210話 発表会
ファルマティスに戻ってきた僕は、屋敷に寄り、荷物を置いてから城へと向かうことにする。
金ちゃんと銀ちゃんに、荷物を預けたままだと不安を感じるのは、皆も一緒のようだった。
マイさん、イツキさん、ネーヴェさん、リンさん、イライザさんは、元々、屋敷の客室を使用していたので、そちらへ荷物を置いていた。
マイさんは、城に隣接された住居があるというのに、いつの間にか、こちらに住み着いていた。
エンシオさんが別居されているみたいで可哀相だと、いつも思っているのだが、夫婦間の問題を切り出されては困ると、僕は怖くて言い出せずに、客室を使わせているのだ。
一方で、アカネ姉ちゃんは、こちらでのツバキちゃんたちの住居でもある屋敷へと向かったが、しばらくすると、「あのだだっ広い屋敷に一人は寂しい」と、すぐにこちらの屋敷にきて、空いている客室を使用することとなった。
城に着くと、エンシオさんとクリフさんが出迎えてくれる。
二人は金ちゃんと銀ちゃんを見ると、少し首を傾げたが、すぐに僕に視線を移して挨拶をした。
執務室に向かいながら、二人から僕たちがいない間のことを聞いたが、外交も内政も順調で、ハウゼリア連邦にも動きはないとのことだった。
執務室に着くと、イーリスさん、オルガさん、アカネ姉ちゃんは残ったが、他の皆は、お土産を配るのと日本で学んできたことをまとめたいと部屋を出て行った。
きっと、近いうちに僕の机の上には企画書が山積みにされ、その書類に目を通すことになるのだろう。
これから仕事が増えると思うと、僕はげんなりする。
◇◇◇◇◇
数日が過ぎ、執務室に来た僕の目の前には、予想通り、皆からの企画書が机の上に積まれていた。
僕は椅子に座ると、その積まれた企画書を一つずつ手に取り、目を通していく。
最初に目に留まったのは、アンさんとレイリア、ケイトの連名で提出されていた八輪バギー、六輪バギー、四輪バギーの開発と軍部での採用だった。
紙をめくっていくと、さらにマイさんからの警察省でも採用したい旨が書かれていた。
「これは許可と」
僕は、その企画書に署名し、判を押すと、申請受諾の箱に入れた。
「えーと、次は」
警察省かららなので、また、マイさんがらみだ。
「えーと、なになに……」
各地域に置く警察署の内部組織を殺人、強盗、交通などの案件に応じて別けたい旨が書かれており、さらに、これから自動車が世に出てくる前に、道路や交通規則を整備しておきたいとのことだった。
「うん。これも許可」
僕は、申請受諾の箱に入れた。
僕は、次から次へと企画書に目を通しては、申請受諾の箱に入れていく。
国営の放送局の設立、レトルト食品の開発、ファッション誌や漫画などの娯楽面の普及など、問題のあるようなものがなかったからだ。
「ん? これは……」
僕はケイトからの企画書を手に持つと、少し悩んだ。
その企画書には、水陸両用装甲車の開発の旨が書かれていた。
必要と言えば必要だが、そこまで軍備を高めていいのだろうか?
僕の仕事ぶりを見張るように、横で事務仕事をしていたイーリスさんに視線を向ける。
「フーカ様? どうかしましたか?」
「これなんだけど、許可していいものか、悩む企画なんだよね」
彼女は、僕がケイトからの企画書を渡すと、すぐにペラペラと目を通していく。
「フーカ様は過剰な軍備を懸念しているのだと思いますが、こういった物は戦いだけでなく、災害時にも使えますから、高性能な軍備があることは、より多くの民を護ることになると思います。私の個人的見解ではありますが、こういった物に関しては、いざという時に、なくて困るよりもあったほうが良い思います」
「確かにそうだよね」
僕は申請受諾の箱に入れると、次の企画書を手に取る。
「ん? 廃藩置県? 何だこれ?」
提出者の氏名欄を見ると、アスールさんとレイリアの連名が記されていた。
その企画書には、領地を県に城は壊して庁舎にする旨が書かれている。
さらに、『追伸、わしらも何か提案しておきたかったから』と最後にまとめられていた。
「アホかー!」
僕は申請不可の箱に向かって叩きつけた。
イーリスさんは、僕が叩きつけた企画書に目を通すと、半笑いで頬をひくつかせていた。
その後はろくな企画書がない。
マイさんから取り調べの時のカツ丼と張り込みの時のあんパンと牛乳の普及、レイリアから兵の装備に投げ銭用の小銭を支給と刀狩りなどと、刑事ドラマや時代劇などを見て、思いついたことを書いただけの企画書ばかりだった。
イーリスさんは、申請不可の箱に積まれていく企画書を見て、再び 半笑いで頬をひくつかせている。
くだらない企画書ばかりが続いたせいで、一気に疲れが溜まってきた僕は、半ば義務を果たすように次の企画書を手に取る。
今度はまともそうだ。
それは、経済の活性化と国民を活気づけることを目的とした国をあげてのお祭りの開催を行う旨が書かれていた。
その企画書をじっくりと読んでいると、何やら視線を感じる。
顔を上げると、二つの大きな頭が生首のように机の上に並んでいた。
金ちゃんと銀ちゃんだ。
((それ、僕たちが書いたの。やってもいい?))
「読み終えるまで、ちょっと待って」
僕は再び視線を戻して、企画書を読んでいくのだが、ジッとこちらを見つめてくる二人が気になって、読みづらい。
読み続けていくと、週に二、三回開催ときつねのダンスで街道を練り歩くことが書かれていた。
「案はいいけど、週に二、三回は無理だから、年に二、三回ね。それと、きつねのダンスで練り歩くって、どういうこと?」
(えーと、テレビで見たサンバカーニバル? あんな感じ)
僕の質問に金ちゃんが答える。
「ああ、なるほど。それならいいけど。あと、もう一つ、きつねのダンスじゃないとダメなの?」
((そこは譲れない!))
今度は二人で答えた。
僕はどうしたものかと、イーリスさんを見る。
「きつねのダンスでもいいんじゃないですか。皆、あんなに練習させられましたから、お披露目の場もないと、あの特訓の意味がなくなります」
彼女が答えると、金ちゃんと銀ちゃんはコクコクと頷く。
「じゃあ、春祭り、夏祭り、秋祭りの年に三回ということで」
(潤守神社の時みたいに、冬は年始に神殿や教会とかで巫女さんたちと一緒に踊るのはダメ?)
銀ちゃんが提案してきた。
「うーん。まあ、神楽で舞ってたから、冬は国の主催じゃないけど、神殿主催でならいいよ。一応、ミリヤさんに相談してね」
((はーい!))
二人はパシッとハイタッチをして喜ぶ。
次の企画書を手に取る。
きつねのダンス普及のため、きつね教団の設立と書かれている。
「おい、何だこれ?」
僕は机の前にいる二人に向かって尋ねながら、机にその企画書を叩きつけた。
(ん? どれどれ)
銀ちゃんが、その企画書を覗き込む。
(ああ、これは、潤守神社を見て、宗教って儲かるんだと思って)
「……あそこは特別だ。っていうか、二人はツバキちゃんみたいになりたいの?」
((えっ!?))
二人はお互いに顔を見合わせて頷くと、銀ちゃんが自らの手で、その企画書を不可の箱へ入れた。
全部の企画書に目を通し終え、伸びをしていると、オルガさんがお茶を机に置いてくれた。
「ありがとう」
僕がお茶をすすると、イーリスさんが近付いてくる。
「フーカ様。エンシオ様とクリフ、ヘルゲ様などフーカ様のそばで従事する者と一部の貴族を交えて、私どもが日本で学んできたことを発表して、皆と共有するための場を開きたいと思うのですが、よろしいですか?」
「うん、かまわないよ」
「では、すぐに手配します」
彼女はそう言って、自分の机に戻ると、何やら書類を書き始めた。
◇◇◇◇◇
数週間後、皆が日本で学んできたことを発表する場が神殿で開かれた。
イーリスさんに聞いたところ、潤守神社が関係する発表もあるので、神殿で行うことになったらしい。
招待客には、ルビーさんやエルさんからレオさんやダミアーノさんまで、各国の王を呼び、カイやフリーダさんもいる。
ここまで大々的にやるとは思っていなかった。
発表者の中には金ちゃんと銀ちゃんの名前もある。
大丈夫なのだろうか……。
僕はシャルと一緒に、招待された方々と挨拶を交わしていく。
ロルフさん、マーカリ、メリサさん、セレストさんの四人が、ジゼルさんやブレンダさんなどの僕が見知った人物を連れて仲良く現れる。
「フーカ殿、この度は、このような貴重な場にお呼びいただき、ありがとう。今日は勉強させていただく」
ロルフさんが代表で言葉を交わしてくると、他の人たちはお辞儀をした。
「皆さん、隣国同士で仲良くされているんですね」
「ええ、お互いに協力して、ユナハ国に負けないように発展していこうと仲良くしていただいています」
マーカリがにこやかに答える。
ユナハに負けないようにというところは少し気になるが、隣国同士で仲良くできているのなら何よりだ。
そんなことを思っている僕の視界に入るように、ブレンダさんがパサッ、パサッと薄手のベージュ色のコートをなびかせてみせる。
「えーと、ブレンダさん。そのトレンチコート、お似合いですね」
「そうでしょ。……トレンチコート?」
彼女は自慢げな顔から一変して、不思議そうな表情で首を傾げた。
「えーと、その形状のコートをトレンチコートって言うんです」
「そうなの。コホン。そうよ。いいでしょ。オルガが、娘が買ってきてくれたのよ」
オルガさんのお土産だったから、それで自慢したかったのか。
僕たちは彼女を見て微笑んだ。
神殿の広間には椅子が並べられ、多くの席が用意され、ツバキちゃんとシズク姉ちゃんの像がある前には、演説台も用意されていた。
招待客たちが席に着くと、僕とシャルも最前列の席に着いた。
ミリヤさんが、その演説台の脇に設けられた司会台に立つと、広間の照明が薄暗くなり、演説台だけが照明に照らされる。
「皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。これより、日本で学んできた文化や技術などを発表していきたいと思います。最後までお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。それでは、ミュージック、スタート!」
司会のミリヤさんが、最後におかしなことを言った気がする。
嫌な予感を抱きながら見つめていると、聞き覚えのある軽快な音楽が鳴り出し、演説台の両側から金ちゃんと銀ちゃんを先頭に、アンさんやレイリアたちと小さな子供たちが狐の耳と尻尾をつけて、駆け出てくる。
そして、きつねのダンスを踊りだす。
「「「「「きゃぁー! なんなの? 可愛い!」」」」」
招待客の女性陣が歓声を上げた。
僕は会場を見渡してみると、皆、手拍子を叩いてウケがいい。
これは、すぐにでも流行るかもしれない。
発表会のはずなのだが、お遊戯会に感じるのは何故だろうか……?
そんなことを思いながら、僕も手拍子を叩いていると、隣ではシャルも微笑みながら手拍子を叩いている。
「あれ? シャルは踊らないの?」
「今回は招待客をお迎えするのもあったので、私は踊らなくて済んだんです」
彼女は安堵した顔で、僕の耳にささやいた。
「でも、金ちゃんと銀ちゃんが、ジッとこっちを見てるよ」
「えっ!?」
彼女は困惑した表情に変わると、楽しそうに踊っている金ちゃんと銀ちゃんを見つめる。
((!!!))
二人はシャルと目が合うと何かに気付いた表情を見せた。
そして、踊りながら、ジリジリとこちらへと迫って来る。
「シャル、なんか、二人が近付いて来てるよ」
「な、なんで、こっちに来るの? い、いや! 今日は、私は関係ないの! こっちに来ないで!」
シャルは叫んで拒むが、二人は彼女の前に立つと、パッと収納魔法で狐の耳と尻尾を取り出し、その耳と尻尾を彼女につけた。
ガシッ。
二人は彼女と腕を組んで拘束すると、ほぼステージともいえる演説台へと引きずっていく。
「いやー! 離してー! フーカさん、助けて!」
シャルには悪いが、助けたりしたら、踊ったことのない僕も踊らされることになってしまう。
僕は断腸の思いで彼女を見捨てた。
「ご、ご愁傷様……。頑張って」
引きずられていく彼女に手を振りながら、僕は見送るのだった。
シャルが皆に混じって踊りだすと、招待客の人たちは彼女が踊れないと思っていたのか、キレッキレのダンスを見て、大きな歓声が上げて称賛する。
これはこれで、彼女にとっては、逆に恥ずかしいことではないのだろうか?
そんなことを思っていると、金ちゃんと銀ちゃんは、再び獲物でも探すかのように、こちらを見回す。
次は、おそらく……。
僕はシャルとは反対側の隣に座っていたイーリスさんを見つめる。
「フーカ様、私が目立つので、振り向かないで下さい」
「ご、ごめんなさい」
しかし、遅かった。
金ちゃんと銀ちゃんは、再びこちらに向かってくる。
そして、イーリスさんに近付いた。
ギロッ。
イーリスさんは、目に力を込めて二人を睨みつけた。
ビクッ。クルッ。
二人の身体が少し跳ねると、九〇度に曲がり方向を変える。
そして、二人がイーリスさんの代わりに選んだのは、エルさんだった。
「えっ? 待って、私は無理よ。初めて見るダンスなのよ」
エルさんは拒んだが、二人は彼女に狐の耳と尻尾をつけると、ガシッと腕を組んで、演説台に連れて行く。
「ちょっと、こんな、私の知るダンスとはまったく別物のダンスは踊れないわよ」
(大丈夫。見様見真似でも踊れるのが、このダンスの良いところだから)
「まあ、真似て踊るだけなら」
引きずられながらも拒むエルさんに、金ちゃんが優しい声を掛けると、元々、どちらかと言うと目立つのが好きな部類に入る彼女は、納得してしまった。
彼女も皆に混ざって踊りだすが、見様見真似だけあって、少しずれているし、ぎこちなくもあった。
しかし、初見でそこまで踊れるのは、凄いと思うレベルだった。
((へたくそ!))
「あ、あんたたち……言ってることが違うわよ」
だが、金ちゃんと銀ちゃんが辛らつな一言を放つと、エルさんは顔を引きつらせた。
きつねのダンスが終わると、皆と子供たちは手を振りながら両側に別れて退場して行った。
そして、息を切らせたシャルが僕の隣に戻って来る。
「ハア、ハア。フ、フーカさん、私を見捨てた今回の件は、ハア、ハア。一生、根に持ちますから」
「一生って、そんなに怒らなくても」
ギロッ。
「ご、ごめんなさい」
シャルに睨まれた僕は、シュンとするのだった。
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