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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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242話 ちょっぴり必殺技

 キン、キン、カキン――。

 パン、パパパッ、パン、パン――。


 クレーメンス・フォン・シュミットを追い詰めた場所へと到着すると、戦闘は継続されており、剣のぶつかり合う音と銃声がお互いの音をかき消そうとするように響き渡っていた。


 「フーカ様、気を付けて下さい。敵の抵抗が激しく、ここから先は、いつ敵が襲ってくるか分かりません」


 シリウスは僕に声を掛けた後、アンさんとレイリアに目配せをした。


 「うん、分かった。さっき、床から刺客が襲ってきたばかりだし、油断しないように気を付けるよ」


 彼は僕の返事にニコリと微笑むと、剣を抜いて先陣を切るように戦闘の行われているほうへ向かって行った。

 カッコいい!


 ((惚れるなよ!))


 「やかましいわ!」


 僕が思っていたことを見透かしたような金ちゃんと銀ちゃんの横やりに、思わず叫んでしまった。


 「フーカ様。目立ちますから、お静かに」


 困ったような笑みを浮かべるオルガさんに注意された僕は、金ちゃんと銀ちゃんを睨みつける。

 二人は「ヒュー、ヒューヒュー」とかすれた口笛を吹いて、あさっての方向を向く。

 これから油断できないというのに、この二人が一番危なっかしい……。

 僕は困り顔で二人を見つめた。




 まだ戦闘の行われている廊下を進み、突き当ると、ホールのような広い部屋に出た。

 そこでは、敵と味方が入り乱れるように戦っていた。

 シリウスが言っていたように、敵の抵抗が激しいことが良く分かる光景だ。


 (これはすさまじい光景ですな。ハフハフハフ)


 銀ちゃんは他人事のように感想を口にした。

 ん? ハフハフハフ?

 首を傾げた僕の鼻に、ソースとカツオの匂いが漂ってくる。

 彼のほうを振り向くと、何かを食べながら戦いを見つめていた。


 (あっ! 銀ちゃんズルい! 僕も食べよーっと!)


 彼の隣に行った金ちゃんは、収納魔法でたこ焼きを出すと食べ始める。

 すると、マイさん、エルさん、ケイト、アスールさん、レイリアが、「ズルい」と口ずさみながら、二人の周りに群がった。

 二人はたこ焼きを出しては、皆に配っていく。

 そして、興味深く覗き込んでいるエリンさんにも渡すと、ライカさん、デルスラさん、アフィーさんにも渡した。


 「ねえ、なんで、たこ焼きを配ってるの?」


 (さっき、たこ焼きって言ってたら、無性にたこ焼きを食べたくなっちゃったから、皆にもお裾分け)


 僕が尋ねると、銀ちゃんは笑顔で答える。


 「なんで、そんなに配るほど持ってるの?」


 僕は続けて銀ちゃんに尋ねた。


 (フッフッフー。主、それはね。銀行強盗の一件の時に僕たちがたこ焼きを食べていたことが、テレビのニュースで話されたことがあったでしょ)


 「うん、女の子のインタビューの時にあったね」


 (あの放送で、たこ焼き屋のおじちゃんのお店が大繁盛したんだよ)


 「へぇー、そうなんだ」


 (主は鈍いな。僕たちのおかげで大繁盛したから、お礼として好きなだけくれるっておじちゃんがいって、いっぱいたこ焼きを焼いてくれたんだよ)


 「そんな話し、初耳なんだけど」


 (えっ? あれ? ヒサメお姉ちゃんとカザネお姉ちゃんが一緒だったんだけど)


 銀ちゃんはヒーちゃんを見て、首を傾げた。


 「えーと、夏祭りの準備だのとドタバタしていて忘れてました。ごめんなさい)


 僕の後ろにいたヒーちゃんは、素直に謝った。


 「うん、分かった。それはいいとして、なんで、こんなところで食べ始めてんの?」


 (いやー、さすがにうな重のストックはないから。まあ、お高いし、支店長さんも好きなだけおみやで持たせるわけにもいかないからね)


 金ちゃんが会話に入ってきて答えたが、話しがかみ合っていない……。


 「そうじゃない。この状況で、なんで、食べ始めているかを聞いてるんだよ」


 ((たこ焼きが美味しいから))


 僕が頭を抱えてうつむくと、二人は不思議そうに首を傾げていた。




 広いホールを進んで行くと、前方に誰かを囲むようにして護っている聖騎士団と兵士の一団がいた。

 護られている者に目を凝らすと、紫色のかかったサラサラの銀髪に女性のような美しい顔立ちの男が、煌びやかな鎧を身にまとっていた。

 あの澄ましたような顔をしたイケメンは、覚えている。

 クレーメンスだ。

 この場に彼がいることを確認した途端、ロールプレイングゲームで、迷いに迷ってやっとラスボスを見つけ、たどり着いた時のような緊張感と高揚感が僕に押し寄せてくる。


 「やっと、捉えた」


 「ええ。やっと、奴との決着がつけられます」


 僕のつぶやきに、アンさんが答えた。


 「今回ばかりは、奴も逃げられませんね。ハフハフ」


 僕とアンさんは、レイリアを振り返る。

 彼女は真剣な顔をしているが、手にはたこ焼きのパックを持ち、口をハフハフさせていた。

 まだ食べてたの……。


 「「……」」


 僕もアンさんも、呆れて何も言葉が出てこなかった。




 「おい! あそこにいるのは、ユナハ王だ!」


 僕に気付いた一人の聖騎士が叫んだ。


 「そこのお前たちは、聖人であらせられるクレーメンス教王陛下をお守りしろ!」


 すると、聖騎士の団長らしき男がマントを翻して、周りの者に命令を下した。


 「邪教徒の首謀者であるユナハ王はそこにいる! 皆の者、ユナハ王の首を獲れ! そして、ハウゼリア新教に牙を向けばどうなるかを、世界に示すのだ!」


 「「「「「おおぉぉぉー!!!」」」」」


 彼が僕を指差して叫ぶと、周りの敵兵たちが一斉に雄たけびを上げて、士気が高まった。


 「ねえ、フーカ君。敵の士気をあげてどうすんのよ。ハフハフ」


 マイさんは僕に文句を言い終えると、たこ焼きを口に放り込んで熱そうにする。

 僕のせいじゃない! っていうか、この状況でも、まだ食うか!

 僕は彼女に苛立ちを抱いた。

 なんで、うちのメンバーは、こうも緊張感がないんだ……。

 だが、その感情はすぐに諦めや嘆きへと変化していった。


 その間にも、僕に的を絞った敵兵たちが向かって来ていた。


 キン、キン、カキン――。


 パン、パパパッ、パン、パン――。


 すぐそばで、金属音と銃声が響き渡る。

 迫ってくる戦闘の音に、僕の身体が恐怖と緊張で強張っていく。


 (主、なにをビビってるの? 僕たちがいるから大丈夫だよ)


 金ちゃんは、僕の肩に手を置く。


 (そうだよ。主は沈没船にでも乗ったつもりでいればいいんだよ)


 そして、銀ちゃんも僕の肩に手を置いた。


 「ん? なんで、僕の後ろにいるんだよ」


 (主の後ろが一番安全!)


 僕が後ろを振り向くと、金ちゃんはニカッと白い歯を見せて親指を立てた。


 「言っていることが滅茶苦茶だ! 僕は大丈夫じゃないじゃないか!」


 金ちゃんは眉間に指を当て、悩みだす。

 なんで、悩む必要があるんだ……。


 「それと銀ちゃん。沈没船にでも乗ったつもりって、どういう意味だよ!?」


 (主に何かあっても、後のことは僕たちに任せてってことかな?)


 「それって、僕が()られることを前提にしてるよね」


 (だから、沈没船)


 「……僕たちがいるから大丈夫っていってたよね?」


 ((うん。主亡きあとは僕たちがいるから大丈夫!))


 「勝手に殺すな!」


 僕が怒鳴ると、二人は近くにいたケイトの背後に隠れた。


 「あのー、金ちゃんと銀ちゃは、フーカ様が殺られたら消えちゃうかもしれませんよ」


 ((えっ?))


 ケイトの言葉に、二人は驚いて、彼女を見つめる。


 「あくまで仮説ですけど、二人はフーカ様の魔力から生まれたんですから、その根源が失われたら、消滅してもおかしくありません」


 (主、殺られちゃダメだよ! 僕、まだ食べてみたい料理がいっぱいあるんだから!)


 金ちゃんは、僕の腕にしがみついて焦りだす。


 (そうだよ! 主が長生きしてくれないと、僕たちもエンジョイ出来なくなっちゃうんだから!)


 僕の空いている腕に銀ちゃんもしがみついて焦りだした。


 「……」


 自分たちのことしか考えていない発言に、僕は言葉を失った。

 なんで、こんな風に育ってしまったんだ……。


 「それなら、フーカ様のことを死ぬ気で護りなさい!」


 ミリヤさんが、二人に向かって叫んだ。


 ((死ぬ気は嫌なので、主が殺られない程度に頑張ります))


 「「……」」


 僕とミリヤさんは、二人の言葉に嘆くのだった。




 やる気を出した金ちゃんと銀ちゃんは、僕の前へと出る。

 二人とのひと悶着のおかげか、僕の恐怖心はなくなっていた。

 だが、敵が僕に向かって迫ってきているのは事実で、緊張だけは拭い去れなかった。


 (うーん。このままだと面倒くさ……コホン。らちがあかないから、僕のちょっぴり必殺技を披露してやる)


 金ちゃんはカッコつけるが、言い直したせいで、彼を見る皆の視線は冷めていた。

 ん? ちょっぴり必殺技ってなんだ?

 銀行での必殺技のことが脳裏に浮かんだ僕は、とりあえず、今は金ちゃんを止めようと思った。

 ……だが、すでに金ちゃんは、どこにもいない。


 「金ちゃんは?」


 僕が辺りを探すと、皆も辺りを探す。


 「あっ! あそこに!」


 いち早く金ちゃんを見つけたシャルが指を差すと、彼は敵の背後に建つ大きな石柱の前で、ピコピコハンマーを構えていた。

 気配を消すことを、完璧に使いこなしてる。っていうか、それよりも何をする気だ?


 (ちょっぴり必殺技のひとーつ、『起き上がりこぼし』だ!)


 金ちゃんは、柱に向かってハンマーを振りぬく。


 ピコ。ドーン!


 ハンマーの可愛らしい音の後を続くように、轟音が響いた。


 ドガーン。


 すると、石柱の下の部分だけが礎盤(そばん)だったかのように壁まで吹っ飛び、食い込んだ。


 「「それは、『だるま落とし』だ!」」


 その光景を見た僕とアカネ姉ちゃんは、間違いをツッコんだ。


 パラパラパラ。


 上から、砂や小石のような物が降ってくる。

 天井を見上げると、石柱が短くなって支えの無くなった天井にひびが入っていた。

 そして、石柱はグラグラと揺れている。


 (ちょん)


 金ちゃんがその石柱を指で軽く突くと、クレーメンスのいるほうへ向かって、倒れだした。


 「教王陛下をお守りしろ!」


 聖騎士の団長が叫ぶ。


 ズドーン!


 石柱が大きな音を立てて倒れると、床が大きく揺れる。

 さらに、石柱と床の破片や土煙がホール内に広がり、視界を奪った。


 「「「「「ゲホゲホゲホ――」」」」」

 「「「「「ゴホゴホゴホ――」」」」」


 敵味方関係なく、ホール内にいた者が咳き込んだ。

 僕もハンカチで鼻と口を押え、涙を流していた。

 何が、ちょっぴり必殺技だ! このホールごと壊す気か!?

 僕は心の中で叫ぶのだった。




 土煙がおさまり、視界が開けてくると、僕の目の前には、襟首をオルガさんとリンさんに掴まれた金ちゃんがシュンとしていた。


 「この子、柱をもう一本倒そうとしてました」


 「「「「「……」」」」」


 オルガさんの報告に、僕だけでなく、皆も唖然とする。


 「何をしようとしてるんだよ! もう一本倒したら、このホールの天井が崩れるかもしれないだろ!」


 (さっきので、クレープマンを仕留め切れなったから)


 言い訳をする金ちゃん。


 「クレープマンじゃなくて、クレーメンスね。それと、天井が崩れたら、こっちも瓦礫に潰されるんだけど」


 (そこは()けてもらわないと)


 「「「「「避けられるかー!!!」」」」」


 皆は、金ちゃんに向かって怒鳴った。


 (ごめんなさい……)


 金ちゃんは謝ると、再びシュンとし、皆は大きな溜息を吐いた。




 僕は味方の様子を確認する。

 味方には被害はないようだ。

 アンさんとイーリスさんに、数人の味方の兵士が報告を告げていく。

 二人は僕のもとに来て、味方には被害がないことを教えてくれた。

 金ちゃんがやらかしたことだけに、僕はホッとした。


 次に、敵の様子も確認する。

 金ちゃんがクレーメンスのほうへ倒れるように突いたおかげで、敵には甚大な被害が出ていた。

 クレーメンスを護り、逃がすために、彼の元へ駆け寄った者たちが潰されたり破片で負傷したようだ。

 クレーメンスが生き残っているのは残念だが、これで、こちらがさらに優勢になったことは喜ばしい。

 しかし、今度は倒れた石柱の瓦礫が、敵と味方を奇麗に分断する状況となってしまった。

 瓦礫を盾にして防御に回られると、瓦礫を越えるだけで、味方にそれなりの被害が出そうだ。

 クレーメンスのところまではあと少しだというのに、じれされているようでイライラする。


 ゾクゾク。


 殺気のこもった視線を感じた僕の背筋に冷たいものが走る。

 視線が飛ばされている方向に目を向けると、この状況にも動じず、毅然と立つクレーメンスが、こちらを親の仇でも見るように睨みつけていた。

 僕も負けじと睨み返す。

 だが、彼の僕を射殺すような視線と僕の視線がぶつかると、僕はビビッてしまい、無意識に目を背けてしまった。

 そして、悪者っぽさが板についていて、カッコいいと思ってしまう。

 僕は自己嫌悪を起こすと、イケメンは何をやっても様になってズルいと、妬むのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


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