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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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229話 頭痛だって……

 潜水艦の中を見学して回ると、輸送目的なだけあって、複数の広い貨物デッキが印象的であった。

 まあ、どの貨物デッキも、荷物がぎっしりと積まれていて、こんなに積んでも大丈夫なのか? という不安のほうが先に来てしまっていたのだが……。


 見学を終えて発令所に戻ると、皆は満足そうだった。

 ケイトとヒーちゃんの説明が分かりやすかったおかげだろう。

 案内担当の兵士でさえ、二人の説明をメモして、勉強していたくらいだ。

 僕ですら、この潜水艦が二つの大きな筒に一つの小さな筒がのっている構造をしているから、船体のバランスがとれていると教えてもらった時は、分かりやすくて感心したほどだ。




 発令所に戻ってからは、することがなかった皆は、会話に花を咲かせていた。

 船外には出られないし、外の景色も見えない閉鎖空間では、おしゃべりくらいしかすることがなかったからだ。


 ((主、退屈。なんか、面白いことやって!))


 さっそく、問題児たちが僕に絡んできた。


 「皆と話してなよ」


 ((飽きた。一発芸を所望する))


 「そんなこと、出来るか!」


 ((ケチ!))

 「「ヘタレ!」」


 なんか、イラつくのが二人増えてる……。


 「なら、エルさんとマイさんが、金ちゃんと銀ちゃんに一発芸を見せてあげたら」


 ((それは、勘弁して下さい))


 金ちゃんと銀ちゃんは、ペコリと頭を下げた。


 「感じ悪いどころか、ムカつくんだけど」


 エルさんがムッとした表情を浮かべると、マイさんも同じ表情をしていた。


 「そもそも、この船に窓がないのがいけないのよ。気晴らしもできないわ」


 マイさんが愚痴を言い出すと、エルさん、金ちゃん、銀ちゃんの三人も、大きく頷いた。


 「潜水艦って、そういうものだから」


 ((なんで?))

 「「どうしてなの?」」


 質問されるとは思ってもみなかった。

 なんで窓がないのか? 気にしたこともなかった。


 「えーと……」


 それらしい答えが浮かばず、口ごもる僕を四人はジーと見つめてくる。


 「必要ないから?」


 ((なんで?))

 「「どうしてなの?」」


 「えーと、あっても邪魔だから?」


 ((なんで?))

 「「どうしてなの?」」


 「えーと、ソナーを操作する水測員がいるからかな?」


 ((なんで?))

 「「どうしてなの?」」


 何故、そこで、同じ質問を繰り返した?


 「ちょっと待て、僕を困らせたいだけだろ!」


 四人はフルフルと首を横に振った。

 しかし、真剣な表情を見せてはいるが、若干、口元が上がっている気がする。

 なんか、四人の顔を見ていると、苛立ちが……。


 「潜水艦は、窓の視界じゃなく、ソナーの音で周りを見ているから、窓がいらないんだよ!」


 「「「「ハァー」」」」


 四人は、残念そうに溜息を吐いた。

 本当、こいつらムカつくんだけど。


 ((ケイトー、ヒサメお姉ちゃーん))

 「「ケイトちゃん、ヒサメちゃん))


 四人は、ケイトとヒーちゃんを呼んだ。


 二人が来ると、四人は真剣な表情で彼女たちを見つめる。


 ((主の説明だと、意味が分かんないの))


 「「フーカ君、説明が下手なのよ。ヘタレなだけに」」


 ((おぉー、座布団一枚!))


 「「シャッシャッシャ――」」

 「「アッハッハッハ――」」


 エルさんとマイさんが上手いことを言ったと思ったのだろうか? 金ちゃんと銀ちゃんが褒めた後に、四人で笑いだしてしまった。

 ケイトとヒーちゃんは、そんな四人を見つめ苦笑した後、僕を哀れむように見つめてくる。

 そんな目で見つめられると、余計に悔しくなってくるんだけど……。




 「それで、何を聞きたいんですか?」


 ケイトが尋ねると、四人は真剣な表情に戻り、彼女を見つめる。


 ((なんだっけ?))

 「「なんだったかしら?」」


 こいつらはバカなのか!?

 四人が首を傾げると、ケイトとヒーちゃんは、困った表情を浮かべた。


 「潜水艦に窓がついてない理由を知りたいんだって」


 ((そうそう))

 「「それよ、それ!」」


 僕が答えると、四人は思い出したかのように頷く。


 「窓があっても、海中は濁っていて、一〇メートル先も見えませんよ」


 ((そうなの!?))


 「「透き通ってると思ってたわ!」」


 ケイトが答えると、四人は驚く。


 「それに、窓をつけると、艦の構造上の強度が下がるんです。だから、わざわざつける必要がないんです」


 ((なるほど、なるほど))


 「「勉強になるわ」」


 ヒーちゃんはが補足すると、四人は納得したように頷くと、僕のほうを見る。


 「「「「ハァー」」」」


 そして、小馬鹿にしたような溜息を吐いた。

 ムッカァー!

 四人の態度に怒りが込み上がった僕は、頭が熱くなるだけでなく、痛みすら感じた。

 怒りで血管が切れるって、こういうことか!


 ピューン。


 僕を見て危険を感じた四人は、物凄い速さで逃げ去ってしまった。

 この怒りの矛先は、どこに向ければ……。




 怒りは収まっても、頭痛は治まらなかった僕は、頭を押さえながら、痛みに耐えていた。


 「フーカ様? 大丈夫ですか?」


 イーリスさんが声を掛けてくる。


 「うん、大丈夫なんだけど、頭の痛みがとれなくて」


 僕が答えると、皆は心配そうに僕を見つめてくる。


 「あの子たちが一緒だと、頭が痛くなっても仕方ないわよ」


 エルさんも心配はしてくれているのだろうけど、意味が違う。

 そして、その中にはエルさんも含まれるんだけど……。

 でも、この痛みは、本当に頭痛だ。


 「エルさん、その痛いじゃなくて、頭痛が治まらないんだよ。イタタ」


 「疲れも溜まっているから、身体のどこかが悪いんじゃないの?」


 エルさんから、疲労からくる病気を心配された。


 (どこかじゃなくて、はっきりと頭が悪いって言ってるよ)


 金ちゃんも、僕を心配してくれる。

 心配してくれるのはいいが、言い方に悪意を感じる。

 悪いじゃなくて、痛いと言ってるだろ!

 苛立つと、ズキズキと痛みが激しくなった。


 「金ちゃん、ズキズキするから、苛立たせないで……イタタタタ」


 僕が痛がるのを見て、金ちゃんがオロオロすると、銀ちゃんもオロオロと落ち着きをなくす。


 (あるじー。そんなに頭が悪いの? 大丈夫?)


 「「「「「ブハッ!」」」」」


 金ちゃんは心配そうに僕の顔を覗き込むが、周りでは吹き出す声と共に、クスクスと笑い声も聞こえる。

 だから、頭痛だって。悪いんじゃなくて、痛いんだ。

 言い方はアレだが、本気で心配している金ちゃんを、僕は叱れなかった。




 いつまでも、頭を押さえたままの僕を、皆は本気で心配し始めた。


 「この艦、潜水艦ですから、気圧の問題ですかね?」


 「なくはないですが、頭痛まで起こすのはまれです」


 ケイトが頭痛の原因を考え始めると、ヒーちゃんが答えた。


 「フーカ、飛行機に乗った時に頭痛を起こしたことはあるか?」


 アカネ姉ちゃんが質問してくる。


 「ないよ。イタタタタ」


 「じゃあ、気圧が原因ではないようだな……」


 「そうじゃないよ。イタタ。飛行機に乗ったことがない。ツゥー」


 「……」


 アカネ姉ちゃんは黙ったまま、ポリポリと気まずそうに頬を掻いた。


 (主の頭が悪い原因よりも、頭を良くすることを考えてよ)


 金ちゃん、よく言った! って、だから、頭痛だって……。


 (これ以上、主の頭が悪くなったらどうするの!?)


 金ちゃん? わざとじゃないよね……?


 皆は何を勘違いしているのか、慌てだしていたが、どうすればいいのか分からず、オロオロとしていた。

 だから、頭痛だって……。金ちゃんがおかしな言い方をするから、僕がバカになるかもしれないと、皆が動揺してるじゃないか。

 僕の頭の痛みは、さらに悪化しそうだった。


 皆が動揺する中、銀ちゃんがポンと手を叩いた。


 (そうだ! お薬だ!)


 そして、彼は叫んだ。

 すると、金ちゃんがキョロキョロと皆を見回す。


 (アカネお姉ちゃん、ヒサメお姉ちゃん。生理痛のお薬、持ってない?)


 「「「えっ!?」」」


 僕、アカネ姉ちゃん、ヒーちゃんは、思わず叫んでしまった。

 だから、頭痛だって……。


 「イタタタタ。金ちゃん、なんで、生理痛の薬なの?」


 (だって、CMで頭痛、生理痛にって言ってたよ)


 「うん、そうだけど。そこは頭痛の薬でいいんじゃないの? イタタ」


 (そこは、譲れない!)


 「なんでだ! ツゥー、イタタタタ」


 叫ぶと、頭に響いて激痛が襲ってきた。


 (お姉ちゃんたち、早く、()()()のお薬を!)


 金ちゃんに催促されたアカネ姉ちゃんとヒーちゃんは、立ちあがった。

 そして、手元を探す仕草をすると、発令所を駆け出していった。




 しばらくして二人が戻って来る。

 二人の手には、小さなポーチがそれぞれ持たれていた。


 「フーカ、うちのも持ってきたが、同年代のヒサメの薬のほうがいいかもしれないぞ」


 アカネ姉ちゃんは、薬の箱を取り出しながら話した。

 皆の視線がヒーちゃんに集まると、彼女は恥ずかしそうに薬の箱を取り出す。


 (えっ! 本当に持ってた!)


 銀ちゃんが驚きの声を上げた。


 「???」


 ヒーちゃんは首を傾げ、不思議そうに銀ちゃんを見る。

 皆も、彼が何に驚いているのかが分からず、視線を向けていた。


 (ヒサメお姉ちゃんは、お赤飯を食べてたの?)


 「「「「「???」」」」」


 ヒーちゃんも含め、僕たちは銀ちゃんの言っていることが分からなかった。

 銀ちゃんは、そんな僕たちを見回すと、シャルのところで視線を止めた。


 (シャル様は、お赤飯を食べたの?)


 「お赤飯? 初めて聞く言葉ですし、それがどういった食べ物かも知らないので、私は食べたことはないと思います」


 シャルが答えると、銀ちゃんは満足そうな表情を浮かべる。


 (フッフッフー。シャル様が答えてくれたことでわかったよ。ヒサメお姉ちゃんは、そのお薬を大人ぶって持っているだけだね。僕にはお見通しだよ)


 銀ちゃんは、犯人でも見つけたかのようにヒーちゃんを指差し、得意げな表情を浮かべた。

 銀ちゃんは何を言っているんだ?

 そんなことよりも、早く薬が欲しいんだけど……。


 ヒーちゃんは眉間に皺を寄せて悩んでいた。

 銀ちゃんの意図をくみ取ろうとしているのだろう。

 何かに気付いたらしい金ちゃんが、まさか! といった表情を浮かべて、ソロリソロリと銀ちゃんに気付かれないように、ゆっくりと離れていく。

 アカネ姉ちゃんも銀ちゃんの言っていることを理解したのか、シャル、ヒーちゃん、銀ちゃんを順に見てから、頭を抱えた。

 金ちゃんとアカネ姉ちゃんは、銀ちゃんの言いたいことが分かったようだ。

 だが、シャルとヒーちゃんは沈黙を続けていた。


 突然、ヒーちゃんがうつむく。

 そして、身体をフルフルと震わせ始めた。

 ヒーちゃんも分かったのだろうか? 

 彼女の様子は怒っているように見えるので、きっと、銀ちゃんは失礼なことを言ったに違いない。


 「ぎ、銀ちゃん。も、もしかして、私には、まだアレが来てないと思っての発言ですか?」


 ヒーちゃんはギロリと、銀ちゃんを睨みつけた。

 すると、エルさんとマイさんがポンと手を叩く。

 そして、銀ちゃんを呆れるように見つめると、大きな溜息を吐いてうなだれる。

 来てない? 何が?

 僕にはさっぱり分からなかった。


 (えーと、来てるの?)


 「当たり前です! 私は高校生なんですよ。来てるのが普通です……って、こんな公衆の面前で、何ていうことを言わせるんですか!?」


 ヒーちゃんは怒鳴りつつも、恥ずかしそうにする。


 (じゃあ、シャル様だけか……)


 銀ちゃんは、憐れむ目でシャルを見つめた。


 「なんで、私がそんな目で見られないとならないんですか?」


 少しムッとした表情を見せるシャルの耳元で、マイさんがをささやくと、彼女の顔は真っ赤になっていき、険しい表情へと変わっていく。


 「私だって、すでに来てます!」


 (うそー!?)


 「嘘じゃありません!」


 シャルは叫びながら立ちあがった。

 銀ちゃんはシャルとヒーちゃんを見た後に、周りの皆を見つめると、納得のいかなそうな表情を浮かべる。


 (シャル様もヒサメお姉ちゃんも、アン様やレイリアお姉ちゃんと比べて貧相……じゃなかった、発育途上のような体型なのに、来てるなんて……)


 シャルとヒーちゃんは、鬼の形相で銀ちゃんを睨みつける。


 「「銀ちゃん、覚悟はできてますね」」


 そして、二人は怖い顔のまま、笑顔を作った。


 (えっ? 何故、怒ってらっしゃる? ……コホン。僕は急用を思い出したので、この辺で失礼をば)


 ピューン。


 銀ちゃんは、物凄い勢いで逃げ出した。


 「「コラー! 待ちなさい!」」


 二人は、叫びながら、彼を追いかけて行ってしまった。




 アカネ姉ちゃんが、薬を手に持って近付いてきた。


 「ヒサメは、薬を持ったまま行ってしまったから、うちのを使え」


 「うん、ありがとう」


 (ちょっと待って! 主、ちゃんと確認しないとダメだよ)


 僕が受け取るのを阻むように、金ちゃんが忠告してくる。


 「うん。用量用法はちゃんと読むから大丈夫だよ」


 (そうじゃなくて、アカネお姉ちゃんが持ってたお薬なんだから、危ないお薬の可能性も考慮に入れないと)


 「「……」」


 真剣な表情を浮かべている金ちゃんに、僕とアカネ姉ちゃんは、言葉を失って唖然とする。


 「おい、金。お前は、うちを何だと思ってるんだ?」


 (狐の皮をかぶった危ない人?)


 金ちゃんはアカネ姉ちゃんに向かって、首を傾げる。

 なんか、おかしなことことを言いだした……イタタタタ。


 「何となく言いたいことは分かった。うむ、うちに喧嘩を売ってるんだな」


 (違うよ。ツバキちゃんとカナデお姉ちゃんと……あと、アキお姉ちゃんが、昔のアカネお姉ちゃんの恥ずかしい伝説を教えてくれて、奴は危ないから気を付けろと)


 「ほーう。日本に戻ったら、奴らをしばかないとだな。フフフ」


 ポキポキポキ。


 アカネ姉ちゃんは指を鳴らした。


 「それで、うちの恥ずかしい伝説って?」


 (えーと、便秘が寝込むほどひどかった時に、浣腸を飲もうとしてたとか)


 「それは、ツバキ様が「薬だ」と言って、うちの口に入れようとしたんだ!」


 アカネ姉ちゃんは顔を真っ赤にして叫んだ。


 (あと、ビニール袋に中華まんを入れて吸ってたとか)


 「そんこと、するかー!」


 (他にも、補助輪付き自転車を飾り付けて、「ブオンブオン」言いながら、商店街を疾走してたとか)


 「それは、ただの危ない奴だ!」


 (だから、危ない人がここに)


 金ちゃんは、ビシッと指を差した。


 「金。やっぱり、喧嘩を売ってるだろ!?」


 (そんなことはないよ。アカネお姉ちゃんの素行が悪いのがいけないんだよ。反省したまえ)


 「お前は、何様だー!」


 グシャ。


 アカネ姉ちゃんは、手に持っていた薬を箱ごと握りつぶした。

 あー。薬がー。


 (ほらー。怒るということは、危ない人だという自覚があるんだよ)


 「そんな訳ないだろ! そんな嘘ばかりの話しを真に受けて、うちを危ない奴扱いするなー!」


 (なんで?)


 「なんで? って……。ん? 今の流れで、なんで、うちが危ない薬を持っていると決めつけたんだ?」


 (そっちのほうが、面白いから?)


 「……金。お前という奴は」


 (うーん。風向きが怪しいので、一時撤退! さらば!)


 ピューン。


 金ちゃんが逃げ出してしまった。


 「コラー! 話しは終わってない! 待ちやがれー!」


 アカネ姉ちゃんは、鬼の形相で金ちゃんを追いかけて行く。


 彼女の手には、つぶれた薬の箱が握られていたままだ。

 僕が薬を飲めるのは、いつになるんだ……イタタタタ。

お読みいただき、ありがとうございます。


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