64話 晩餐会
僕たちがサロンに現れると、拍手で迎えられる。
サロンには、賓客と貴族たちが、すでに集まっていた。
丸テーブルが不規則に置かれ、壁際には細長いテーブルに料理や飲み物が並べられ、そのそばにはメイドさんがいて、料理を取り分けたり、飲み物を渡したりしている。
立食パーティーの形式だった。
こっちに来て、初めて見た。というか、公式なパーティーに出たことなんてなかった気がする。
そして、晩餐会というだけあって、会場に集まった人たちは、めかしこんでいた。
それはシャルたちも同様で、シャルは赤、イーリスさんは白と青の二色、オルガさんは艶のある黒、アンさんは紫のグラデーション、アスールさんはブルーグレー、ケイトは薄い緑、レイリアは紺色、ミリヤさんは薄い黄色と、女性陣はドレスに身を包んでいた。
皆、奇麗でファッションショーを見ているようだ。
そう言えば、ヒーちゃんは……。
僕は彼女を見て、言葉を失った。
何故に制服? 地元でも憧れの女子高の制服だけあって、可愛いが、ドレス姿を見たかった。
ん? 皆、ドレス姿って、もしかして……。
このパーティーで、社交ダンスが行われないことを祈る。
僕は、赤いスカートをヒラヒラサとなびかせて歩くシャルの後について、サロンの奥にある上段にあがる。
そして、集まった人たちを見た。
こんなにも大勢の人たちの前に立つと緊張する。
昼間はもっと多かったのに、こっちのほうが、何故か何倍も緊張した。
シャルが僕の脇腹をひじで小突いてくる。
「痛っ! 何?」
「何? じゃありません。フーカさんが言葉を掛けないと、始まらないでしょう」
彼女は小声で話す。
「何で?」
僕が首を傾げると、彼女は頬をひくつかせた。
「フーカさんが王なんですよ。自覚して下さい」
そ、そうだった。
そういうことは前もって教えて欲しい。何を話していいのかもわからないじゃないか。
僕は、こういうのが苦手なのに……。
「えー、お集まりの皆さん、こんばんにゃ……」
噛んでしまった!
僕の緊張は一気に高まり、心臓がバクバクと脈打つ音が自分にも聞こえる。
「「「「「……」」」」」
誰も騒がずに、優しく見守る視線が僕に集中する。
皆の優しさに、ウルッときそうだ。
「コホン。皆さん、こんばんは。昼間のイベントは楽しんでいただけたでしょうか? この国は、これからおおごとに巻き込まれていくと思います。でも、僕はここに来て、すでに散々と言うほど、おおごとに巻き込まれてきましたが、シャルたちの協力で、何とかなりました。そして、今を楽しめています。今後は、皆さんとも協力し、苦難を乗り越え、楽しんでいけると思います。僕は、皆さんが苦難にあえば、見捨てることなく助けます。皆さんも僕が苦難にあった時は、見捨てずに助けて欲しいです。お互いに協力して、この国を良くしていきましょう!」
僕は頭を下げた。
パチパチパチパチ――。
拍手が起こり、歓声があがる。
僕はホッとした。
シャルが、また、僕の脇腹をひじで小突いてくる。
「痛っ! まだ何かあるの?」
「乾杯の音頭をとって下さい」
それも僕がやるんだ。
未成年に乾杯の音頭をとれって……。
僕は、ドラマで見たシーンを思い浮かべる。
そして、そのシーンを真似ることにした。
「えー、皆さん。お手元にグラスは届いているでしょうか。まだの方は、ご用意ください」
僕は少し間をとってから、会場を確認するが、人が多すぎて分からん……。
「コホン。では、ユナハ国の一部上場を……」
間違えた!
「ブフッ」
誰かが吹き出す。
それは、ヒーちゃんだった。
他の人は、一部上場の意味が分からず、キョトンとしている。
「コホン。すみません。では、気を取り直して、ユナハ国の建国を祝し、また、今後の繁栄を願って、乾杯!」
僕はグラスを高く上げる。
「「「「「乾杯!!!」」」」」
皆もグラスを高く上げ、叫んだ。
僕は、無事に音頭を終えたことで、安堵する。
会場では、「ユナハ国、万歳!」「フーカ陛下、万歳!」と、ユナハ国建国と僕が王に就いたことを祝う歓声が続いていた。
すると、イーリスさんが僕の脇に立つ。
「皆さん、晩餐会をお楽しみ下さい。途中、花火大会も始まりますので、そちらもお楽しみ下さい」
彼女が頭を下げると、会場は人が右往左往と動き出し、パーティーらしくなった。
エルさんがグラスを持ちながら、そばに来る。
ピッタリと身体に張り付くような淡い水色のドレスが、彼女を際立たせていた。
その姿に、僕はドキドキしてしまう。
「フーカ君、こんばんにゃ! ……ブフッ」
彼女は笑いだし、僕の顔が熱くなるのを感じた。
僕のドキドキを返せ!
銀色のドレスを着たサンナさんと、スカートタイプの白い軍服を着たハンネさんが、僕の前に来て謝りだす。
スパーン!
そして、ハンネさんが、ハリセンでエルさんの頭を叩くと、首に腕を回して連れて行く。
周りにいた貴族たちは、目を丸くして彼女たちを見つめ、呆然としていた。
ハンネさんのドレス姿も見てみたかった。
ルビーさんたちが、苦笑しながらエルさんを見つめていた。
そして、僕と目が合うと、こちらに来る。
彼女たちは、ユナハ国の貴族たちに見知ってもらうために、挨拶回りをしていたそうだ。
ルビーさんは「フーカ殿が何かしたのかと期待していたのに……」と、とても残念そうにする。
僕はどんな人物だと思われているのだろうか……。
彼女たちが離れると、レオさんやロルフさんなど、各国の人たちが声を掛けてきては、少し残念そうな表情を浮かべる。
ただ、真面目に挨拶に来たのは、ダミアーノさんたちと、彼らと共に行動をしているクレイオ公国の四人だけだった。
何かが心にひっかかる思いがする。
城の使用人たちが、テラスへ出るためのガラス張りの扉を開き始めた。
そろそろ花火大会が始まるようだ。
ぞろぞろとテラスへ出る人たちの流れにのって、僕も外に出ると、新鮮な空気を感じた。
テラスに出た人たちから、「いつの間に、こんなことを……」といった声が多く聞かれる。
僕は気になり、彼らが見つめる先を見ると、城から外壁までを繋げる大通りに、一定の間隔で建てられた街灯が光をともしていた。
それは、光の川のように城壁までまっすぐ伸びていて、とても綺麗だった。
ルビーさんたち各国の人たちも、その光景に感動している。
大通りの整備が完了していて良かった。
僕はシリウスを探し、彼に親指を立ててみせると、彼はこちらに頭を下げ、笑顔を返した。
イケメンは、絵になっていいなと思ってしまう。
ヒュー、ヒュー、ヒュー。ドン! ドン! ドババババ!
轟音が響き、空気が揺れる。
そして、真っ暗だった空が明るくなり、一面に大きくカラフルな花が乱れ咲く。
花火大会が始まった。
テラスからは歓声が上がり、皆が空を見上げて笑顔を浮かべる。
皆、とても興奮しているようだ。
街のほうからも、城まで聞こえるほどの歓声が上がっている。
こちらの世界にも花火はあると聞いていたんだけど、こんなに喜ぶものなのだろうかと、少し異様に思えた。
「ケイト、ケイト。喜んでもらえるのは嬉しいけど、ここまで興奮できるものなの?」
僕はケイトを捕まえて尋ねる。
「花火はありましたけど、空が光る程度のちゃちい物でしたから、こんなにカラフルで見事な花火は見たことがないですからね。こっちの職人も、火薬に金属の粉を混ぜれば火に色がつくことは知っていましたけど、どの金属が何色に燃えるかまでは、気にしなかったようです」
日本から来たみたいな言い方で、渋い顔をするけど、ケイトもファルマティスの住人だからね……。
「それもありますけど、あまり派手な物を打ち上げれば、帝都の貴族から睨まれますし、ハウゼリア新教に難癖を付けられる可能性もありますから」
イーリスさんが捕捉してくる。
その話しで、彼らが娯楽に飢えていることが分かった。
「カーディア帝国って、娯楽というか楽しめるものが無かったの?」
「いえ、ありますが……。貴族や金持ちのためのものです。特にユナハは重税を課せられていたので、そんな余裕はありませんでした。領を維持するのに、エンシオ様は私財も投げうり、マイ様は帝都の貴族のスキャンダルを入手しては恐喝するといった感じで、税を納めていました。その代わり、領民は税が少し増えただけで済んでいましたけど、贅沢はできませんでしたから……」
イーリスさんは、曇った表情をする。
『贅沢は敵』って感じだったのだろう。戦時中のようだ……。
それにても、エンシオさんはさすがだと思う。
だけど、マイさんは……。
「ユナハ国は、よく働き、よく楽しむ国にしないとだね」
「「はい!」」
イーリスさんとケイトが笑顔で返事をする。
空が静かになると、最後に馬鹿でかい花火が打ちあがった。
空一面を花火がおおいつくすような迫力だ。
こっちの世界は、街の光量が少ないおかげで、一つ一つの花火も奇麗だったが、最後の一発は別格で、僕もたまげた。
最後の花火に、今までで最も大きな歓声が上がる。
そして、花火が消えていくと静かになっていく。
花火大会は終わってしまった。
この少し寂しい感じも、これはこれでいいものだ。
人々が、サロンへと戻って行く。
その後ろ姿は、どこか寂しげだ。
でも、これが風情というものだろう。
僕も戻ると、貴族たちが僕の周りに集まり、楽しかったと感謝される。
ちょっと大げさで、むず痒い感じがする。
お礼を言い終えた彼らが離れていくと、ルビーさんとエルさんがしかめっ面で来る。
「「ズルい!」」
二人から放たれた言葉を聞いて、僕は困惑した。
ズルいと言われても、これはユナハ国の行事だし、花火を向上させたのもケイトたち開発局だから、仕方がないと思うんだけど……。
「フーカ殿、わが国でもやりたい!」
「フーカ君、うちの国でもあれがやりたい!」
二人が声を重ねる。
一人一人、言って欲しい。
「やればいいんじゃないの?」
ルビーさんとエルさんは、僕の返事を聞いて、眉間に皺を寄せる。
「出来るわけないだろ!」
「出来るわけないでしょ!」
二人が声を重ねる。
だから、一人一人、言って欲しい。
「何で?」
「「なっ!」」
二人はイラついた感じで迫って来る。
僕は後ずさりし、壁まで追い込まれた。
ドン!
「あんなに多くの色は出せないのよ!」
エルさんに壁ドンをされた。
ドン!
「そうだ! あの色を出す技術を教えてくれ!」
今度はルビーさんにも……。
二人の言い分はわかるが、この状況を見る限り、頼む態度じゃないよね。
なんか、日本でも同じような目に遭ったことを思い出し、僕は落ち込む。
「何故、二人がかりで、フーカ様をいじめているのですか!?」
ミリヤさんが助けに来てくれた。
「フーカ様に、何をしたのですか?」
女王二人を相手を怒鳴りつけるミリヤさんのほうが、女王に見える。
「ち、違うのよ、ミリヤちゃん。フーカ君にうちの国でも花火大会をやりたいって頼んでいたの」
「そ、そうなんだ。花火の技術を教えてくれと頼んでいたんだ」
二人は、彼女に向かって必死に弁解する。
この二人は、何でミリヤさんにタジタジなんだ?
エルさんは彼女の祖母だから分からなくもない。でも、ルビーさんは、彼女との関係は何もないはず……。
騒ぎを聞きつけて、僕たちの周りに、人だかりができ始める。
「フーカ様、何で気落ちしていたんですか?」
ミリヤさんが心配そうに尋ねてくる。
恥ずかしいけど、心配してくれているし、話したほうがいいか。
「実は、二人に壁際まで追い詰められた時に、嫌な事を思い出したんだ」
「それは?」
「僕が家に帰る途中で、二人の男にからまれて……。姉ちゃんのパンツ取って来い! って脅された時と状況が似ていると思ったら、急に切なくなって……」
「「「「「……」」」」」
サロンは風の音も聞き分けられるほど静かになった。
恐る恐る周囲を見ると、シャルたちは額に手を当て天を仰ぎ、他の皆は苦笑したり、顔を引きつらせていた。
エルさんとルビーさんは、その場に崩れ落ち、打ちひしがれている。
そして、貴族たちは愕然としていた。
少し間が空くと、人だかりは離れていく。
「私たち、何も悪くないじゃない! 何で、そんな輩と一緒にするのよ!」
「そうだ! パンツじゃない、技術が欲しいんだ」
エルさんとルビーさんは、もの凄い剣幕で迫って来る。
ミリヤさんは、スルスルと僕と二人の間から静かに離れていく。
「ご、ごめんなさい」
何で、僕が謝ってるの……。
「花火のことですか? そういことは私に聞いて下さい。フーカ様の許可が下りれば、技術を提供しますよ」
ケイトが僕を助けに来た。
「フーカ様、花火の技術提供をしてもいいですか?」
「うん。いいよ」
「分かりました。では、ここでは何ですので、お二人とも、向こうで商談といきましょう」
ケイトは二人を連れて去っていく。
ん? 商談って、ケイトは二人に技術を提供じゃなくて、販売するつもりでは……。
二人の猛攻に少し疲れて、壁際に並ぶ椅子の一つに腰を下ろす。
すると、ロルフさんとブレンダさんが僕を挟むように両隣に座る。
ちょっと、緊張する。
ロルフさんがブレンダさんに向かって頷くと、彼女は布に包まれた箱を僕に差し出してきた。
「その中には、ドレイティス王朝、ヴァルウッド獣王国、スレイベル皇国、ブリュンデ聖王国、キュリオ王国、オルフェイス共和国からの親書が入っている。もっと早く渡すはずだったのだが……。すまん。いやー、楽しみすぎて忘れておった。本当に、すまん」
彼は頭を下げる。
「いえ、いいですよ。そこまで、楽しんでもらえたことのほうが、僕にとっては嬉しいですから」
「かたじけない」
彼が再び頭を下げると、ブレンダさんも頭を下げる。
僕は、シャルとイーリスさんを呼び、二人から各国の親書を頂いたことを告げると、彼女たちは、空いている椅子を持って、僕の前に陣取る。
「フーカ様、中を確認しましょう」
シャルが僕を促す。
僕は箱を開いて、六つの丸められている紙を一つずつ開いていく。
そして、読み終えた物をシャルに渡す。
彼女は読み終えた物をイーリスさんに渡す。
イーリスさんは読み終えると、丸めて箱に戻す。
そうして、六枚の親書を僕たちは読み終えた。
「この親書は、我が国が位置する西大陸の国々から私が預かったものだ。内容は私も知らんが、どの国もエル殿のおかげで、この国に悪い印象を抱いていないはずだ」
ロルフさんは、そう言うとニッコリとする。
親書には、各国とも、ユナハ国建国の祝辞と、いずれ会うことを楽しみにしている内容ばかりだった。
僕たちは、嬉しさと安堵で、小さく息を吐いた。
「しかし、これは凄いことです。西大陸の国々がユナハ国を一国家として認めたことになります」
イーリスさんは少し興奮気味だった。
「あとは、精霊領ドレイティス王朝に声を掛けるくらいで、他の国は無視していいんだよね?」
「はい、そうです。他の国は、我が国を認めることはないでしょうし、面倒になるだけです」
イーリスさんがハッキリと答えると、ロルフさん、ブレンダさん、シャルも深く頷く。
「ドレイティス王朝は、ファルレイク帝国とブレイギル聖王国に国土を侵略され、弱体化している。だが、クレイオ公国、ウルス聖教国、プレスディア王朝が支援しているから、しばらくは大丈夫だ」
ロルフさんは眉間に皺を寄せながら話すので、本当に大丈夫なのか心配になる。
「ドレイティス王朝の現在の状況は、ブレイギル聖王国が邪魔でウルス聖教国とプレスディア王朝は、直接の物資支援などが出来ず、ブレイギルとの国境に軍を配備して牽制、ビルヴァイス魔王国はファルレイク帝国が邪魔しているので、同じ状況なのです」
イーリスさんは、困ったような顔をする。
「しかし、ユナハ国が建国したことで流れが変わりました。おそらく、ユナハ国はカーディア帝国と決着をつけることになると思います。その戦いに勝っていただければ、ハウゼリア新教国からブレイギル聖王国への支援を断つことが出来ます。ですから、こちらとしては、フーカ様たちに頑張っていただきたいのが、正直なところです」
ブレンダさんは、真剣な顔で話した。
何だかプレッシャーを掛けられている気がする……。
「カーディア帝国が仕掛けてくれば、僕たちは徹底的にやるよ! そして、その背後にいる国にも退場してもらう」
「おぉー。それは勇ましいな! フーカ殿、期待しているぞ!」
ロルフさんは、満面の笑みで喜ぶ。
もう、ユナハ国とカーディア帝国の戦争が決まっているみたいだし、たぶん、避けられないからね……。
「そう言った話はこれくらいにしておきましょう。今日はユナハ国建国日ですし、せっかくの晩餐会なんですから」
ブレンダさんの言葉に、僕たちも賛成する。
「ということで、オルガとの挙式はいつですか?」
ブレンダさんは微笑みながら、プレッシャーを放つ。
僕だけでなく、シャルたちもビクッとする。
「まさか、政治的な理由で、婚約しただけで、何も決めていないことはないですよね?」
彼女の笑顔が怖い。
「そ、そんなことはないです。建国後に、結婚することは決めていました」
答えるだけなのに、嫌な汗が出てくる。
「そうですか。建国したのですから、日取りは決められますね?」
胃が痛くなりそうで、シャルたちに助けを求める視線を送ると、二人は考え込んでいた。
「挙式の日取りを相談しているのか? 私たちもアスールの挙式には出たいから、こちらに滞在している間に、挙げてもらえると助かるのだが」
いつの間にか、ロルフさんの隣に座っていたルビーさんが話しに入ってくる。
「私たちも、再びこの国を訪れるには時間がかかるので、ルビー様と同じ意見です」
ブレンダさんはルビーさんの提案にのる。
「僕だけでは決められないので、ちょっと席を外していいですか?」
「どうぞ」
ブレンダさんに返事をもらうと、シャルとイーリスさんを連れて、エンシオさんとクリフさんのところへと向かう。
エンシオさんとクリフさんに、ブレンダさんとの話しを相談すると、彼らも悩みだす。
二人は、準備期間が確保できるなら、いつ挙式を挙げてもいいのだが、ユナハ神殿の完成と合わせて行う予定だったそうだ。
ドワーフたちのおかげで、工期は短縮されたのだが、完成するには、まだ数か月かかるらしい。
五人で、意見を出した結果、ユナハ神殿での挙式はあきらめる。
あとは、ブレンダさんやルビーさんたちが、いつまで滞在できるかだ。
それに、挙式の司祭をダミアーノさんに頼みたいので、彼らの滞在期間も知る必要がある。
僕たちは二手に別れて、滞在期間を聞きに回る。
僕とシャル、イーリスさんは、ブレンダさんとルビーさんに滞在期間を聞いた。
二人とも、一か月くらいなら滞在できるとのことだ。
そこに、エンシオさんとクリフさんが来る。
ダミアーノさんたちも一か月くらいは滞在できるそうだ。
エンシオさんとクリフさん、イーリスさんが準備期間などを計算しながら話し合いだす。
「最も早くて、二週間後です」
イーリスさんがブレンダさんたちに伝える。
「そう。七月一四日あたりね。それでは、フーカ様、ここで発表して下さい」
有無を言わさずに決定された。
魔王国宰相の肩書は、伊達ではないと思わされてしまう。
僕は、上段に上がり、中央に立つ。
「えー、皆さん、お楽しみのところ申し訳ありません。ここで重大発表があります」
皆がこちらを注目する時間を作るため、間を空ける。
「僕とシャル、ミリヤさん、イーリスさん、アンさん、レイリア、ヒーちゃん、アスールさん、オルガさん、ケイトの挙式を二週間後の七月一四日に行います。忙しくなってしまいますが、よろしくお願いします」
僕が頭を下げると、シャルたち婚約者とその家族も頭を下げた。
言い終わってから、皆の名前をいつものように呼んでしまったことに気付いたが、このまま押し通そう。
会場にはあふれんばかりの歓声が起こり、乾杯をしだす者たちもいる。
誰も彼女たちの名前のことには触れなかったので、助かった。
僕が上段から降りて安堵していると、ケイトが数人を連れてくる。
僕は、ちょっと警戒した。
「フーカ様、私の両親と弟です」
挙式を発表した直後に、家族を連れてくるなんて……。
僕は戸惑い、彼女を見ると、ニンマリしていた。
わざとだ!
「フーカです。次から次へと勝手に決め、挙式の日取りを相談もせずに決めてしまい、申し訳ありません」
僕はケイトの家族に深く頭を下げる。
「いえいえ、娘はアレですから、気にしておりません。フーカ陛下の周りには優秀な人材が多くいらっしゃいますから、大きなお世話かもしれませんが、商いのことでお困りなことがありましたら、お声かけ下さい」
ケイトのお父さんは笑顔で答える。
「ありがとうございます。その際はよろしくお願いします」
僕は彼と握手をした。
しかし、父親にアレ呼ばわりされる娘って……。
ケイトを見ると、何故か照れている。
その後、ケイトの家族と他愛もない話しをしてから、椅子が並べられている壁際の席に戻った。
マイさんが僕の横に座る。
「ねえ、フーカ君。こんなに各国の王や幹部が集まっているのなら、首脳会談もしちゃえばいいのに。勿体ないわ」
彼女は気軽な感じで提案する。
確かにマイさんの言う通りだ。
僕は、シャルとイーリスさん、その近くにいたエンシオさんとクリフさんも呼んだ。
「マイさんの提案なのが癪に障るけど、これだけの国の人が来ているなら、首脳会談が出来るよね。どうしたらいいと思う?」
僕の言葉に、シャルたちはハッとした表情を見せた。
僕の横では、マイさんが頬を膨らませ、「ブーブー」とうるさい。
シャルたちは、四人で相談を始めるが、四人は首脳会談の議題で悩み、結果を出せないでいた。
「今回は急なことだし、顔合わせ的な首脳会談でもいいんじゃないかな。それと、グリュード竜王国とクレイオ公国、両国が居合わせているから、二国間の関係の修復をするきっかけも作りたいかな。各国の現状を聞くだけでも僕たちにとってはありがたいことだと思うよ」
僕が意見を挟むと、四人は、キョトンとした表情でこちらを見る。
「いつも変なことばかりしていないで、毎回、今みたいな、皆を納得させる意見を出してくれると、私たちも助かるのに」
シャルは僕を見てぼやく。
助け舟を出したのに、ディスられた。
そして、シャルたちは散らばるように、各国の人たちのもとへと向かった。
しばらくして、僕のところに彼女たちが戻って来ると、各国の意見をまとめる。
どの国も、急な話しなので、一週間ぐらいの準備期間が欲しいという意見だった。
そして、出来れば、挙式前に設定して欲しいとのことだった。
この意見を強くいっていたのは、グリュード竜王国とビルヴァイス魔王国の二国だった。
それなら、一週間後の七月七日に首脳会談を行うのが良さそうだ。
僕は首脳会談を行うのに良さそうな日付をシャルたちに言うと、彼女たちは、各国に確認を取りに行ってくれる。
彼女たちが戻って来ると、どの国からも七月七日で了承をもらってきてくれた。
僕は再び、上段に上がり、中央に立つ。また、重大発表をすると思うと、恥ずかしい。
「皆さん、再び、申し訳ありません。追加で重大発表がありますの聞いて下さい」
前回と同じように、少し間を空ける。
「今回、各国の方々がお集まりいただいていることを機に、首脳会談を一週間後の七月七日に行います。忙しいところをさらに忙しくしてしまい、申し訳ないと思っていますが、よろしくお願いします」
僕は、深く頭を下げた。
パチパチパチパチ――。
会場からは拍手が起こり、こちらに笑顔を向けている。
首脳会談開催を快く受け入れてくれたようだ。
彼らも、建国したとはいえ、小国のユナハが生き残るには、各国との連携と交流を持つことの重要性を分かっているのだ。
その後、二つの重大発表を受け、会場にいる人々は興奮冷めやらぬ状態でサロンを後にする。
晩餐会のお開きの時間となってしまったのだ。
お開きの時間近くに、二つもの重大発表を告げてしまって、彼らには悪いことしたと反省しつつ、僕は執務室に向かった。
◇◇◇◇◇
執務室の机の上には、カエノお婆ちゃんのお土産が置かれていた。
僕は中身を確認し、すぐ食べた方がいい物と取っておける者に別ける。
温泉饅頭、ダイダイ、ダイダイを使ったお菓子をテーブルに置き、干物、たくあん、漬物は袋に戻す。
冷蔵庫があれば、干物とかをしまっておけるのに……。
僕は何処かにしまえそうな所はないかと、部屋を見渡す。
「!!!」
真新しい開き戸の大きな木箱が置かれていた。
金庫かな? と思いながら開くくと、上の段に氷が入っていて、下の段には水やドリンクが入れられていた。
「こ、これって冷蔵庫だ!」
思わず叫んでしまった。
その冷蔵庫は、電気を使わず、氷の冷気で冷やすタイプの物だ。
博物館の昭和時代をテーマにしたコーナーで見たことのある代物だった。
こんな物まで、いつの間に作っているんだ……。
ケイトとヒーちゃんのしてやったと喜ぶ顔が浮かぶ。
何だか悔しいが、干物とかを冷蔵庫にしまう。
えーと、誰かを呼ぶときはどうするんだっけ?
呼びに出ちゃいけないとか、逆に面倒くさい気がする。
僕はキョロキョロとすると、ベルを見つけた。
チリンチリン。
ベルを鳴らすと、すぐに扉が叩かれた。
僕が返事をすると、メイドさんが入ってくる。
僕は、彼女にシャルたちと賓客、リンスバック家の人をここに呼んで欲しいと頼む。
彼女が返事をして部屋を出ようとしたところで、呼び止め、ジーナさんとリネットさんも呼ぶように頼んだ。
彼女は再び返事をすると、部屋を出て行った。
ペスも呼びたかったが、さすがに部屋には入れない。ごめん。
執務室で待っていると、アンさんとオルガさんがヨン君と一緒に部屋へ入ってくる。
僕は三人に、飲み物の準備と、お土産のお菓子とダイダイをテーブルにセッティングしてもらう。
その間に、シャル、ヒーちゃん、イーリスさん、ミリヤさん、ケイト、マイさん、エンシオさん、クリフさん、リネットさんが部屋に来ると、すぐにレイリア、シリウス、ジーナさん、ヘルゲさん、アルバン、カイも部屋に来た。
そして、しばらくすると、エルさん、サンナさん、ハンネさん、エイヤさん、アノさん、レオさん、カーヤさん、ベンさん、イツキさん、ネネさんが訪れ、少し遅れてから、ルビーさん、ネーヴェさん、アスールさんと四人の青の一族の女性たちが訪れると、すぐにロルフさんとブレンダさんも訪れた。
最後にダミアーノさんとオルランドさんが、オレールさんとマクシムさんを連れて現れる。
全員、そろったようだ。
「リンスバック家から、珍しい食べ物を頂いたから、皆にもお裾分けしようと思って呼びました。どうぞ、食べてみて下さい! アンさん、オルガさん、ヨン君も食べてね」
僕の言葉に、皆が歓声を上げる。
テーブルは、すぐに人だかりでいっぱいになる。
温泉饅頭とダイダイのお菓子を口にした者たちは、あんこの独特の甘みやふっくらした皮、ダイダイの酸味とスポンジのふっくらとした感覚にに感動し、ダイダイを口にした者たちは、こっちにある柑橘系の果物とは少し違う味に興味を抱いていた。
ただ、リンスバック家の人たちだけは、懐かしそうに食べている。
「もしかして、リンスバック家って、カエノお婆ちゃんが持ってくる日本の食品をよく口にしてたりする?」
僕は、彼らの様子から推測して尋ねてみた。
「いえ、熱海のは初めてです」
「「ネネ!」」
ネネさんが口を滑らせると、ベンさんとイツキさんが注意をする。
「フーカ様、そんなことはありません。私は初めて食しました」
カイが素直に答える。
嬉しそうに食べているカイを見て、彼だけが食べさせてもらっていないことが分かってしまった。
彼をとても不憫に感じる。
僕は、ベンさんたち三人をジト目で見ると、彼らは目を逸らす。
「カイ、この炭酸水を使ったジュースも美味しいよ!」
「あ、ありがとうございます」
僕は、彼に同情し、市販予定のジュースを渡すと、とても喜んでくれた。
ちょっと前は敵対していたのに、今ではこんなに慕ってくれて嬉しくなる。
それにしても、うちの家系って、息子の扱いが雑ではないかと、僕は、今まで自分もないがしろにされていたのではと、記憶を呼び起こす。
思い当たる節が多すぎて、気が滅入ってくる……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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とても励みになります。
誤字脱字、おかしな文面がありましたらよろしくお願いいたします。
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