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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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69話 『ザックザク計画』発動

 僕はケイトから、コンビニ『カプ』の来客数が増加しているのに対して、商品の種類が少な過ぎると、報告を受ける。

 今、置かれている商品は、炭酸水を混ぜたお酒、炭酸飲料、ジュース。

 他にはグレイフォックス関連商品とユナハ国国旗の狐が描かれた雑貨、店頭で作る綿菓子だけだった。

 そこで、ケイトとヒーちゃんを呼び、『嗜好品を異世界で流行らせてザックザク計画』、略して、『ザックザク計画』を本格的に発動することを宣言した。

 二人も嬉しそうに微笑み、賛成してくれる。

 ただ、護衛という名目で、僕を監視しているアンさん、レイリア、オルガさんの三人は、なんのこっちゃという表情を浮かべ、僕たちを冷めた目で眺めていた。




 「まず、すぐに製造できるケチャップ、マヨネーズから始めようと思うけどいいかな?」


 二人は黙って頷く。

 僕は、アンさんに協力してもらい、卵・二個、塩・小さじ一杯、食用油・二〇〇ミリリットル、ワインビネガー・大さじ二杯、コショウ・少々を用意した。

 日本から持ってきたものに、計量セットが入っていてよかった。

 計量スプーンや計量カップが無かったら、計れなかったところだ。


 ボールに卵、塩、コショウ、ワインビネガーを入れて、もったりとするまでかき混ぜる。

 木の棒をまとめて泡だて器を急ごしらえで作ったから多少は楽だが、それでも腕が疲れてくる。

 電動が欲しい。

 その混ぜ合わせたものを、僕がさらに混ぜ、ヒーちゃんが油を少しずつ加えていく。

 マヨネーズが出来上がった時には、へとへとになった僕も出来上がった。


 「フーカ様、いくら何でも貧弱すぎます。それに、この黄色いの、なんかバッチー感じがします」


 レイリアから、きつい一言を浴びせられる。

 僕はムッとして、味見のために用意していたスティック状の野菜にマヨネーズをつけ、レイリアの口に放り込んだ。


 「!!!」


 レイリアは目を見開いて驚く。


 「な、何ですかこれは! アン様もオルガも食べてみて下さい! 見た目とは違って美味しいです!」


 彼女はそう言って、野菜にマヨネーズをつけてボリボリと食べだす。


 「「ゴクッ」」


 アンさんとオルガさんから、生唾を飲みこむ音が聞こえる。


 「二人も早く食べてみてよ。ケイトも食べてみて」


 三人は恐る恐る口に運ぶ。


 「「「!!!」」」


 三人とも目が点になった。


 「これは美味しいです」


 アンさんから合格が出た。

 僕とヒーちゃんはガッツポーズをとる。


 「フーカ様、これをすぐに陳列しましょう」


 ケイトからも合格が出た。

 後はオルガさんだけだ。

 ……彼女は、レイリアと一緒に貪り食っていた。

 レイリアとオルガさんの二人は、野獣か!?


 ケイトは、パソコンを使って、器のサイズをメモると、付き添っていた局員に渡すと、彼は小走りで部屋を出ていく。

 マヨネーズを入れる器を発注するようだ。




 今度はケチャップだ。

 トマト・三個、玉ねぎ・四分の一個、ニンニク・一片、ワインビネガー・大さじ三杯、砂糖・大さじ二杯、塩・小さじ一杯、コショウ・少々、ローリエ・一枚……。


 「えーと。ローリエはないの?」


 僕の質問に、アンさんたちは首を傾げる。

 こっちの世界にローリエはないのか?

 僕は焦る。


 「庭で月桂樹に似た木を見つけたので、調べたところ、月桂樹でした。なので、何かに使えるかと思って、葉を乾燥させておいたものがあります」


 ヒーちゃんは僕に向かって微笑む。


 「ヒーちゃん、大好き!」


 僕は彼女に抱き着いた。

 彼女は顔を真っ赤にしながら、調理を促してくる。

 恥ずかしかったようだ。


 玉ねぎはざく切り、ニンニクは薄切りにする。

 トマトはへたの反対側に十字の切れ込みを入れた後、沸騰した湯に通してから皮をむき、ざく切りにする。

 ミキサーがないので、玉ねぎ、ニンニク、トマトをボールに入れて棒で潰して混ぜていく。

 なめらかになるまで混ぜるのだけど、僕の体力が持たないので、レイリアに代わってもらう。

 彼女は、また美味しいものが食べられると思ったのだろう。

 喜んで協力してくれた。

 思ったよりも時間がかかったが、なめらかになったトマトソースを鍋に入れて中火で熱し、ワインビネガー、塩、コショウ、ローリエを入れてよく混ぜて、煮立ったら、弱火にして、時々、かき混ぜたり、鍋を揺すったりして焦げ付かないように、汁気が半分くらい飛ぶまで煮詰める。

 中火、弱火の調整が大変だったが、何とか完成した。

 器に移して粗熱をとる。


 「「「ゴクッ」」」


 レイリアたち三人の生唾を飲みこむ音が聞こえる。


 「冷めるまで、我慢ね!」


 三人は黙ってコクコクと頷く。

 

 冷めるまでの間に、僕はジャガイモの皮をむき、を拍子木切りにして、水にさらしておく。


 ……。

 …………。

 ………………。


 グゥー。


 誰かのお腹の音が鳴った。顔を真っ赤にして逸らした人物がいた。

 レイリアだった。

 そろそろいい頃だろう。

 僕はケチャップの器をさわり、確かめる。

 大丈夫だ。


 では、ケチャップをつけて食べる物を作らないと!

 僕は深めの鍋に油を入れ、温まる間に、さっきのジャガイモを水からあげると、布で軽く水気をとり、小麦粉をまぶす。

 そして、油の温度を確かめるのに、小麦粉を少し落とす。

 大丈夫そうだ。

 油の中にジャガイモを投入すると、シュワーと音が鳴る。

 二本の細い棒を使って箸の要領でジャガイモを軽くかき混ぜた後、布を敷いた受け皿の上に揚がったジャガイモをのせていく。

 ヒーちゃんが熱いうちにと、塩コショウを振る。

 ポテトフライが完成した。


 「このポテトフライに、さっき作ったケチャップをつけて食べてみて!」


 僕が言うと、レイリア、オルガさん、アンさん、ケイトが食べ始める。

 レイリアとオルガさんは、待てをくらっていた犬のようにガッツく。

 だが、熱かったのだろうハフハフしていた。


 「「美味しいです!」」


 二人はそう言って、再び、ガッツき、ハフハフする。

 少しは学習しようよ……。

 アンさんとケイトも美味しいと合格を出してくれる。

 ただ、ケイトからは、ポテトフライを黙っていたことを責められた。




 ポテトフライは見る見るうちに、四人のお腹の中へと消えていく。

 もう少し、何か作ってあげたほうがいいかな。

 僕は卵を片手で割ってボールに落とし、牛乳とよく混ぜた後、塩コショウを振り、空気が入るように混ぜる。

 そして、フライパンに油をひきなじませると、バターを入れて、箸で軽く広げる。 

 玉子を投入して、軽く混ぜて伸ばすと、フライパンの柄を持つ手をトントンと叩いて、玉子を丸めていく。

 レイリアたちから歓声があがる。

 さっきから、卵を片手で割ったり、箸で摘まんだりするだけでも歓声があがるので、恥ずかしい。

 僕は六人分のオムレツを作り、ケチャップをかける。

 ただかけたのでは芸がない、かといって凝ったことはできない。

 そこで、ハートマークを描いて、皆の前に並べた。

 ヒーちゃんは軽く受けて笑うが、アンさんたちは顔を真っ赤にして、照れていた。


 「これはオムレツと言って、フライドポテトと同様、ケチャップとよく合うんだ! 食べてみて!」


 アンさんたちは一口食べると、そのまま、夢中になって食べ始めた。

 僕とヒーちゃんも、皆の食べる姿を見ながら食べ始める。

 もう少しトロッとした感じのほうが良かったかもしれない。

 火を通しすぎたか……。




 試食会が終わると、マヨネーズとケチャップを陳列することが即決された。

 そして、メイドレストラン『カプ』がそろそろ開店するので、そのメニューにポテトフライとオムレツが加えられることとなった。

 そこで僕は、こっちにお米があるのかを尋ねると、アンさんたちは首を傾げる。

 麦をお米のように焚いてもいいのだが、やっぱり、お米が食べたい。

 僕は、パソコンでお米の画像を見せて、再び尋ねる。


 「『麦もどき』のことかもしれませんね? 麦に混じって生える厄介な雑草ですが、水辺では生えていませんけど……」


 ケイトは考え込む。


 「確か、『麦もどき』を畑で育てて食べている地域もあったはずだ」


 アンさんが思い出したように話す。


 「それって陸稲じゃないかな」


 僕の言葉にヒーちゃんも頷く。


 「分かりました。では、『麦もどき』を取り寄せてみます」


 ケイトはそう言って、局員を呼ぶと、麦もどきを取り寄せるように頼んだ。




 その後、鉛筆、和紙、漢方薬をパソコンで画像を見せながらケイトたちに説明する。

 ここで驚きだったのが、アンさん、レイリア、オルガさんの三人が漢方薬に使用する薬草を知っていたのだ。

 合戦後の宿営地で負傷したり、具合の悪い者に薬草を使うことが多いので、知っていたそうだ。

 彼女たちに、戦場に薬を持っていかないのかを聞くと、薬を用意する資金を削られ、野草で代用するしかなかったからだった。

 生き延びるために、自然と身についた知恵だったのだろう。

 それでも、彼女たちのおかげもあって、漢方薬は早めに生産が出来そうだ。

 あとは、鉛筆と和紙だが、鉛筆は早めに製造できるが、和紙のほうは、設備を用意しなければならないので、製造に少し時間がかかるそうだ。




 その後も話し合っていると、ケイトが、リバーシ、シャンプー、リンス、石鹸の大量生産が始まったので、明日からコンビニ『カプ』の陳列棚に並ぶことになると報告する。

 僕は頷き、喜んだ。

 だが、アンさんたちは、僕よりも喜んでいた。

 彼女たちにとって、シャンプー、リンス、石鹸は待ち望んでいた商品だったのだそうだ。

 彼女たちでこの反応だと、店頭に並んだら凄いことになりそうだ。

 どれだけ人気が出るのか、ワクワクしてしまう。



 ◇◇◇◇◇



 数日が経ち、メイドレストラン『カプ』が開店したことの報告を受けた。

 僕は、シャルの視界に入る位置で、彼女をジーっと見つめる。

 さらに、見つめる。

 とにかく、見つめる。


 「……分かりました。お昼は、皆で『カプ』へ食べに行きましょう」


 彼女が折れた。


 「やったー!」


 僕が飛び跳ねると、彼女に睨まれる。

 彼女の視界から外れるために、アンさんの陰に隠れた。


 「シャル様。オムレツとポテトフライ、それと野菜スティックはお薦めですよ」


 「アンは、何でお薦めのメニューを知っているの?」


 「……」


 「アン?」


 アンさんは気まずそうな顔をする。


 「そのー。試食に立ち合いましたから……」


 アンさんが苦笑しながら言うと、シャルは顔を引きつらせて、何かを我慢するように「そう」と頷く。

 あの顔は、試食を食べたかったんだ……。




 お昼になると、皆でメイドレストラン『カプ』を訪れた。

 もちろん、各国首脳たちやイツキさんたちも招待してある。

 レストランの前に来ると、木札の整理券が配られていた。

 うわー、時間がかかりそう。

 そんなことを思っていると、係の人が来て、僕たちを優先的に店内へと案内する。 

 列に並んでいる人たちの脇を通るのが気まずい。


 「フーカ様。予約をしておいたので、そんなに気まずそうにしなくても、大丈夫ですよ」


 ケイトに言われて、ホッとする。

 僕たちは、一番奥にある隔離された部屋の一つへ案内された。

 個室も用意されているのか、これなら、パーティーとかにも使えて、来客が増えそうだ。

 席に座ると、おしぼりとお水が出される。

 メニューが木の板なのが、どこかのハンバーグ屋を思い出す。

 しかし、木にメニューが直接書かれているのはちょっと……。

 紙の販売が始まらないと、こういうところにも影響があるのか。

 不便だ。


 メニューを覗くと、生姜焼き、オムレツ、フライドポテト、ハンバーグ、野菜スティック、ケーキ類、各種シュワシュワドリンクが一押しされていた。

 他は、こちらの料理のようだ。

 僕は、ハンバーグとシュワシュワドリンクのレモンに決めた。

 他の皆は悩みまくっている。

 これって、写真かせめて絵を載せるか、食品サンプルを用意しないと選びにくい。 

 すぐに、そのことをケイトに話すと、彼女は頷きながらメモをとる。


 「ケイト、今日が開店初日? プレオープンはしたの?」


 「ぷれおーぷん?」


 してなかった……。

 僕はヒーちゃんに尋ねようと彼女を見ると、真っ青な顔色をしていた。

 忘れていたんだ。

 万能なヒーちゃんだって、日本では女子高生なんだし、仕方がない。

 こういう失敗もいい勉強だ。


 「プレーオープンっていうのは、開店前に試験営業をして不備がないかを調べて、開店までに改善し、スムーズな営業を行うための準備のことだよ」


 「そ、そんな準備があるんですか? 日本は凄いです。まったく気にもとめていませんでした。勉強になります」


 彼女は真剣な表情で、メモをとる。




 皆も注文が決まると、マイさんが興味津々でベルの頭を叩く。


 チン。


 こういうベルは、作っているのにプレオープンをしていないなんて……。

 メイド姿の店員さんが来たので、注文をする。

 店員さんは、木の板に注文を書き記すと、頭を下げて去っていく。

 やっぱり、安価の紙が必要だ。


 しばらくして、料理が運ばれてきた。

 しかし、ここでも問題があった。

 僕の前にハンバーグだけが置かれる。

 お皿にハンバーグしかないのだ。


 「ケイト、これ、ダメだよ。ハンバーグを頼んだら、ハンバーグしかないじゃん!」


 「えっ? ハンバーグを頼んだら、普通、ハンバーグが来ますよ?」


 ケイトは首を傾げた。

 説明が面倒くさい……。


 「そうじゃなくて、ハンバーグを頼んだら、パン、野菜とかも出さないと……。なんて説明したらいいんだ。とにかくこれを見て!」


 僕はレイリアが持ってくれている自分のリュックからパソコンを出し、レストランで運ばれてくるような料理の画像を見つけて、彼女に見せる。


 「なっ! これって、贅沢じゃありませんか? 一品を頼んだら野菜や他の物まで食べれるなんて……」


 僕はこの時に、気付いた。

 これが異文化や考え方の差なんだ。

 こっちでは、一種の物が一個の商品という考え方のようだ。

 僕は、画像のような料理を出すように、ケイトへ頼んだ。

 彼女はすくっと立ち、お店の奥へと小走りで消えていく。

 危なかった。


 「……」


 シャルが頼んだポテトフライ、イーリスさんが頼んだ野菜スティックを見て、僕は頭を抱える。

 グランドメニューとサイドメニュー、デザート、ドリンクとメニューを別けないとダメだ……。


 ふと、ヒーちゃんを見ると、顔色が青から白へと変わり、涙目になっている。

 たぶん、僕たちの常識とケイトたちの常識の差を思い知ったのだろう。

 ヒーちゃんとケイトに任せきりにしていた僕も悪い。

 今回は大失敗だ。


 ケイトが戻ってきたので、メニューの件を告げて、シャルたちの料理を指差す。

 今度はケイトもすぐに理解し、青ざめた顔で、再び店の奥へと引き返していった。

 改善点が多く見つかったが、開店初日で良かった。

 僕はシャルたちにケイトへ話したことを説明する。

 サイドメニューを頼んだ人たちは、グランドメニューの料理を選んで、頼みなおしてくれた。




 追加の料理と一緒にケイトも戻って来る。


 「プレオープン、大切です。今度からは肝に命じます」


 ケイトは若干、泣きそうな表情で僕に謝る。

 そして、皆に向かって、不備があったことを詫びる。

 ケイトは席に着くと、ヒーちゃんと二人でしょんぼりしていた。

 今回の失敗は仕方がないと二人を慰めると、なんとかしょんぼりの状態からは抜け出してくれた。


 皆の料理が揃ったので、食べようとすると、オムレツを頼んだ人のそばに店員が立ち、ケチャップで絵を描き始める。

 全部、ハートマークだった。

 何だこのサービスは……。

 そして、絵を描き終えて店員さんが、「皆さんご一緒に!」と声を掛けてきた。

 彼女は、手でハートマークを作り、皆にも真似をするように促す。

 こ、これは、嫌な予感しかしない。


 「美味しくなーれ、美味しくなーれ――」


 店員さんが、美味しくなる呪文をかけ始める。

 皆も真似をしている。

 僕は、ケイトとヒーちゃんを見ると、二人は顔を逸らした。

 こんなことばかり思いついて、肝心なほうがないがしろにされてるじゃないか!  

 さっき、二人を慰めて良かったのか? 二人には、もっと反省が必要だったのではないかと後悔する。


 呪文も終わって、食事が始まると、皆、喜んで口に運んでいる。

 「美味しい!」と感動してくれる姿を見て、やっと、安堵することが出来た。

 生姜焼きを頼んだレイリアが、一口下さいと僕のハンバーグを一かけら持っていくと、オムレツを頼んだシャルやアスールさんも一かけら持っていく。

 すると、ハンバーグ以外を頼んだ人たちが、僕の皿から次から次へと持っていき、僕のハンバーグは半分になってしまった。

 そして、誰もお返しをくれることはなかった……グスン。




 食事を終えた僕たちは、レストランを出る。

 ちょっと失敗もあったが、招待した人たちが満足してくれて良かった。

 皆は隣のコンビニが気になっているようだ。


 「このお店も『カプ』なのね。フーカ君が出店している店は、『カプ』にするの?」


 「たまたまです」


 エルさんの質問にハッキリとした返事ができない。

 何故なら、勝手に店名を決められているからだ……。


 「ちょっと、入ってみますか?」


 僕が勧めると皆が頷き、入店する。

 動線を改善したのか、商品をスムーズに見て回れた。

 違うと思ったら、素直に改善できるケイトに感心してしまう。

 ひんやりとした冷気を放つ食品類の陳列棚には、ドリンクの脇に、マヨネーズ、ケチャップが新しく置かれ、雑貨類の陳列棚には、グレイフォックス関連商品の脇に、リバーシ、シャンプー、リンス、石鹸が新しく置かれていた。

 新しく出した商品は、どれもお客のかごに入れられているの見ると、売れているみたいで、商品を提案した身としては、ホッとする。


 エルさんたちを筆頭に女性陣がシャンプー、リンス、石鹸をかごに入れまくっている。

 そんなに買われたら、すぐに品切れになってしまう。


 「そんなに買わなくても、十分持つと思うけど」


 僕が言葉を掛けると、ギロリと睨まれる。


 「何を言っているの。うちの国では買えないのよ。次はいつ訪れることが出来るか分からないわ! あるだけ買っておかないと、後悔することになるわ! それに、こんなに安いのよ!」


 女性陣が頷く。

 そして、彼女たちによって、棚の商品が空になる。

 これが、爆買いの恐ろしさか……。

 それにしても、皆の目が血走っていて怖い。


 男性陣のかごにも、シャンプー、リンス、石鹸が入っていた。

 オレールさんは、女王へのお土産、他の人たちは、宮廷で働く女性たちへのお土産だそうだ。

 ダミアーノさんとオルランドさんは、巫女のような女性職が多い国だけに、大量に入れられていた。

 上に立つ身分って、周りへの気遣いが大変なんだと実感させられる。

 僕もこうなるのだろうか……。


 皆は買い物が終わると、山のような荷物を持って、迎えに来た数台の馬車に乗り込んでいく。

 荷馬車を呼んだほうが良かったのでは? と思ってしまう。

 他国の人たちが買い込むのはわかるのだが、いつでも買えるシャルたちまでもが、買う必要はあったのだろうか……。

 僕たちは、荷物でぎゅうぎゅう詰めになった馬車に揺られ、城へと戻る。




 城に戻った後、執務室で仕事をしていると、ケイトとヒーちゃんが勢いよく、部屋に飛び込んでくる。


 「どうしたの?」


 「これを見て下さい!」


 ケイトが見せた紙には、今日までのコンビニ『カプ』とレストラン『カプ』の収支報告が記載されていた。

 今日のコンビニ『カプ』の売り上げが真上へ伸びていることに驚愕する。


 「一日でこんなに上がったの?」


 「はい、エル様たちの爆買いの効果です」


 彼女はニッコリと微笑む。

 僕たち三人は、『ザックザク計画』の成果を喜ぶ。


 「早めに、輸出のことを考えたほうがいいです」


 ヒーちゃんが助言してくれる。

 その後、三人で輸出について、遅くまで相談したのだった。



 ◇◇◇◇◇



 執務室でいつものように仕事をしていると、イーリスさんが渋い顔をして、部屋に来る。

 嫌な報告かな。


 「どうしたの?」


 「実は、各国から要望が来てまして、その内容が、コンビニ『カプ』とメイドレストラン『カプ』の支店を自国に出店して欲しいとのことです」


 その言葉に僕は唖然とする。


 「昨日の今日で、もう、そんな話しになってるの!?」


 すぐに、ケイトとヒーちゃんを呼んでもらう。




 しばらくして、二人が来ると、さっそく、イーリスさんの話しを二人にも聞かせる。

 昨夜に輸出のことを話し合ったばかりなのに、海外出店の話しまでもが出たことで、二人も困惑する。

 四人で輸出貿易と海外出店のどちらかを、選ぶために話し合うと、意見は海外出店に傾いた。

 残る問題は『カプ』の裏の顔だ。

 二つの店舗は情報収集にも使われているのだ。

 アンさんを呼び、コンビニとレストランの海外出店をしてもいいだろうか尋ねると、彼女は、同盟国や友好国と言えど、他国の状勢を知っておくべきだと賛成する。


 「親しい国の情報をこっそり集めているみたいで、気が引けるんだけど」


 「各国も情報収集されることを承知の上だと思います」


 僕のわだかまりを、アンさんは自信ありげに返してきた。


 「どうしても気が引けるのであれば、店舗をこれから各国に建設されるユナハ国の大使館に、隣接させて建てれば、語らずとも分かってもらえると思います」


 イーリスさんがアドバイスをくれる。

 僕のわだかまりが解消したことで、五人の意見はまとまった。

 コンビニ『カプ』とメイドレストラン『カプ』の海外進出が歩みだす。


 しかし、コンビニ『カプ』とメイドレストラン『カプ』の件は、これだけでは終わらなかった。

 店舗で扱う各商品のことなどを、商業ギルドだけでなく、他のギルドにも話しを通す必要があったのだった。

 そこで、各ギルドのギルドマスターを呼んでもらうことにした。




 翌日、ユナハ国にある商業ギルド、工業ギルド、魔術師ギルド、盗賊ギルド、闇ギルドのギルドマスターが集められた。

 皆、険しい顔をしていたが、闇ギルドのデリックさんを知っていたことと、イーリスさん、ケイト、ヒーちゃん、アンさんが同席していることで、さほど緊張はしなかった。


 ギルマスたちと挨拶をかわし、議題であるコンビニ『カプ』とメイドレストラン『カプ』のことと、その店舗で扱う商品について話し合う。

 店舗の海外進出、そして、その店舗を窓口にして、現存の商品とこれから製品化される商品の輸出も行うことを話すと、彼らは険しい表情を緩める。

 商業ギルドは、僕らの事業を全面的に協力してくれることとなり、工業ギルドも商品の大量生産が行えるように職人や技術の面で協力することとなった。

 魔術師ギルドは魔道具や魔術師の面で、冒険者ギルド、盗賊ギルド、闇ギルドは、素材集めや材料の原産地の調査と各国店舗との連絡係などで協力をすることを申し出てくれた。


 僕は、何かごねられたりするのかと警戒していただけに、安堵した。

 これで、『ザックザク計画』はユナハ国内のみならず、国外へ向けても動き出すことになる。


 「これが、ユナハ国の目指す経済大国への一歩となればいいですね」


 イーリスさんが僕に同意を求めてくる。


 「へっ? そ、そうだね!」


 「もしかして、忘れていましたか?」


 彼女は僕に疑いの眼差しを向ける。


 「そ、そんなことはないよ!」


 ごめんなさい。完全に忘れていました……。

 僕は心の内で、彼女に謝るのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字脱字、おかしな文面がありましたらよろしくお願いいたします。

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よろしくお願いいたします。

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