23話 待望のワイバーン
シャルたちが用意してくれた貴族の普段着に着替えた僕は、アンさんとサロンへ戻ると、そこには、初めて見る女性がいた。
彼女は、黄色の肩まで伸びた髪を両脇でおさげにしていて、少し幼さが残る可愛らしい顔にはそばかすがあった。
薄い茶色の軍服に革の防具を着けているのだが、雰囲気に軍人らしさがなく、一般人に見えてしまう。
シャルは僕に気付くと、その女性の隣に立った。
「来ましたね。こちらは、飛竜部隊隊長のジーナ・ペトレンコです。私たちをワイバーンで、ユナハまで送ってくれます」
「ジーナ・ペトレンコと申します。ジーナとお呼び下さい」
彼女に紹介されたジーナさんが敬礼をする。
「フーカ・モリです。よろしくお願いします」
軍人には見えないと思っていたら、まさかの隊長だったとは驚きだ。
「では、フーカ様、ワイバーンの厩舎へご案内しますわ。ジーナ、案内などをお願いしますね」
「はい」
リネットさんに言われたジーナさんが、僕たちを先導をする。
イラストやCGのワイバーンとは違うのだろうか? 一概に竜と言っても、西欧風なのか東洋風なのか? 気になることだらけだ。
こちらで出会ったファンタジーの住民であるエルフは、イメージ通りだった。
そうなると、やはり西欧風のドラゴンになるのだろうか?
頭の中でイメージを膨らませながら、ミリヤさん、オルガさん、ヨン君を無意識に眺めていた。
「どうかしましたか? 私に何か付いていますか?」
ミリヤさんが僕の視線に気付いて、自分の服装のチェックをしだす。
「いえ、ごめんなさい。ただ、エルフは僕のイメージ通りの美形ばかりだったので、ワイバーンもイメージ通りなのかと考えていたら、つい、見つめてしまって……」
「あら、美形だなんて……」
彼女は、両手で挟んだ顔を赤くすると、オルガさんとヨン君も、気にしていない様子を見せつつも、顔を赤らめてソワソワする。
二人は照れているのだろう。
「何をこんなところで口説いてるんですか! ヨン君まで口説いて……まさか、見境なしですか!?」
「断じて違う!」
ケイトがここぞとばかりにからかってくるので、僕はムスッとした。
そんな僕たちを見て、シャルたちはクスクスと笑っている。
「まだ、一日ちょっとしか行動を共にしていませんが、いつもこんな調子ですの?」
「ええ、そうです。一緒にいて飽きませんよ」
リネットさんに、シャルは微笑んで答える。
「なんだかいいですわね。羨ましいですわ」
彼女は、僕たちをジーと見つめてから、シャルに向き直る。
「私もあんなおもちゃが欲しいですわ」
「「おもちゃ!?」」
僕とケイトは、彼女の思わぬ言葉にハモってしまった。
ひ、酷い……。
「着きました。ここがワイバーンたちの厩舎です」
ジーナさんはそう言って、両開きの扉を開く。
ギィーという軋んだ音と共に光が差し込んでくる。
そこには、大きな納屋が数棟並んで建っていた。
これが厩舎なのだろう。
「厩舎は、城の中層にある中庭を改装して作ってありますわ。ここなら、高さも離着陸の広さも十分にありますから、緊急の際でもワイバーンたちに負担を掛けずに飛び立てますわ」
リネットさんの説明を聞きながら、その光景に目を奪われる。
緑色のフカフカの芝に横たわり、日向ぼっこをしてくつろいでるワイバーンが点々としていた。
その広すぎると思われる中には、象よりも一回り大きいサイズだろうか、そんな大きさのワイバーンが一五頭ほどもいるのだ。
こんな光景は、ファルマティスに来なければ一生見る事はできなかっただろう。
僕が感動していると、あれ? その横でシャルたちも感動している。
「シャルたちは知ってたんじゃないの?」
「話しには聞いていましたが、これほどの物とは思ってもみなかったので、感動してしまいました。カーディア城では、城の裏手にある広い土地を使っていましたが、地面は芝ではなく土でしたので、この光景を見ると、あの土埃の中にいたワイバーンたちには可哀想なことをしたと反省しています」
シャルだけでなく、レイリアたちまでもが後悔しているようだった。
そうこうしているうちに、ジーナさんが一頭のワイバーンを連れて戻ってきた。
僕たちの目の前にワイバーンが腰を下ろす。
灰色の皮膚に長い首、両手は蝙蝠のような翼と一体化していた。
後ろ足だけで座っている姿は、どこか、犬のちんちんポーズを連想させて、愛着がわきそうだった。
「この子は、私のパートナーの『ペス』で女の子です。灰色飛竜は、温厚な性格ですけど、特にこの子は人が大好きなので、優しくて人懐っこいんです。それに、頭もいいんですよ」
ペスって……竜なのに犬みたいな名前を付けられていることに衝撃を受けてしまう。
ジーナさんがペスの頭をなでてあげると、「クゥー」と鳴いて気持ちよさそうにしていた。
可愛いのでペスでいい!
「ワイバーンにも種類があるの?」
「灰色の他にも、青色、赤色、黒色がいますけど、気性や性格からみて、人が共に暮らすのなら、灰色が一番だと思います」
「なるほど、ありがとうございます。勉強になりました」
「いえいえ」
彼女は優しく対応してくれる。
「フーカ様には、ペスに乗ってもらいますわ。この子なら、心配することはありませんわ」
「心配って何?」
「いえ、何でもありませんわ。さあ、さあ、フーカ様、ペスをなでてあげて下さいな」
リネットさんは、何かを誤魔化すように僕を押し出して、ペスの前に立たせる。
「ペス、明日はよろしくね!」
ペスが顔を近付けてくるので、ジーナさんを真似て顔をなでることにした。
カプッ。
急に辺りが真っ暗になった。顔には、柔らかく生暖かい物があたり、少しネチョっとしている気がする。
「「「「「きゃぁぁぁー」」」」」
シャルたちの悲鳴が聞こえるが、少しこもった感じだった。
ペスに頭からくわえられたようだが、歯を立てられてもいないし、ちゃんと空間を開けてくわえられているので苦しくもない。
犬が顔に飛びついて舐めてくるようなものなのだろう。
しかし、外は大騒ぎのようだ。
「ペス! 変なものを食べてはいけません! お腹を壊しますよ!」
何故だか、ジーナさんに酷いことを言われた。
「ペス! ダメですわ。ペッしなさい! ペッ!」
リネットさんまで酷いことを言っている。
まるで僕が汚い物みたいじゃないか!
「ペス、早く吐き出しなさい! その人は危険なんですよ!」
今度は、シャルが危険物扱いしている……。
「ペス、いいですか。その人は見境のない変態なんです。そんなスケベなものを食べたら、変な病気がうつっちゃいますよ!」
ケイトォー!
僕が抵抗できないと思って好き放題、言ってやがる。
何だか、無性に腹立たしくなってきた。
しかし、ここからどうやって出よう。
とりあえず、ペスの顔を手探りでなでてから、ポンポンと軽くたたいた。
すると、ペスは素直に放してくれて、「クゥー」と鳴くと、僕の顔に顔を押し付けてくる。
彼女はふざけただけだったようだ。
「やっと、ペッしてくれましたわ。本当にこの子は心配を掛けて……。道端に落ちててもくわえてはダメですわよ」
「そうですよ。変なものをくわえたらダメですからね」
リネットさんとジーナさんは、ペスの顔や首をさすってホッとしている。
それに対して、僕には辛辣な言葉を浴びせていた。
せ、精神が削られていく……。
「皆、酷いよね……。ペッしなさいとか、変なものとか、人を汚物みたいに……。それに、シャルまで僕のことを、危険物扱いしてたよね! 特に、ケ、イ、ト! スケベなものって何!? 変な病気って……僕は未知の病原菌か!」
ジーナさんはリネットさんの後ろに隠れ、リネットさんとシャル、ケイトは、それぞれが違う方向を向いて、口笛を吹くが、鳴っていない。
吹けない口笛で誤魔化せると本気で思っていそうな彼女たちを見ていると、呆れて怒る気にもなれない。
他の皆は静かに声も発しないので、どうしたのかと様子を見ると、ミリヤさん、オルガさん、ヨン君はへたり込んだまま石化し、イーリスさん、アンさん、レイリア、シリウスは立ったまま石化ていた。
こっちのほうが大変だ。
僕は急いで皆に近付くと、ミリヤさんが我に返った。
「それ以上、近付かないで下さい!」
「えっ?」
その言葉に、心をえぐられた。
「いえ、すみません。その、今のフーカ様は、ベトベトで……臭いです」
彼女が指摘すると、皆も我に返り、僕を見ると一歩下がる。
ヨン君に至っては、堂々と鼻をつまんでいる。
自分がどうなっているのかを確認すると、上半身がペスの唾液まみれになっており、ツンと鼻を刺す臭いもしていた。
これでは、皆が拒むのも頷ける。
「どこかで洗ってくる」
「何言ってるんですかー! そんな恰好で城内を歩き回らないで下さい。直ぐに浴場に案内させますわ!」
リネットさんが、僕を引き留めてくる。
「そのままだと、城内の廊下がベトベト、クサクサになるから、リネットさんも必死ですね。アハハハハ」
ケイトは他人事だった。
とてもムカつく……。
「ケーイートォー!」
「フ、フーカ様? 何で甘えた声を?」
僕はケイトに抱きつく。
ガシッ。
そして、彼女の腰につかまり、ホールドをする。
「ちょ、何をしてるんですか! キモイ! クサイ!」
「ペス! カプ!」
カプッ。
「ぎゃぁぁぁー」
ペスの口の中で彼女の悲鳴がこだまする。
腰にしがみついていたので、僕は無事だ。
ケイトから離れると、上半身をくわえられている彼女の姿が目に飛び込む。
シュールな光景だった。
満足したので、彼女を開放してあげることにする。
「ペス! ペッ!」
ペスはペッとケイトを吐き出す。
ケイトはグスグスと泣き崩れてしまった。
今回は僕の時のように、誰も騒ぎ出さないので、振り返ると、皆は顔を青くしてフリーズしていた。
「ペスに何を教えてるんですか! いつ、教えたんですか?」
ジーナさんが動転している。
「ペスは賢いよ。僕の考えていることを察して、簡単な合図で行動に移せるんだから! なぁ、ペス。えらいえらい」
ペスの顔にしがみつき、なで回してあげると、彼女は「クゥー」と吠えて大喜びだった。
ジーナさんは、僕らを見て顔を引きつらせている。
「ペスは、私のパートナーなのに……」
彼女は肩を落としてうなだれてしまう。
「フッ、フフッ、フフフフフ」
突然、ケイトは笑いだすと、スクッと立ち上がり、何かを断ち切ったような表情を浮かべた。
「納得いきません! シャル様とリネットさんは無罪ですか? 皆にも対等な罰を望みます!」
ケイトの言う通り、言われてみれば、不公平だ。
そして、彼女が立ち切ったのは、忠誠心のようだ。
「ペス、これは復讐なんだ。もう少し頑張ってね!」
ペスは、僕の言葉に「クォォー」と答えた。
「ペス! カプ!」
僕がシャルとリネットさんを指差して叫ぶと、ペスは翼をはばたかせ、二人に向かって行く。
「「きゃぁぁぁー」」
二人の悲鳴が中庭に響く。
そして、二人は必死の形相で逃げ回る。
それを追いかけ回すペス。
彼女は鬼ごっこができて嬉しそうだった。
二人は、お互いに何か合図をすると、皆が集まっている方向へと逃げる。
皆は、向かってくる二人を見て驚くと、クモの子を散らすように逃げた。
すると、二人は、同じ方向に逃げていたレイリアとヨン君を抱きかかえたオルガさんを追いかけ始める。
「うわっ! ヨン君を根あるなんて、二人とも鬼だ」
三人をシャルたちが追いかけ、それをペスが追いかけ、中庭を走り回る。
他のワイバーンとそのパートナーたちは、仰天して、その様子を見ている。
シャルとリネットさんが三人を追い回している間に、他の人たちは、中庭の扉まで逃げおおすことができた。
「レイリア! オルガ!」
アンさんが二人を呼ぶ。
オルガさんは後ろを一度振り返り、二人を見ると、扉の付近でレイリアにヨン君をパスする。
レイリアはヨン君をキャッチすると、アンさんに向かって飛び込む。
アンさんとシリウスが二人を受け止めた。
オルガさんは、その様子を見ると扉と離れる方向へと進路を変える。
シャルとリネットさんは、彼女のほうに的を絞り、追いかけた。
あの二人は、ヨン君を巻き込めば、僕が止めると思ったのだろう。
しかし、そのヨン君は、もう中庭の外だ。
僕はニンマリとする。
「フーカ様、悪い笑みがこぼれてますよ」
「ケイトだって、清々しいまでの笑みを浮かべてるよ」
「「アハハハハ」」
二人で仲良くシャルとリネットさんの逃げっぷりを楽しむ。
オルガさんを必死で追いかけるシャルとリネットさんだったが、忽然とオルガさんが姿を消した。
「さすが『褐色の風』、くノ一みたいだ。姉ちゃんに相当苦労させられたんだろうな……。」
僕は独りごちる。
「いえ、振り回されはしましたが、苦労とは思っていません。それに、フーカ様と出会って、再び、振り回されることになりましたから、あの時と同じです。クス」
「ご、ごめんなさい」
いつの間にか、僕たちの背後にいたオルガさんから返事をされ、僕は驚き、謝ってしまう。
そして、独り言に返事をされるのは、どことなく恥ずかしかった。
シャルとリネットさんの様子は、オルガさんを見失ったことで戸惑い、逃げる速度が落ちていた。
それを察したのか、ペスは、ここぞとばかりに速度を上げる。
カプッ。
「ひゃぁぁぁー」
シャルが最初にカプられた。
ペスの口がモニュモニュする。
ペッ。
シャルは、僕やケイトよりも唾液まみれだった。
ペスは、地面に倒れ、そのままピクリとも動かなくなったシャルを横目に、次の獲物へと向かう。
リネットさんも疲れてきているのだろう。
逃げる速度が落ちている。
ペスは羽ばたき、上空へと上がると、リネットさんの頭上化から、彼女に向かって急降下を始めた。
リネットさんはペスがいないことに気付き、キョロキョロと辺りを見渡す。
カプッ。
突然、上空から現れたペスは、リネットさんの背後に着地し、彼女に悟られることなく咥えるという見事なカプだった。
「「「おおぉぉぉー」」」
パチパチパチパチ。
僕とケイト、オルガさんは、その芸術的なカプに賞賛と拍手を送る。
モニュモニュモニュ、ペッ。
シャルよりもモニュられたリネットさんが吐き出される。
ペスは、彼女が横たわる横で、「クオオォォー」と勝どきを上げる。
中庭にいた飛竜部隊からも、拍手喝采が送られた。
「わ、私のペスが……」
ジーナさんは落ち込んでいた。
しかし、彼女も僕を汚物扱いしたのだから、落ち込むくらいの罰は受けてもらわないと。
「さて、お風呂にでも行こうか」
「そうですね。フーカ様、間違えて女湯に来ないで下さいね」
「そんなことはしないよ!」
僕は、ケイトとふざけながらお風呂へと向かうのだった。
◇◇◇◇◇
浴場は一〇人くらいが入れる大きさだった。
城だから馬鹿でかい浴場を想像していたが、これくらいの広さのほうが銭湯気分で落ち着く。
ただし、西洋風なので、真っ白の壁に大理石の床、金色に光る蛇口やシャワーヘッド、そして、ドラゴンの口からお湯が出ていることを除けばだけど。
身体を洗っていると、シャルたちの声が聞こえてくる。
「ひどい目にあいましたわ」
「私も久々に全力で走らされました」
「まあ、フーカ様が関われば、こんなものでしょう」
「そうなんですの? シャル様もケイトも大変ですわね」
「ええ。でも、フーカさんが来る前は、城の中で悩み苦しむだけでしたから、今は充実しています」
「フーカ様が来てからは、ドタバタが絶えませんからね」
ケイトは、相変わらず言いたい放題だな……。
僕は心の中で愚痴りながら、髪を洗い始める。
「あら、何だかいい匂いがしますわね」
「たぶん、フーカ様が自前の石鹸で洗っているんですよ」
ケイトがそう言うと、少し物音がして静かになった。
シャンプーを洗い流し、リンスを取ろうとする手で探るが、見つからない。
それどころか、何やら人の気配を感じる。
何だか嫌な予感がする。
「これですか?」
手渡された物はリンスのボトルだった。
「ありがとう。って、そうじゃない! 何で、シャルがいるの?!」
「ケイトとリネットもいますよ」
「そうじゃなくて、ここ、男湯だよね!」
「ええ、でも、今はフーカさんしかいませんから大丈夫です」
何が大丈夫なのだろうか?
「そんなことより、それを使ってみて下さい」
そんなことって……。
仕方なくリンスを少量手に取ると、それを髪になじませてから、洗い流した。
これで満足だろう……。
顔を上げると、三人がタオルを巻いた姿で僕の髪を凝視する。
そして、彼女たちの視線はリンスのボトルへと注がれた。
「その石鹸、私にも使わせて下さい」
それが狙いか。
使うまでは、出て行く気はないんだろうなぁ……。
「いいよ、使ったら出て行ってね」
彼女たちに、シャンプーとリンスの使い方を教える。と言っても、手に少量取り、洗って流すだけだから、教えるのは使う順番くらいだった。
彼女たちが髪を洗っている間に、僕は湯舟へと浸かり、彼女たちに背を向ける。
「こっちにも石鹸は、あるんでしょう」
「ありますが、臭いし、髪を洗うとごわごわするんで、香油を塗らないとですね」
ケイトが答える。
「そうなんだ。材料は?」
「えーと、木の灰、動物の脂、白い石の粉、塩、小麦粉、水を使って作ります。魚の脂を使う事もありますね」
「ケイト、シャンプーやリンスって作ったら需要あるかな?」
「「あります!」」
「ありますわ!」
三人がハモった。
「ケイト、こっちの石鹸は、平民も使っているの?」
「あまり使われていないですね。高価で臭いですから、それに香油はさらに高価ですからね。……さては、何か企んでいますね」
「企んでいるわけじゃないよ。そこに、向こうの世界の石鹸もあるんだけど、手や身体を洗うのに使ってみて!」
「はい、分かりました。この石鹸が平民にも流行るか知りたいんですね」
さすがケイト、理解が早い。
「これなら、流行りますよ! 匂いもいいし、肌もしっとりとするし、洗い終わったあとも気持ちがいいですね。ただ、かなり高価になると思いますけど……」
ケイトは率直な感想を言ってくれる。
「安くできないかな? 石鹸、シャンプー、リンスを早めに普及させたいんだよね」
「どうしてですか?」
「清潔にしていれば、病気にかかりにくいし、病気自体が広まるのも抑えられるんだよ」
「で、本音は?」
「僕がこっちの石鹸を使いたくない……あっ!」
三人にどんな目で見られているのかが気になるが、振り返れない。
シャワーの音がして、彼女たちが身体を洗い流しているのが分かると、こっちが緊張してくる。
少しして、ケイト、シャル、リネットさんの順に湯船に入ってきた。
「何で、入ってくるの?」
「え? 湯船に入らないと風邪をひきますから」
ケイトが首を傾げる。
「そうじゃなくて、女湯に戻って!」
「いいじゃないですか。話しの途中ですし」
できるだけ彼女たちを見ないようにする。
「で、フーカ様は国民に石鹸を普及させてどうするんですか?」
シャルが僕の顔を覗き込んできた。
彼女の身体が目に入り、緊張する。
そして、顔を逸らす。
「まずは、衛生面を強化して、病気を予防する。後々は、誰もが安価で治療してもらえるようにしたいんだよ。でも、今の状態だと、清潔にしていれば防げる病気で手が回らなくなると思う」
「なるほど。しかし、安価にしたら、医者は大変ですよ」
「そこは、国が税金を使って補うんだよ。医療保険制度って言うんだけど、全国民に少額の医療保険費を払ってもらう事で、安価で治療を受けられるようにする。そして、医者は、その差額分を医療保険費からもらって補うんだけど、ただ、今度は、全国民の名前や所在とかをまとめた戸籍制度が必要になるんだよね」
「なるほど。そうなると、戸籍を登録した人の証明書と医療保険費を払った人の証明書が必要になりますね」
「大変な作業だし、普及には時間もかかると思う。だから、その前に予防法だけでも広めておければ、国民が病気になったり国中に広まることは下げれるでしょう」
「なるほど、そうですね。では、医療保険制度と戸籍制度は、イーリスたちにも話しておきます。まずは、石鹸を普及させる事からはじめましょう」
彼女は、何だかとても嬉しそうだった。
「その戸籍制度というのはいいですわね。領主が徴収税を誤魔化せなくなりますし、収める国民も安心ができますわ。まずは、アルセで試験的に始めてみますわ」
リネットさんは、いつの間にか僕の正面に来ていた。
戸籍制度の事を考えているのか、腕を組んでいるので胸が強調されている。
僕は慌てて視線を逸らすと、そこにはケイトがいて、お湯で彼女の膨らみが浮いている。
ヤバい……何だか意識がもうろうとしてきた。
シャルたちが何やら騒ぎ出したが、よく聴き取れない。
そして、視界がぼやけて何も聞こえなくなった。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字、おかしな文面がありましたらよろしくお願いいたします。
もし気に入っていただけたなら、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




