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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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175話 真のファルレイク帝国皇帝

 僕たちは牢屋の奥へと廊下を歩いていた。


 「そうだ。金ちゃん、会って欲しい人って誰?」


 (お菓子の人)


 「はあ?」


 (違った。えーと、マーカリ)


 「マーカリ? ……。…………。ん? ちょっと待ったー!」


 ビクッ!


 ((シー))


 僕が叫ぶと、二人は人差し指を口に持っていく。


 「あっ、ごめん。だけど、マーカリって、あの皇帝じゃないか!」


 フルフル。


 二人は首を横に振った。


 (違うよ。マーカリだけどマーカリじゃないんだよ)


 「??? 何を言ってるの?」


 僕が首を傾げると、金ちゃんも首を傾げる。


 (あれ? マーカリなんだけど、あのマーカリじゃなくて、マーカリなんだよ)


 「いや、それってマーカリでしょ」


 (そうなんだけど、あのマーカリじゃないマーカリなんだって、なんで、分かんないかなー?)


 「分かんないよ」


 ((主って、バカなの?))


 金ちゃんと銀ちゃんが呆れた顔をする。


 「やかましいわ!」


 ((シー))


 「あっ、ごめん」


 僕は金ちゃんとの進展しない会話に疲れてうなだれた。


 (とにかく、会えば分かるよ。あの皇帝の双子のお兄ちゃんだから)


 「!!!」


 金ちゃんの言葉に、僕は驚き、そして、納得した。


 「双子の兄って……。金ちゃん、それを先に言ってよ」


 (あっ、これは失敬。テヘ)


 彼は頭を掻いて誤魔化した。


 「ハァー」


 僕は大きな溜息を吐きながら、歩を進める。

 そして、銀ちゃんの先導で、皇帝の双子の兄がいる部屋へ向かうのだった。




 廊下の突き当りに着くと、そこには鉄格子の扉と鉄製の扉の二重扉があった。


 ギィー。


 銀ちゃんは躊躇(ちゅうちょ)なく鉄格子の扉を開ける。


 「ここの扉は、鍵がかかっていないんだ」


 (ううん。僕がピッキングで開けたの)


 銀ちゃんは、数本の特殊な工具を指に挟んで見せつけて、得意げな顔をする。


 「……ピッキングって、どこで覚えたんだ!? それに、その工具は?」


 (アカネお姉ちゃんに教わった。この工具は課程修了の証としてもらった)


 「……」


 アカネ姉ちゃんは、何を教えているんだ……。


 「ん? ねえ、銀ちゃん。牢屋の扉もそれで開けられたよね?」


 (あっ! ……自分、過ぎたことは気にしないんで)


 「何をカッコつけてんだ!」


 僕が怒鳴ると、彼は顔を逸らして、こちらを振り向こうとはしなかった。

 こ、こいつは……。




 金ちゃんは、僕と銀ちゃんのことを面白そうに見つめていた。

 僕と目が合うと、そそくさと二つ目の鉄製の扉を開けた。


 ゴン!


 「痛っ!」


 扉がシャルの頭に当たって、痛そうな音が響くと、金ちゃんの顔は青ざめる。


 (……えーと、マーカリ、ただいまー! 主とだらしなく寝ているシャル様を連れてきたよ!)


 彼は何事もなかったかのようにとぼけて、中へ入って行く。

 僕と銀ちゃんは彼の後に続くが、火の粉がこちらへ飛び火しないように、距離は開けておいた。


 「き、金ちゃん? 今、凄い音がしましたが、大丈夫なのですか?」


 皇帝とそっくりの顔をした青年が心配そうに駆けつけてきた。


 (気にしないで、僕じゃないから大丈夫! それに、あんなことをされても、まだ、寝てる……)


 金ちゃんは抱えているシャルに視線を向けると彼女と目が合い、恐怖でおののく。

 そして、泣きそうな表情でこちらに振り返った。

 巻き込まれたくない僕と銀ちゃんは、すぐに顔を逸らした。


 「金ちゃん? 何か言うことがあるのではないですか?」


 (シャ、シャル様、ぎょ、ぎょめんなさい!)


 彼は、恐怖でろれつが回っていない。


 「金ちゃん? 私はだらしなく寝てるのですか?」


 (しょ、しょんなことはありましぇん。可愛い子狸のようでありましゅ)


 「子狸?」


 シャルの目が座ると、彼は今にも泣きそうな顔をしていた。


 (ぎょ、ぎょめんなさい)


 金ちゃんはバカだ。なんで、子狸なんて例えが出てきたんだ。

 僕と銀ちゃんは顔を付き合わせると、溜息を吐いてうなだれた。


 「金ちゃん、降ろして下さい。そして、そこに座りなさい」


 (ひゃい)


 その後、数十分間、シャルは金ちゃんにお説教をしたのだった。




 お説教が終わると、ゲッソリとした金ちゃんは、青年の横に立つ。


 (こちら、マーカリ皇帝の双子のお兄ちゃんのマーカリ)


 青年をややこしく紹介する金ちゃんに、僕とシャルは頬を引きつらせる。


 「マーカリ・フォン・ファルレイクです。よろしくお願いいたします。今、マーカリの名で皇位についている者は、私の双子の弟のダリアス・フォン・ファルレイクです。愚弟がご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 「いえ、あなたが悪いわけではないので頭をお上げ下さい」


 マーカリが頭を下げると、弟とは違って礼儀正しい彼に、僕は少し困惑してしまった。

 

 「僕はユナハ国国王、フーカ・モリ・ユナハです。こちらは王妃のシャルティナです。こちらこそよろしくお願いします」


 僕とシャルは軽めに頭を下げた。


 「あなたが金ちゃんと銀ちゃんのご主人のユナハ王なのですね。会ったばかりの私が口を出すのもいかがなものかと思いますが、少しだけでも二人の頑張りを認めて、ねぎらってあげて下さい。お願いします」


 「「……」」


 彼の言葉に僕とシャルは唖然とし、金ちゃんと銀ちゃんに視線を向けた。

 二人はサッと顔を逸らすと、口笛を吹いて誤魔化す。

 こ、こいつらは、彼に何を話したんだ。


 「マーカリ殿。ねぎらうも何も彼らは僕たちの家族みたいなもので、どちらかと言うとわんぱくすぎて、何かと問題を起こすので困っているのです。それでも家族ですから、彼らは皆から愛されてます」


 僕の言葉に彼は安心して、ホッとした表情を浮かべた。

 こんなにいい人を騙すな!

 僕は二人を睨んだのだが、彼らは愛されていると言われたことにモジモジと照れていた。

 ダメだこりゃ……。



 ◇◇◇◇◇



 僕たちとマーカリは、ソファーに座って話しを始めた。

 彼も僕たちも現在の状況を整理したかったからだ。


 「マーカリ殿。何故、あなたがここに閉じ込められているのですか?」


 「お恥ずかしいことですが、ダリアス……弟を担ぎ上げる派閥にクーデターを起こされ、弟を信じていた……いえ、信じたかった私の迷いがクーデターへの対処を遅らせ、結果、私と私についていた者たちは追いやられ、私は反攻を防ぐための人質となり、私についていた者たちは散り散りにされ、現在に至ります」


 彼は情けないといった表情を浮かべ、苦笑した。


 「そうでしたか。しかし、何故、ダリアス殿はあなたの名を名乗っているのですか?」


 「それは、クーデターが起きた事実を宮廷内にとどめておきたかったのです。彼らは先代皇帝、私の父と同じく、力が正義だと思っている者たちです。父の施政を国民の多くは快く思っていませんでした。もし、皇位が私からダリアスに移ったことを国民が知れば、ダリアスが父と同じ思想を持つことを知る国民は、暴動を起こす可能性があります。ですから、私に成り澄まして、自分たちの思う施政に少しずつ切り替えていき、国民に不満が溜まったところで、ダリアスが私から皇位を奪ったことにすれば、国民に受け入れられます。それが、ダリアスと宰相のデインが考えた筋書きのようです」


 聞いていてうんざりするような内容だった。

 どうして、権力を欲したり執着したりする者は、汚いことばかりを思いつくのだろうか……。


 「事情は分かりました。マーカリ殿はダリアス殿から皇位を……いや、皇位はマーカリ殿のままだろうから、政権を奪い返す思いはありますか?」


 「思いはあります。ですが、どうしてそのようなことを聞くのですか?」


 あっ、こっちの状況を、まだ話していなかった。


 「ファルレイク帝国は、ダリアス殿が施政を行うようになってから軍事国家になり果て、隣国への侵略行為も行っていました。そして、現在、我が国と我が国に賛同する国で結成されたユナハ連合は、連合に加盟するビルヴァイス魔王国がファルレイク帝国の侵攻を受けたことで、ファルレイク帝国との戦争を継続中です。ユナハ連合はファルレイク帝国の対応によっては、この国……いえ、この国家を滅ぼすつもりで動いています」


 僕の言葉に、彼は蒼白となってしまった。


 「ここの国民には何も課しませんのでご安心下さい。ですが、今のままでは、ユナハ連合に加盟しているファルレイク帝国との隣接国で、この国を分割統治することとなります。もし、マーカリ殿が政権を奪い返すのであれば、国土は減ることになってしまいますが、ファルレイク帝国は残ります。ですから、マーカリ殿の意思を知りたかったのです」


 「そう言うことですか。納得しました。ですが、残念なことに、今の私には政権を奪い返すだけの力がありません」


 彼は肩を落としてしまった。


 「そのことに関しては、僕たちがマーカリ殿に手を貸しますのでご安心下さい」


 ガシッ。


 突然、彼は僕の手を強く握りしめた。


 「フーカ殿、ありがとうございます。この御恩は決して忘れることはありません」


 そして、涙を浮かべる。


 「マーカリ殿、その言葉は、まだ早いです。為すべきことはこれからなのですから」


 「そ、そうですね」


 彼は涙を拭ってから微笑んだ。




 マーカリさんが何かを思い出したかのように、急に立ちあがった。


 「お茶も入れずにお話しが先になってしまい、申し訳ありません。今、淹れてきますのでお待ちください」


 彼はそう言うと、部屋の奥のほうへと消えてしまった。


 (マーカリのお茶とお菓子は美味しいんだよ)


 金ちゃんが自慢げに言うと、その横で銀ちゃんが相槌を打つ。

 こいつら、皇帝にお茶とお菓子を用意させたのか……。ん? 僕もか……。


 戻ってきたマーカリさんは、お茶とお菓子をテーブルに並べた。


 「あのー、マーカリ殿? 侍従とかはいないんですか?」


 「ええ、侍女などが来ても、すぐに取り上げられてしまいます。ですから、自分で何でも出来るようになったのですよ」


 明るく話す彼に、僕は心が痛んだ。


 パンパン。


 (マーカリも苦労したんだね)


 金ちゃんは彼の肩を叩いて同情する。


 「なっ! 金ちゃん、その方は皇帝なのですよ。何をしているんですか!?」


 「シャルティナ殿、かまいませんから叱らないであげて下さい。よろしければ、フーカ殿とシャルティナ殿も、私のことはマーカリとお呼び下さい」


 「では、僕のことはフーカと呼んで下さい」


 「私はシャルと呼んで下さい」


 金ちゃんのおかげで、彼との距離が少し縮まった気がする。

 その後、僕たちはお茶を飲みながら談笑をした。

 結局、僕たちはお互いを呼び捨てには呼べず、僕はマーカリさん、シャルはマーカリ様と呼び、マーカリさんはフーカ様、シャル様と呼ぶこととなった。

 彼を馴れ馴れしく呼び捨てで呼ぶのは、金ちゃんと銀ちゃんだけだった。




 その後も談笑を交えてお互いの経緯を話していると、時間はあっという間に過ぎていった。


 ((お腹すいた!))


 金ちゃんと銀ちゃんが空腹を訴える。


 「もう夕食の時間ですね。楽しくて長話になってしまいました。すぐに食事の用意をしますね」


 マーカリさんが立ちあがる。


 「えっ!? 食事も自分で作るの? 運ばれて来ないの?」


 「そうです。食材だけが運ばれてきます。でも、こちらのほうが、いつ、食事に毒が混ぜられているかもしれないと、不安を抱きながら食べるよりもいいですから」


 僕の質問に、彼は微笑みながら答えた。

 なんて前向きな人だ。


 「それでしたら、私が作ります」


 ((それはダメ!))

 「それはダメ!」


 立ちあがっ腕をまくるシャルを、僕、金ちゃん、銀ちゃんの三人はすぐに止めた。


 「どうしてですか? 私だって料理くらい出来ます」


 (シャル様が料理しているところを見たことがない)


 (お茶を淹れているところすら見たことがない)


 金ちゃんと銀ちゃんは立て続けに不安要素を挙げていく。


 「二人とも心配しすぎです。私だっていつも見てるのですから」


 ((見てる?))


 二人は首を傾げた。


 「はい、料理するところを見て覚えていますから、段取りは分かっています」


 彼女が自慢げな表情を見せると、フルフルと首を横に振って青ざめる金ちゃんと銀ちゃん。


 ((シャル様、それは出来ない人の常套句(じょうとうく)だよ))


 「何事も見て覚えるものです」


 ((出た。また、出来ない人の常套句!))


 「二人とも、私に喧嘩を売っているのですか?」


 フルフル。


 二人は首を横に振る。


 (なら、お茶を淹れてみてよ)


 「いいですよ。見てて下さい。二人に美味しいお茶をふるまって差し上げます」


 (金ちゃん! なんてことを言うんだよ。お茶でも危ないよ)


 ギロッ!


 シャルに睨まれた銀ちゃんは、逃げるように僕の背後へ隠れてしまった。




 シャルが部屋の奥にある調理場に行ってから数十分は経っていた。

 お茶を淹れるだけなのに、彼女はなかなか戻ってこない。


 「金ちゃん! 少し作りすぎてしまったので手伝って下さい!」


 調理場から、金ちゃんを呼ぶ彼女の声が届く。


 (ん? 主? シャル様はお茶を淹れに言ったんだよね? 作りすぎたって、どういうこと?)


 金ちゃんは僕に向かって首を傾げる。


 「僕に聞くなよ。行ってみれば分かるでしょ」


 彼は眉間に皺を寄せて、物凄く嫌そうな顔で調理場へと向かって行った。


 金ちゃんが調理場に消えて数分が経過した。


 (あsdfいhずk!!!)


 突然、金ちゃんから訳のわからない念話が送られてきた。


 「何、今の?」


 僕は銀ちゃんを見る。


 (僕にも解読不能!)


 銀ちゃんは不安そうに調理場の方向を見つめる。

 マーカリさんも同じ行動をしていた。


 「見に行ったほうが早そうだね!」


 マーカリさんと銀ちゃんは、僕に向かって頷く。




 三人で調理場を覗くと、棒立ちになっている金ちゃんが、お化け屋敷のお化けのように首だけをゆっくりとこちらに向けた。

 そして、彼は口を開ける。


 ダラダラダラ。


 彼の口から液体が床に流れ落ちた。


 (うーん、不味い!)


 (もう一杯!)


 彼の言葉の後に、銀ちゃんが合の手を入れる。


 フルフルフルフル――。


 金ちゃんは、高速で首を横に振り続けた。


 「不味くありません! 少し作りすぎただけです」


 シャルが言い訳をする。


 (あるじー! シャル様、おかしいよ!)


 金ちゃんは、こちらに助けを求める視線を向けると、僕の手を引いて、樽のそばまで連れて行く。


 (これ、見て!)


 樽の中を覗くと濁ったような茶色の液体が入っていた。

 そして、適当に切られた野菜や果物などがプカプカと浮いていた。


 「何、これ?」


 (お茶……いや、お茶のもと? いやいや、原液?)


 金ちゃんは混乱したように答える。


 「どういうこと?」


 (シャル様、水の樽に茶葉を入れたけど、色がつかないからって、調理場にあった物を片っ端から入れて色を付けたんだよ! そこにポットがあるのに、水の樽でお茶を淹れてたんだよ!)


 「「……」」

 (……)


 彼の言葉に、僕たちは言葉を失った。


 (さらに、この樽から汲んだ怪しげなお茶……いや、液体を温めたものを僕に飲ませたんだよ!)


 「金ちゃん? それが分かっていて、何で止めなかったの?」


 (僕があまりの不味さに固まっている時に、シャル様が自慢げに話してた)


 「「……」」

 (……)


 僕たちは再び言葉を失った。


 (四人分のお茶を淹れるのに、樽ごとお茶にするし、それを少し作りすぎたって言ってるし、それに、なんでお茶に野菜や果物、調味料がわんさか入っているのかが分からないよ。そもそも、茶葉にお湯を注ぐ工程を無視して水に茶葉を入れて、それを沸かすなんて初めてだよ!)


 熱弁を振るう金ちゃんに、僕たち三人は相槌を打って賛同する。


 「ちょっと待って下さい。金ちゃんの言葉だけを鵜呑みにしないで下さい。このお茶の作り方は、アンとオルガを手本にしているんですよ。きっと、金ちゃんの知らない作り方なんです」


 シャルが反論する。

 アンさんとオルガさんが聞いたら頭を抱えそうだ……。


 「それに飲んでもいないのに、文句を言わないで下さい!」


 「「えっ!?」」

 (えっ!?)


 飲まされる方向に向かってしまった僕たちは焦る。

 そもそも、僕たちは一言も文句を言ってはいない。

 三人で金ちゃんを見ると、彼は「どうぞ、どうぞ」と言わんばかりに、手を前に差し出してシャルのお茶を勧めていた。

 裏切り者ー!

 僕たち三人は断ることもできずに、シャルからお茶を渡される。

 だが、僕たちはお互いに目配せをし、飲むのを躊躇していた。


 「アンとオルガ直伝のお茶なんですから美味しいはずです。早く飲んで下さい」


 なんで、直伝になってるの……?

 彼女を見ると、期待に満ちた目を向けていた。

 飲むしかない。

 僕たちは意を決して、彼女の淹れたお茶を口元に近付ける。

 そして、恐る恐る少量だけを口に含む。


 「「あsgふんbvc!!!」」

 (おうjgdvb!!!)


 僕たちは金ちゃんと同じく、言葉にならない言葉を発した。

 甘くもあり、辛くもあり、しょっぱくもあり、酸っぱくもあり、苦くもあるそのお茶は、あらゆる味覚を刺激し、この世のものとは思えない味だった。

 そして、その風味は嗅覚を破壊するほどの攻撃力を持っていた。

 僕たちは飲み込むことすら出来ずに、床にダラダラとその液体を垂れ流した。


 (どうだ! シャル様の攻撃力は凄いでしょ)


 金ちゃんは得意げな顔で僕たちを見る。


 (金ちゃん、お茶に攻撃力はいらないよ。オエ)


 銀ちゃんだけが念話で言葉を発することが出来たが、僕とマーカリさんは舌がしびれて話すことが出来なかった。


 「さすが、アンとオルガ直伝のお茶ですね。ぐうの音も出ないようですね」


 シャルは嬉しそうに僕たちを見つめる。

 ぐうの音の意味が違う!

 僕は心の中で叫んだ。


 とにかく、今は水だ。

 僕はいくつかの樽を探したが、水は見つからない。


 「み、水の樽は、シャル様が使ったもので、さ、最後です」


 苦しそうにマーカリさんが教えてくれた。

 すると、銀ちゃんが僕とマーカリさんに水の入った瓶を渡す。


 (飲んで)


 「「ありがとう」」


 僕たち三人は水を飲み干すと、ホッとした。

 しかし、下のしびれは、まだ少し残っていた。


 (シャル様、アン様とオルガお姉ちゃんは、こんなお茶の淹れ方はしていないと思うよ)


 銀ちゃんの言葉に僕、マーカリさん、金ちゃんの三人が大きく頷く。


 「少し違ったかもしれませんが、こんな感じでした」


 ((えー、少しじゃなくて全部違うよ!))


 「多少、アレンジが入ったかもしれませんが、それは隠し味ですから、アンとオルガもいつもやっていることですし、問題はありません。ご不満なら、少しアレンジを変えますから感想を聞かせて下さい」


 問題大ありだ!

 僕たち四人は彼女を見て、同じことを思っていたが、それを口にしたらアレンジを変えたお茶を飲まされるのでは? という恐怖から口をつぐむしかなかった。


 「シャル様、これは問題大ありです!」


 誰かが僕たちの心の声を代弁してくれた。


 ((勇者がいる!))

 「「勇者だ!」」


 僕たち四人は声を揃えて叫んだ。


 シャルはムッとした表情で声のした方向を見ると、指を差して驚いていた。

 彼女の異変に、僕たちも声のした方向に視線を向けると、驚くしかなかった。

 僕たちの視線の先には、シャルのお茶を眉間に皺を寄せて見つめる女性がいたのだ。


 「「何でいるの!?」」

 ((何でいるの!?))


 彼女のことを知る僕、シャル、金ちゃん、銀ちゃんの四人は、声を揃えて叫ぶのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


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