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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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248話 建国式典の招待状

 ユナハ連合が勝利を収めたことは、すぐに関係国へと報せられた。

 そして、ハウゼリア新教国は解体され、エリンさんを頂点とする新国家樹立へ向けて動き始める。


 数週間が過ぎ、ある程度の落ち着きが見え始めると、僕たちは、帰国する者と残ってエリンさんを手伝う者とに別れることとなった。

 帰国組は、僕とシャル、イーリスさん、ミリヤさん、レイリア、アスールさん、オルガさん、シリウス、マイさん、イツキさん、アカネ姉ちゃん、リンさんと特戦群の八割、大半の一般兵たち。

 残留組は、ケイトとヒーちゃん、アンさん、イライザさんと特戦群が二割、金銀の僕隊、工兵、ヘルゲさんと治安維持などのための多少の部隊、そして、まだ仕事が残っているリネットさんとネネさん、リネットさんの補佐に回っていたジーナさんの三人だ。 

 ただ、残留組には残していきたくない者も二人いた。

 金ちゃんと銀ちゃんだ。

 エリンさんたちとケイトの強い要望と、本人たちの強い希望で渋々了承したが、不安で堪らない。

 唯一の救いは、ヒーちゃん、アンさん、イライザさんも残ることだ。

 二人のことは、彼女たちに任せておけば大丈夫だと、僕は自分の気持ちを強引に納得させていたのだった。




 さらに数日が過ぎ、僕たちは聖地オウルから一番近い港へと来ていた。

 今日は帰国組の中でも僕の周辺の者と護衛が島を離れる日だ。

 ちなみに、一般兵たちは、後から数日に分けて帰国の途に入る。

 今まで頑張ってくれた兵士たちには悪いが、僕たちが一足先に帰ることは、役職的に仕方がない。


 迎えのテンダーボートが来るのを待ちながら、桟橋で残留組と話しをしていると、イーリスさんが、ケイト、ヒーちゃん、アンさん、イライザさんに、金ちゃんと銀ちゃんが暴走しないようにと、何度も念を押すように頼んでいる。

 そして、もうしばらく滞在してから帰国する予定のエルさんやルビーさんたち、見送りに来てくれたエリンさんたちにも、彼女は二人のことを頼んでいた。


 ((イーリス様は、心配性だなー))


 金ちゃんと銀ちゃんは、そんな彼女を見て困り顔をする。


 「あなたたちが、まともな行動をとらないからでしょ!」


 ((僕たちにとっては、まともな行動だもん))


 「その自覚の無さが問題なんです!」


 ((それほどでも……))


 モジモジと恥ずかしそうに照れだす二人。


 「褒めてません!」


 イーリスさんは、大きく息を吐いてから頭を抱えた。


 数艘のテンダーボートが桟橋に着くと、兵士が僕たち帰国組に報せに来る。


 「エリンさん、お世話になりました。金ちゃんと銀ちゃんをこき使ってかまわないので、頑張って下さい」


 「あ、ありがとうございます。立派な国を建国できるように頑張ります。道中お気をつけて」


 僕が別れの挨拶をすると、エリンさんは困ったような笑みを浮かべた。


 「アン、ケイト、イライザ。金ちゃんと銀ちゃんから目を離さないで下さいね。ヒサメ様もよろしくお願いします」


 四人は、イーリスさんの酷く不安そうな顔を見て、黙ったまま大きく頷く。


 「金ちゃん、銀ちゃん。やらかしたらダメですからね。それと、二人がフーカ様と遠く離れることは初めてですから、消えたりしないように体調のチェックはこまめに行うんですよ」


 イーリスさんがお母さんみたいだ。


 ((うん、分かってるから大丈夫。ん? 消える? どういうこと?))


 「二人の身体に何かあっても、ヒサメ様もいるんですから大丈夫ですよ」


 金ちゃんと銀ちゃんを無視して、ケイトが答える。


 「ケイト、ヒサメ様、お願いします。では」


 イーリスさんを先頭に、僕たちはテンダーボートへと乗り込んでいく。


 ((ねえ、イーリス様。なんか、とんでもないことを言ったよね?))


 イーリスさんは二人の言葉を無視して、ボートのデッキから二人に笑顔を向けて手を振る。

 すると、ボートのエンジン音が唸り始め、進みだした。


 ((えっ? ちょっと待ってー! 僕たちも帰るー!))


 桟橋で叫びながら、右へ左へとオロオロと首を振って焦りだす二人をよそに、ボートは加速していった。

 僕たちは桟橋で慌てふためく二人を見て、笑いを堪えながら、残留組の皆に向かって手を振る。

 そして、僕の隣では、イーリスさんが悪戯っぽい笑みを浮かべていたのだった。



 ◇◇◇◇◇



 ユナハ城の執務室では、机に突っ伏して疲れ果てた僕と、そんな僕を見て顔をゆがめるシャルとイーリスさんがいた。

 今は、ユナハ国に戻ってきてから五ケ月が過ぎている。

 戻って最初の頃は、溜まっていた仕事やら何やらと忙しかったが、それも数週間が経つと落ち着き始めた。

 だが、やっとゆっくりできると思いきや、ツバキちゃんから連絡が入り、父さんが家に帰ってきたとのことで、日本の自宅へと顔を出しに行くこととなった。

 そこからは、父さんと会って、これまでの経緯を話すと、父さんが「そんなに嫁が出来たなら、この家では狭すぎる。こっちにも家を建てないといけないな」と言いだしたことで、ユナハの自宅と日本の自宅を頻繁に行き来する往復の日々となり、気が付けば、あっという間に数ケ月が過ぎていたのだ。

 そして、その多忙な日々から解放されたのが、ここ数日のことだった。


 「忙しすぎて、この数ケ月が走馬灯のようだった……」


 突っ伏したままの僕が愚痴ると、シャルとイーリスさんが苦笑する。


 「フーカ様。それだけ頑張ったってことです」


 オルガさんは、僕を励ましつつ、そっとお茶を置いてくれる。


 「ありがとう」


 起き上がってお茶をすすると、シャルとイーリスさんの顔にも疲労が見えていた。


 「日本って、家を建てるのに、あんなに色々と書類やら何やら、許可を取ったりなどと大変なんですね」


 オルガさんからお茶を受け取ったシャルも愚痴る。


 「それに、キッチンや窓や何やらと選ぶだけで、あんなにも疲れるとは思いませんでした。皆が戻ってきたら、今度は家具選びなどが待っていると思うと、憂鬱になります」


 イーリスさんもオルガさんからお茶を受け取りながら愚痴る。


 「皆といえば、残留組はどうしてるの?」


 「「「あっ!」」」


 シャル、イーリスさん、オルガさんが同時に声を上げた。

 忙しすぎて、忘れてたんだ……。


 「何の連絡も来てなかったの?」


 「いえ、来てましたが……。それが、金ちゃんからの「サプラーイズ」とか「我、健在なり」や、銀ちゃんからの「ここは玉手箱だ」とか「乞うご期待」といった意味不明の報せばかりでして……」


 オルガさんは、申し訳なさそうな顔をする。


 「ケイトとヒーちゃん、それに、アンさんもいるんだから、他の連絡はないの?」


 「連絡に関しては、あの二人が仕切っているらしくて……」


 「なんで、あの二人が……」


 「私が出向いて懲らしめられたら良かったのですが、日本に新居を建てる件もありましたので、リンに頼もうとしたのですが、こちらに戻って来ると、戦車や装甲車などの他にも色々と新しい兵器が開発されていまして、あの子もそれらの運用などの件で身動きが取れなかったらしく、申し訳ありません」


 オルガさんが深々と頭を下げた。


 「いいよ。オルガさんが悪いわけじゃないし、元凶は金ちゃんと銀ちゃんなんだから」


 僕たち四人は顔を合わせると、大きなため息を吐いた。


 そんな僕たちの元へ、メイドさんが手紙を持ってくる。

 彼女は部屋に入ると、オルガさんにその手紙を渡し、軽く頭を下げてから出て行った。


 「!!!」


 オルガさんは、受け取った手紙を見て驚いている。


 「どうしたの?」


 「エリンヴィーラ様からなのですが、金ちゃんと銀ちゃんが連名になってます」


 「「「……」」」


 僕とシャル、イーリスさんは嫌な予感がして、黙ったままオルガさんが手に持つ手紙を見つめた。

 オルガさんは、僕に手紙を渡す。


 「なんか、中を見るのが怖い……」


 「そんなことを言っていないで、確認して下さい」


 イーリスさんに促され、僕は封を開ける。

 中には、まとめられた紙の束が入っていた。


 「なんだ、これ?」


 僕はその束を取り出した。

 金ちゃんと銀ちゃんが楽しそうに手を挙げているイラストに、『キツネーランド 年間パスポート』と記されている。


 「キツネーランド? 年間パスポート? あいつらは何をしてるんだ?」


 「「「……」」」


 僕のそばに来て覗き込んでいたシャル、イーリスさん、オルガさんは、関わりたくなさそうに沈黙していた。

 まだ何か入っている。こっちは便箋(びんせん)のようだ。

 その折りたたまれた便箋を取り出し、机に広げる。

 『キツネーランド桃源国(とうげんこく)建国式典のご案内』


 「「「「……」」」」


 誰も言葉を発せられなかった。

 キツネーランドって、国名だったのか。なんてネーミングセンス……。それよりも桃源国って何だ? それに年間パスポートって……、パスポートの意味が間違って伝わっている気がする。

 続きを読んでみる。


 『この度、ハウゼリア新教国が解体され、キツネーランド桃源国として生まれ変わることとなりました。今後は世界各国の皆様方に愛されるテーマパーク国家として精進していきたいと思っております。新国家の我が国を少しでも皆様方に知っていただこうと、建国式典のご招待として年間パスポートを贈らせていただきました。奮ってご参加ください。キツネーランド桃源国国家元首エリンヴィーラ・ハウンゼン』


 「「「「……」」」」


 再び誰も言葉を発せられなかった。

 建国式典の招待状なのは分かったが、テーマパーク国家って何? 頭が混乱しそうだ。 

 ん? まだ続きがある。


 『追伸、難関パスポートは年内は無料だけど、来年からは有料だからね。ユナハ国イーリス・モリ・ユナハ宰相補佐官キン・モリ・ユナハ』


 これって……。ん? まだ何か書いてある。


 『さらに追伸、キツネーランド内のアトラクションやお買物、お食事、もちろん宿泊施設も個人負担だから、お小遣いは忘れずに持ってきてね。ユナハ国シャルティナ・モリ・ユナハ副王補佐官ギン・モリ・ユナハ』


 ツッコミどころが多すぎて、思考が停止する。

 ただ、金ちゃんと銀ちゃんが好き放題やっていたことだけは、十二分に分かった。

 自分の目を疑うように、シャルとイーリスさんは何度も読み返している。


 「「いつから補佐官になったー!?」」


 そして、吠えた。


 「あー。なんで私たちの名前を……」


 「私たちがいないのをいいことに、やってくれましたね。フフッ」


 シャルは頭を抱え、イーリスさんは顔を真っ赤にして怒り、笑みを浮かべる。


 「シャル様。あの子たちに会ったら、きついお仕置きをしないと気が済みませんね」


 「ええ」


 二人は顔を合わせ、大きく頷く。

 こ、怖い……。



 ◇◇◇◇◇



 後日、建国式典の招待状が送られてきたことについて、皆が会議室に招集された。

 シャルとイーリスさんによって、建国式典のことよりも、金ちゃんと銀ちゃんの暴走の件が議題にあげられると、エンシオさんとクリフさんは苦笑していた。

 そして、ミリヤさん、シリウス、リンさん、イツキさん、アカネ姉ちゃんは頭を抱える。

 ただ、マイさんだけは、とても楽しそうだった。

 ん? 人数が足りない。

 僕はテーブル席を見回すと、レイリアとアスールさんがいないことに気付いた。

 しっまった! 今、二人は日本に行っていたんだった。

 そのことをイーリスさんに小声で話し、席を外す。


 廊下に出た僕は、二人に電話をかけた。

 二人とも電源が切れているのか電波の入らないところにいるのか通じず、留守番電話に切り替わってしまう。

 留守番電話に伝言を残したが、念のため、ツバキちゃんにもかけて、二人に伝えてもらおう。

 しかし、ツバキちゃんの電話も二人と同じだった。

 何となく嫌な予感がする。

 ここは、シズク姉ちゃんにもかけておこう。


 「プルルルル、プルルルル。はい」


 通じた。


 「シズク姉ちゃん、フーカだけど」


 「あら、どうしたの?」


 「そっちに行っているレイリアとアスールさんに連絡を取りたかったけど通じなくて、ツバキちゃんにもかけたけど通じなくて、三人はどこかに出掛けてるの?」


 「レイリアちゃんとアスールちゃんなら、涼音(すずね)さんと旅行に行ってるから、きっと、スマホの充電を忘れてるのかも」


 「母さんと旅行? なんで?」


 「レイリアちゃんが、商店街の福引で温泉旅行を当てちゃったのよ。それで、四人までの招待券だったから、レイリアちゃんが涼音さんとアスールちゃん、オトハちゃんを誘ったのよ。明日、帰ってくるスケジュールだったから、二人が帰ってきたら、戻るように伝えておくわね」


 「ありがとう」


 「それで、フーちゃん」


 「何?」


 「姉さんが、カザネちゃんと一緒にそっちへ行っているはずなんだけど……」


 「えっ? 僕のところには報告が来ていないから、こっちには来ていないと思うよ」


 「おかしいわね。ヒサメから連絡が来て、手伝いに行ったみたいなんだけど」


 「うっ。もしかして……」


 「何か知ってるの?」


 僕は、キツネーランド桃源国のことで分かっていることを全て話した。


 「ハァー。きっと、姉さんとカザネちゃんも面白がって、金ちゃんと銀ちゃんに加担してるわね」


 「……」


 「レイリアちゃんとアスールちゃんが帰ってきたら、二人と一緒に私もそっちへ行くわ」


 「うん。ツバキちゃんと姉ちゃんが一枚噛んでるなら、来てくれると助かるよ」


 「またあとでね」


 「うん。ツーツーツー」


 通話が切れると、僕はスマホをポケットにしまう。

 そして、シズク姉ちゃんとの会話を皆にも伝えるため、急いで会議室に戻った。

 僕から話しを聞いた皆は、ツバキちゃんと姉ちゃんが面白がって、金ちゃんと銀ちゃんに加担しているかもしれないことを知ると、頭を抱えてうつむいてしまう。


 しばらくして、皆は気を取り直すと、どこか焦るようにキツネーランド桃源国へ向かうための準備を急ぎだすのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


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