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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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191話 団欒

 姉ちゃんは、母さんから夕飯の支度を手伝うように言われて、台所へと連れて行かれた。

 すると、すぐに銀ちゃんがきて、金ちゃんと一緒に爺ちゃんたちとテレビを見始める。

 残された僕たちも、爺ちゃんたちと一緒にテレビを見る。

 テレビの画面には、ナイター中継が映されていた。

 金ちゃんと銀ちゃんだけでなく、シャルたちも初めて見る野球を、興味津々でまじまじと画面を見つめる。


 試合の三回裏が終了すると、狐の耳と尻尾をつけたチアガールたちがグラウンドになだれ込んできて、一列に並ぶ。

 すると、軽快な音楽が鳴り出し、きつねのポーズをとるチアガールたちが踊りだした。

 金ちゃんと銀ちゃんの耳がピクピクと動き出し、二人は前のめりになって画面を覗き込むと、シャルたちも気に入ったのか、楽しそうな表情を浮かべて画面に釘付けになる。


 「野球って、こんなこともするんだ」


 「「……」」


 僕が感想を述べると、爺ちゃんと婆ちゃんが振り返り、無言で呆れたように見つめてくる。


 「風和、お前はスポーツ観戦とか……いや、スポーツにまったく興味を持たないで、部屋にこもってカチャカチャとパソコンばかりいじってたからな……」


 爺ちゃんが、残念な子でも見るような顔を僕に向けた。


 「べ、別にスポーツに興味が無いわけじゃないよ。疲れることはしたくないだけだよ」


 「「……ハァー」」


 僕が反論をすると、爺ちゃんと婆ちゃんは大きなため息を吐く。

 呆れられても、こればかりは性格の問題だから仕方がないと思う。

 僕は言い訳が頭に浮かんだが、言葉に出すことはできなかった。




 音楽が終わり、チアガールたちがグラウンドから退場していく。

 前のめりになっていた金ちゃんと銀ちゃんは、フゥーと息を吐くと、のけぞるように座り直す。

 そして、振り返った。


 ((あれって、僕たちのためのものだね!))


 二人は嬉しそうに、僕へ向かって笑顔を見せる。


 「断じて違う!」


 (じゃあ、僕たちの登場曲ってことで!)


 金ちゃんは親指を立てた。


 「じゃあ、じゃない! 何を勝手に使おうとしてるんだよ」


 ((ダメ?))


 銀ちゃんも加わり、二人で可愛く首を傾げる。


 「ダメに決まってるだろ! 権利とか色々あるんだよ」


 (向こうの世界で使うんだから、バレないって!)


 金ちゃんは、ウインクをして親指を立てた。


 「バレなくてもダメなものはダメ! そもそもダンスもあるんだから、踊りながら登場する気なの?」


 (違うよ。皆が踊りながら僕たちを迎えるんだよ)


 銀ちゃんが、とんでもないことを言いだした。


 「はあ!? お前たちは、何様だ!」


 ((主の威を借るきつね様だ!))


 「「ブハッ。アハハハハ――」」


 爺ちゃんと婆ちゃんが、大声で笑いだしてしまう。

 なんか、こっちまで恥ずかしくなってくる。


 「コホン。主じゃなくて、虎だ、虎。それと、どういう意味か分かってる?」


 金ちゃんと銀ちゃんは首を傾げる。

 やっぱり、分かっていなかった……。


 「それって、権力者の力を頼みにして威張る小者のことを指す言葉なんだよ」


 ((それの何が悪い!))


 腰に手を当てた二人は、胸を張って威張った。


 「威張るな! まんまじゃないか……」


 僕は二人のことが情けなくなって、うつむいた。


 「「ブハッ。アハハハハ――」」


 爺ちゃんと婆ちゃんが再び笑いだすと、シャルたちまでもが、クスクスと笑いだしてしまった。

 自分たちが笑われているというのに、金ちゃんと銀ちゃんは笑っている皆を見てウンウンと頷き、満足そうな表情を浮かべていた。

 笑われて嬉しそうな二人を見た僕は、疲労感に襲われてうなだれた。




 ぐったりしていた僕の鼻に、カレーの食欲をそそる匂いが漂ってきた。

 金ちゃんと銀ちゃんも気付いたのか、鼻を上に向けてクンクンとその匂いを嗅ぐ。


 ((こ、これは、美味しい匂いだ!))


 二人がソワソワしだすと、台所から母さんが顔を出す。


 「あら、何だか楽しそうね」


 金ちゃんと銀ちゃんのおかげか、自然とにこやかな表情になっていた皆を見て、母さんは、少し羨ましそうな顔をした。


 ((きつねのダンスが楽しかったの!))


 金ちゃんと銀ちゃんは、甘えるように母さんへ報告をする。


 「あら、そうなの。曲も軽快でダンスも踊りやすそうだものね」


 母さんが金ちゃんと銀ちゃんに合わせると、二人は嬉しそうにコクコクと首を縦に振る。


 「そろそろカレーができるから、テーブルの上を片付けておいて」


 ((合点承知の助!))


 二人は母さんに返事をすると、スクッと立ち上がってテーブルの上の物をどけ、布巾で拭きだした。

 母さんは、その様子を見て満足そうな顔をすると、台所へと戻って行った。

 テキパキと働く二人を見て、僕とシャルたちは呆然としてしまう。




 給食に出てくる食缶のような大きな鍋をアンさんが運んでくると、リビングに漂っていたカレーの匂いがさらに強くなる。

 彼女の後ろから、アスールさんがおひつを持って現れると、大きなサラダボウルを抱えたレイリアがその後に続いて現れる。

 姉ちゃんとオルガさんもカレー皿や小鉢を持って現れ、テーブルに並べていく。

 その後もテーブルの上にはコップやスプーンなどが並べられていき、夕食の準備が整っていった。

 そして、アンさんとオルガさんがご飯とカレーをよそってテーブルに並べていくと、金ちゃんと銀ちゃんはスプーンを片手に持って、待ち構える。


 「皆の分が揃うまで食べたらダメですからね」


 アンさんが二人に釘をさすと、彼らは頷き、カレーを見ては天井を見てを繰り返して耐えていた。


 皆の分がテーブルに並び、アンさんたちも座る。


 「お代わりもいっぱいあるから、自由に取って食べてね。では、いただきましょう」


 ((いただきまーす!))

 「「「「「いただきます!」」」」」


 母さんの掛け声で、皆は一斉に食べ始める。


 金ちゃんと銀ちゃんの前に、取り分けたサラダをアンさんが置く。


 スー。


 二人はカレーライスを頬張りながら、サラダを遠ざけた。


 「野菜も食べないとダメですよ」


 アンさんが二人をジッと見つめる。


 ((葉っぱでお腹を満たしたらもったいない!))


 「だとしても、野菜も食べないと身体を壊しますよ」


 ((僕たち、狐だから大丈夫!))


 「太りますよ」


 ((僕たちは、ぽっちゃりしていたほうが可愛いもん!))


 アンさんと、金ちゃん、銀ちゃんの二人は、お互いに引かない。


 「皆の好みが分からないから、色々な種類のドレッシングを買ってきたので、サラダなら色々な味を楽しめます」


 ヒーちゃんはアンさんに加勢すると、ニコッと微笑みながらシーザードレッシングをサラダに掛けた。


 ピク。


 耳を動かした金ちゃんと銀ちゃんが、チラチラとヒーちゃんの美味しそうに食べる様子をうかがう。

 二人は興味を持ち始めたようだ。


 「私は、試しに掛けてみたこの和風ドレッシングがさぱっりしていていいですね」


 ケイトもアンさんの加勢に入る。


 ピク、ピクピク。


 二人の耳は正直だ。

 金ちゃんと銀ちゃんは、サラダを口に運んで美味しそうにたべるケイトをジッと見つめる。


 ((じゃあ、ちょっとだけ))


 二人は遠ざけたサラダを手元に戻し、ジーっと数種類のドレッシングの瓶を見つめる。

 そして、二人はサウザンドドレッシングを選び、自分たちのサラダに掛けた。


 パク、モグ……モグ……モグ。


 口に入れてから、恐る恐る咀嚼(そしゃく)する二人。


 ((!!!))


 ガツガツガツ。モグモグモグ。


 気に入ったのか、二人はサラダをがっつくように食べ始めた。


 「そう言えば、金ちゃんと銀ちゃんって、好き嫌いなく生野菜も食べていた気がするけど?」


 「口が肥えて、食べなくなっただけですから……」


 「……そうなんだ。ハハハ」


 僕の疑問にアンさんが答えてくれたが、その回答を聞いた僕は半笑いになってしまう。


 シャルたちは、口々に「美味しい」と感想を述べてはカレーライスを食べる。

 サラダでは、ドレッシングを少し掛けて口にし、「美味しい」と言っては、今度は別のドレッシングを少し掛けて口にし、全種類の味を確かめるように食べていた。


 「マヨネーズも美味しかったですけど、私はドレッシングのほうが好きです。特にこのサウザンドドレッシングとシーザードレッシングは別格です」


 「わしは、この和風ドレッシングも捨てがたい」


 レイリアが満足そうに感想を述べると、アスールさんも気に入ったドレッシングを主張する。

 そこに皆も加わると、どのドレッシングが美味しいかで会話が弾んでいた。


 カレーよりも市販のドレッシングが話題になっていることに、母さんは複雑な面持ちで皆を見つめる。


 「なんで、カレーが評価されてないの……」


 母さんはポツリと愚痴る。


 「カレーだって、市販のルーを入れているだけでしょ」


 僕が言葉を返すと、母さんがキッと睨みつけてきた。


 「あんた、お父さんに似てきたわね」


 父さんに似ていると言われたことが嬉しいだけに、褒められているのか嫌味なのかが分からない。


 (お母さんのカレー、僕、大好き!)


 (ぼくもー!)


 金ちゃんと銀ちゃんが甘えるようにカレーを褒めると、母さんは少し照れ臭そうに微笑んだ。


 ((お母さん、主はヘタレだから気にしちゃダメだよ!))


 「あら、二人とも優しいのね。ヘタレは放っておきましょ」


 ((うん))


 なんで、そうなる……?

 僕はヘタレ扱いされ、悪者として放置されると、そんな僕に気付いたシャルたちは、面白そうに笑っていた。




 夕飯が終わると、金ちゃん、銀ちゃん、レイリア、アスールさんの四人は、満足そうに膨れたお腹をさすりながら横になった。

 カレーが入っていた鍋もおひつも空だ。

 カレーは二日目が美味しいというのに、全部食い尽くされている。

 食い過ぎだ!

 僕は横になっている四人を、呆れて見つめた。


 母さんと姉ちゃんが、余計に買ってしまった果物を大皿に切り分けて入ってくる。


 シャキッ!


 今まで横になっていた四人が、姿勢を正してテーブルに着く。

 ま、まだ食う気か……。


 「金ちゃん……。銀ちゃんとレイリアとアスールさんも大丈夫? そんなに食べてお腹を壊さない?」


 ((デザートは別腹!))

 「「デザートは別腹!」」


 四人は声を揃えて答えた。


 「気をつけなよ」


 僕の顔を見る四人は、ニカッと笑い、親指を立てた。

 本当に大丈夫だろうか?

 僕の心配もよそに、四人はテーブルに並ぶスイカ、メロン、モモを美味しそうに頬張っていく。

 シャルたちは、少し躊躇しながらも誘惑に勝てず、果物に手をつけていた。


 (シャル様たち、美味しくない?)


 「いえ、ファルマティスに並ぶ果物とは比べ物にならないほど、甘くてみずみずしくて美味しいです。でも……」


 金ちゃんの質問に、シャルはお腹を気にしながら、言葉を濁すように答えた。


 (太っても、主の魔法で元通りだよ?)


 「「「「「!!!」」」」」


 ネーヴェさん、リンさん、イライザさん以外は、思い出したかのように僕へ視線を集中させる。


 「フ、フーカさん? いいですか?」


 シャルが代表して、恐る恐る僕に聞いてくる。


 「うん、いいよ。仕方ないよね」


 僕が答えると、シャルたちはホッとした表情を浮かべ、果物を遠慮なく食べ始めた。


 「「「???」」」


 ネーヴェさん、リンさん、イライザさんだけは、何が起きたのかが分からず、頭の上にクエスチョンマークを並べていた。

 さすがに可哀相に思えたのか、シャルとヒーちゃんが僕のエステ魔法を三人に説明をすると、彼女たちは驚いた表情で僕を見つめる。


 「「「私たちもいいですか?」」」


 三人は、僕に了解を取ろうとする。


 「えーと、僕に……その、触られるのが嫌でなければ……」


 「「「はい、大丈夫です!」」」


 嬉しそうに返事をした三人は、気兼ねなく果物に手を伸ばしていく。


 三人を見ていた僕の前に、母さんが立ちはだかる。


 「シャルちゃんとヒサメちゃんの話しって、本当なの?」


 「えっ?」


 腕を組んで仁王立ちの母さんの顔を見上げると、僕を見降ろしながら蔑む目を向けいていた。


 「いや、この能力は、主にツバキちゃんの様々な不可抗力が原因で、僕もこんな能力が発現するなんて思っても」


 「本当なのね?」


 母さんは、僕の言い訳をさえぎる。


 「はい、本当です」


 僕は素直に認めた。


 「ハァー。自分の息子がアダルトビデオのネタのような能力を持っているなんて……。ハァー。恥ずかしくて世間様に顔向けできない息子に成長するなんて……。ハァー」


 僕に向かって何度も溜息を吐いて愚痴ってくる母さんは、額に手を当ててうつむく。

 能力をアダルトビデオのネタとまで言われた僕は、落ち込む母さんを見ているだけで掛ける言葉も見つからなかった。


 「あんた、本当にお父さんに似てきたわね」


 それって、どういう意味で受け取ればいいの? どう反応したらいいのか分からない。


 「母さん、父さんを引き合いに出されると、息子としては反応に困るんだけど……」


 母さんは、ギロッと僕を睨みつける。


 「ヒィッ! ごめんなさい。もう、何も言いません」


 「私とお父さんが知り合った頃の話しなんだけどね」


 謝る僕に、母さんは過去を思い起こすように話し始めた。


 「神社のお手伝いで疲れた私に、お父さんがマッサージをしてくれると言い出してね。素直にマッサージをしてもらっていたら、お父さんったらそれだけでは済まさないで……キャッ。まあ、その時のきっかけでできちゃった子が風音なんだけど、あの時は……」


 「「ギャァァァー!!! それ以上、言わなくていい! っていうか言わないで!」」


 僕と姉ちゃんは悲鳴を上げて、母さんの話しをさえぎった。

 父さんと母さんの生々しい話しを聞かされてたまるか!

 僕と姉ちゃんは協力して、母さんが口を開くと、「「わーわーわー」」と騒いで言葉をかき消す。


 「ちょっと、あんたたち、うるさいわよ! 話せないじゃない」


 「「話さなくていい!」」


 「でも、皆が聞きたがっているのよ」


 母さんが指を差すと、シャルたちが彼女の周りに集まっていた。


 「「……な、なんで?」」


 「フーカさんとカザネ様の誕生秘話を聞けるのですよ」


 シャルが目を輝かせると、皆もコクコクと首を立てに振る。


 「「……」」


 僕と姉ちゃんが呆然と立ち尽くすと、金ちゃんと銀ちゃんが僕たちの背中を押し、部屋の端へと追い出されてしまった。

 すると、母さんが話し始め、皆は前のめりになって耳を傾ける。

 そして、僕と姉ちゃんは部屋の端で耳を押さえてしゃがみ込むのだった。

 あ、悪夢だ……。

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