表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

241/251

241話 ハウゼリア新教の中枢、『聖城』への城攻め

 僕たちを乗せた装甲車は、我が軍によって包囲され、すでに攻撃が始められている城壁に囲まれた城のような教会の前に到着した。

 間近で見ると、『パルテノン神殿』と『天空の城メテオラ』が融合したように見える。

 さらに、その最後部には要塞のようなごつい城がそびえ立っていた。


 「なんか、色々と混ぜ過ぎたような教会だね」


 僕は教会を見上げながら、感想を口にした。


 「造られた時代も滅茶苦茶な感じです」


 ヒーちゃんも感想を口にする。


 「増築を繰り返していった遺産って感じだな」


 アカネ姉ちゃんも感想を口にする。

 そして、威圧感だけは凄い摩訶不思議な教会を見つめながら、二人は渋い顔をしていた。


 「これがハウゼリア新教の中枢となる『聖城(せいじょう)』です」


 エリンさんが教えてくれる。


 「えっ? 『聖城』って、教会じゃなくて城なの?」


 「教皇が変わる度に、権力を誇示する目的で改築され、こんな姿に……」


 「そ、そうなの。えーと、何と言ったら……」


 口ごもるエリンさんに、気の利いた言葉を返そうとしたものの、僕も口ごもってしまった。

 そのまま僕とエリンさんは何も話さず、攻撃を受ける城を見つめる。




 聖城は堅牢であったが、火力と数で攻め込むユナハ連合国軍は、第一関門の城壁を破り、突入を開始していく。

 さすがにハウゼリア新教の中枢ということもあって、魔獣たちが配備されていなかったため、こちらにとっては、かなり優位に戦況を展開できた。


 しばらく経ってから、城壁内の安全が確保できことを無線機越しに報告されると、僕たちの乗る装甲車は、ゆっくりと進み始める。

 瓦礫がどかされた城門跡を通って間もなく、装甲車が傾き始めた。


 「この坂、思っていたよりも傾斜がきついね」


 「そうですね。城の防御としては有効ですが、物資を運び込むには、馬車でも苦労しそうですね」


 僕の言葉に、イーリスさんが返す。


 「搬入用に別の入り口でもあるのかな?」


 「周辺を調査した結果、城への入り口はここのみだそうです。逃走用の隠し通路は、まだ見つかっていないだけであるかもしれませんが」


 イーリスさんの話しを聞いて、僕は、ここには住みたくないなと、嫌そうな表情を浮かべた。


 「フーカ様の場合は、足腰が鍛えられて、良い運動になると思いますよ」


 ニコッと微笑むイーリスさん。

 思っていることを見透かされた。


 (イーリス様。主はエレベーターをつけるに決まっているから、無理だと思うよ)


 金ちゃんが余計なことを言う。


 (こんな感じのエスカレーターまでつけそう)


 すると、銀ちゃんはノートパソコンで江ノ島のエスカーの写真を画面に出して、イーリスさんだけでなく、皆にも見せた。

 皆の冷たい視線が、僕に向けられる。


 「僕は、そんなことを思っていないよ」


 僕が否定すると、皆はクスクスと笑いだす。

 二人のせいで、からかわれたじゃないか。

 二人を睨むと、すっとぼけるように横を向かれてしまった。

 なんか、地味に悔しい……。




 城が建つ高台に到着すると、金ちゃんと銀ちゃんはハッチから頭を出して、城を見ていた。


 (銀ちゃん。ここの人たちって見栄っ張りみたいだから、手前の神殿みたいなところに金目の物を飾ってそうだよ)


 (フムフム。ということは金ちゃん、奥のでっかい城には、前に飾っていたけど、飽きてしまい込んだ金目の物が、たんまりと蓄えられているはずだよ)


 パン。


 二人は悪い笑みを浮かべて顔を向き合わせると、ハイタッチをした。


 「ねえ、盗る気満々の会話が筒抜けなんだけど」


 ((えっ!?))


 二人はハッチから頭を下げると、僕を見る。

 そして、イーリスさんやミリヤさんを順に見まわしてから、青ざめていく。


 ((冗談です))


 「「「「「嘘つけー!!!」」」」」


 ハッチの踏み台から引きずり降ろされた二人は皆に囲まれ、お説教をされる。

 すると、すぐに城内に突入した部隊から無線連絡が入った。

 皆は渋々とお説教を中断し、無線機の周りに集まる。


 「ガッ、ガガ。シリウスです。前面の城の制圧に成功しました。これより、クレーメンス・フォン・シュミットがいると思われる後方の城へ突入します。ガガ」


 「シリウス。相手はクレーメンスです。十分に気を付けて下さい」


 「ガッ、ガガ。はっ!」


 シリウスとイーリスさんの会話が終わると、無線機は静かになった。


 僕たちは支度をして装甲車から降りると、前面の城を調べるために向かった。

 もちろん、僕たちの周りには特戦群と金銀の(ぼく)隊が護衛として、周りを囲んでいる。


 (コホン。ホレス君、ホレス君)


 「金隊長、何ですか?」


 (金目の物を見つけてもネコババしないで、僕たちに報告するように)


 「ネコババなんてしませんよ」


 ホレスは困り顔をする。


 「ホレスたちに見つけさせて、ネコババする気ですか?」


 ギクッ。


 背後からイーリスさんに声を掛けられた金ちゃんは、飛び跳ねた。


 (そ、そ、そんなことはしない……と思う)


 「思うじゃなくて、してはいけません!」


 すると、金ちゃんは逃げ出し、その後をイーリスさんが追いかけた。

 ホレスと金銀の僕隊一同は、逃げ回る金ちゃんを見つめ、情けない表情を浮かべてうつむいてしまった。

 あんなのが隊長で、可愛そうに……。

 僕はホレスと金銀の僕隊一同を、同情するように見つめるのだった。




 神殿のような石柱が何本も建つ前面の城の中へ足を踏み入れる。

 中の様相も神殿そのもので、ここが神殿であったことがうかがえた。

 代々の教皇らしき石像が石柱と石柱の間に置かれ、美術館のような感じだが、石像以外に展示されている物はない。


 「「チッ」」


 舌打ちが聞こえ、振り向いた先には、金ちゃんと銀ちゃんがつまらなそうな顔で辺りを見回していた。

 さっそく、物色してたな……。


 奥に進むと神殿を囲むように壁が現れ、その中央には、破壊された扉があった。

 扉を過ぎると薄暗くなり、広めの廊下が中央と左右の三方向へと延びている。


 「これは、真っ直ぐでいいのかな?」


 僕はエリンさんを振り返った。


 「えーと、私も初めて入るので、分かりません」


 「そ、そうなんだ」


 オウル・ハウンゼンの直系の子孫なのに、来たことすらなかったなんて不憫(ふびん)だ。

 僕はそんなこと思いつつ、前方を向いた。


 (僕は左を調べてくるね)


 そう言って、金ちゃんは左に歩いていこうとする。


 (なら、僕は右だね)


 今度は、銀ちゃんが右に歩いていこうとする。


 ガシッ。


 リンさんとイライザさんが二人を捕まえた。


 「フーカ様、このまま真っ直ぐです」


 そして、リンさんが道を示した。


 ((金目の物を誰かに盗られるかもしれないよ))


 金ちゃんと銀ちゃんは、期待を込めた目で僕を見つめてくる。


 「盗るとしたら、金ちゃんと銀ちゃんしかいません」


 イーリスさんが、二人と僕の間に割り込んだ。


 ((そんな……酷い))


 「お説教が中断されてましたね。二人は私と戻って、お説教の続きをしましょう」


 (真っ直ぐだね。さあ、主、行くよ)


 金ちゃんは澄ました表情で、僕とイーリスさんの脇を通り過ぎて行く。


 (主。危ないから、僕と金ちゃんの後ろにいるんだよ)


 すると、銀ちゃんも澄ました表情で、僕とイーリスさんの脇を通り過ぎて行く。


 「「……」」


 僕とイーリスさんは呆れながら、二人の後ろをついて行く。


 再び左右にも廊下が延びている場所が現れた。

 金ちゃんは左へ、銀ちゃんは右へ行こうとする。


 ガシッ。


 リンさんとイライザさんは、面倒くさそうな表情を浮かべながら、二人を捕まえた。


 「お前たちは学習しないのか? 真っ直ぐに決まっているだろう」


 リンさんは威圧するように、金ちゃんの顔に顔を近付けて覗き込んだ。


 (んー)


 すると、金ちゃんは目を閉じて、口をすぼめた。


 ゴツン。


 彼女のげんこつが炸裂する。


 「何をしているんだ!? 気持ち悪い」


 (痛い……。リンお姉ちゃんがキスをしようとしてきたのに、酷いよ)


 「そんなことするか!」


 リンさんは金ちゃんを睨みつけ、叫んだ。

 そして、疲れたようにうつむいてしまった。


 変な間が、僕たちを包み込んでいる。

 金ちゃんがおかしなことをしたせいで、その変な雰囲気のまま先へ進むこととなってしまった。

 また、廊下が三方向に別れる。


 スチャッ。


 今度は、リンさんとイライザさんによって、金ちゃんと銀ちゃんが左右へ歩き出す前に、二人の後頭部へ拳銃がつきつけられた。


 (えーと、それはさすがにシャレにならないんですけど……)


 とっさに両手を挙げた金ちゃん。


 (なんで、僕まで……)


 銀ちゃんは愚痴をこぼしながら、両手を挙げていた。


 ((真っ直ぐだよね。真っ直ぐ進むから))


 二人がそう言うと、リンさんとイライザさんは拳銃をしまう。

 僕たちは顔を引きつらせながら、金ちゃんと銀ちゃんの後ろについて、先へ進んで行く。




 奥まで行くと、突き当たってしまう。

 そこには、灰色の石壁と大きな鉄製の黒い扉があった。

 黒い扉は開け放たれており、その周りでは、兵士たちが忙しそうに動き回っている。


 「この先は、まだ制圧されていないみたいだね」


 「そのようですね」


 僕が口を開くと、イーリスさんが答えた。


 「じゃあ、戻って、今通ってきたところを少し調べてみようか」


 「そうですね」


 ((ヨシッ!))


 気合を入れるようにガッツポーズをする金ちゃんと銀ちゃん。

 なんで、こいつらは盗む気満々なんだ……。

 僕が飽きれるように二人を見つめると、イーリスさんも同じような視線を二人に向ける。

 その時、扉の奥から、誰かがこちらに向かって歩いてきた。

 シリウスだった。


 「フーカ様、朗報です」


 「朗報?」


 僕はシリウスに聞き返した。


 「はい。クレーメンスを上層階で追い詰めました」


 「「「「「!!!」」」」」


 僕たちは驚く。


 「フーカさん、これで決着がつきますね」


 「いつも逃げられてましたからね」


 シャルが嬉しそうに言うと、レイリアが肩の荷が下りたような表情で答える。

 そして、他の皆も、笑顔や安心したような表情を浮かべて喜んだ。


 「「チッ」」


 しかし、金ちゃんと銀ちゃんは舌打ちをする。

 金目の物を物色するつもりが、それどころではなくなってしまったことに不服なのだろう。本当に、こいつらときたら……。

 僕だけでなく皆も、二人を見てからうなだれてしまった。




 「では、クレーメンスを追い詰めた場所まで案内します」


 シリウスは、僕たちの護衛を再編制させると、話しかけてきた。


 「うん、お願い」


 僕の返事を聞いたシリウスは、コクリと頷くと、先頭を歩きだす。

 彼の左右と後方を、部下たちが歩き出すと、その後ろを特戦群と金銀の僕隊が僕たちを囲むようにし、僕たちの歩調に合わせて歩きだす。

 最後尾にも、シリウスの部下たちがついたので、特戦群と金銀の僕隊は、僕たちの護衛に専念できる僕たちを囲む隊列となった。


 ((うっ、こんなに囲まれたら、何か落ちてても見つけられない……))


 金ちゃんと銀ちゃんは肩を落とした。

 落ちててもじゃなくて、置いてあってもの間違いだろ!

 僕は二人を見て、頭を抱える。


 歩みを進めていくと、先ほどまでとは打って変わって、こちらの城では、かなりの激戦だったことが一目でわかるような生々しい戦闘の跡が随所に見られた。

 僕はグロテスクなところは、すぐに目を背け、なるべく前の人の背中を見るようにして歩いて行く。


 「……」


 僕の前を歩いているのは、金ちゃんと銀ちゃんだった。

 二人は隣を歩くエルさんとマイさんの二人をからかい、四人でじゃれながら歩いている。

 そんな四人のそばを、リンさんとイライザさんが気にしながら歩き、たまにリンさんが金ちゃんと銀ちゃんを叱っていた。

 こんな光景の中を緊張感もなく進む四人が、たくましいと思えてくる。

 そして、いつの間にか、周りの光景が気にならなくなっていた。




 僕の前を歩く金ちゃんたちには、いつしかエリンさんとケイトも加わっていた。

 彼らは敵城のなかを進んでいるというのに、ピクニックやハイキングでもしているかのように楽しげな会話を弾ませながら歩いている。

 皆、肝が座っているのか鈍感なのか、羨ましい限りだ。


 ガコッ。


 突然、廊下に敷かれた正方形の床石(とこいし)がせり上がるように開いた。


 「ユナハ王、かくごぉー!」


 そして、無精ひげのごついおっさんが頭をだして、叫んだ。

 ゲッ、そんなところから! 油断した。

 僕は意表を突かれたこともあって、逃げることもできずにその場で固まった。

 すぐにアンさんとレイリアが、廊下から半身を出して剣を抜こうとしていたおっさんと僕の間に割って入る。


 (あるじー! 聞いて聞いて! 凄いこと、聞いちゃった!)


 金ちゃんが興奮しながら、こちらへ駆けてくる。


 ガコン。


 「ぐえぇー!」


 せり上がった床石を金ちゃんが踏みつけると、おっさんが半身を乗り出したまま潰され、呻き声をあげた。


 「「「……」」」


 僕、アンさん、レイリアの三人は、その光景を見て唖然とする。


 (ん? なんか、床が変)


 彼は足元を見た。


 (ギャッ! おじさんが廊下に食われてる!)


 ガコ、ガコ、ガコ――。


 「ぐえ! ぐは! ぐお! ぐっ……」


 驚く金ちゃんのもとに駆け付けた銀ちゃんが、床石を何度も踏みつけると、おっさんはさらに呻き声をあげ、動かなくなった。


 (この廊下、人食い廊下だったとは!? おじさん、大丈夫? 今、退治してるから、もう少し頑張ってね)


 ガコ、ガコ、ガコ――。


 銀ちゃんはおっさんに声を掛けると、再び床石を何度も踏みつける。


 ドン、ドン、ドン――。


 すると、金ちゃんは床石の上で飛び跳ねた。

 しばらく床石に攻撃を繰り出していた二人は、動かなくなっていたおっさんに気付く。


 ((……))


 (人食い廊下の犠牲者が出てしまった……)


 金ちゃんは、おっさんを見て嘆いた。


 (一足遅かったか……)


 そして、銀ちゃんも嘆いた。


 「「「……」」」


 僕、アンさん、レイリアの三人は、自分たちでとどめを刺しておいて、廊下のせいにして嘆いている二人に、何の言葉も出てこなかった。


 (あっ、そうだ! 主、ここに来る途中の湖でうなぎが獲れるんだって!)


 おっさんを下敷きにしたまま、金ちゃんは嬉しそうに報告してくる。


 (この島の近海は、大きなタコも獲れるんだよ!)


 銀ちゃんもおっさんを下敷きにしたまま、嬉しそうに報告してくる。


 (主、うな重の心配がなくなったよ!)


 (たこ焼きの心配も!)


 金ちゃんと銀ちゃんは、ニコニコと満足そうな笑みを浮かべた。


 「……」


 僕は、おっさんの上で喜んでいる二人を見て、呆然とするだけだった。




 その後、まだ息の合ったおっさんは、引きずり出されて捕縛された。

 そして、僕は、呆然としている間に、金ちゃんと銀ちゃんからうな重とたこ焼きを作る約束を交わされてしまっていた。

 僕、アンさん、レイリアは、腑に落ちない感覚を抱えながらうなだれると、皆と共にクレーメンスが追い詰められた上層階を目指すのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


この作品が、面白かった、続きを読みたいと思った方は

ブックマークをしていただけると、嬉しいです。


また、下にある☆☆☆☆☆を押して、

評価をしていただけたなら、さらに嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ