218話 シュミット王国への侵攻
新兵器と敵軍ホイホイのおかげで、ずっと防戦で耐えていたユナハ連合軍は、形勢を逆転して侵攻して来ていたハウゼリア連邦軍を国境まで押し返していた。
そして、基地の会議室では、今後の方針について話し合われていた。
「国境まで押し返しましたが、このままシュミット王国へ攻め込みますか?」
「うーん……。そうだね。叩けるうちに叩いておいたほうがいいね」
イーリスさんに尋ねられた僕は、少し悩んだが、シュミット王国への侵攻に賛成した。
(ある人は言っていました)
突然、金ちゃんが口を開くと、皆は彼が何を言い出すのかと、ジッと見つめる。
(降りかかる火の粉は払ってもダメ。火元を消火しましょうと)
「ん? 何か聞き覚えがあるような無いような……?」
ケイトが金ちゃんの話しに首を傾げると、皆も思い出そうと考え込む。
「それは、姉ちゃんの信条だよ」
「「「「「あー!」」」」」
皆はスッキリした表情で納得した。
「では、カザネ様の教えに従って、ここはシュミット王国を攻めましょう」
イーリスさんの言葉に、皆は大きく頷く。
まあ、いいんだけど。僕の意見よりも姉ちゃんの信条が優先されたようで、複雑な感情が沸き上がった。
話しは進められ、カーディア議会国の現状の話題へとなった。
「カーディア議会国は、ユナハ連合軍の支援もあり、国境まで押し返したところで戦線を維持しています。こちらの方針に合わせて動くとのことです」
シリウスが立ちあがり、報告をする。
「こちらのハウゼリア連邦軍が大敗したことで、向こうでも敵に動揺が走っているとの報告も入っています」
彼は、さらに付け加えた。
「では、カーディア議会国にも、こちらでシュミット王国へ侵攻することが決まったことを伝えましょう」
イーリスさんがまとめると、皆も頷く。
「カーディア議会国はハウゼリア新教国とも国境を接していますが、あの国への対応はどうするんですか? 黙って見ているとは思えないんですけど」
レイリアが質問をする。
「レイリアの言う通りですね。今回はシュミット王国の支援に回り、カーディア議会国には手を出してきませんでしたが、こちらが攻め込むとなると、侵攻してくるかもしれませんね」
イーリスさんが答えると、皆はテーブルに広げられていた地図を覗き込んだ。
「なら、カーディア議会国にはこちらの支援に回りつつ国境沿いを警戒。シュミット王国へ攻め込むのは、こちらだけでいいんじゃないの」
マイさんが珍しく妙案を出すと、皆は悔しそうに頷いた。
「そ、そうですね。カーディア議会国には自国の国境沿いの警戒とこちらへの支援を伝えましょう」
話しをまとめるイーリスさんも、どこか悔しそうだった。
金ちゃんと銀ちゃんが地図を覗き込む。
(ねえねえ、シュミット王国を倒したら、こっちとも、そのまま戦うんだよね?)
金ちゃんはイーリスさんを見て、ハウゼリア新教国を指差して尋ねる。
「そうなりますね」
(この国、大きな島もあるよ)
「その島が、元々のハウゼリア新教国です。大陸側にあたる北部の領土はハウゼリア新教国が占領したところです」
(なら、シュミット王国を倒したら、この大陸側の領土までを制圧するの?)
「そうなります。ただし、相手の出方次第では、その本島も攻めることになると思います」
(じゃあ、攻め込むことになるんだね)
金ちゃんが結論を出すと、皆は苦笑した。
会議も終盤に入る。
こちらが攻め込むのと同時に、マイネ領とガイハンク国からも進軍が行われることが決まった。
「まずは、シュミット王国。相手はあのクレーメンス・フォン・シュミットです。ここから先は少しの油断が命取りになりかねません。肝に命じておいて下さい。では、皆様、よろしくお願いします」
イーリスさんがまとめ、会議は終わると、皆は席を立つのだった。
◇◇◇◇◇
数日後、ユナハ連合軍はシュミット王国へ向けて侵攻を始めた。
僕たちは後方の部隊に交じって進んでいる。
エルさんやルビーさん、レオさんもいるのだから仕方ないが、無線からの報告を聞いて、馬車の中のテーブルに広げられた地図で確認をするのは退屈だった。
「戦闘が始まれば、私たちも戦場が見える位置に移動することになりますから」
退屈していることが、ミリヤさんにはバレていた。
「フーカ様と、金ちゃん、銀ちゃんは、前科があるんですから、戦場のそばに行っても馬車から離れないで下さいよ」
レイリアが目を細めて注意をしてくる。
「シャルも一緒だったんだけど」
「危なっかしいのは、フーカ様たち三人だけですから」
「うぐ……」
僕は反論したが、ケイトにとどめを刺された。
何も言い返さない金ちゃんと銀ちゃんを不思議に思い、二人を見ると、気持ちよさそうに熟睡していた。
こ、こいつらは……。
ピー、ピー、ガー。
しばらく進んでいると、定期報告には早い時間に無線が鳴り出した。
ケイトが取ると、偵察部隊からの敵部隊を発見した報告であった。
僕たちは地図を覗き込み、ケイトは報告された場所にペンで丸を付ける。
「王都からの距離を見ると、第一防衛ラインですね」
ケイトは、そう言って、さらに線を書き込む。
「ヘルゲ様たちが敵部隊への攻撃準備を整えている間に、私たちは戦場を見渡せる場所へ移動しましょう」
イーリスさんはの言葉に皆は頷き、彼女は車内の前方に行き、御者を呼んだ。
馬車は少し進んだところで、本隊とは別の進路に変えると、後続のエルさんたちの乗る馬車と護衛の兵士たちも進路を変えた。
そして、少し離れた高台に到着すると、僕たちは馬車から降りて戦場を見渡すのだった。
広い平原の中央に、敵部隊が隊列を組んで、こちらを待ち受けているのが見える。
魔獣の姿もあるが、敵が魔獣を率いて侵攻してきた時に比べれば、その数はかなり少ない。
「魔獣は品切れなのかな?」
「飛行する魔獣もいないようですし、いざという時のために温存しているようですね」
「なるほど」
僕の質問にケイトが答えた。
「まあ、あの大群で攻めきれなかったどころか、損害が大きかったですから、使いどころを慎重にせざるを得ないほど減っているというところでしょう」
ドヤ顔で付け加えるケイトだった。
クイクイ。
(監視所もないこんなところで見ていて、見つからないの?)
金ちゃんは、僕の袖を引っ張って、質問をしてくる。
「馬車は高台の影に隠れていますし、あまり高台の上のほうに行かなければ、見つかりませんよ」
アンさんが安心させるように答える。
(じゃあ、見つかっちゃうよ)
金ちゃんが指差す方向には、高台の一番高い位置で堂々と立つエルさんとマイさんがいた。
すぐに、ハンネさんとサンナさん、イツキさんとオルガさんが二人を取り押さえに行く。
そして、二人は文句を言われながら、後方へと引きずらて行った。
なんで、こうも自由人が多いんだ……。
ドーン、ドーン、ドドーン――。
自軍は現れていないのに、砲撃音が鳴り響く。
すると、敵部隊のあちらこちらで爆発が起こり、土煙と黒煙が昇ると、魔獣と敵兵たちが、突然の爆発に驚き、隊列を乱して混乱を始めた。
神官服を着た者たちと騎士たちが、隊列を整えるように号令を掛けるが、誰も言うことを聞かない。
それはそうだ。いつ、爆発に巻き込まれるかも分からないのに、ジッとしていられる訳がない。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ――。
機関砲の射撃音が響きだし、敵兵が炸裂していく。
敵部隊はさらに混乱し、戦意を喪失して逃げだす者ばかりとなった。
そこを見計らったように、森側から敵部隊に向かって騎馬隊が突進していく。
完璧な連携だった。
僕は、その戦闘を得意げな顔で見つめる。
(主、得意げになっているところを悪いけど、あの戦い方は、カザネお姉ちゃんが伝授したんだと思うよ)
銀ちゃんは困り顔で僕を見つめ、隣にいる金ちゃんは、やれやれといった仕草を取る。
「いや、僕だって、自衛隊の映像を見せながら教えたよ」
(オルガお姉ちゃん! あの戦い方は誰が教えたの?)
銀ちゃんの質問に、オルガさんが戸惑う。
「カザネ様……です」
そして、彼女は申し訳なさそうに答えた。
急に恥ずかしくなった僕は、どうしたら良いものかと困惑する。
そんな僕を金ちゃんと銀ちゃんだけでなく、エルさんとマイさんまでもがニヤニヤと楽しそうに見つめていた。
戦闘はこちらの勝利というかたちで終わると、シュミット王国の王都へ向けて、再び侵攻を始める。
僕たちは近くの町や村などにも立ち寄り、支援が必要かを確かめながら、情報も集めていく。
元はカーディア帝国の領土でもあったことから、どの町や村も僕たちに敵対する様子はなく、シャルを目にすると跪く者もいた。
シャルが中心となって住民から話しを聞くと、シュミット王国がハウゼリア連邦に加わると、布教のためにハウゼリア新教の司祭たちが訪れ、その地位をいいことに横暴を働き、住民たちを困らせていたことが分かった。
また、ユナハ連合との戦時に備えるためとの理由で、成人男性には兵役に服することが義務付けられ、連れて行かれてしまったとのことだっだ。
そのため、どの町や村もお年寄りと女性、子供の姿しか目にしなかった。
住民からの話しを聞き終えた僕は、アンさんにハウゼリア新教の関係者を捕縛するように命じる。
そして、戦いがおさまるまで潜むことを選択して、やり過ごそうとしていた司祭たちを多く捕らえることとなった。
その後は、金ちゃんと銀ちゃんが子供たちを中心に狐の耳と尻尾を配り、きつねのダンスを広めるのだった。
そんなことが町や村に立ち寄るたび、繰り返された。
「なんか、私たちって、きつねのダンスの布教活動をしているみたいですね」
ケイトがポツリとつぶやくと、皆は苦笑する。
「金ちゃん、狐の耳と尻尾をそんなに持ってきて、怒られてもしらないよ」
(主、在庫処分品だから大丈夫だよ)
僕に向かって答えた金ちゃんの言葉に驚き、ヒーちゃんとアカネ姉ちゃんに視線を向ける。
二人は気まずそうに横を向いてしまった。
おそらく、ツバキちゃんが大量発注してしまったであろうことが、二人の様子からすぐに分かった。
ツバキちゃんは、何をやってるんだ……。
僕は唖然としたが、子供たちは喜んで、狐の耳と尻尾を着けて踊っているから、これはこれで良しとすることにした。
シュミット王国の第二、第三と、徐々に敵の数が増し、手強くなっていく防衛ラインを次々と打ち破っていった僕たちは、王都の付近まで侵攻した。
王都は目の前だが、敵兵と魔獣の数は、うんざりするほど配置されている。
そして、王都の上空には、飛行する魔獣が旋回するように飛んでいた。
「あれが飛行する魔獣か」
僕は双眼鏡を覗き込み、飛行する魔獣を確かめる。
(主、あれって、恐竜……翼竜って奴じゃないの? 主の部屋にあった図鑑で見た奴に似てる)
銀ちゃんも双眼鏡を覗き込み、僕に尋ねてくる。
「プテラノドン!」
(プテラノドン!)
僕と銀ちゃんは声を揃えて、その翼竜の名前を口に出す。
(異世界人って、ろくなことをしないね)
金ちゃんがジト目で僕を見つめる。
「僕に責任を押し付けようとするな!」
(別に主が、とは言ってないよ)
金ちゃんが答えると、皆はクスクスと笑いだす。
なんか、悔しい……。
ケイトが空を指差す。
「それで、あのプテラノドンはどうします?」
「飛竜部隊でやっつけるしかないよ」
僕が答えると、ケイトは怪しい笑みを浮かべる。
「対空砲も持ってきてますよ」
彼女は、使いたくて仕方がなさそうだ。
「対空砲と飛竜部隊の連携でやっつけよう」
「はい、分かりました」
僕が返事をすると、彼女は小さくガッツポーズをして、嬉しそうだった。
王都を防衛する敵軍を監視する部隊を残し、僕たちは少し離れた位置に陣を取る。
そして、ガイハンク国とマイネ領から侵攻して来ている味方を待つ。
その間、王都の攻略について話し合われていた。
「飛行する魔獣、プ、プッテラドンを対空砲と飛竜部隊、ルビー様たちのグリュード竜王国の部隊で掃討し、その後……」
((プテラノドン!))
イーリスさんが作戦を話し出すと、金ちゃんと銀ちゃんが言い間違えを正す。
(プッテラドンだと、なんか美味しそうな丼物みたいだよ)
金ちゃんがゴクリと生唾を飲むと、銀ちゃんも続く。
いや、何の丼物か分からないし、全然、美味しそうに思えないのだが……。
「コホン。えーと、プテラノドンを掃討した後、敵軍に砲撃を行い、騎馬隊を突入させます。そして、合流したガイハンク国軍とマイネ領軍と共に、敵軍を戦闘不能になるまで攻撃します」
「なんか、徹底してるね」
「相手はクレーメンスです。どんな非道な策を用いるともしれません。できるだけ戦力を削いでおく必要があります」
イーリスさんは、怖い表情で答えた。
クレーメンスを、かなり警戒しているようだ。
人を張り付けた盾を思いつくような奴だ。イーリスさんが慎重になるのも分かる気がする。
その後は、王都内に突入する作戦から攻城までの流れが話され、皆も真剣に耳を傾けていた。
王都制圧の作戦の問題は無かったが、攻城については、クレーメンスが何をしてくるか分からないので、突入は慎重かつ速やかに、さらにクレーメンスに対しては生死を問わないことなどが話され、現場で臨機応変に対応することを優先するように言い渡される。
僕も、今までのことから、あいつが一番厄介だと感じていた。
ガイハンク国軍とマイネ領軍が合流すると、すぐに両軍との打ち合わせが行われ、王都制圧に向けての作戦が開始されようとしていたのだった。
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