28話 エルフの女王
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僕たちは、プレスディア王朝女王が待つ謁見の間の前にいる。
扉が開かれると、赤い絨毯が玉座まで敷かれていて、その両脇には白亜色の柱が何本もあり、赤色に金色の縁取りの垂れ幕が下がっている。玉座は数段高い位置にあり、その周りは豪華に飾られていた。
普通は、玉座があるのはこういう場所だと思う。
カーディアでは、玉座があったのが議場だったからかもしれないが、飾り気のないただのステージのような場所にに玉座がポツンとあるという光景だった。
それだけ、皇族がないがしろにされていたのかもしれない。
その玉座には女性が座っていた。
彼女が女王なのだろう。
ストレートの銀髪に透き通るような面立ちの美女で、同じエルフだからなのか、どことなくミリヤさんに似ているようにも見えてしまう。
それよりも、目を見張ったのは、彼女の目の色だった。
右目が銀色、左目が金色のオッドアイであった。
日本にいた時でも、コンタクトでオッドアイにしている人を見かけるくらいで、実物のオッドアイなんて見たことがない。
僕たちは女王に手招きをされ、玉座の前まで行く。
シャル以外が跪くのを見て、僕も真似をしようとすると、シャルに襟首を掴まれ首が締まる。
「ぐぇ。シャル、何するんだよ!」
「フーカさんは、膝をつかなくていいんです」
「何で?」
「とにかく、立ったまま黙って頭を下げて下さい」
よくは分からないが、彼女の言うとおりにする。
「女王陛下、この度は謁見をお許しいただき、ありがとう存じます」
僕は、シャルの対応を黙って見つめる。
「シャルティナ皇女殿下、遠路はるばるご苦労様でした。皆の者も面を上げて下さい」
皆は顔を上げると、立ち上がった。
「作法って立場とかで違うんだっけ。映画とかで見るだけだから、分かんないよ」
僕は心の中で愚痴った。
「ブフッ。そうでしたね。呼人の貴公は文化が違う故、分からないのは仕方のないこと。すまない」
「いえいえ、お気遣いなくって……あれ? 心の声に女王様が返事をするなんて……まさか、心を読む魔法か何かですか?」
僕は驚きを隠せなかった。
「いや、違うのだが……。それに、心を読む魔法は、おそらく無かったはず」
彼女は困った顔をする。
そして、シャルたちが頭を抱えてうなだれている。
「フーカ様、心の声が駄々洩れでした……」
ケイトが苦笑しながら、僕の肩をポンポンと軽く叩く。
やってしまったようだ……。
僕も守家の遺伝子を継いでいるってことで、気にしないことにしよう。
「少し長くなるかもしれません。この者たちに、椅子を用意しなさい」
「はっ!」
そばにいた女性が、僕たちの後方に向かって目配せをすると、椅子が用意された。
おそらく、宰相なのかな? 宰相も美人だ。
カーディア帝国がさらに残念な国に思えてくる。
僕に椅子を持ってきてくれた女性と目が合った。
「あのー。すみませんが、水もいただけますか?」
彼女は驚くと、女王と宰相を見る。
「用意してあげなさい。それと、サイドテーブルも用意してあげなさい」
「はい」
宰相に言われると、彼女が返事をする。
横にいたシャルが目に入った。
彼女はこちらを見て、頬をピクピクとさせている。
「シャルも頼んだら?」
すると、彼女は僕を睨んだ。
うっ、彼女の目に怒りの炎が見える気がする……。
クスクスとケイトとミリヤさんの押し殺した笑い声が聞こえてくる。
「ブフッ。全員分を用意してあげなさい」
女王が気を使ってくれたおかげで、皆のもとにも水が運ばれた。
「女王陛下、数々の失礼、誠に申し訳ございません」
シャルが皇女らしい対応をとる。
彼女が僕よりも二歳年下だということを思い出すと、恥ずかしくなってきた……。
「いいえ、構いません。呼人、それもあの悪名高きモリ家を預かる身となれば、あなたも苦労が絶えないでしょう」
「はい。そのお言葉をおかけ頂けただけで、理解して下さる方がおられるのだと、心の励みとなります」
女王とシャルの会話は、丁寧に言っているだけで僕をディスってるよね……?
それに、『悪名高きモリ家』と言った女王の言葉が気になって仕方がない。
「フゥー。シャルちゃん、公式的な謁見はここまでにしましょう。フーカ君はアレだから、続けるだけ無駄でしょう」
「はい、エルヴィーラ様の言うとおりだと思います」
僕がアレ? 何だろう……二人の話しぶりだと、僕がいけないみたいに聞こえてくる。
それに、さっきからケイトとミリヤさんの押し殺した笑い声が、絶え間なく聞こえてくるんだよね。
「では、改めまして、私は、エルフ領プレスディア王朝女王エルヴィーラ・プレスディアです。フーカ君だけが初対面ね。エルでいいわよ」
女王の雰囲気が急に変わり、親しみやすい感じになった。
「フーカ・モリです。よろしくお願いします……ん? エルさんは、僕だけが初対面なんですか? オルガさんとは会ったことがあるんですか?」
「ありますよ! 一〇〇年前にカザネちゃんと一緒にここへ乗り込んで来た時が初見で、その後、数回は会っています」
「そうなんですか。姉ちゃんが来たんですか……って、乗り込んでって……?」
「ええ、カザネちゃんとオルガちゃん、イオリ君の三人は凄かったわよ。たった三人で衛兵や騎士団をなぎ倒してここまで来ると、カザネちゃんが『あんた、エルフの女王なら、私の味方にしてあげるから、感謝しなさい!』といって、高笑いしてたわよ」
「うちの姉が申し訳ありません!」
僕はすぐに椅子から立つと土下座をした。
姉ちゃんは女王相手に何をしてんの……。
「もう、一〇〇年も前のことだから、いいのよ。それにその後は、カザネちゃん、オルガちゃん、イオリ君の三人とも親交を深めたしね。ねぇー、オルガちゃん」
「はい、その通りです。あの時は、カザネ様の弟であるフーカ様と、ここへ訪れることになるとは思ってもいませんでしたが、エル様、これも何かの縁なのでしょうね」
「そうね。感慨深いものがあるわね」
エルさんとオルガさんの話しを聞いた僕とシャルたちは、開いた口がふさがらなかった。
エル様って何? 最近、オルガさんがらみのことが多くないか?
やっぱり、彼女とはじっくりと話しをする機会を設けなければならないと思う。
「それにしても、嬉しいわ! オルガちゃんに会えたこともだけど、ミリヤちゃんにも会えて、フーカ君との婚約というおまけ付きだもの!」
「ご無沙汰していて、申し訳ありませんでした。お婆……ひゃん、い、痛いです。おば……エル様……ご、ごめんなさい……もう、言いませんから……」
ミリヤさんが「お婆」まで言いかけたところで、玉座からエルさんが消えると、彼女の背後に現れ、彼女のこめかみにグリグリと梅干しをしていた。
シャルたちも驚きを隠せないでいる。
しかし、こんな姿のミリヤさんを見れるなんて、とてもレアだと思う。
「もう、言葉には気を着けなさい。いくら孫でも、言っていいことと悪いことがあるんですからね!」
「ごめんなさい」
ミリヤさんは、こめかみを押さえてうなだれている。
相当、痛かったのだろう……ん?
「えぇー! ミリヤさんが孫って……ミリヤさんって王族なの!?」
とんでもない事実だ。
シャルたちは知っていたのに黙っていたのかと思って、周りを見ると、彼女たちは驚きを隠せないでアタフタとしていた。
知らなかったんだ……。
「ミリヤちゃんは、九人いる子供の中の六番目の子の娘なんだけど、その子が嫁いだから家名が違うし、王族の血筋ってだけで王宮とは関りが薄いのよ」
「そ、そうなんですか。でも、貴族令嬢なんですよね」
「「「……」」」
エルさん、宰相さん、ミリヤさんが引きつった顔をする。
何かあるのがすぐ分かったけど、聞いていいものだろうか……?
少しの沈黙の後に、エルさんから口を開いた。
「エイヤ、ミリヤちゃんの母親だけど、冒険者になっちゃったのよね。そして、父親も冒険者なのよ。だから、貴族令嬢じゃなくて冒険者令嬢? になるわね」
冒険者令嬢って……冒険者の娘でいいんじゃないの?
「へぇー……。なら、ミリヤさんは冒険者の知識とかには詳しいんですね。それはそれで心強いです」
うん、うまくフォローできたと思う。
「それがね……あの子たち、王宮にミリヤちゃんを預けて冒険しまくってたから……。たまに夫婦そろって帰ってくると、ミリヤちゃんにお土産を渡して、冒険譚を話すのだけど、自分たちが満足すると冒険に出ちゃうのよね……。だから、ミリヤちゃんは、冒険者の知識は無いのよね。でも、そんな両親に嫌気がさして、ウルス聖教中央教会に入って、高い地位にまで上った頑張り屋さんなのよ!」
フォローになってなかった……。
それどころか、愛情はあったのだろうが、ネグレストと言われてもおかしくない両親に、それに反発してウルス聖教で地位を掴んだミリヤさん……なんて、声を掛けたらいいのか分からない。
シャルたちまで難しい顔をしている。
「私のことはいいですから、話しを進めて下さい」
ミリヤさんはそう言うと、下を向いて顔を赤くしていた。
「そうね。でも、ここでいつまでも話していてもなんだから、あとは、私の執務室で話しましょう」
エルさんが立ちあがると、腰まである銀色の髪がサラサラとなびいて輝いていた。
その美しさに見とれて座ったままでいると、僕の耳元で囁く者がいた。
「フーカ様、私はおば……エル様と夫を共有する気はありませんからね」
「そんなことにはならないから、大丈夫だから!」
ミリヤさんは笑ってはいたが、かもし出すオーラが怖かった。
僕だって、奥さんのお婆さんも奥さんだなんて、そんな状況は御免被りたい。
僕たちは、エルさんの後に付いて、謁見の間を離れた。
◇◇◇◇◇
エルさんの執務室へと、僕たちは移動した。
室内は、薄いクリーム色の壁で優しく、木材が多く使用されていた。
そこは、豪華な調度品なども無く、質素で落ち着いた感じのするいい部屋だった。
「では、話しをしましょうか。シャルちゃんたちは、ユナハ国が建国した時に国家の承認と、同盟の約束が欲しいのよね。いいわよ! あとで書簡にしたためるわ。それにしても、律儀にこんなことをしなくてもいいのに。ハウゼリア新教国、カーディア正統帝国、カーディア新帝国、ブレイギル聖王国、ハンヴァイス新魔国、周辺諸国に断りもなく勝手に国を作って、やれ、交易しろだのなんだの言ってるところがあるのに、真面目ね」
僕は、エルさんの言葉に愕然とした。
それって国家じゃないよね。
それも、そんな国がカーディアの他にもあるだなんて、この世界は大丈夫なのだろうか?
「お約束、ありがとうございます。私たちが国を作ったと言っても、周辺諸国が認めてくれなければ、国ではありませんから」
「ところで、国家元首はシャルちゃんがやるの?」
エルさんの言葉に、皆の視線が僕に集まる。
「へぇー。フーカ君がやるの。それは面白そうね。ファルマティスの勢力図がひっくり返りそうだわ。グフフフフ」
「えっ? やだよ、そんなの! 国家元首はシャルがやってよ。皇女なんだから! 僕はペスに乗ってファルマティスを観光するんだから!」
「ペスもジーナも国で雇ってるし、観光するにしても、フーカさんはお金を持ってないですよね」
「あっ!」
ズドーンと頭に重しを落とされた感覚が襲ってくる。
「それに」
「まだあるの?」
シャルのことだから、とどめを刺してくるのだろう。
「私たちと結婚したら、フーカさんは私たちを養うのではなく、私たちに養ってもらうつもりなんですか?」
「なっ!」
とんでもないとどめがきた。
ぐうの音も出ない……。
僕たちの様子を見ていたエルさんが、何やらニマニマとしている。
「フーカ君、いい手があるわよ!」
「本当ですか!?」
エルさんが僕に救いの手を差し伸べてくれた。
でも、さっきのニマニマが気になる。
「ええ、私の夫になりなさい! そうすれば、たまに知識を貸してくれれば、あとは自由に遊んでていいわよ!」
「「「「「ダメです!!!」」」」」
シャルたちがすぐに断った。
まあ、さすがに受ける気はないけどね。
「あら、残念!」
エルさんは、僕たちをニヤニヤしながら見つめてくる。
その姿にマイさんを思い出し、背筋に寒気が走る。
「じゃあ、フーカ君が国家元首をやりなさい。そうしたら、プレスディア王朝はユナハ国を全面的に支援します。それと、我が国の友好国とユナハ国との関係も取り持ちましょう。そうすれば、各国に行けるから、観光もできるでしょう。どうかしら?」
エルさんが好条件を出してきた。
「プレスディア王朝の友好国ってどこですか?」
「東大陸だとウルス聖教国、リンスバック港湾都市国、クレイオ公国、ドワーフ領ガイハンク国、精霊領ドレイティス王朝。西大陸だとビルヴァイス魔王国、ヴァルウッド獣王国、ブリュンデ聖王国。あとは南大陸のグリュード竜王国よ。どこも歴史の古い国ばかりだけど、いい国よ」
パソコンにファルマティスの世界地図は入れてあったから、各国の位置は憶えていた。
それに、ドワーフ領、精霊領、魔王国、獣王国、竜王国の響きは魅力的だ。
「わかりました。皆が助けてくれるならやります」
パチパチパチと拍手が起きた。
でも、一つだけ言っておきたいことがある。
ユナハ国だけでなく、他の国にも重要なことだと思う。
「一つだけ、問題があります。僕が国王になると、姉ちゃんと音羽姉ちゃんが物見遊山に来るかもしれません。……絶対に来そうです」
オルガさん以外が固まってしまった。
それも、エルさんと宰相さんまで……。
「フーカ君、ダメよ! 百歩譲ってカザネちゃんはいいわ。でも、オトハちゃんは勘弁して……。お願いします」
エルさんが頭を下げてお願いしてくるなんて……音羽姉ちゃんは、こっちで何をしたんだ!
僕はシャルたちに音羽姉ちゃんについて、何か知っているかを聞いたが、彼女たちはフルフルと首を横に振るだけだった。
オルガさんも音羽姉ちゃんのことは、詳しくは知らなかった。
「音羽姉ちゃんは、何をしたんですか?」
「モリ家の悪名を高めたのは彼女なの!」
悪名を高めたって、音羽姉ちゃんは守家じゃなくて継守家なんだけど……。
でも、いったい何をしたんだ?
「そのー、教えてもらえますか?」
「いいわ。今から二〇〇年前、一七歳だったオトハちゃんが、文字の刻まれた丈の長い白い衣を着てブリュンデ聖王国に現れた時は、異世界人……呼人たちもまだ多くいて、好き勝手な行動が続いていたの。彼女は当時のブリュンデ王に呼人たちのことを聞かされ、呼人討伐に立ち上がったのだけれど、訪れた呼人を囲っていた国は、彼女に滅ぼされて壊滅状態。呼人は、『あんなのがいるなんて聞いていない』とか言って、散々世話になっていた国を見捨てて、戦いもせずに怯えるは逃げ出すはで大混乱。彼女はその礼節を欠いた状況を知って、さらに激怒。呼人を捕まえては、日本の住まいを聞き出し、背中から取り出した金属のパイプでボコボコにしてたわね。それで、ここからが重要なんだけど、当時のファルマティスは多くの国が存在していたけど、オトハちゃんが半数の国を滅ぼしてしまったの。そこで問題になるのが、あれから二〇〇年も経ってるから、彼女の怖さを知らないで、喧嘩を売るようなバカが増殖しているだろうってことなのよ。そんな時代にオトハちゃんが来てしまったら……」
エルさんは、一気に話し続けると、しかめっ面をして溜息を吐いた。
僕は噛むこともなく、スラスラと長い話しを続けた彼女に感心してしまう。
そして、一七歳頃の音羽姉ちゃんを思い出すと、特攻服姿でサラシを巻いていた姿が浮かび、納得した。
音羽姉ちゃんは、思春期の一番荒れてた時に、こっちへ来たのだろう。
彼女が不運だったのか? こちらの住人が不運だったのか? あまり考えないことにしよう。
室内が異様に静かだ。
おかしいと思い、周りを見ると、シャルたちが固まっていた。
音羽姉ちゃんの話しが余程、衝撃的だったのだろう。
ファルマティスの半分の国を滅ぼしたと聞かされた時は、彼女のことを知っている僕でさえ、フリーズしそうになったのだから、シャルたちへのダメージは相当なものだったと思う。
「エルさん、音羽姉ちゃんも今では落ち着いて、巫女をしてますから大丈夫だと思いますが、こちらに来ることになった時は、すぐに知らせますね」
「ええ。ありがとう。って、みこー!? オトハちゃんが巫女……。…………。あっ、ごめんなさい。衝撃的過ぎて、彼女の巫女姿が想像できなかったのよ。……? えーと、こちらに来ること自体を止めて欲しいのだけど……」
「それは無理です! 僕に止められるわけがないじゃないですか! いやだなー。アハハハハ」
「そ、そうよね。アハハ……」
彼女はガックシと肩を落とす。
コンコン。
扉が叩かれた。
「ハンネです。謁見の間にお姿がなかったもので、こちらに参上いたしました」
「ご苦労様。お入りなさい」
「はっ!」
ハンネさんは部屋に入ってくると、僕を見つけた途端、睨みつけたきた。
こ、怖い……。
「陛下、何故、シャルティナ皇女ではなく、この者と対面しているのですか?」
ハンネさんは、凄く嫌そうな顔で僕を見下ろした。
僕が愛想笑いを返すと、そっぽを向かれてしまう。
「あら。ハンネ? あなたはもしかして、フーカ君のことを……気にかけてるのね!」
「違います!!!」
ポッ。
僕は、急な展開に照れてしまう。
「貴様も恥じらうな!!!」
彼女は顔を真っ赤にして、怒ってしまった。
エルさんに目配せをされて、その悪戯についつい乗ってしまった。
「そんなに顔を赤くして、えーと、こういうの、日本では何て言うんだっけ?」
「ツンデレです」
エルさんにオルガさんが助け舟を出した。
オルガさんも遊んでいる……。
「そうそう、ツンデレ! ハンネは素直じゃないんだから」
でも、ツンだけなんだけど、ここは黙っておこう。
「だから、陛下、違うんです……。もういいです」
ハンネさんは、ニコニコしているエルさんを見てうなだれてしまう。
「陛下、ハンネで遊ぶのはその辺にしてあげて下さい」
「あら、そお。サンナがそう言うなら止めるわ。もう少しお仕置きをしても良かったのだけれど」
宰相はサンナさんというのか。
それにしても、お仕置きって……。
「ハンネ、あなたがそのお方を侮辱したと報告が上がっています。彼に謝りなさい」
サンナさんは厳しい視線を彼女に送る。
「何故ですか? サンナ様、私のほうが……おぞましい目にあっているんですよ」
「あなたの身に起こったことなど、どうでもいいのです。そのお方は、これから建国されるユナハ国の国家元首となられるお方です。あなたは隣国の初代国王陛下を侮辱したのですよ。その意味が分かりますね」
ハンネさんは、サンナさんの言葉に顔が青ざめていった。
「も、申し訳ありませんでした!」
ハンネさんは僕のほうを向くと、額を床にこすりつけて土下座をした。
エルフの土下座を見れるなんて凄い経験だ。
でも、美人に土下座させているという事実が、僕にダメージを与えてくる。
「フーカ様、どうか、彼女のことを許してもらませんか?」
「はい、許します。このままだと僕の精神も持たないので……。ただ、相手が平民だろうと他種族だろうと、あのような態度は二度としないで下さい。僕はここに来る前に、もっと酷い貴族主義の現場に居合わせたばかりだったので、冷静さを欠いていました。ハンネさん、ごめんなさい」
土下座しているハンネさんに、僕は頭を下げる。
「ハンネ、良かったですね。あなたも覚えていると思いますが、フーカ様はオトハ様とカザネ様の弟にあたります。あなたが謝罪しなければ、あなたの首が飛ぶどころか、この国が滅んでいたかもしれなかったのです。気を付けて下さい」
ん? サンナさんの言葉が腑に落ちない。
僕は、姉ちゃんたちとは違うから、そんな物騒なことはしないのに……。
あれ? ハンネさんが顔を上げたまま、放心している。
「丸く収まってよかったですね。それに、カプ仲間にハンネさんが加わったことを歓迎しますよ!」
ケイトがニコニコしながら余計なことを言い出した。
それに、カプ仲間って何?
「確か、ケイトちゃんだったわね。あなたの魔術研究や魔道具研究のお披露目以来ね。それで、カプ仲間ってなーに?」
「エル様、その節は良い評価を頂きありがとうございました。えー、カプ仲間とは、ペス……ワイバーンの固有名称ですが、その子にカプっとくわえられた人たちの集まりです。フーカ様、シャル様、リネットさん、私だけでしたが、この度、ハンネさんが新メンバーとして加わりました」
「あらー。ハンネ、良かったじゃない! ……えっ? ちょっと待って……シャルちゃんもメンバーなの?」
ケイトがウンウンと頷く。
「皇女なのに?」
今度は、シャルを除いた皆もウンウンと頷く。
「とても興味深いわね。フーカ君とシャルちゃんがカプられているなら、いっそのこと、カプ国にしちゃえば? 面白いわよ!」
「「「「「ダメです!!!」」」」」
一致団結した拒絶が入った。
そりゃあ、カプ国なんかになった日には、恥ずかしくて国民も逃げ出すだろうからね。
「陛下、よくお考え下さい。我が国はカプ国の同盟国となってしまいますよ。それに、連合にまでなったら、カプ連合プレスディア王朝と呼ばれますよ」
「それは、嫌ね。表に出るのが恥ずかしくて、エルフが引きこもりになってしまうわ! フーカ君、カプ国には絶対にしないでね」
サンナさんの忠告に、散々面白がっていたエルさんも酷いことを言い出す。
僕は、いっそのこと、嫌がらせでカプ国にしてしまおうかと思う衝動を抑えた。
その後、料理を囲みながら、細かい打ち合わせや雑談などをした。
魔道具の共同研究や共同開発などの話しが出た時は、ケイトに研究開発部門の代表を任せ、僕が知識を提供することを知ると、直ぐに話しはまとまり、他の開発したい物や生産したい物に対しても協力してもらえることとなった。
また、ユナハ国の研究開発部門の準備が整えば、プレスディア王朝の魔道具研究所から研究員と技術者を送ってくれることも約束してくれた。
プレスディア王朝との会談? も終わり、ひとまずは肩の荷が下りた。
これで、ユナハ国が建国されても孤立することはなくなったし、魔石を代用した電化製品や設備などを作ることもできるだろう。
時計を見ると、すでに二三時をまわっていた。
明日は、ウルス聖教国だ。
今日よりも慌ただしくなることが目に浮かぶ。
早く休みたい。
「皇女殿下、今日の議事録や締結したことの書簡は、ユナハに送るのでいいのでしょうか?」
「ええ、ユナハにいるイーリス宛でお願いします。明日はウルス聖教国に向かいますので、重要書類を携えながらでは疲れてしまいますから」
「分かりました。では、天馬騎士団に届けさせましょう」
「サンナさん、お心使いありがとうございます」
シャルとサンナさんのやり取りを横で見ていたら、エルさんが何やら考え込んでいる姿が目に入った。
この女王様は、きっと、良からぬことを考えている気がする。
「決めたわ! 私も一緒にウルス聖教国へ行くことにします」
ほらきた!
「「「「「……!!!」」」」」
皆は口をパクパクさせて、誰一人言葉になるものはいなかった。
「エルさん、何で?」
「そんなの、面白そうだからに決まっているじゃない!」
そんなことだろうと予想はついていた。
しかし、女王が動くとなると、相当の人数が動くことになるのではないだろうか?
「陛下、何を言い出すのですか! そんな急には無理です!」
「決めました!」
「護衛や従者もそろえねばなりません」
「決めました!」
「今からでは準備が間に合いません」
「決めました!」
一言しか返事をしないエルさんに、サンナさんが肩を落とした。
何だろう、このやり取りを見ていると懐かしさを感じる。
「お忍びですから、ハンネと数人が同行すればいいわ。サンナ、ハンネ、準備は任せます」
「「はっ!」」
二人はあきらめたようだ。
「上司が我がままだと大変だね」
「「はい」」
僕が思わず発してしまった言葉に二人が返事をしてしまった。
エルさんは顔をヒクヒクさせながら、何故だか僕を睨んでくる。
「ハンネ、急いで準備に取り掛かりますよ」
「はっ!」
サンナさんとハンネさんは、逃げるようにいなくなってしまった。
そう言えば、僕たちはどこで寝泊まりをするのだろう……。
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