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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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250話 開園式のような建国式典

 キツネーランド桃源国に来て一週間が過ぎると、エリンさんたちとの外交的な話しも無事に終わり、金ちゃんと銀ちゃん他、数人の事情聴取とお説教も終わった。

 シャルとイーリスさん、シズク姉ちゃんの手も空くと、僕たちにも時間の余裕ができる。

 そこで、来週に行われる建国式典までの間を、視察という名目で観光をすることにした。

 日本に戻った時にニュースで取り上げられていた議員の海外視察が思い出され、少し気が引けはしたが、こちらに来てからというもの、学校の行事には参加していないし、休みに友達と遊びに出かけたりとかもしていなかったんだから、少しくらい羽目を外しても罰は当たらないだろう。

 それに、ここはテーマパーク国家でもあるんだから、その辺りも調査しないと。

 僕は、持論を掲げて納得すると、皆と一緒に市内を見て回ることにする。


 エリンさんとケイトがツアーガイドのように、市内の建物や設備を説明しながら先頭を歩いて行く。

 大通りなどのメインの通りには、観光客を目当てにしたお土産屋やレストランなどの店舗が並び、その裏側の通りに入ると、地元の人たちが利用するお店や住居があり、生活感の溢れた街並みにしているそうだ。

 テレビでよく目にした海外の観光地が思い浮かぶ。

 娯楽施設のテーマパークとは違い、実際にテーマパーク内で住人が生活している環境となるのだから、生活感が出てしまうのは仕方がない。


 「ちょっと、裏側を見ますか?」


 そんなことを思っていた僕を察したのか、ケイトが手招きをする。


 「どうです。下町みたいで、これはこれで味があるでしょう」


 確かに、店の前に商品が並べられ、ご婦人方が井戸端会議を行っている光景を目にすると、下町とも言えなくないが、カラフルで可愛らしい建物が並んでいるせいか、少し違和感を感じなくもない。


 「海外の下町だと、こんな感じに見えるんでしょうか?」


 ヒーちゃんの質問に、僕もなるほどと思い、二人でアカネ姉ちゃんを見る。


 「知らん」


 一言で片付けられた。


 「まあ、場所にもよるけど、こんな感じの場所もあるわよ」


 オトハ姉ちゃんが、困り顔で代わりに答える。

 僕とヒーちゃんは、少し納得したように、その生活感の溢れる光景に視線を戻した。


 再び賑やかな通り沿いに戻り、歩き出す。

 お店の商品を見ながら歩いていると、ミードやハニーワイン、蜂蜜を扱うお店が多い気がする。


 「蜂蜜とかが多いね」


 「我が国の蜂蜜は、他国で高級品として扱われているらしく、まだ建国前だというのに、お買い求めになられる方々が多く訪れ、自然と蜂蜜店や蜂蜜を加工した食品などを扱うお店が増えていったんです」


 エリンさんが嬉しそうに答えた。

 他のお店も見てみると、見覚えのあるお店も紛れている。


 「ん? 狐印の石鹸屋さん『カプ』? こ、この店って」


 「ここはユナハ国の石鹸屋さんの店舗です。ここは地元の人にも大人気なんですよ」


 エリンさんは、ショーケースに並べられた石鹸やシャンプーを、うっとりと見つめる。

 早くも出店させていたのか……。


 ウインドウショッピングを楽しんでいると、シズク姉ちゃんとオトハ姉ちゃんが驚いて立ち止まった。


 「どうしたの?」


 「フーちゃん、このお店の商品って……」


 シズク姉ちゃんは、あるお店を指差す。

 そのお店には、潤守神社の御守りや破魔矢などから、狐の耳のカチューシャと狐の尻尾のアクセサリーまでもが売っていた。


 「「ゲッ! 雫様!」」


 売り子をしていた二人の巫女さんが、こちらを見て驚く。


 「あなたたちは、ここで何をしてるの?」


 「「椿様に頼まれました!」」


 シズク姉ちゃんの問いに、即座に答える巫女さんたち。


 「お、おまえたち……」


 「ね、姉さん?」


 「いやー、これは、その、せっかくだから、こっちでも売ろうと……」


 「姉さん!」


 「ごめんなさい!」


 そして、ツバキちゃんは、シズク姉ちゃんにこっぴどく怒られるのだった。




 今まで歩いた城のそばのエリアはショッピングエリアだった。

 僕たちは、その足でアトラクションなどのあるアミューズメントエリアへと向かう。

 デカいというほどではないが、目の前の観覧車を見て、この街並みを見た時に、どうして気付けなかったんだろうと悩んだ。


 「この観覧車は、数日前に完成したんです」


 僕が悩んでいることを察したのか、ヒーちゃんが教えてくれた。


 「建国式典までに試運転を終えて、当日には公開できるようにする予定です」


 「そうなんだ」


 僕はヒーちゃんに向かって頷いた。


 そばの大きな建物に入ると、中にはコーヒーカップやメリーゴーランドなどがあり、子供から大人までを乗せて、楽し気な音楽に合わせて動いている。


 「ここは、あまり激しくない乗り物をメインにしています。お化け屋敷のような室内を見て回る乗り物は別の建物にあります。ジェットコースターなどの激しい乗り物を集めた建物もありますよ」


 エリンさんは得意げに話す。


 「へえー」


 僕は感心しながら辺りを見回す。

 すると、金ちゃんと銀ちゃんを模したようなキャラクターのイラストや像が、あちらこちらにある。


 「なんか、金ちゃんと銀ちゃんみたいなのがいっぱいだね」


 「キツネーランドですから」


 エリンさんが自信を持って答えると、金ちゃんと銀ちゃんはドヤ顔をこちらに向ける。

 確かにそうかもしれないけど、どこかやるせない気持ちになった。




 僕たちは、建国式典が行われる日までの間を、アミューズメントエリアで遊びつくした。

 建国前なのに、既に公開されているアトラクションを楽しんでいる竜族やエルフ、魔族やドワーフ、精霊族や人族から獣人族など、種族関係なしに楽しんでいる様子は平和そのもので、眺めていて飽きない光景だった。

 まあ、竜族がジェットコースターに乗って悲鳴を上げている姿は、衝撃的ではあったが、それはそれで、見ていて楽しかった。

 そんな楽しい日々が過ぎていくと、建国式典の準備が大詰めなのか、市内全体が慌ただしくも感じる。

 僕たちは羽目を外しすぎて遊んでいたせいもあり、周りが慌ただしくなって初めて、建国式典に来たことを思い出すのだった……。



 ◇◇◇◇◇



 キツネーランド桃源国建国式典の当日。

 僕たちは正装に着替えて、市内のイベントエリアにある野外コンサート場の控室で待機していた。

 神職の衣装ではなく、スーツ姿のツバキちゃんとシズク姉ちゃんもだが、蝶ネクタイにタキシード姿でいつになく緊張しているように見える金ちゃんと銀ちゃんも、とても気になっていた。


 建国式典の開会時間になり、係員が呼びに来る。

 金ちゃんと銀ちゃんを追求したかったが、その時間はなく、僕は皆と共に会場へと向かう。

 控室を出ると、廊下にはエルさんたちやルビーさんたちに、レオさんやダミアーノさんを見かける。

 その中には、アーダさんたちと共にセレストさんとメリサさんもいて、こちらに向かって小さく手を振っていた。

 他にもロルフさんやヘルマンさんなど、僕の知っている各国のお偉いさんが全員そろっていた。

 この時、僕は金ちゃんたちのやらかしたことが各国をも巻き込んでいることを実感し、胃がキリキリしてくる。

 この国が、金ちゃんたちのせいでおかしな方向に向かっただけで、悪い方向へ向かったわけではないし、以前のような閉鎖的で偏見を抱いている国とは真逆に向かっているのだから良しとしよう。と僕は自分に言い聞かせながら、胃痛を堪えるのだった。




 会場は、コンサート場の大きなステージだった。

 係員の誘導で、国ごとに別れた席へと行く。

 宝石が散りばめられたティアラをつけ、金糸と銀糸で飾り付けられた純白のスカートがフワッとしていて肩が出ているドレスを着たエリンさんは、席へ向かう各国の来賓たちに丁寧な挨拶をしていた。

 そして、僕たちユナハ国の席は、今回の主役であるキツネーランド桃源国の席の隣にあり、エリンさんに挨拶をされた僕たちは、「建国おめでとうございます」と返してから席に座る。

 キツネーランド桃源国の席には、数人の面識のない男性と女性がすでに座っており、その中には、グレーの軍服をビシッと着こなしたデルスラさん、レースをふんだんに使った紺色のスレンダーなドレスのアフィーさんもいた。

 ライカさんはというと、デルスラさんと似た軍服だが、下がミニスカートになっているタイプの物を着て、壇上の脇でマイクを持ちながら、書類に目を通している。

 彼女が司会進行役で、式典の台本を確認しているのだろう。




 舞台幕がゆっくりと左右に開いて行くと、大勢の観衆が客席にいて、席がない人たちは後方で立ち見となっていた。


 「皆さーん、こんにゃちはー!」


 ((初っ端で噛んだ!))


 金ちゃんと銀ちゃんの念話のせいで、ステージにいた者たちは笑いを堪えると、ライカさんの顔が、一瞬で真っ赤になる。

 ライカさん、ごめんなさい。

 僕は心の中で謝った。


 「コホン。キツネーランド桃源国建国式典で司会のお姉さんを務めるライカだにゃ。みんなー、よろしくにゃー!」


 ((あっ、開き直った!))


 ゴツン、ゴツン。


 金ちゃんと銀ちゃんの後ろの席にいたリンさんとイライザさんが、げんこつを落とした。


 ((い、痛い……))


 「「「「「……」」」」」


 ステージ上が静かになり、ライカさんを含め、皆が金ちゃんと銀ちゃんに視線を向ける。

 前列にいた僕、シャル、イーリスさん、ミリヤさんは観衆に気付かれないように小さく頭を下げた。

 は、恥ずかしい……。


 「コホン。では、我が国の女王に就任されたエリンヴィーラ・ハウンゼン様からご挨拶にゃ。どうぞ」


 ライカさんが少しさがると、エリンさんが壇上に立った。


 「皆さん、こんにちは。この国の女王となりましたエリンヴィーラ・ハウンゼンです。よろしくお願いします」


 彼女が小さく頭を下げると、観衆から歓声と拍手が沸き起こった。


 「この度、我がキツネーランド桃源国が建国できるのも、皆さんとここにおられる各国の方々のご協力のおかげです。本当にありがとうございます」


 今度は深く頭を下げると、再び観衆から歓声と拍手が沸き起こり、僕たちも拍手を送る。


 「今日、この時から、我が国は訪れた方々が笑顔と思い出を作っていただけるように精進していきたいと思います。そして、何度も遊びに来たいと思っていただける国にしていきたいと思います」


 ん? 建国式というよりも開園式の挨拶に聞こえるような……。だが、観衆は歓声と拍手を送っているし、国民が納得しているのならいいのかな?

 僕は、複雑な思いでエリンさんを見つめた。


 「今回、特に大きく貢献していただいた国家委嘱分科会の方々をご紹介します。ライカ、お願いします」


 なんか、たいそうな名前を付けてるけど、異色の間違いでは?


 「では、時間的に余裕がないから、さらっと紹介するにゃ」


 ((えっ!?))


 手に握られたメモ用紙を見ていた金ちゃんと銀ちゃんは、ライカさんを見て驚く。

 壇上に上がる気だったな。


 「まずはユナハ国から、風になびく金色の毛がキュートなキン・モリ・ユナハ様。銀色の毛がクールなギン・モリ・ユナハ様。死神と怖れられながらも、実は可愛い物には目がないアーネット・トート・ユナハ様。お金儲けのためなら何でもするケイト・モリ・ユナハ様。お嬢様の皮をかぶったヒサメ・モリ・ユナハ様。自称女神のツバキ・ツグモリ様。ユナハ国王の実姉でありながら、ユナハ国王の貞操を狙うカザネ・モリ様。以上がユナハ国の方々だにゃ」


 「「「「「……」」」」」


 あまりにも酷い紹介に、会場全体が沈黙を続ける。


 「ラ、ライカ。あ、あなた、その紹介は……」


 「エリン様、違いますにゃ。金ちゃんから渡されたこの台本通りに紹介しただけにゃ」


 皆の呆れる視線と殺気のこもった視線が金ちゃんに向かう。


 (盛り上げようと……)


 「「「あとで、じっくりと話しましょう」」」

 「いい度胸ね」

 「自称ときたか」


 名前を呼ばれた面々は、恥ずかしさか怒りか分からないほど顔を真っ赤にして、金ちゃんに向かって囁いた。


 (ご、ごめんなさい)


 シュンとする金ちゃんの隣では、銀ちゃんが目を泳がせながら横を向いていた。

 銀ちゃんもグルだな。

 続いて、サンナさんとネーヴェさんの順になると、ライカさんは台本を無視して普通に紹介をした。




 その後の式典はつつがなく進んでいき、ドラゴンとワイバーンによる航空ショーが行われると、観衆たちは大いに楽しんでいた。

 そして、ドラゴンとワイバーンが上空から姿を消すと、軽快な音楽が鳴り出す。

 またか……。

 狐の耳と尻尾をつけた子供たちとお姉さんたちが現れ、ステージの前できつねのダンスを踊り始める。

 もちろん、金ちゃんと銀ちゃんにステージの中央へと連れ出されたドレス姿のシャルたちも、踊らされていた。

 そんな踊りにくそうな恰好で、可哀相に……。


 式典が閉会されると、エリンさんは疲れた表情を見せる。

 司会のお姉さんだの、テーマパークの開園式にしか思えないような雰囲気など、初っ端にツッコミどころが多すぎたせいか、僕も精神的にクタクタだった。


 「城のテラスにお食事の用意ができてますにゃ。皆様、この後はお料理を摘まみながら花火をお楽しみ下さいにゃ」


 ライカさんが伝えると、皆は城へと向かって行った。

 そして、陽が沈むとライトアップされた観覧車が回りだし、城やアトラクションの入った建物もライトアップされると、何発もの花火が打ち上げられる。

 僕たちは花火を見上げながら、食事を楽しむ。

 料理の並べられたテーブルの脇では、金ちゃんがヒーちゃんたちからお説教を受けている。

 もちろん、誤魔化しきれなかった銀ちゃんも金ちゃんの隣に座り、二人そろって正座でシュンと肩を落としていた。

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