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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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199話 夏祭りの準備

 「風和! フーカー!」


 母さんが僕を呼んでいる。


 「なーに?」


 部屋でパソコンに向かっていた僕は、部屋の扉を開けて返事をした。


 「風和、ちょっと来なさい!」


 また、金ちゃんと銀ちゃんが何かやらかしたのではないかと、僕のベッドに寝そべって漫画を呼んでいる二人を見る。

 僕の視線に気付いた二人は、何を思われているのかを察したのか、起き上がって手と首を横に振って、何も知らないとジェスチャーをした。


 「風和、早く来なさい!」


 母さんに急かされた僕は、渋々と彼女のもとへと向かう。

 僕の後を野次馬根性丸出しの金ちゃんと銀ちゃんが、ニコニコしながらついてくる。

 何かが起きるかもしれないと期待している二人に、少しイラッとする。


 リビングで座っている母さんの向かいに僕が座ると、金ちゃんと銀ちゃんが僕の両隣に座った。


 「母さん? それで、何の用?」


 「あんた、この間のケーキの一件で、小遣いがすっからかんなんじゃないの?」


 「うっ、おっしゃる通りです」


 僕は頬をひくつかせた。


 ((主、銀行強盗でもするの?))


 金ちゃんと銀ちゃんが両側から僕の顔を覗き込んでくる。


 「しないよ! バカなこと言うな!」


 ((いや、刑期って言ったから、犯罪でも企んでいるのかと?))


 「けいきじゃない! お菓子のケーキのことだ! 散々、食いまくってただろ!」


 ((あー、ケーキね! また、連れてってね!))


 「もう、ヤダよ!」


 ((ブー! ブーブー!))


 「やかましい! ブーイングをするな!」


 ((じゃあ、連れてって!))


 「だから、ヤダって!」


 ((ブー! ブーブー!))


 ゴツン、ゴツン、ゴツン。


 「ぐぉぉぉー!」

 ((ぬぉぉぉー!))


 母さんのげんこつが僕たち三人の頭に落ち、頭を押さえて呻いた。


 「人が話しているのに、中断するんじゃないわよ」


 「ごめんなさい」

 ((ごめんなさい))


 僕たちは頭をさすりながら、母さんに謝った。


 「それで、話しを戻すけど、神社の夏祭りを手伝って欲しいって話しが来てるから、風和、手伝いに行ったら? バイト代は出すって言っていたわよ!」


 ((バイト代?))


 金ちゃんと銀ちゃんが首を傾げる。


 「お手伝いをして、その分のお金をもらうことよ」


 ((面白そう! するー!))


 二人は悩むこともせずに、即断した。


 「えーと、あんたたち、出来るの?」


 母さんは不安そうに聞き返す。


 ((大丈夫! 主が僕たちの分まで手伝うから!))


 「なんで、僕がお前たちの分まで働くんだよ!?」


 ((僕たちは、主にたかるからお金には困らないけど、主が貧乏だと僕たちも困る))


 「答えになってない! そもそも、たかることが前提って、どういうことだよ!?」


 ((主の義務!))


 二人は胸を張って威張る。


 「「……」」


 クズな考えの二人に、僕と母さんは言葉を失った。




 結局、僕は金欠には抗えず、神社の手伝いをすることを決めた。

 母さんは、姉ちゃんとシャルたちにも神社の手伝いの話しをすると、彼女たちも手伝いをすることで話しはまとまった。

 もちろん、金ちゃんと銀ちゃんも返事をしてしまったので、手伝いをすることとなったのは言うまでもない。



 ◇◇◇◇◇



 僕は皆を連れて、潤守(うるす)神社へ夏祭りの準備を手伝いに向かった。


 「風和(ふうか)風音(かざね)氷雨(ひさめ)、よく来てくれた。皆さんもよろしくお願いします」


 宮司の颯一(そういち)叔父さんが、僕たちを嬉しそうに出迎えてくれる。

 彼の背後には、生気を失ったマイさんが背後霊のように立ち、その隣には、彼女の様子に顔を引きつらせたイツキさんがいた。

 二人とも巫女姿だった。


 「あんたたちは、日本を満喫しているだけでいいわね」


 マイさんがドヨーンとした負のオーラを放ちながら、恨めしそうに声を掛けてくる。


 (カレー、たこ焼き、コロッケ、大判焼き、ウインナー、うな重が美味しかった! それにね、ケーキの食べ放題は凄かったんだよ!)


 空気を読む気のない金ちゃんは、今までに食べたものを、皮肉を言うマイさんに報告すると、彼女は頬をひくつかせる。


 (車に乗ったり、銀行強盗を退治したり、主の学校に行ったりして、面白かったよ!)


 銀ちゃんは、楽しかったことを、マイさんに報告する。


 「へ、へぇー。そうなんだ……。ん? 銀行強盗を退治?」


 恨めしそうに金ちゃんと銀ちゃんを見つめていたマイさんは、途中で首を傾げた。

 よ、余計なことを……。

 銀ちゃんの話しに、叔父さんとイツキさんまでもが眉間に皺を寄せ、首を傾げた。


 「そう言えば、狐さんが助けてくれたとか言われていたから、もしやと思ったが、風和たちも関わっていたんだな?」


 「えーと、銀行にお金をおろしに行ったら、成り行きで……ハハハ」


 叔父さんの質問に答えた僕が笑って誤魔化すと、姉ちゃんとヒーちゃんは横をむいて、素知らぬふりをする。

 あっ、ズルい。


 「それで、おおごとになっていないんだな?」


 「それは大丈夫。潤守神社の関係者ってことで顔パスだった」


 「お、おい、それって……。ハァー」


 僕が素直に答えると、叔父さんは、大きな溜息を吐いた。

 そして、額を押さえてうなだれてしまった。

 うっ、気まずい……。


 この雰囲気の中でも、空気を読む気のない金ちゃんが、何かを思い出したようにポンと手を叩いた。

 余計なことを言う気じゃないだろうな?


 (あっ、そうそう。主が大判焼き屋のアキお姉ちゃんの胸に、飛び込んだんだよ!)


 「「「「「飛び込んでない!!! 嘘をつくな!!!」」」」」


 僕だけでなく、シャルたちも大声で否定した。


 (あれ? そうだっけ?)


 僕たちが金ちゃんを睨みつけると、彼は首を傾げて誤魔化した。




 僕たちが気まずい雰囲気のまま膠着(こうちゃく)していると、ツバキちゃん、シズク姉ちゃん、オトハ姉ちゃんが通りかかった。

 三人も巫女姿だった。


 「おっ、フーカたちも手伝いに来てくれたのか。ご苦労、ご苦労」


 ツバキちゃんはこちらに気付くと、声を掛けてきた。

 彼女を見た僕たちの脳裏に、商店街の人たちやクラスメイトたちなどから聞いたツバキちゃんの実体が浮かんだ。

 そして、怪しむように彼女を見つめる。


 「な、なんだ? その目は?」


 僕たちの視線に、彼女が戸惑う。


 ((ツバキちゃん? 神様として、アレはどうかと思うよ。ハァー))


 金ちゃんと銀ちゃんは、両手を挙げて首を横に振ると、溜息をついた。

 この二人に言われるようでは、おしまいだ。


 「なんだ? 何のことだ? アレって何だ?」


 彼女は何のことを言われているのかが分からず、オドオドと落ち着きのない態度で動揺を見せる。


 ((自分の胸に手を当てて、思い返してみなさい))


 金ちゃんと銀ちゃんは、ツバキちゃんを諭すように言うが、それは二人にも言えることなんだけど……。


 「???」


 ツバキちゃんは混乱して、シズク姉ちゃんとオトハ姉ちゃんを振り返る。

 だが、二人も分からないと首を横に振る。


 ……。

 …………。

 ………………。


 金ちゃんと銀ちゃんのせいで、その場に混乱状態が続く。

 見かねた姉ちゃんが説明をすると、叔父さん、シズク姉ちゃん、オトハ姉ちゃんは、ツバキちゃんを睨んでから、頭を抱えてしまった。


 「分かっていたこととは言え、高校生にまでそんな風に認識されているとは……。姉さん、お仕置きです」


 「えっ!? なんで?」


 「「「当然です!」」」


 叔父さん、シズク姉ちゃん、オトハ姉ちゃんは声を揃える。

 そして、ツバキちゃんはシズク姉ちゃんとオトハ姉ちゃんによって、社務所のほうへと引きずられていく。


 「金、銀! 覚えてろよー!」


 ((さようならー!))


 捨て台詞を吐くツバキちゃんを、金ちゃんと銀ちゃんは白いハンカチを振って見送った。

 何だか、無駄な時間を費やした気がする……。




 僕たちは叔父さんに連れられ、社務所へ向かうと、お手伝いの内容を説明された。

 夏祭りの準備の間は、主に境内の掃除と夏祭りに並ぶ屋台の設置場所の区画、あとは飾り付けなどであった。

 そして、夏祭り当日は、交通整理やお守りなどの販売も手伝い、夏祭りが終われば、その後片付けも手伝うこととなった。


 まずは、参道にあたる階段の掃除を、叔父さんから頼まれた。

 階段は昇り降りの体力を必要とするので、アンさん、オルガさん、レイリア、リンさん、イライザさんが選ばれた。


 「風和、彼女たちと一緒に頼むな」


 叔父さんは僕の肩を軽く叩いた。


 「えっ? 僕も?」


 「男なんだから当然だろ」


 有無を言わせぬ微笑みを浮かべる叔父さんに、僕は渋々と従うしかなかった。


 アンさんたちを連れて階段に向かうと、上から下に向かって降りるように掃除を始めた。

 下を見ると、先が見えない階段の段数にうんざりする。

 アンさん、オルガさん、リンさん、イライザさんには、階段脇の側溝とその周辺に落ちているゴミを拾ってもらい、僕とレイリアは左側と右側に別れて、一段一段、竹ほうきで地道に掃いていく。


 ザッザッザッ。ザッザッザッ。


 僕は左側を担当し、階段の中央から左端に向かって掃いていき、下の段にゴミを落とす。

 その一連の作業を何度も繰り返していく。

 ふと、上を見上げると、僕側の中央にゴミが残っていた。

 げっ、やり直しだ……。中央から左端に掃いて行ったのにどうして?


 ザッザッザッ。ザッザッザッ。


 レイリアが、右端から中央に向かって掃いているのを目にする。


 「……」


 謎は解けた! 犯人はレイリアだ!


 「レイリア、ちょっといい?」


 「はい、何ですか?」


 レイリアは、笑顔で僕を振り返る。


 「端から中央に向かって掃いたら、ゴミが中央に残るんだよ」


 彼女は掃いてきた上の段を見上げた。


 「汚れているのはフーカ様のほうだけで、私のほうは奇麗ですよ」


 「それはね、僕が中央から左端に向かって掃いているのに対して、レイリアが右端から中央に向かって掃いてるからだよ」


 「あー、なるほど」


 彼女は分かってくれたようだ。


 ザッザッザッ。ザッザッザッ。


 彼女は、再び右端から中央に向かって掃きだす。


 「レ、レイリア?」


 「はい、何ですか?」


 「右端から中央に向かって掃いたら、僕が掃いてきたところにゴミが溜まるんだよ。だから、レイリアは中央から右端に向かって掃いて欲しいんだよ」


 彼女は、ジーっと掃いてきた上の段を見つめる。


 「あっ! ごめんなさい」


 「分かってくれればいいよ」


 僕はペコペコと謝る彼女を、すぐに許すと、最上段まで行き、僕は掃きなおしていく。

 最初に掃き方を教えておけば良かったと、僕は後悔するのだった。


 最下段まで掃き終えると、ゴミをまとめて袋へと入れる。

 アンさんたちもゴミを拾い終えると、ゴミの詰まった袋を僕たちの袋のそばに置いた。

 僕は叔父さんに電話をし、階段の掃除が終わったことを告げて、ゴミを回収してもらうように頼んだ。

 そして、皆と一緒に駐車所へ向かい、エレベーターで社務所へと戻った。



 ◇◇◇◇◇



 夏祭りの準備は数日間にわたって行われ、あれやこれやとこき使われた僕たちは、後半になると足腰がガクガクで、さすがにバテていた。

 しかし、夏祭りの前日になり、のぼりや屋台も並んで、お祭りらしい楽しそうな光景を見ると、ワクワクする気持ちで疲れも吹っ飛んだ。


 ほとんどの準備は終わっていたが、御朱印が担当の神職さんと巫女さんは、腕にシップを貼って、今も頑張って書き続けている。

 夏祭り当日は、いちいち御朱印を書いていられないので、別の紙に書き溜めているのだ。

 そんな彼らの中に金ちゃんと銀ちゃんの姿があった。


 「金ちゃんと銀ちゃんは、何をしてるの?」


 僕が尋ねると、二人はゲッソリとした顔で僕を見る。


 ((永遠とペッタンコをしてるの……))


 二人は疲れた表情を僕に向けた。


 「ペッタンコ?」


 僕は首を傾げながら、二人が何をしているのかを覗き込んだ。

 朱肉に手のひらを押し当てた二人は、御朱印が書かれる紙にその手を押し当てて手形を作っていた。

 ペッタンコって、そういう意味か。

 しかし、潤守神社の印ではなく、二人の手形でいいのだろうか?


 「二人の手形なんかでいいの?」


 「夏祭り限定の御朱印ということで、二人の手形にしたほうがプレミアがついて、いいんだそうです」


 僕の質問に巫女さんが答えた。


 「もしかして、ツバキちゃんの発案?」


 「いいえ、音羽さんの発案です。椿様は、別のことを画策しているようです」


 巫女さんは、困った表情を浮かべる。

 オトハ姉ちゃんの発案とういうのは意外だったが、それよりも、ツバキちゃんが何かを企んでいるというほうが、気になって仕方がない。

 変なことを考えていなければいいけど、……不安だ。




 隣の売店を覗くと、お守りやお札と一緒に、拳サイズから抱えるサイズの白衣(びゃくえ)に水色の袴をはいた金ちゃんと銀ちゃんを模したぬいぐるみが並べられていた。

 売店の中には、参拝者の目につく位置に特大サイズまでもが並べられている。

 その特大サイズのぬいぐるみの金ちゃんと銀ちゃんのペアには、すでに『売約済み』の札が掲げられていた。


 「えっ? もう売れてるの?」


 「アンが買いました。ぬいぐるみが用意された途端、当然ごとく全種類を買ってます」


 ヒーちゃんと巫女さんから、売店の仕事を教わっていたシャルが、困った表情で答えた。


 「そうなんだ」


 僕は、アンさんと聞いて納得する。

 それにしても、全種類を買っているところはさすがだ。


 「そうだ。リネットさんの分を買わないと」


 「それなら、イーリスが、すでに全種類を買ってます」


 再び、シャルが困った表情で答えた。


 僕は、ぬいぐるみの脇に陳列された狐の耳のカチューシャと狐の尻尾のアクセサリーに、目が向いた。


 「ねえ? あの狐の耳と尻尾は何?」


 「「それは、聞かないで下さい」」


 ヒーちゃんとシャルが恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、声を揃えて答えた。

 何だか、とても嫌な予感がする。




 あたりが暗くなってくると、夏祭りの準備は全て終わった。

 僕たちは、夏祭り当日である明日の早朝から手伝いがあるため、今夜は神社に泊まることになり、社務所の奥にある叔父さんたちの住居で寝ることとなった。

 その夜、僕は蓄積した疲労もあり、すぐに眠れると思ったが、夏祭りのことがとても気がかりで、なかなか寝付けないでいた。

 夏祭りは、万全の準備が成されているというのに、何故だか、不安がよぎって落ち着かない……。

お読みいただき、ありがとうございます。


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