18話 闇ギルドの襲撃
評価、ありがとうございます。
キンッ、キン、カン。
外がうるさい……。
「フーカ様、起きて下さい。レイリア、あなたも、さっさと起きる!」
アンさんに起こされ、僕は目を覚ます。
柔らかくて……く、くるしい……。
僕の顔はレイリアの胸に挟まれていた。
「ぷっはぁー!」
彼女の拘束からどうにか抜け出した。
「アンさん、こんな夜更けに、どうしたんですか?」
「襲撃です。急ぎ、支度をお願いします!」
そう言った彼女は、まだ僕の隣で、気持ちよさそうに寝ているレイリアのお尻を叩く。
パシーン!
「いったぁぁぁ! フーカ様! 何をするんですか!」
レイリアがこちらに向かって頬を膨らませる。
「いや、僕じゃないから!」
「レイリア、襲撃です! 早く支度をなさい!」
「へっ?」
レイリアは間の抜けた返事をして、アンさんを見つめる。
「あっ、はい、アン様! すぐに準備をします!」
彼女は飛び起きて支度を始め、僕も支度を急ぐことにする。
その間、アンさんはカーテンの隙間から外を窺い、先に支度を済ませたオルガさんは、ヨン君と一緒に、扉側の様子を窺っていた。
僕とレイリアが支度を終えると、オルガさんの合図で廊下へと出る。
そして、階段から一階の様子を窺っていたシャルたちに合流した。
レイリアを先頭にして、僕たちは周りを警戒しつつ、一階の玄関へ向かうと、あっさりと辿り着くことができた。
襲撃者たちは、まだ、宿の中まで辿り着けていないようだ。
「建物には被害がなさそうで良かったね」
「そうですね。ですが、私たちが建物内に潜んでいれば、被害が出てしまいます」
こんな状況下でも、シャルは冷静さを保っていた。
皆も落ち着いている。
そして、レイリアが扉を少し開け、外の様子を確認している。
「どうですか?」
「あっ、シャル様。どうやら襲撃者の数が多くて、均衡しているようです」
「ここは堂々と出て行きましょう! こちらの人数を減らされてからでは、シャル様、フーカ様、ヨン君を護りきれません!」
アンさんはそう言って、背中から折りたたまれた棒を取り出した。
カチャ、カチャン。
組みあがると、それは黒く光る鎌が特徴的なデスサイズであった。
その大きな鎌を構えたメイド姿のアンさんを見て、僕はカッコいいと思う反面、恐怖で鳥肌も立つ。
デスサイズを構えるアンさんの横に、オルガさんが並び、ナイフを構える。
「オルガさん、ちょっと待って! これ使って!」
僕はリュックの底板にされていた箱を取り出す。
その薄いプラスチックの箱を開けると、中には艶が無い黒色のナイフが二本入っていた。
僕は、それを彼女に手渡す。
「フーカ様、ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
オルガさんはナイフを両手に持ち、微笑んだ。
「では、いきます!」
レイリアが扉を勢いよく開け放ち、飛び出していくと、彼女の後を続くようにアンさんとオルガさんも飛び出していった。
レイリアは、僕たちから離れすぎない間隔を保ちながら、正面を進んでいく。
アンさんとオルガさんは、左右に別れて、僕たち一行の側面を護るように、少し離れた位置で僕たちと同じ速度で歩を進める。
周辺では、キンッ、キンという音と共に、金属の火花が散っている。
護衛の騎士たちが唸り声をあげて、黒装束の集団と戦っているのが、辺りに見受けられる。
こちらに気付いた黒装束の一部が向かってくると、それを察したメイドさんたちが、剣やナイフを手に取り、彼らの行く手を阻んでくれた。
こっちの戦力は、僕たちを合わせて三〇人、敵はざっと見ただけでも五〇人以上はいるようだった。
おそらく、こちらの倍以上の人数を揃えて襲ってきている。
戦術としては、理想的だろう。
しかし、これだけの人数を投入したら、最初に刺客を放った意味があるのか? 僕たちを捕獲する事に切り替えた? それとも、こちらの全滅を狙っているのだろうか?
僕は悩みまくった。
何故なら、敵の意図がまったく理解できなかったからだ。
「シャル、敵が何を考えてるかわかる?」
シャルに向かって、腕を組みつつあごに手をあてると、首を傾げてみせた。
「なっ、こ、こんなときに余裕ですね……。正直、私にも見当がつきません。こんな襲い方をしたら、町中に知れ渡るのに……。何をしたいんでしょう?」
シャルに質問で返されてしまった。
「だよね。僕も分かんないから聞いたのに……」
「お二人とも、今はこの場を切り抜けることに集中して下さい!」
「「ごめんなさい」」
僕とシャルは、イーリスさんに叱られてしまった。
メイドさんたちだけでは阻み切れなかった一団が、僕たちの左側に展開すると、真っ直ぐにこちらへ向かってきた。
その一団を視野に入れた僕たちに、緊張が走る。
アンさんは、落ち着いた様子で、その一団へ向かって行った。
彼女は、黒い集団の中で、デスサイズをクルクルと振り回し、ダンスでも踊っているように舞いだす。
そして、彼女が集団から抜け出ると、血を吹きだした黒装束たちが倒れていった。
彼女の戦う姿は、奇麗でかっこ良かったのだが、実際の戦場と死体を目の当たりにすると、グロテスクで気持ちが悪い。
それに、僕たちを殺すつもりでいる敵だと分かっていても、その人たちが死んでいく姿を見ているのは、とてもつらかった。
今度は、右側にも黒装束の一団が現れた。
メイドさんたちも頑張って抑えていたが、突破されたようだ。
彼女たちにも限界はある。
僕は、彼女たちに死傷者が出ていないことを願うしかなかった。
右側の一団には、オルガさんが向かって行った。
彼女が先頭で剣を構えた黒装束の脇をすり抜けると、その黒装束の首のあたりから血しぶきが上がる。
その後も、彼女は器用に敵の間をすり抜けて行く。
そして、彼女の通った後には血しぶきが上がり、敵が倒れていった。
まるで、映画やアニメの一場面でも見ているようだ。
僕たちは歩みを進める。
騎士やメイドさんたちによって、殺された人たちの脇を、レイリアの先導で通り抜けていく。
そこには女性らしき死体も混じっていた。
それを見た僕は、恐怖と悲しみで気分が悪くなったが、その中に見知った人たちの姿がなくて、ホッとしているのも事実だ。
こんなことは、決して認められるものではなかったが、ここは日本ではないのだ。手加減をすれば、ここに倒れているのは僕たちなのだから……。
僕は、頭では分かっていても、感情がついてこない感覚に襲われ、苦悩する。
そんな僕の震える手を、シャルが握ってくれた。
彼女の手の温もりが僕に安心感を与えてくれる。
「フーカさんのいた国では、こんなことはないのでしょうけど、こちらでは、これが現実です。ですが、この光景を仕方のないことだと認めることも肯定する気もありません。ただ、こんなことが起きない国を造りましょう」
「うん、そうだね」
僕は、シャルの手を強く握り返した。
その後も歩みを進めていると、視界の端に何かが光った。
何かが飛んでくる気配を感じ、僕はシャルを背後から抱きしめるように覆いかぶさり、かがんで目をつむる。
すると、彼女には僕の手にちょうどいい大きさの柔らかい膨らみがあり、その膨らみを握ることで彼女の身体を自分の身体に引き寄せることが出来た。
背中をプスッ、プスッという音と共に、数回叩かれた感触が伝わる。
「「「キャー!!!」」」
ミリヤさんたちの悲鳴が聞こえる。
彼女たちの安否も気になったが、今はシャルを庇うことで精一杯だった。
「よくもー!!!」
ケイトの叫び声が聞こえると、間髪を入れずに、シュッ、シュッ、シュッと風切り音が聞こえた。
そして、ドゴーン、ドゴーン、ドゴーンと大きな爆発音が連続で耳に届く。
僕は爆発音まで聞こえる状況に、何が起こっているのか分からず、ただ、シャルを自分に引き寄せるようにギュウと抑え込んだ。
そして、状況が分からないという恐怖で何度も手に力が入り、手にしていた膨らみを何度も握った。
「あん、んあ、んん」
何故か、シャルが変な声を上げている。
シャルの悶えるような声を聴きながら、この状況が収まるまで待っていると、誰かが僕の肩を揺する。
「大丈夫ですか? フーカ様、大丈夫ですか?」
イーリスさんの声だ。
目を開け、頭を上げると、彼女は血の気の失せた顔で、涙を浮かべてこちらを見つめている。
辺りを見回すと、僕たちを中心に、円陣が組まれていた。
間隔を空けていたレイリア、アンさん、オルガさんも戻って来ている。
「大丈夫だよ! 爆発音が聞こえたときは、怖かったけど……アハハ」
僕が笑い交じりで答えると、皆が信じられないという目で僕を凝視する。
「ほ、本当に、大丈夫なのですか?」
「イーリスさんは、心配性だなぁー。何ともないし、ピンピンしてるよ!」
「そ、そうですか……」
イーリスさんは、納得していない顔をしながら立ち上がる。
それを見て、僕もシャルを抱えながら、立ち上がった。
その時に、彼女を起こすために、手にしていた膨らみを強く握って持ち上げる。
「んあ、そんなに強くされたら……」
彼女は妙なことを言い出したあとに、自分の足で立ったのだが、身体に力が入らないらしく、僕に寄りかかってきた。
すると、皆がこちらを見て、目を丸くし、一点を見つめている。
そして、ケイトが僕の代わりに背負っていたリュックを背負いなおして、顔を真っ赤にした。
「フーカ様、私にこんな重いリュックを背負わせておいて……。それに、こんな状況なのに、何を楽しんでいたんですか?」
ケイトは、ムッとした表情を僕に向ける。
僕は彼女が何に怒っているのかが分からないので、助けを求めようと他の面々に視線を向けると、困り果てたような顔をされた。
モニュ。
「あん」
「あっ、シャル、ごめん」
僕はシャルの胸を鷲掴みにしていることに、たった今、気付いた。
「うわ! ごめん! わざとじゃないんだ!」
直ぐに手を放すと、シャルがよろけたので、再び身体を支えたが、彼女は、その場にへたり込んでしまった。
大丈夫か心配になり、覗き込むと、彼女は顔を紅潮させて、どこかトロンとした表情をしていた。
「人に死ぬほどの心配さておいて……。こ、この人は、ここまでのスケベだとは思いませんでした。もう、許しませんよ! どんなお仕置きをしましょうか……ウフ、ウフフ、ウフフフフ」
ケイトがとても怖い、怖すぎる……。
「ケイト、誤解だって! その……本当に、わざとじゃないんだ! ちょうど、手ごろで持ちやすかったから……」
「なっ、何ですか! 人の胸を手ごろな持ちやすさって! 取っ手みたいに言わないで下さい!」
今度は、シャルが激怒しだす。こ、怖い……。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい!」
僕は、怒られている理由も皆が困り果てている理由も理解し、ケイトとシャルだけでなく、皆にも深く頭を下げた。
「ヒィッ! フ、フーカさん? な、何ですか……それ……?」
シャルが青ざめて、僕を指差す。
「えっ? 何?」
僕は、何を言われているのかが分からなくて、首を傾げてみせた。
「背中に、矢が三本も刺さってるように見えるんですけど……」
シャルに言われて、皆にも目を向けると、ウンウンと頷いている。
そこで、何とか見えないかと首をひねるが無理だった。
僕の背中には痛みも違和感もなかったが、ベストを脱いで確認してみると、三本の矢がベストに突き刺さっていて、血の気が引いていく……。
ベストの内側を確認すると、矢はベストを貫いてはいなかった。
もしやと思い、タグの表示を確認すると、衝撃吸収材の入った防刃ベストだった。
姉ちゃんが軍オタで良かった!
このままでは邪魔なので、ベストに刺さった矢を抜く。
「ぎゃー!」
僕の叫び声に皆がどよめいた。
「どうしました! 何か問題でも?」
イーリスさんが僕に駆け寄る。
「矢のかえしが、ベストの生地に引っかかって、破けちゃった……」
僕はガックリと肩を落とす。
「これくらいなら、元通りにとはいきませんが、別の生地をあてれば治せると思いますよ」
治せると聞いて、僕はホッと胸をなでおろす。
「ところで、背中は大丈夫なのですか?」
「うん、このベストが防刃だったおかげで、矢がベストを貫通できなかったから、何ともない」
「そうですか。安心しました」
イーリスさんの顔に笑顔が戻った。
僕は、破けた個所を手でさすってから、ベストを再び着る。
「それでは、馬車まで急ぎましょう!」
イーリスさんはそう言って、周りを警戒すると、アンさんに目配せをした。
「シャル様、フーカ様、私はレイリアを連れて、シリウスたちの加勢に行きます。オルガ、皆を頼みます!」
「はい、任せて下さい」
オルガさんが頷く。
「レイリア、行きますよ」
「はい、アン様」
レイリアとアンさんは、まだ、剣のぶつかる音がしている方向へと走り去って行った。
今度は、オルガさんの先導で馬車へと向かう。
「フーカ様、今回は、ルース……シズク様の加護に護ってもらえませんでしたね……」
ミリヤさんが首を傾げる。
「……一回だけなのかな? それとも、飛び道具だと反応しないとか?」
「レイリアの時は、その扇子にかけられた付与魔法が、発動したのですが……。今回は、まだ、力が失われていないのに、発動しませんでした」
「だとすると、飛び道具がダメなのかもしれないね」
「そうなりますね。これからは飛び道具に注意して下さい」
彼女が心配そうに僕を見つめるので、黙って頷いた。
やっと、馬車が見えてきた。
その周辺では、既に戦闘は収まっており、騎士とメイドさんたちが右往左往と忙しくしていた。
その中心では、シリウスが陣頭指揮を執っている。
この状況で、混乱せずにいられたのは、彼が優秀だったおかげだろう。
僕たちは、状況を知るために、彼のところへと向かう。
「シリウス、状況はどうですか?」
「シャル様。こちらは片付きました。あとは、襲撃者の亡骸をまとめるだけです。それと、生き残りは拘束してあります」
「そうですか。襲撃者は、やはり、闇ギルドですか?」
シリウスは頷いた。
「襲撃者の身体に、蛇がナイフに絡んだ刺青がありました。しかし、一〇〇人も投入して、何を考えているのか? 想定外で、さすがに驚きました……」
「えっ! そんな大規模な襲撃だったのですか……。生き残りから、情報は得られましたか?」
「それが……ミリヤ様とフーカ様の殺害を指示されたグループと、我々を襲い、加勢が来たら、速やかに撤退するように指示された二つのグループが、かち合っていたようです」
「な、何ですか、それは……」
彼は苦笑するしかなく、シャルは報告を聞いて呆然とする。
横で話しを聞いていた僕も呆れて、苦笑するしかなかった。
それでは、敵の意図が分かるはずもない、同じ標的への襲撃をブッキングさせるなんて、闇ギルドはバカなのか……。
「闇ギルドって、いくつもあるの?」
「カーディア帝国には一つだけです」
「だとしたら、闇ギルドってバカなの?」
「ハハハッ。そうですね。ですが、断れない客からの依頼がかぶり、仕方なく遂行したとすると、依頼主が二人いることになりますね」
シリウスは笑ってはいたが、その顔は困っているようだった。
「権力を持っているか、太っ腹なお得意様が二人いて、どちらも断れなくて、依頼を受けちゃったんだね……。闇ギルドも大変だね」
「依頼の内容を、他の客に漏らすわけにもいかないでしょうから、襲ってきた相手に同情する気にはなれませんが、ギルド長は、頭を抱えたことでしょう」
僕はシリウスと目が合わせ、思わず笑ってしまう。
「何だか、楽しそうですね!」
レイリアが戻ってきた。
「レイリア、おかえり! 怪我はしてない?」
「ただいま戻りました! 怪我はしてません! それで、楽しいことでもあったんですか?」
「シリウスと襲撃者が依頼をブッキングさせたまま実行したことを、バカだねって話してたんだよ」
「ああ、そのことですか。私も驚きました。こんなこともあるんですね」
彼女は、布で返り血を拭いながら、ニコニコしていた。
でも、彼女のその血まみれの姿は、少し怖かった。
よくよく考えてみれば、これだけの戦闘で、こちらの軽傷者が数人で済んで良かったと思う。
それに、一〇〇人対三〇人だったのに、こちら側が難なく圧勝しているのにも驚きだ。
いくら選抜された人たちだったとはいえ、その戦闘力の高さにも驚かされる。
そして、メイド服姿で敵を倒していくアンさんとオルガさんの戦闘を思い出すと、彼女たちが味方で良かったとつくづく実感し、身震いした。
シャルがこちらに小走りで向かってくる。
「フーカさん、あとは町の憲兵隊に任せて、私たちは出発しましょう」
「うん、分かった」
レイリアにも声を掛けようとしたら、彼女は、いつの間にかいなくなっていた。
僕は少し辺りを見回したが、彼女を見つけられず、シャルと一緒に馬車へと向かうことにした。
馬車の周辺や中には、アンさんとオルガさんの姿も見えない。
さっきまで、忙しくしていたメイドさんたちも見当たらない。
僕がキョロキョロしていると、イーリスさんが、声を掛けてきた。
「彼女たちは、戦闘の汚れを流しに行ってます」
「ああ、なるほど」
それを聞いて納得した。
僕は先に馬車へと乗り込んで、彼女たちを待つことにする。
しばらくして、一人の騎士が馬車に来ると、町長が面会を求めてていることを告げる。
シャルはイーリスさんを連れて、馬車を降りると、町長のところへと向かってしまった。
二人が立ち去ると、ケイトがこちらを見てニマニマする。
何だか嫌な予感しかしない……。
「フーカ様、あの状況では聞けなかったのですが、シャル様の胸を揉みまくった感想を教えて下さい!」
ミリヤさんとヨン君が溜息を吐いて、うなだれた。
「あの時は必死で、そんな余裕はなかったよ」
「そんなことを言って、持ちやすかったとか言ってたじゃないですか? 手にしっくりとくるほど良かったんじゃないですか? 私は死ぬほど心配したんですよ! それに、攻撃魔法まで使ったんですよ! 教えてくれてもいいじゃないですか!?」
「うー、柔らかくて、服越しでも気持ち良くて、揉みごこちも良かったです……」
正直に答えだす僕に、ミリヤさんとヨン君が何とも言えぬ視線を送ってくるが、その視線は、すぐに可哀想な子を見るような目へと変化した。
バタン!
馬車の扉が勢いよく開かれ、顔を真っ赤にして、背後に炎のような物をまとったシャルが車内を睨みながら乗り込んできた。
その傍らには、頭を押さているイーリスさんがいる。
今の話しを聞かれてしまった……。
「「ヒィッ!」」
僕とケイトは、シャルの形相に悲鳴を上げる。
「ケーイートー。あなたは、減俸と、しばらくの間は、アンとイーリスに仕えることを命じます! たっぷり、鍛えなおしてもらいなさい!」
ケイトは余程のショックを受けたのか、白目をむいて意識を飛ばした。
「それと、フーカさんも何を考えているんですか! ヨン君もいるのに、私の胸の感想を語るなんて……。フーカさんには、罰として……罰として……。そうだ、レイリアも側室として迎えてもらいます。それと、アルセ城塞都市に着いたら、私のマッサージもしてもらいます!」
「えっ、そ、そんな……」
「い、い、で、す、ね!」
「は、はい」
彼女は腕を組み、僕の反論を一切許してくれなかった。
その後ろでは、お風呂に入って、汚れを落としてきたレイリアが、香油の香りを漂わせながら、固まっていた。
僕とケイトのとばっちりを、レイリアが受けてしまった……のか?
車内に全員が乗り込むと、馬車は動き出す。
ケイトとレイリアは、呆然と座席に座り、ピクリとも動かない。
そして、僕はレイリアとの結婚を追加されて、呆けていた。
すると、馬車が進む方向から、大勢の兵士がこちらに向かって来くる。
その兵士たちの指揮官と思われる者がシリウスと何かを話すと、その一団は、僕たちが泊まった宿の方へと行ってしまった。
「憲兵隊です。今頃になって到着とは、いい御身分ですね」
イーリスさんが皮肉を言う。
「仕方ないでしょ。町長の話しでは、レクラム卿からの護衛の騎士団が合流するまで、手を出さないようにと言われていたのだから……」
シャルは困った表情を浮かべた。
「その護衛の騎士団は、来ませんでしたね」
「そ、そうね……」
イーリスさんが再び皮肉を言うと、シャルは相槌を打ち、そして、二人はは同時に大きな溜息をついた。
二人の話しを聞いていて、思うところはあるのだが、今は何も考えたくない。
レイリアに視線を向けると、彼女は、まだ魂が抜け出ている状態だった。
僕と結婚させられることが、そんなにショックだったのかと思うと、彼女には好かれていると思っていただけに、とても切なく感じる。
ファルマティスに来て、三人との婚約が決まってしまった。
椿ちゃんたちと連絡が取れた時に、何を言われるかを想像すると、とても憂鬱になるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字、おかしな文面がありましたらよろしくお願いいたします。
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