49話 リンスバック家の問題児
僕は、リンスバックを早く立ち去ったほうがいいと感じ、イーリスさんとミリヤさんに目配せをする。
彼女たちも、僕の意図を察し、黙って頷く。
「私たちにはネネの他にもう一人、カイという息子がいます。お恥ずかしいことなのですが、この子が少し我がままに育ってしまい……」
イツキさんが話し出してしまう。
遅かった。
僕がマイさんを連行して、帰ることを告げようとした矢先だった。
「はっ? 少し我がまま? アレは面汚しというのではないかしら? お姉様たちは、あの子に甘すぎるわ!」
マイさんが呆れ顔で、嫌な情報を追加してきた。
このままでは、家族間の揉め事に巻き込まれる。
僕は助けを求めようとイーリスさんとミリヤさんを見る。
二人は、すでに肩を落としていた。
もう、諦めていた……それでも僕は諦めない。
「家族間のことは、家族で解決するほうがいいと思います。部外者がいると話しがこじれるかもしれないので、僕たちはこの辺で……」
僕が気まずい雰囲気の中、意を決して発言すると、イーリスさんとミリヤさんが安堵した表情を浮かべる。
「えっ? 何を言ってるの? フーカ君もヒサメちゃんも私たちの親戚なんだから、部外者じゃないわ! それにヒサメちゃんは、私の娘なんだから、家族みたいなものよ!」
マイさんに言われて、僕とヒーちゃんはがっくりと肩を落とす。
身内として扱われることを、こんなにも嫌だと思ったことは産まれて初めてだ。
ん? ヒーちゃんはいつからマイさんの娘になったんだ?
今、聞くと話しが絶対に脱線するから、スルーしよう。
「それで、ぶっちゃけちゃうとね、ここのカイっていうボンクラ王子が、リンスバック市の西側から青いドラゴンが飛来している報告を受けて、城の兵士を連れて討伐に出ちゃったのよ。だから、城に兵士がいないの。その時に、私がそのドラゴンはユナハからの使者だから大丈夫だと言ったのに、ユナハごときにドラゴンを従えられる訳がないと、私の忠告を無視して出ていったのよ。六古竜の一人にボンクラ王子が勝てるわけないのに、本当、バカの相手は疲れるわ」
マイさん、ぶっちゃけすぎだよ。
しかし、途中に少しカチンとくる話しが混じっていた気がする。
「だけど、こっちに来る時、軍団どころか兵士の一人も見かけなかったんだけど……。初めて見た兵士は、城壁と街中でこちらを見上げていただけだし……」
僕はどこかで見落としたのかと首を傾げ、イーリスさんたちを見る。
彼女たちも首を横に振って、見なかったと返してくる。
いったい、何処に行ったんだ?
マイさんだけでなく、ベンさんたちまでもが、僕を見て首を傾げている。
どういうこと?
「あっ! もしかして……」
ネネさんが、おもむろに席を外し戻って来ると、その手には丸められた紙が握られていた。
その紙を広げると、リンスバック港湾都市国の地図だった。
彼女はリンスバック市を指差し、そこから海側に延びる街道をなぞり、迂回するようにルース山脈へ向かう街道へ指を滑らせていく。
「「バカだわ!」」
マイさんとイツキさんの声がハモった。
リンスバック市の西側にも、街道ほどは広くない道が、ルース山脈沿いに延びていた。
普通はこっちを選ぶよなと、僕も思う。
ベンさんは、テーブルに両手をつき、うなだれる。
「分かった!?」
「分かりたくない!」
マイさんから同意を求められたが、僕は否定的な返事をする。
こんなヤツの揉め事に巻き込まれたら、面倒くさいどころじゃない気がする。
さすがにイーリスさんとミリヤさんだけでなく、ヒーちゃんとジーナさんも危機感を感じたらしく、表情が曇りだしていた。
「ベン! お母様と相談していたことをフーカ様にお話ししましょう」
イツキさんの言葉にベンさんが黙って頷くと、彼らは僕に視線を注ぐ。
何だか嫌な予感と恐怖しか襲ってこないんだけど……。
「フーカ様!」
「ちょっと待って下しゃい!」
イツキさんの言葉をすぐに遮ったら、噛んだ……。
「コホン。その、……様を付けて呼ぶのはやめて下さい。母と歳の近い親戚に様を付けられるのは、むず痒いのでお願いします」
この一件に巻き込まれるのを避けるために、イツキさんが言い出す前に無理だと断ろうと思ったのに、彼女たちの目力に負けて、無難な話しに切り替えてしまった……。
「では、フーカ君。ユナハ国建国後、リンスバック港湾都市国はユナハ国の傘下に入り、リンスバック領として歩みたいと思っています。どうか、お許しを願いたいのですが」
「「「「「えっ? えぇぇぇー!」」」」」
僕たちは驚愕する。
「なんで、マイさんも驚いてるの?」
「私は、そんな話し、聞かされてないもの」
「マイに話すわけがないでしょう。この国を滅茶苦茶にされるわ」
マイさんとイツキさんが睨み合う。
僕はどう返事をしたらいいのか分からず、イーリスさんを見る。
彼女もどうするべきか悩んでいる。
しかし、こういった政治面も絡む話しになると、僕としては彼女に任せるしかない。
「ベン様、イツキ様。……ユナハ国に入るとしても、今は一国家です。そんな簡単に領地になれるのですか? 国内の貴族だけでなく国民も納得できるのですか? 我が国の建国までに国内をまとめられるのですか?」
イーリスさんが矢継ぎ早に質問をする。
「それは大丈夫だ。フーカ殿が、カエノ様の本家の孫ということが知れ渡っているからな。問題は、うちのバカ息子とその取り巻きだけだ」
「ちょっと、待って下さい! フーカ様が、何故、こちらの国で知れ渡っているんですか? フーカ様はこちらに来て、一か月ほどしかたっていないのですよ」
ベンさんの言葉にイーリスさんは疑問を抱き、少しして、マイさんを睨みつける。
彼女は、ブンブンと大きく首を横に振り、両腕を使って大きくバツを作った。
「いや、マイではない。シャルティナ殿からエンシオ殿に、フーカ殿がこちらに来たこととユナハ領の独立の報告がなされた後、こちらにも、その内容がエンシオ殿から送られてきたんだ。そして、それを知ったカエノ様は、あちらこちらで自慢の孫だと、フーカ殿のことを嬉しそうに言いふらしていたんだ。その後、マイからの手紙が届き、フーカ殿がシャルティナ殿を救うべく、ユナハ国を建国して、自らが王として国を導くと書かれていた内容を見て、カエノ様がフーカ殿の助けになればと根回しを済ませたんだ」
彼の話しに、イーリスさんが顔を引きつらせた。
「そ、そうですか。モリ家って一族は……」
そして、彼女は僕に嫌そうな顔を向ける。
「コホン。まあ、それでしたら問題はありません……」
彼女は承諾したわりには、僕を睨みつけている。
「イ、イーリスさん、どうしたの? 怒ってる?」
「いえ、怒ってません。ただ、リンスバックが領地になることなど、想定していませんでしたから……。国のこれからを考えれば、良い話しかもしれませんが、ユナハに戻ったら、手筈が整っている私たちの計画に、修正を入れねばなりません。時間がないというのに……」
彼女は溜息をつき、うなだれてしまった。
納期間際で仕上がった仕事に変更が入ったようなものなのだろう。
夏休みの宿題に置き換えて想像してみるとゾッとする。
「ただ、問題の兄様はバカでボンクラの女好きですから、一筋縄ではいかないと思います。そして、その取り巻きがまた、たちが悪いですし……」
ネネさんが溜息を吐くと、つられたように、イツキさん、マイさん、ベンさんが溜息を吐く。
妹にまでぼろくそに言われるそんなヤツを、いったいどうしたらいいんだ!
「そうだ! カエノお婆ちゃんは何処にいるんですか?」
実の孫のことなんだから、ここはカエノお婆ちゃんに任せるのが一番!
「「「……」」」
ベンさん、イツキさん、ネネさんの三人は黙ったまま、申し訳なさそうにする。
な、何? 凄く嫌な予感しかしない。
「お母様は、日本で町内会の慰安旅行があると言って、出掛けてしまいました」
イツキさんは苦笑する。
はい? 慰安旅行? 町内会? なんで、こっちに住んでいるのにそんなものに参加してるの……。
「そう言えば、カエノ様は神社でも生活しているので、何かと、氏子とのお付き合いとかもあると言って、ご近所付き合いを大切にしています。ですから、町内会のイベントごとには積極的に参加しています。この時期だと、老人会の旅行だと思います」
ヒーちゃんが、ポンと手を叩き、思い出したかのように話す。
「そ、そうなんだ」
「はい。……たぶん、お婆ちゃん……カゼノ様もご一緒だと思います」
そう言えば、婆ちゃんも、近々、温泉旅行に行くようなことを言っていた……。
ヒーちゃんは澄ました顔をしているけど、これは詰んだかもしれない……。
僕はその場に崩れ落ちた。
「それで、私たちはそのボンクラ……コホン。その王子をどうしたらいいのでしょうか?」
僕の様子を見て、ミリヤさんが話しを進める。
「「「……」」」
ベンさんたちには提案がないようだ。
「ミリヤちゃん、トラウマが残るくらいまでボッコボコにしてやりなさい! お山の大将気取りのガキには、それが一番だわ!」
マイさんがフンと鼻息を荒くする。
「でも、そこまでしてしまっていいのですか? リンスバックがユナハ国の領地になったら、次期領主になられるのでは?」
「ミリヤ殿、その心配はない。あのバカは取り巻きにそそのかされて、自分が次期首長だと思っていたようだが、次期首長はネネの婿になる者と決まっている。だから、次期領主はネネの婿だ。ただ、それを公表すると、ネネの周りには、ネネに取り入ろうとする者や欲まみれの者しか集まらんからな。そして、このことはここだけの話しにしてくれ」
ベンさんは苦笑した。
うちと同じく、ここも女性上位の家族なんだ。親戚だもんな……。
「そういうことでしたら、遠慮なくやらせていただきます。こんな時にアンたち、武官がいないのは心許ないですね。そういうことですから、フーカ様、頑張って下さい」
ミリヤさんが僕に譲ってくる。
「えっ? ミリヤさんがやるんじゃないの?」
「私は巫女ですから文官ですよ。イーリスも領主代行ですから文官です。あとはヒサメ様とジーナになりますけど、どうしますか?」
二人を見る。
なんで二人ともドヤ顔をしてるの……。
何だか任せるのが怖い。
「分かったよ。僕がやるけど、それは成り行き次第でいいよね? 僕じゃアンさんみたいに、一人で第一騎士団とやりやったみたいなことは出来ないんだからね!」
「大丈夫です。そこまでは期待していませんから!」
ミリヤさんは軽く言い放つが、それはそれでグサッとくるものがある。
僕たちは王子たちが帰ってくるまで執務室で待つこととなった。
その間、イツキさんのはからいで食事とお茶を楽しむ。
僕は、お茶を飲んでいる時に秘策を思いついた。
だが、今は黙っておく。
◇◇◇◇◇
城の外が騒がしくなった。
王子たちが帰ってきたようだ。
僕たちは彼が執務室まで来るのを待つ。
コンコン。バンッ。
扉が叩かれる。
そして、乱暴に開かれた扉から、勢いよく男が入ってきた。
ツーブロックの赤髪にキリッとした王子っぽいイケメンだ。
煌びやかな服装や高価そうな所持品からも、俺が王子だと主張しているようにしか見えない。
「父上! ただいま戻りました。母上とネネもいましたか。聞いて下さい。ドラゴンは我らに恐れをなして、カーディア帝国の方角へと退散しました」
彼は得意げに言い放つ。
「いや、それはカーディア帝国に嫌がらせ? いや、八つ当たりに行っただけだから」
僕は心の中でツッコむ。
「この俺の戦果に言いがかりをつける貴様は誰だ!」
彼はこちらに剣を抜いて突きつけると、もの凄い形相で睨みつけてきた。
僕は驚き、彼を見て青ざめる。
「フーカ君、フーカ君。全部、口に出てたわよ! でも、面白かったからOKよ!」
マイさんは、僕に向かって親指を立てて教えてくれるが、全然OKじゃない。
この状況を助けて欲しくて、皆のほうへ視線を向けると、頭を抱え、うなだれていた。
また、やってしまった。ど、どうしよう……グスン。
「バカ者! ユナハからの賓客に、剣を向けるとは何事だ!」
ベンさんの怒声が室内に響く。
王子はビクッと身体を強張らせると、渋々と剣を収めたが、その顔からはいまだに怒りは消えていない。
「フーカ殿、申し訳ない。これが息子のカイです。お前も謝罪をして、挨拶をしろ!」
彼はそう言って、カイの背中を押し、僕の前に出した。
「カイ・フォン・リンスバックだ。ユナハごときの客に取り乱した。悪い。……フッ」
カイは、僕の容姿を観察するように睨みつけてから、鼻で笑った。
カチン。
こいつ、全然謝る気がないじゃないか。
「僕は、フーカ・モリ。よろしく」
「あーっ? よろしくだ? 俺を舐めているのか? こんなのがユナハの賓客とは……。それも女だか男だかも分からんチンチクリンをよこすとは、リンスバックをバカにしているとしか思えん」
彼は僕よりも一〇センチ以上の身長差を利用するように上から蔑むような目で見降ろしてくる。
我慢、我慢。
僕は深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
何だか、僕の背後からもの凄い圧を感じる。
これって殺気では……。振り返るのが怖い。
でも、チラッとだけ。
「……」
見るんじゃなかった。
イーリスさん、ミリヤさん、ヒーちゃん、ジーナさんが無表情で腰の剣に手を添えて、メラメラと怒りの炎をまとっていた。
「ちょっとー! さっきからユナハのことをバカにしているけど、私は、マイ・フォン・ユナハよ。ボンクラ王子! あんた、私に喧嘩を売ってるわね!」
マイさんは、眉間にしわを寄せた顔を真っ赤にして、カイを睨みつけると、彼は彼女から視線をそらして、少し怯えたような表情をする。
「べ、別に叔母上のことを言ってはいません。ただ、このガキが最初に難癖をつけてくるから……」
彼が言い訳をする。
カイがマイさんを苦手にしていることが分かった。
「難癖も何も、フーカ君の言っていることは事実よ。あのドラゴンは、リュード竜王国の六古竜であるアスールちゃん……。コホン。アスール様なんだから。彼女がカーディア帝国に八つ当たりに向かってくれて良かったわね。鉢合わせにならなくて済んだんだもの。もし、彼女に手を出していたら、今頃はこれよ、これ!」
彼女はニンマリした表情で、手を首にあててスーっと横に引く。
それを聞いたカイは、青ざめた。
正確には、カチンコチンに凍っていたと思うけどね。
「叔母上、いつものおふざけですか? 大人げない。ユナハがそんな大物と繋がりを持てると? そんな話しを信じるとお思いですか?」
カイは、さっきまでの勢いこそないが、引く気はないようだ。
「だーってー。アスールちゃんは、そこにいるフーカ君の婚約者だもん!」
彼女はニッコリと微笑んで、僕を指差す。
「そ、そんな馬鹿な。竜族が人族と婚約? それも、こんなちっこいのと……」
ちっこいって言われると、結構きついな。
ヨン君、ごめんなさい。
カイは困惑していたが、しばらくして、再び僕を睨みつける。
そして、その視線は僕を通り越して、背後に控えるイーリスさんたちにも注がれる。
すると、彼は顎に手を当て、舐めまわすような視線で彼女たちを見つめだした。
「その者たちは?」
彼は僕を無視して、彼女たちに興味を持ったようだ。
「彼女たちは、僕の仲間です」
「お前には聞いていない!」
なんなんだこいつは! 心底からむかつく!
カイはマイさんに顔を向ける。
マイさんは少し考え込んだ。
「その娘たちは、フーカ君の婚約者たちよ!」
彼女はニンマリとする。
「バ、バカな! 君たちは、こんなどこにでも転がっているような奴の何処がいいと言うんだ! それにこいつは、竜族とも婚約をしていると言うではないか! こんな破廉恥な奴に縛られることはない。そうか! こいつに弱みを握られているのだな。君たちは早まってはいけない! 俺がこいつから君たちを解放してやろう。そして、俺が君たちの面倒を見てやろう! 俺にはそれだけの力があるからな」
彼は、僕を勝手に悪役にし、言いたい放題。
そして、満足げに彼女たちの容姿を確認していった。
ネネさんから、女好きと聞いていたが、どうしようもないヤツだ。
「勝手にそんなことを言われても困るんだけど」
「あぁー! お前、まだいたのか?」
もう、王子じゃなくて、ただのチンピラにしか見えない。
「ハァー。さっきまでの無礼は謝る。悪い。これでいいだろう。お前はこの娘たちを置いて、さっさと帰れ!」
彼はシッシッと手を振る。
「そんなことできるか! いい加減にしろ!!!」
彼のあまりにも失礼な態度に、思わずキレて怒鳴ってしまった。
すると、カイは僕の目の前にまで近付き、見降ろしてくる。
「お前、死んだな。訓練場で真剣を使った勝負をしてやる。つまり、一騎打ちだ。そうだ、一時間やろう。俺は訓練場で待つ。お前は、怖ければユナハに逃げ帰るのを許そう。その時は、彼女たちは残していけ」
彼はそう言ってから、部屋の扉まで向かう。
そして、こちらを振り向いた。
「まあ、さっさと逃げ出すことをお勧めするよ。アッハハハハ」
カイは、笑いながら部屋を出て行ってしまった。
「「「「殺しましょう!!!」」」」
彼が部屋を出ると同時に、イーリスさんたちが、物騒な発言をする。
「家族の前で、何を言ってるの?」
怒るのは分かるけど、ベンさんたちにとっては、大切な家族なんだから。
「「「申し訳ありません!!!」」」
ベンさんたちが土下座をしてきた。
「私たちがいるのに、あんな態度をとるなんて、思ってもいなくて、止められませんでした。ごめんなさい!」
イツキさんが土下座のまま、さらに謝る。
「土下座なんてしないで下さい。悪いのはイツキさんたちではないですから。それに、姉ちゃんに振られた腹いせとして、弟の僕がよく絡まれていたので、あの類には慣れていますから」
「そうでした。フー君は人気の少ない時間帯の潤守神社のそばで、アレのような輩に絡まれていたのをよく見かけました。まあ、その後に、その輩も、椿様、音羽姉様、紅寧姉様に絡まれて、ボコられていましたけど」
ヒーちゃんが懐かしむように話す。
しかし、イーリスさんたちは複雑な表情で僕を見つめる。
そんな目で見ないで欲しい。
それにしても、椿ちゃんたちは、僕の知らないところで何をしてるの……。ちょっと嬉しいけど。
「で、フーカ君。どうやって殺すの?」
「殺しません!」
「火の粉は、火元を消さないとダメなのよ!」
「……」
マイさんは、姉ちゃんと同じ思考回路だった。
「誠に言いづらいのですが、殺すのではなく、半殺しくらいで済ませてもらえないですか?」
「お姉様は甘すぎるわ! だから、あんな性格になってしまうのよ!」
マイさんがイツキさんを諭している。
何だか違和感を感じる。
「違うわ。カイを殺してしまうと、あの子の取り巻きが、ネネを狙いだしてしまうわ」
「あっ! お姉様、ごめんなさい。ネネちゃんのことを念頭に置いていなかったわ」
うーん……。むかつくヤツだけど、ネネさんの虫よけにされていたと思うと、少し同情しそうになってしまう。
「肝心なことを聞くけど、フーカ君ってどれくらい強いの?」
マイさんが僕に質問をしてきたが、その質問には答えられない。
僕は横を向く。
「ちょっと……。イーリスちゃん?」
彼女はイーリスさんに答えを求める。
イーリスさんも横を向く。
「徒手でしたら、私は敵いませんでした」
ジーナさんが思い出したかのように答えた。
「えっ? 徒手って素手よね? 相手は真剣を使う気満々よ。フーカ君の剣の腕は?」
今度は、ジーナさんも横向いて答えない。
マイさんの顔が青ざめていく。
「フーカ君はモリ家でしょ! カザネちゃんとオトハちゃんの弟でしょ!」
「正確には音羽姉ちゃんは従姉です」
「そんなことはどうでもいいわ!」
「ごめんなさい」
マイさんは頭を抱えると、身体をフラフラと揺らし、テーブルに手を突く。
「今は、フーカ様が死なないように、何か考えましょう。と、その前に、フーカ様が動きにくくならない程度に有るだけの装備をさせましょう。ヒサメ様、お願いします」
「はい!」
イーリスさんに言われて、ヒーちゃんが動き出す。
そして、ジーナさんは、ヒーちゃんの指示で、荷物の中から装備を持ってくるために、ペスたちのところへ戻る。
しばらくして、ジーナさんがベンさんの手配した従者と共に、荷物を抱えて戻って来た。
イーリスさんたちは、何も考えが浮かばず、僕の装備の準備をする。
「フー君、その正装よりも、こっちの戦闘服に着替えたほうがいいです。風音お義姉ちゃんが、フー君のも持たせてくれてましたから」
僕はヒーちゃんに言われ、隣の部屋を借りて着替える。
戻って来ると、肘あてやブーツ、戦闘手袋まで用意され、テッパチまでもがテーブルの上に置かれていた。
テッパチを被ると逆に動きにくそうだけど、頭を護ることを優先すべきか?
用意されたものを身に着けていくと、これからサバゲーでも始める様な姿になっていく。
ヒーちゃんの服装にそっくりになってしまった。
彼女は、「お揃いですね」と、嬉しそうに顔を赤らめる。
可愛いー。
しかし、彼女より重装備だ。
ベルトにホルスターを付けられ、信号拳銃まで持たされている。
「万が一の時は、信号拳銃でも武器になります。装填してあるのですぐに撃てます。それと、発煙筒をマガジンのホルスターに入れておきます」
ヒーちゃんは、使えそうな物を詰め込んでくる。
「フーカ君も大変ですね。ユナハの問題児を捕まえに来て、うちの問題児に絡まれるなんて……」
イツキさんは他人事のように同情してくる。
その問題児たちは、イツキさんの妹と息子なんだから、どっちもあなたの家族ですけどと、ツッコミを入れたい。
僕の準備が終わると、皆で部屋を出る。
そして、訓練場へと向かう。
その道すがら、ベンさんに訓練場の場所を聞くと、城の裏手にあたる屋外だと教えられた。
僕は、念のため、ペスを訓練場の上空に待機させて欲しいと、ジーナさんに声を細めて頼むと、彼女は黙って頷き、親指を立てる。
まあ、危なくなっても、雫姉ちゃんの加護が護ってくれることは分かっているが、気が重い。
そして、怖い。
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