでもらえるのは、こちらとしてもありがたいです。是非、お願いします」


 僕は即決した。

 シャルとイーリスさんは、僕を見て頭を抱える。


 「何? ダメだったの?」


 「違います。ご検討下さいということは、こちらから何かしらの条件も加えて欲しいとの配慮が含まれていたんです。それを即決したら……」


 シャルは溜息をついて首を振る。

 僕は、状況が理解できないでキョトンとしていると、エルさんがそばに来て、説明を始めた。

 アーダさんの言葉は、恩を返したいから、ユナハ国に有益な条件をつけて同盟を結ぼうという意味だと、エルさんから教えられる。

 たが、いまいちよく分からず、首を傾げると、彼女はイラっとした表情を見せ、お礼の品を差し出したら、いらないと突き返す態度をとったのだと言われて、やっと理解できた。

 そして、自分が何をしでかしたかが分かると、血の気が引いていく。


 「アーダさん、ごめんなさい。そんな意味が含まれてるとは思わなくて、失礼なことをしてごめんなさい。今さら、条件を提示するわけにはないけど、今度からは僕にも分かるような言葉で、言って欲しい……かな?」


 僕が謝ると、アーダさんは笑いだし、オレールさんは困っていた。

 すると、シャルとイーリスさんは魂が抜けたように固まる。

 そして、エルさんはその場に崩れ落ち、「ここまで馬鹿だとは思わなかった」などと、僕を罵倒する言葉を並べ続けた。

 見かねたサンナさんが僕のそばに来て、僕が分かるように言って欲しいという条件を、お願いしてしまったと、苦笑しながら教えてくれた。

 そんなの分かんないよ!

 僕も、その場に崩れ落ちた。



 ◇◇◇◇◇



 今、僕たちは王都フェザーランドの大通りを、屋根のない馬車で手を振りながら移動していた。

 通りの両側に建つ建物から花弁が降り注ぐ。

 クレイオ公国とグリュード竜王国の国交が正常化したこと、ユナハ国と同盟を結んだことを祝した式典が行われ、僕たちは。そのパレードに参加させられているのだ。

 馬車からは、多くの人たちが喜んでいる姿が見られる。

 恥ずかしい、そして、こんなに多くの人に顔を(さら)したら、市内観光は出来なくなるのではと不安になる。


 シャルたちは笑顔で手を振っているが、僕の動きに警戒をしていた。

 式典やパレードに僕が参加したら、絶対に何かをしでかすと、妻たちの間で会議が行われ、同じ馬車に同情した者が、僕を監視することになっていたのだ。

 僕だって、そんなちょいちょいしでかさないと反論したが、無視された。


 「ねぇ、ヒーちゃん、こういう場面だと、子供が飛び出すして、その子に兵士が暴力を振るうのって定番だったね」


 「フー君、それフラグです。今言ったら……」


 ガクンと馬車が速度を落とし、ヒーちゃんは顔をひくつかせる。

 会話を聞いていたのか、シャルは僕を睨んでくる。

 でも、子供が飛び出したとは限らない。

 僕は何が起きたのかを確かめる。


 「キャッ」


 僕たちの馬車のそばで転んでいる少女を、兵士が槍の柄で押しのけていた。


 「!!!」


 スパーン!


 僕は速度の落ちた馬車から飛び降りて、その兵士の頭にハリセンをくらわせた。

 兵士は頭をさすりながら僕を見ると、驚いて、その場に(ひざまず)く。


 「君が、その子に優しい態度をとらなかったから、僕がフラグをたてたと、シャルたちに叱られるかもしれないじゃないか!」


 「も、申し訳ありません」


 彼は謝るが、頭の上にはクエスチョンマークが飛んでいた。

 僕だって言いがかりなのは分かっている。

 でも、フラグという言葉を覚えた僕の奥さんたちは、絶対に僕を責める。

 僕はそれが怖いんだ。


 何か様子がおかしい。

 僕が周囲を見渡すと、僕、兵士、少女を囲むような輪ができ、おおごとになっていた。

 僕は冷や汗を流しながら、少女に近付くと、彼女は両ひざをすりむいていた。

 同じ馬車に乗っていたミリヤさんを呼び、少女に治癒魔法をかけるように頼む。

 治癒魔法を掛けられた少女は、何事もなかったかのように、すくっと立ち上がり、僕に向かって頭を下げると、集まっていた人たちから拍手と歓声が上がる。

 その後、青い顔で跪いたままの兵士に、これからは民衆に優しく手を差し伸べて欲しいと頼むと、彼は頭を下げて、約束をしてくれた。

 これなら、美談として、お説教はまぬがれるだろう。


 後は馬車に戻るだけだと思っていたのに、周りがざわつき始めた。

 原因を確かめると、アーダさんがいたのだ。

 僕は必死になって、こうなった理由を彼女に話す。

 そして、反省している兵士に罰を与えないように頼んだ。

 彼女は了承すると、僕に頭を下げてきた。

 すると、周囲から驚きの声が上がる。

 ヤバい、女王に頭を下げさせてしまった……。

 僕は、彼女に頭を上げるようにお願いする。

 彼女は顔を上げるとニッコリと微笑んでいる。

 根拠はないが、彼女の策にはまっているような気がする。

 何か怖い……。


 騒ぎもおさまり、僕が馬車に戻ろうとすると、さっきの少女がお母さんと手をつないで現れ、二人で僕に頭を下げる。

 ディアンドルのような服を着たお母さんが頭を下げると、大きな膨らみの谷間が丸見えで、僕は、凄いと凝視しながら顔を赤らめてしまう。


 「何処を見ているんですか!?」


 ミリヤさんは怒鳴ると、僕の耳を引っ張ったまま、馬車へと戻る。


 「い、痛い。ミリヤさん、痛いって!」


 僕が耳を引っ張られて連れ戻される光景に爆笑が起きる。

 馬車に戻ると、シャルたちの視線が冷たかった。

 まだ、パレードは続くのに、この状況は生き地獄だ……。




 パレードも終わり、僕たちの役目も終わった。

 残るは新婚旅行。そう、観光をしまくるのだ!

 僕は、浮かれ気分で皆の支度が終わるのを今か今かと待つ。


 「お待たせしました」


 シャルが部屋に入ってくると、町娘の姿だった。

 この国の定番の衣装はディアンドルなので、僕としては目のやり場に困る。

 そして、彼女の後ろからは、僕の奥さんたちがぞろぞろと入ってくる。

 皆、ディアンドルがよく似合っていて、いろんな意味で魅力的だ。

 数人、帯剣しているのは気になるが、見なかったことにしよう。

 

 さっそく、僕たちは市内観光へと繰り出す。

 何故か、アーダさんやルビーさんたち、エルさんたちもついてくる。

 女性は皆、民衆に混じっても目立たぬようにと、ディアンドルを着ているが、凄く目立っている気がする……。


 フェザーランドは、ヨーロッパ風の奇麗な街並みだった。

 そして、昨日はパレードがあったというのに、ゴミは一つも落ちていなかった。

 待ちを奇麗にする心がけが、民衆に行き届いていることが良く分かる。


 道路を観察していると、側溝がやたらと大きく深い事に気付く。

 アーダさんが冬になると、この側溝に雪を捨てるので、大きく深い物でないとすぐに雪であふれてしまうそうだ。

 そして、今の季節は水を流しているが、冬になると温泉を流して、雪を溶かさないと、こんなに大きくても間に合わないと説明する。

 他にも、屋根には雪止めがつけられていたり、主要な通りにはアーケードが設けられている。

 ケイトはメモりながら、アーダさんの解説を僕のスマホで録音していた。

 もう、仕事の領域を越えて、趣味なのだろうと思う。


 一方、シャルやヒーちゃんは、店先に並ぶ可愛い小物や貴金属を見てはキャッキャとはしゃぎ、レイリア、オルガさん、アスールさんは食べ物の露店を覗いては、はしゃいでいた。

 他の者は、調度品や服を真剣に吟味していた。

 皆、満喫しているようで、何よりだ。


 そして、僕たちは、アーダさんのはからいで、郊外の洋館に連れて行かれる。

 最初は何の場所か分からなかったが、その建物が近付くと、独特の臭いと湯気が見えた。

 温泉だ!

 この国では、観光目的として温泉宿が作られていたのだ。

 僕たちは興味津々で建物の中を見て回る。

 ケイトは首から下げたカメラで写真を撮っては、メモをとる。


 そして、浴場に着くと、暖簾はかかっていなかったが、男湯と女湯の表記がされ、別けられていた。

 僕は女性陣と別れ、男湯へと入る。

 中は広い脱衣所も備えられ、その奥に広い浴室がある。

 湯船に浸かっていると、ガラス窓の脇に外への扉を見つける。

 扉には『露天風呂』と書かれていた。

 僕はすぐに扉を開き、露天風呂へ行く。

 さっそく、中庭に囲まれた湯船に浸かると、囲い越しに女性陣の声が聞こえてきた。

 アスールさんの声が聞こえると、嫌な過去を思い出す。

 今回は、囲いを壊さないで欲しいと願う。




 温泉を満喫した後は、皆で食事をする。

 アーダさんのもてなしは至れり尽くせりだ。

 何かお返しができないかと、考えていると、ケイトとアーダさんで冬の食糧事情の会話をしていた。

 冬は保存食や備蓄した穀物を食べていて、生野菜などは食べれないそうだ。

 僕はアーダさんに、おもてなしのお返しとして、野菜を雪で(おお)って保存する雪下野菜や雪国らではの氷室のことを教え、温室のことも教えた。

 温室のことを教えたのは、温泉を活用できると思ったからだ。

 僕、ケイト、アーダさんの三人で話し合うと、ユナハ国の開発局での温室の試作案をクレイオ公国で試験してくれることとなった。

 試験が成功した物は、そのままクレイオ公国で実用化し、向上させた結果を開発局にも共有してもらう。

 これで、双方に利益のある形が取れる。

 そんな感じで、僕たちは、各々充実した時間を過ごしていた。

 気分よくくつろいでいると、アーダさんのもとに城からの使いが訪れ、何かを伝えると、彼女の顔は険しくなっていく。

 何かがあったのだとすぐに分かる。




 その報告を受けたアーダさんと共に、僕たちも急ぎ足で城へ戻ることとなってしまった。

 僕たちは後ろ髪を引かれる気分だったが、緊急な報告があったことを物語るアーダさんの表情をみると、わがままは言えない。


 城へ着くと、オレールさんが会議室で僕たちを待ちわびていた。

 僕が最後に席へ着くと、オレールさんは咳ばらいをしてから真剣な表情になる。

 何か、とんでもないことを言われそうで怖い。

 彼が扉を向くと、一人の女性が入ってきた。

 アスールさんの部下だ。

 彼女は頭を下げると、アスールさんの席の後ろに立つ。


 「彼女からの報告で、カーディア帝国国内にて、軍の動きがあり、各領からアルセ市に向けて進軍が開始されました」


 オレールさんの言葉に、僕たちは、とうとう始まるのかという気分になる。


 「また、私がユナハ国から送った使者は、ブレイギル聖王国に襲われたことがウルス聖教国から伝えられました」


 「使者の人は大丈夫だったの?」


 「いえ、残念ながら……」


 室内に重い空気が漂う。

 今は何もできないけど、ブレイギル聖王国も放っておいてはいけない国だと思わせるには、十分だった。

 

 今は、先にカーディア帝国を何とかしないと。

 僕は自然と暗い表情をしていた。


 「フーカ様、戸締りをしてきて良かったですね」


 イーリスさんは、僕に向かって微笑む。

 気を遣わせてしまった。


 「そうだね。名残惜しいけど、ユナハに帰ろう!」


 もう二日くらい新婚旅行を楽しめたのに、帰ることになった恨みを、全てカーディア帝国へぶつけることに決めた。




 翌朝、僕たちはユナハに帰るため、アーダさんたちへの挨拶を済ませると、クレイオ公国を飛び立つ。

 エイヤさんとアノさんは、クレイオ公国に残って国内を二人で回るそうだ。

 そして、エルさんたちは、ユナハへ一緒に来ることとなった。

 いつになったら自分の国に帰るのだろうか? このままユナハに居座りそうで怖い……。


 アスールさん、ルビーさん、ネーヴェさん、報告に来てくれた女性は、僕たちを乗せて、ユナハ国へと急ぎ向かう。

 ドラゴン四頭で編隊を組むと、どこかへ爆撃に向かう爆撃機のようだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

そして、ブックマークをしていただき、ありがとうございます。

とても励みになります。


誤字脱字、おかしな文面がありましたらよろしくお願いいたします。

もし気に入っていただけたなら、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ