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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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211話 日本で学んできたこと

 「どうでしたか? 只今のダンスは、きつねのダンスと言って、日本で覚えてきたダンスです。ツバキ様とシズク様を祀っている潤守(うるす)神社での奉納の舞としても踊られていました」


 きつねのダンスで招待客たちも賑やかになっている中、ミリヤさんは、司会を続けていく。

 奉納の舞になってるんだけど……いいのかな?


 「次からは、落ち着いた発表となります。少し難しい内容もありますが、最後までお付き合い下さい。では、ケイト、お願いします」


 ミリヤさんは、次の発表の項目へと進め、ケイトを呼んだ。

 端から演説台に向かって、少し緊張した面持ちのケイトが歩いてくる。

 狐の耳と尻尾をつけたままの彼女を見て、見ている側は、皆、不思議そうな表情で、彼女に視線が釘付けとなっていた。

 強張った表情のケイトが演説台に立つと、照明が彼女を照らしだす。


 「ケイト・モリ・ユナハです。私が日本に行って驚いたことは、技術と文明の高さでした。とは言っても、皆さんも実際に見てみないことには理解できないと思います。そこで、写真を用意いたしましたの、ご覧下さい」


 発表を始めるケイトに、僕は狐の耳と尻尾をつけたまま続けるのだろうか? と疑問を抱いた。

 ケイトはミリヤさんに向かって目配せをして、何かの合図をすると、ミリヤさんは彼女に向かって、自分の頭とお尻を手で押さえて、何かを伝えようとするように返している。


 「ん?」


 ケイトは小さく首を傾げて、自分の頭とお尻を触った。


 「!!!」


 彼女は頭と耳につけられている耳と尻尾の存在に気付くと、見る見るうちに、その顔を赤くしていく。

 外すのを忘れていたんだ……。

 サッと耳と尻尾を外したケイトは、何事もなかったかのように、その二つを演説台の中にしまった。


 「コホン。ミリヤ様お願いします」


 ケイトの言葉にイーリスさんが頷くと、バサッと白い大きな垂れ幕が降りる。

 そして、機械音がかすかに聞こえ始めると、垂れ幕に『日本の技術』と記された映像が映し出される。

 垂れ幕の光源をたどると、天井からプロジェクターがつるされていた。

 いつの間にプロジェクターを用意してたんだ。

 僕はキョロキョロと誰が操作しているのかと、辺りを見回した。

 すると、端のほうで顔を光に照らされている金ちゃん、銀ちゃん、ヒーちゃん、アカネ姉ちゃんの四人がいた。

 金ちゃんと銀ちゃんがいて大丈夫なのだろうか?

 僕は不安を抱きながら垂れ幕へと視線を戻した。


 垂れ幕には、僕の地元の街並みが映されていく。


 「「「「「おおぉぉぉー!」」」」」


 建ち並ぶビルや道路を走る自動車などの映像を見た招待客たちから、感嘆の声が上がる。

 いつの間に撮っていたのか、映像には通行人までもがバッチリと映っていた。

 映像は通行人たちのアップへと移ると、「「「「「おおぉぉぉー!!!」」」」」と、今度は男性陣だけから感嘆の声が上がった。

 垂れ幕には、次から次へと、道行く胸元が開いた服やシースルーの服を着た女性たちばかりが映し出されていく。

 ケイトは驚いて、操作をしているヒーちゃんたちに目を向けた。


 「なんで、こんな写真ばかりが入ってるんですか?」


 ヒーちゃんも焦ったのだろう。金ちゃんと銀ちゃんに向かって話す彼女の声が、僕のところまで聞こえてきた。


 ((えーと、主のリクエストなんで))


 「断じて違う! そんなの頼んでない!」


 頼んだ覚えはないのに、僕のせいにされてたまるかと、僕は思わず叫んでしまった。

 すると、笑ってはいけないと笑いを堪える人たちの苦しそうな息遣いが聞こえてきた。

 恥ずかしいと思うのと同時に殺気を感じ、両隣をみると、シャルとイーリスさんが疑念を抱いている目で、僕を睨みつけている。


 「ほ、本当に頼んでいないから」


 「「今は、そういうことにしておきます」」


 信じてもらえていない雰囲気に、僕はガクッと頭を垂れた。

 なんで、関係のない僕がこんな目に遭わなければならないんだ!

 僕は金ちゃんと銀ちゃんを睨みつけると、二人は僕の視線に気付き、サッと顔を逸らした。

 あ、あいつら……。


 映像は直され、再び街並みや様々な自動車などを映して進んでいく。


 「えー、フーカ様の趣味が混じるという少しのトラブルはありましたが、以上が日本の街並みです。そして、次に映し出される映像が、私が皆様に、是非、見ていただきたい映像となります」


 ケイト、僕の趣味じゃないよ……トホホ。

 再び、僕がガクッと頭を垂れていると、垂れ幕には横須賀に行った時の戦艦三笠や空母、潜水艦などの写真が次から次へと映し出されていた。


 「「「「「おおぉぉぉー!」」」」」


 招待客たちから、再び感嘆の声が上がると、その後、ひそひそと隣と話し始め、会場は少しざわついていた。


 「えー、皆様、お静かに。私は日本の軍事力を見て驚き、それは、とても凄いものでした。そして、私が思いついた船がこれです」


 ケイトの発言が終わると、船のデザイン画が映し出される。

 空母とか、自衛隊の船ではないものも混じっていたことは気になったが、それよりも、ケイトが考えた船のデザイン画のほうに、僕は目を奪われていた。

 そこには、二隻を繋げたような空母のデザイン画が映し出されていたのだ。


 「「「「「ゴク」」」」」


 周りからは、そのデザイン画を見て、つばを飲み込む音が聞こえてくる。


 「この空母でしたら、ドラゴンの離着艦してもバランスが取れます」


 ケイトは、そう発言すると、ルビーさんのほうに目を向ける。

 僕もルビーさんのほうを見ると、彼女は隣に座るイーロさんとフリーダさんと共に、目を輝かせていた。

 その後、その船の説明をケイトが話し終えると、彼女の発表は終わった。

 うちの国は、同盟国とはいえ、他国に過剰戦力を与えていいのだろうか? それも相手はドラゴンの国なのに、大丈夫なのだろうか?

 そんな不安が僕の頭をよぎった。




 発表会は続いていく。

 シャルはファッション関連の発表をする。

 それは、おしゃれな服装から作業服まで様々な服を紹介し、ユナハ国でも取り入れて製造していく発表で、その服を紹介するための雑誌の発刊までもを視野に入れるものだった。

 アンさんは、六輪バギーなどの軍への導入を発表し、レイリアは、機動力のある装備が導入された際の運用方法や訓練方法を発表した。

 リンさんも発表を行い、彼女はウエットスーツのことを話していた。

 デパートで見たウエットスーツが、そんなに欲しかったとは……。

 断念させて悪いことをしたと、僕は反省するのだった。




 発表会は、さらに続き、金ちゃんが演説台に立つ。

 僕は嫌な予感を感じ、そして、同時に不安も襲ってきた。


 (キン・モリ・ユナハです)


 金ちゃんは、勝手に家族を宣言している。

 まあ、家族と言っても間違いではないからいいんだけど……、この心にひっかかるようなつっかえは何だろう……?


 (僕は、主の部屋を漁って見つけたもので、勉強したことを発表します)


 ビクッ。


 僕は身体を強張らせた。

 僕の部屋を漁って見つけたって……。いや、こちらへ帰る前に確認してきたが、荒らされた形跡はなかった。何を見つけたんだ?

 ドクドクと心臓の鼓動が激しくなり、少し苦しく感じる。


 (では、コホン。祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり)


 ……平家物語?


 (沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ、……ただ……)


 春の夢の夜のごとしだ!

 僕は手を強く握りしめながら、続きを心の中で叫び、言いよどむ金ちゃんを心配そうに見つめた。

 我が子の発表を見つめる親って、こんな気持ちなのだろうか?


 (……)


 金ちゃん、あともう少しだ。ガンバレ!

 僕は心の中で必死に応援した。


 (ただ、ただ、寿限無、寿限無?)


 寿限無? そんな言葉、平家物語にあったっけ?


 (五劫のすりきれ、海砂利水魚の水行末、雲来松、風来松、……)


 また言いよどんだ。って言うか、平家物語はどこにいった?


 (……パイポ? パイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助。フゥー)


 金ちゃんは言い終えると、額の汗を拭う仕草をして、満足そうな顔をする。

 途中を飛ばしてるし、平家物語はどこにいった?


 (今のが、日本の古い時代にあった、戦いのお話しです)


 「「「ちがーう!」」」


 僕とヒーちゃん、アカネ姉ちゃんは、思わず叫んだ。


 (えっ? まあ、僕は、細かいところを気にしない主義だから)


 「途中から人の名前です」


 (えっ!?)

 「えっ!?」


 ヒーちゃんの言葉に、僕と金ちゃんは驚いた。


 「なんで、フー君も驚いてるんですか?」


 ヒーちゃんとアカネ姉ちゃん、金ちゃんは、僕を情けないと言いたげな目で見つめる。


 「金ちゃんは、こっち側だろ!」


 彼はサッと顔を逸らす。


 (えー、以上が僕の発表です)


 そして、顔を逸らしながら、無理矢理に終わらせた。


 「「「「「……」」」」」


 招待客たちは、意味も分からず呆然として、演説台を離れる金ちゃんを見送るのだった。

 何の発表がしたかったんだ? 日本で学んできたことを発表する場なんだけど?

 満足そうに立ち去る金ちゃんに、僕は顔を引きつらせた。


 続いて、銀ちゃんが演説台に立つ。

 ま、またか……。


 (ギン・モリ・ユナハです)


 金ちゃんのせいで、銀ちゃんを見る皆の視線には、不安が宿っていた。


 (僕はテレビという機械で、映し出されていた実験を見て、思いついたことを発表します)


 金ちゃんよりは、まともなこと言いそうな雰囲気ではあるが、それでも、不安で仕方がない。


 (それは、敵軍ホイホイです!)


 「「「「「???」」」」」


 皆の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。


 (これは、敵軍を一網打尽にできる装置です。目の細かい砂を大きな深い桶に入れて、桶の底から空気を出すと、砂が水面のようになることを利用したものです。まずは、これを見て下さい)


 銀ちゃんがヒーちゃんに視線を送ると、垂れ幕には砂を入れた箱が映り、その砂の上には数体の人形が置かれていた。

 そして、ボコボコと砂が吹き出すと、人形が沈んでいってしまった。


 「「「「「おおぉぉぉー!」」」」」


 その動画を見た招待客たちは、感嘆の声を上げた。


 (桶の底から空気を送れば、水面のようになり、空気を止めれば、再び砂地へと戻ります。これを戦いの時に戦場になりそうなところへ設置しておけば、ただの砂地だと思っている敵が攻め込んできた時に、作動させれば、敵を一網打尽にできます)


 「「「「「おおぉぉぉー!」」」」」


 再び、招待客たちから感嘆の声が上がる。


 (僕の発表は以上です。ありがとうございました)


 パチパチパチパチ――。


 銀ちゃんが演説台から立ち去っても、会場の拍手が止むことはなかった。

 僕とシャルたちも、まともな発表をした銀ちゃんに拍手を贈り、彼を感心するように見つめた。

 銀ちゃんの考えた敵軍ホイホイは、近いうちに採用されそうだ。


 一方、ヒーちゃんのそばに戻った銀ちゃんの傍らでは、四つん這いに崩れ落ちた金ちゃんが悔しそうに敗北を感じていた。


 (何故? 銀ちゃんに負けたんだ……)


 金ちゃんの独り言が聞こえてくると、皆は、当たり前だと言わんばかりの表情で彼を見つめるのだった。




 その後も発表会では、再びレイリアが演説台に立ち、軍の戦闘糧食や旅の携行食として、レトルト食品を紹介したり、アスールさんが屋台料理を紹介したりしていた。

 どの発表も招待客の反応は良かった。

 皆が招待客から評価されればされるほど、金ちゃんだけが沈んでいった。


 発表会も終わりが差し迫ると、金ちゃんが演説台に乗り込んできた。


 (僕もこのままでは終われないので、とっておきの発表をします)


 金ちゃんの言葉に、皆は最初にそれを出せと思いつつも、黙ったまま彼を見つめる。


 (今度の発表は、主の部屋を漁って見つけた資料を参考に、僕が考察したものです)


 皆の表情は、またかと言っていた。


 (コホン。題名は、女性の胸にサラシを巻く有用性と魅力です。これは、主がまとめた資料を基に、僕が発表できる形にしました)


 「!!!」


 僕は驚き、金ちゃんの発表を止めなければと、立ちあがろうとした。

 すると、ガシッと両肩をシャルとイーリスさんが押さえつけ、そして、二人は蔑むような目で、僕を見つめてくる。

 ぼ、僕を巻き込むな……。


 (えー、胸にサラシを巻くことで、大きな人は、胸が邪魔にならないように押さえつけることができ、小さな人は大きく見せる見栄を張ることができます。サラシの巻き方を工夫することで、色々な胸を表現できるのです)


 得意げに話す金ちゃんを、僕は顔を真っ赤にして、怒りと恥ずかしさが入り混じる心境で見つめた。


 (えー、主がサラシに魅了された要因はここにあります。自由自在の胸を堪能できるのです)


 「や、やめて! 僕は、そんなことは思って、ムググ……」


 金ちゃんを止めようと叫ぶ僕の口をシャルとイーリスさんの手がふさぐ。

 そして、金ちゃんは得意げにベラベラと発表を続け、終わる頃には、僕が周りから変な目で見られている。


 (ご清聴ありがとうございました)


 全てを話し終えた金ちゃんは、ペコッと頭を下げて、得意げな顔で演説台を離れていく。


 パチパチ、パチパチ。


 少し拍手が起きる程度だったが、彼は満足そうに会場へ向けて手を振りながら、端のほうへと歩いて行った。

 周りからの視線が痛い、そして、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。

 結局、金ちゃんの発表は、僕を辱めるという成果を残しただけだった。




 「以上で、発表は終わりとなります。皆様、長い間、ご清聴ありがとうございました」


 パチパチパチパチ――。


 最後に、司会進行を行ったミリヤさんが締めくくると、招待客からは大きな拍手が贈られ、発表会は幕を閉じた。

 招待客たちからは、有意義な話しを聞けたとの言葉が聞こえてくるが、僕にとっては辱められただけの発表会に終わった。

 次がある時は、金ちゃんにだけは発表の機会を与えてはならないと、僕は心底から誓うのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


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