189話 買い食い
「あっ、そうそう。金ちゃん、銀ちゃん。それとシャルちゃんとヒーちゃんもちょっと来て」
皆でお店に向かって歩いていると、姉ちゃんが足を止めて四人を呼ぶ。
「金ちゃんと銀ちゃんは、このスピーカーをつけて。シャルちゃんとヒーちゃんは、このマイクをつけてね」
姉ちゃんは、小さな二種類のバッジを四人の胸元につけていく。
「「これは?」」
((何、これ?))
「念話を使っても地元の人たちは驚かないと思うけど、よその土地の人たちは驚いちゃうから、金ちゃんの声をシャルちゃんが、銀ちゃんの声をヒーちゃんが担当してね。前にもやったことがあるって聞いたから、大丈夫でしょ」
驚かないって、この地域の人たちはどうなってるんだ……。
僕の脳裏に、ニッコリと微笑むツバキちゃんの顔が浮かんでくる。
その瞬間、何とも言えぬ疲労感を感じ、頭が痛い。
バッジをつけられたシャルとヒーちゃんは、とても嫌そうに顔を引きつらせ、金ちゃんと銀ちゃんは嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。
「金ちゃんと銀ちゃんは、シャルちゃんとヒーちゃんか私たちにだけ、念話を送ること。いいわね!?」
((合点承知の助!))
二人は、姉ちゃんに向かってニカッと笑うと、親指を立てた。
以前にやった小芝居の再来だ。大丈夫だろうか?
僕は不安を抱きながらも、再び皆の先頭を歩き始めた。
商店街に着くと、街の人たちは金ちゃんと銀ちゃんに視線を向けるが、すぐにその視線はシャル、ケイト、レイリア、アスールさん、ネーヴェさん、リンさんに向けられる。
一見、外国人に見える美女ぞろいの彼女たちのほうが、街の人たちにとっては新鮮のようだ。
金ちゃんたちよりもシャルたちのほうが目立っている事実に、それはそれで、どうかと思う……。
商店街に並ぶお店で売っている物が珍しくて仕方がないのか、金ちゃんたちだけでなく、シャルたちまでもがウロチョロと勝手な行動を始めてしまう。
初めて目にする物も多いから、気持ちは分かるが、目立つ行動は控えて欲しい。
「おっ、どうだ! 揚げたて……だぞ? ……うまそう……だろ?」
肉屋のおじさんがコロッケを揚げながら、金ちゃんと銀ちゃんを見て、困惑していた。
二人はおじさんに向かってコクコクと頷くと、湯気を上げているコロッケから目を逸らさない。
「ん? お前ら、その神紋は潤守神社か。なんだ、神社の狐だったのかよ。驚かせるんじゃねーよ!」
おじさんは勝手に納得していたが、何故、納得できるのかが僕には分からなかった。
「どうだ!? 食ってみるか? うめーぞ!」
二人は紙に包まれたアツアツのコロッケを受け取ると、口をパクパクさせてから頭を下げた。
((!!!))
焦るようにキョロキョロと辺りを見回した二人は、シャルとヒーちゃんを見つけると、ムッとした表情を彼女たちに向けた。
(シャル様! 念話を送ったのに、なんで、答えてくれないんだよ!)
(そうだよ! ヒサメお姉ちゃんも酷いよ!)
二人の声は僕たちにも聞こえた。
シャルとヒーちゃんを見ると、二人は服屋さんの店頭に置かれた小物を手に取って、こちらを振り返っていた。
((もう一度ね! 今度はちゃんとやってよね!?))
シャルとヒーちゃんは、金ちゃんと銀ちゃんに向かって大きく頷く。
「「おじさん、ありがとう!」」
金ちゃんと銀ちゃんが口をパクパクさせるのと同時に、シャルとヒーちゃんの声がする。
「お、おう。今回はサービスだけど、今度からは買ってくれよ!」
おじさんは、変な間が空いたことで戸惑いながらも答えた。
「「うん、今度は買いに来るね!」」
二人はおじさんに手を振りながら、僕のところに嬉しそうな表情で戻ってきた。
((主、もらっちゃった!))
満面の笑みで報告する二人に、少しほっこりとしてしまう。
「お、お嬢ちゃんたちは……何だい?」
「「あの子たちの連れです」」
再び肉屋のおじさんの声がする。
そして、レイリアとアスールさんの声もする。
肉屋に視線を戻すと、店の前で二人がコロッケをジーっと見つめていた。
「わ、分かった。ちくしょー。嬢ちゃんたちにもサービスだ!」
「「ありがとう!」」
おじさんからコロッケを受け取った二人が、こちらへ戻って来る。
は、恥ずかしい。こっちにこないでくれ……。
ケイト、リンさん、ネーヴェさんは、ハフハフしながら美味しそうにコロッケを食べる四人を羨ましそうに見つめていた。
「ハァー。皆の分も買ってくるね。姉ちゃん、いいよね?」
「まあ、仕方ないでしょ」
姉ちゃんの了承を得た僕は、肉屋のおじさんのところに行くと、コロッケを七個頼んだ。
「おっ? 久しぶりだな。あの子たちは風和君の知り合いだったのか。まあ、椿ちゃんが絡んでいるんだろうけど、ガンバレよ! 一個おまけだ!」
「ありがとう!」
僕は代金を渡してコロッケを受け取ると、皆のもとへ戻って一人ずつ配っていく。
金ちゃん、銀ちゃん、レイリア、アスールさんも受け取ろうと手を出してくる。
「お前たちは、食べただろ!」
僕が怒鳴ると、「チェッ」と言って、四人は別のお店を覗きに行ってしまった。
だから、なんで散らばるんだ! 一ヶ所にまとまっていてくれ……。
道のど真ん中を食べながら歩くのも気が引けるので、僕たちは端によってコロッケを食べ始める。
「ねえ? 肉屋に行ったのに、コロッケだけで豚肉は買ってこなかったの?」
「あっ! 忘れてた」
姉ちゃんに指摘され、僕は肝心な物を買い忘れていたことに気付いた。
コロッケを食べながら、再び肉屋に行く。
「おじさん、豚こま肉を二キロ欲しいんだけど」
「そんなに何に使うんだ?」
「カレーなんだけど、人数が多くて」
「おう、そうか。なら、豚バラもおまけでつけてやるよ!」
「ありがとう!」
おじさんに代金を渡して肉を受け取ると、思っていたよりも重い。
そして、ビニール袋の持ち手が手に食い込んで痛い。
姉ちゃんたちのところへ戻ると、肉をしまってもらうために金ちゃんたちを探す。
食べ物を店頭で販売している店に視線を向けると、金ちゃんたちは、すぐに見つかった。
四人は、大判焼の店の前でお姉さんが作っているのを、楽しそうに眺めている。
僕は、そのお店へと行く。
「金ちゃん、このお肉をしまってよ!」
声を掛けると、金ちゃんだけでなく、他の三人もこちらを振り向く。
((これ、買って!))
「「食べてみたい!」」
僕の頼みとは別の回答が四人から返ってきた。
「また今度ね。今日は我慢して」
(買ってくれないなら、しまってあげない)
金ちゃんがプイっと横を向くと、他の三人も横を向く。
なっ! こいつらはー。
僕は怒りを抑えて、平常心を保つために大きく深呼吸をした。
「姉ちゃん?」
母さんから渡されたお金にも限界はある。
僕は、助けを求めようと、姉ちゃんにを頼った。
「ハァー。仕方ないわね。一人一個だけだからね」
姉ちゃんが許可を出すと、四人の顔が明るくなった。
「このままじゃ買えないから、金ちゃん、この荷物をしまってよ」
(合点承知の助!)
金ちゃんが肉の入った袋に触れるとシュッと消えてしまう。
僕は急に軽くなったことで、後ろへひっくり返りそうになった。
「危ないな。急にしまわないでよ」
(えー。わがままだなー)
金ちゃんは、僕に向かってふくれっ面をする。
「ねえ、店の前に突っ立ってないで、買うか買わないか決めてくれる?」
大判焼き屋のお姉さんに、急かされてしまった。
「買います。えーと……」
僕はメニューを見て、戸惑った。
各一六〇円なのだが、選べるあんの種類が、あんこ、白あん、うぐいすあん、カスタード、チョコレート、チーズと六種類もあったからだ。
「えーと、どれが食べたい?」
僕が振り返ると、金ちゃんたちはメニューを覗き込んで悩みだす。
「私はうぐいすあんがいいです」
彼らの後ろにいたヒーちゃんが、真っ先に注文した。
「じゃあ、私はチーズかな」
姉ちゃんも間をあけずに注文をする。
「ん? よく見たら風音じゃない! 久しぶりー! ってことで全種類買いなさい!」
「なんで、そうなるのよ!」
お姉さんは、姉ちゃんの知り合いだったようだ。
((全種類で!))
「「全種類で!」」
「毎度あり! 狐ちゃんたち乗りがいいね! お姉さん、そういう子たち好きよ!」
金ちゃん、銀ちゃん、レイリア、アスールさんが一人一個を無視して、全種類を注文してしまった。
「何を言ってるんだよ! 一人一個だろ!」
お姉さんにおだてられた四人は、照れ臭そうにしながら僕の顔を見る。
すると、目を泳がせながら首を傾げた。
「そんなに注文して、どうするんだよ!?」
((食べる!))
「そういう意味じゃない!」
そんな僕たちを見たお姉さんは、笑いだしてしまったが、大判焼きを作る手は止めずに、作り続けていた。
「ん? 金ちゃん、銀ちゃん? ……今、普通に念話を使ったよね?」
(あっ。……記憶にございません)
金ちゃんは横を向く。
(アレでは無理!)
銀ちゃんは、すでに大判焼きを渡されて、美味しそうに頬張るヒーちゃんを指差した。
「弟君、この辺の人たちにとっては、これくらいの怪奇現象は、慣れっこみたいなもんだから大丈夫よ!」
「そ、そうですか……」
怪奇現象が慣れっこって、どんな地域だ……。
「それより、弟君、私のことを忘れちゃったの?」
「えっ?」
「あー。これは忘れてるわね。昔は私の胸を見れば、すぐに飛び込んできてたのに……残念。グスン」
お姉さんは泣いたふりをして、姉ちゃんよりも豊かな胸を揺らした。
その胸に、思わず視線を向けてしまった僕は、すぐに視線を逸らす。
だが、皆からは、蔑むような視線が浴びせられていた。
気まずい雰囲気の中、僕は大判焼きが焼きあがるのを待つ。
そして、お姉さんと姉ちゃんは、久しぶりの再会に、会話を弾ませていた。
その会話の内容は、僕が小学生だったころの話しが多く、姉ちゃんとお姉さんが遊んでいるところに僕が来ると、姉ちゃんを無視してお姉さんの胸に飛び込み、そこへ、シズク姉ちゃんが現れると、今度は彼女の胸に飛び込んで、大きな胸を渡り歩いていたというものなど、僕の恥ずかしい話しばかりだった。
そんな話しを一緒になって聞いていたシャルたちは、一つの話しが終わる度に、僕を蔑む目で見つめていた。
気まずい雰囲気は、ますます気まずくなり、僕はいてもたってもいられない状態の限界に達しつつあった。
「はい、全部焼きあがったよ。あんの種類ごとに別けて包んであるから、よく見てから配ってね!」
「は、はい、どうも……」
お姉さんから焼きあがったばかりの大判焼きを受け取った僕は、気恥ずかしそうに代金を渡して、その場を離れる。
「弟くーん! 私の胸に飛び込みたくなったら、また、買いに来てねー!」
お姉さんは両腕で胸を挟んで強調し、立ち去る僕に、恥ずかしい言葉を大声で投げ掛けてくる。
近隣のお店の人たちが、こちらを見て笑いだしていた。
は、恥ずかしい。早くこの場を立ち去りたい。
「「「「「スケベ!」」」」」
((主のエッチ!))
皆が、僕にとどめを刺してきた。
今は違うのに……。もう、勘弁して下さい。
僕は次による八百屋さんへと、急ぐのだった。
八百屋では、玉ねぎ、にんじん、ジャガイモを選んで、お店のかごに入れる。
「フーちゃん、サラダに使う野菜も買わないと」
「うん、分かった」
姉ちゃんに言われ、僕はレタス、キャベツ、トマト、キュウリをショッピングカートに入れていく。
「人数が多いから、大根も買ったほうがいいわよ」
再び、姉ちゃんに言われ、僕は大根を手に取り、ショッピングカートへ入れようとする。
ショッピングカートにいれたはずのレタスとキャベツがない。
キョロキョロと辺りに目を向けると、金ちゃんと銀ちゃんがレタスとキャベツを元の位置に戻していた。
「おい! なんで、戻してるんだよ!」
((いやー、葉っぱはちょっと……))
「サラダには必要なんだから、持ってこい!」
二人は渋々と戻って来て、ショッピングカートの中に入れる。
「おい!」
((なーにー?))
「これは何?」
((レタスとキャベツ?))
「違うだろ! これはトウモロコシと桃だ。色も形も違うだろ!」
((あれー?))
二人は首を傾げて誤魔化す。
こ、こいつらは……。
「レタスとキャベツを取ってこないなら、夕飯のカレーは抜きだね」
((なんですとー!))
二人の顔が青ざめると、焦るようにレタスとキャベツを取りに行った。
そして、緑色の玉を抱えて戻って来る。
「……それは?」
((レタスとキャベツ?))
「いや、どう見ても違うよね?」
((えっ? 色も形も同じだよ))
「嘘をつくな! それは、スイカとメロンだ!」
「「チッ!」」
二人が舌打ちをした。
「……カレーは抜きのようだね」
((ちょっと待って! わんもあちゃーんす!))
二人は、レタスとキャベツへ向かって走りだす。
……今のって、英語だよな? 本当に何処で覚えてくるんだ……。
戻ってきた二人は、今度はレタスとキャベツを抱えていた。
ショッピングカートを押してレジに行くと、お会計をしてもらう。
ん? あれ?
レジスターの液晶に映る金額が、思っていたよりも大きな数字を表示する。
買った品物を見ると、金ちゃんと銀ちゃんが、レタスとキャベツの代わりに入れた品物がそのままだった。
やってしまった……。今さら返却するには、その品物が多すぎて恥ずかしい。
仕方なく代金を払い、お釣りとレシートを受け取る。
きっと、母さんに怒られるな……トホホ。
買った野菜は、金ちゃんに収納魔法でしまってもらい、スーパーへと向かう。
歩いていると、金ちゃんと銀ちゃんが鼻をクンクンさせながら離れていく。
「おーい。どこにいくんだよ」
((主、いい匂いがする!))
二人の向かう先には、『たこやき』と書かれたのぼりが立っていた。
うっ、マズい! 早く二人を止めないと。
僕は二人を連れ戻しに行く。
「おっ、いくつ欲しいんだ?」
店の前に立つ金ちゃんと銀ちゃんにたこ焼き屋のおじさんが声を掛ける。
二人は口をパクパクさせた。
「「二〇人前!」」
シャルとヒーちゃんの声がスピーカーから流れる。
「まいどー!」
おじさんは、嬉しそうに答えると、作り始めてしまった。
僕は青ざめて後ろを振り返り、シャルとヒーちゃんを見る。
「「ご、ごめんなさい。念話につられて……」」
二人は申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
もう、頼んでしまったものは仕方がない。
僕は溜息を吐いてうなだれた。
「これはサービスだ! ちょっと時間が掛かるから、それでも食って待ってくれ!」
おじさんは気を遣ってくれたのか、こちらの人数を確かめるように見つめてから、出来上がっていた二パックを金ちゃんに渡した。
「ありがとう」
シャルの声が金ちゃんから聞こえる。
金ちゃんと銀ちゃんは、僕たちのそばに来て、たこ焼きのパックを開けた。
そして、一人に一個ずつ配っていく。
出来上がっていたものだったが、まだ中のトロトロは熱く、皆でハフハフしながら食べた。
久しぶりのたこ焼きの美味しさに感動して、ジーンと胸に何かが響いてくる。
たこ焼きって、こんなに美味しいものだったんだ。
焼きあがったたこ焼きをおじさんから渡され、代金を支払う。
受け取ったたこ焼きは、この場で食べている余裕はないので、金ちゃんに収納魔法でしまってもらって、スーパーへと急ぐ。
買い食いで、お金が減っていくことに、僕は少し焦りを感じていた。
これは、母さんに怒られるのが決まったな……グスン。
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