174話 双子の皇帝
一夜明けたが、僕たちのいる牢屋を訪れる者は、誰もいない。
看守が来る気配もなく、朝食が運ばれてくることもなかった。
銀ちゃんが言っていたように、僕たちのことを忘れているのではないか? ここで大人しくしていたら、餓死するのではないか?
僕の脳裏には悪い考えばかりが浮かんでしまう。
「本当に、僕たちのことを忘れているのかな?」
「それは分からないですが、もう少し様子を見たほうがいいと思います。下手に動いたことで騒ぎとなって思い出されるよりも、今のうちに逃げ出せるかを調べておくべきです」
「うん。そうだね」
僕とシャルはソファーから立ち上がると、辺りを調べてみた。
ガシャン、ガシャン。
鉄格子にある扉を軽く揺すってみると、その金属音が反響して大きな音が鳴り響く。
僕は焦って、すぐに扉から手を離した。
(主、余計なことをしないでよ!)
「ご、ごめん」
金ちゃんに怒られてしまった。
「ん? 金ちゃんと銀ちゃんは何をしてるの?」
二人はソファーに座ったまま、僕たちを見ていた。
(いざという時のために、体力を温存してる)
金ちゃんが答えると、隣に座る銀ちゃんも頷く。
「くつろいでいるようにしか見えないんだけど」
(決して、面倒くさそうなことは主たちに任せようなんて、思っていないよ)
「……」
本音を口走る金ちゃんに呆れて、次の言葉が浮かばなかった。
二人のことは放っておいて、僕とシャルで牢屋の室内を調べて回る。
だが、扉には鍵がかかっているし、抜け出せそうなところもなく、何の成果も得られなかった。
諦めた僕とシャルはソファーに戻り、四人で座ったまま鉄格子を見つめ続けた。
もう、昼頃だろうか? 牢屋の前の廊下を通る者すらいなかった。
(主。僕たち、忘れられてるとしか思えないんだけど)
「僕もそんな気がしてきた……」
金ちゃんの意見を否定できなかった。
(ねえ、主。もしかして、僕たちがここにいることを気付いていなかったりして?)
「「!!!」」
僕とシャルは銀ちゃんの意見に驚く。
「ま、まさか……。それに奴らが落とし穴を開いたんだよ」
「ですが、何かの拍子に落とし穴が作動したのかもしれないですよ。それに、あの視界がさえぎられた状態では、私たちを見失うこともありえないことではないと思います」
僕は銀ちゃんの意見を否定するが、シャルは肯定する。
「現に看守すら来ないのは、ここに私たちがいることを知らないからだと思います」
「た、確かに」
彼女の推論を聞いて、僕も納得するしかなかった。
(ん? そ、それって、ここで大人しくしていても、食事が運ばれてこないってことだよね?)
金ちゃんは、両手で頬を押さえながら首を傾げる。
「そう言うことになるね」
ガーン!
金ちゃんと銀ちゃんは、ショックを受けてうなだれてしまった。
「食事が運ばれてきても、きっと、あの硬いパンだよ」
((あっ! あれはいらないや))
二人はすぐに立ち直り、収納魔法でハンバーガーとジュースを取り出す。
そして、僕とシャルにも渡した。
「「ありがとう」」
僕たちがお礼を言うと、二人はニコッと微笑む。
温かいハンバーガーと冷たいジュースを受け取った僕は、状態を維持したまま保存できる収納魔法の便利性に感心し、それを使える二人を羨ましく思った。
◇◇◇◇◇
ハンバーガーを食べ終えた僕とシャルは、することもなかったせいか、そのままウトウトとしてしまった。
金ちゃんと銀ちゃんは、そんな僕たちを少しの間見つめると、僕たちを起こさないように気を遣いながら、物音をたてずにゆっくりとソファーから離れた。
(銀ちゃん、ここにいても退屈だから、探検に行こう!)
(うん、賛成!)
二人は鉄格子をゆっくりと揺すってみる。
カラン。
ビクッ!
鉄格子を留めている金具が外れ落ちて、大きな音をたてると、二人は驚いて固まった。
そして、ゆっくっりと振り返り、僕とシャルが起きていないかを確かめた。
(ぐっすり寝てる)
(金ちゃん、主もシャル様も疲れているんだよ)
(そうだね)
二人は再び鉄格子に向かい、今度は鉄格子を留めている金具の箇所を確かめると、爪を器用に使って金具を外していく。
数分から数十分を費やして、中央の上下二か所の金具以外は全て外し終えた二人は、鉄格子の端をゆっくりと押す。
ギィー。
小さな音をたてて鉄格子が回転すると、二人は廊下側にいた。
(よし! 銀ちゃん、探検に行こう!)
(うん!)
二人は手をつないで廊下の奥へと進む。
ポニュ、ポニュ。
ビクッ!
((シー!))
自分たちの足音に驚いた二人は、人差し指を立てて顔を突き合わせた。
そして、お互いに恥ずかしそうな表情を浮かべて謝ると、足音を立てずに再び歩き始める。
辺りを警戒しながら、ゆっくりと歩みを進める金ちゃんと銀ちゃんの前に、鉄格子の扉が現れる。
そのすぐ奥には頑丈そうな鉄製の扉があって、二重扉のようになっていた。
二人は顔を突き合わせる。
(銀ちゃん、出口かな?)
(廊下の突き当りにあるし、出口のような気がする)
(よし、開けてみよう)
(うん)
二人は鉄格子の扉を開けようとするが鍵がかかっていて開かない。
(うーん。開きそうにない)
(金ちゃん、僕に任せてよ)
銀ちゃんは鉄格子の扉の鍵穴を覗き込むと、収納魔法で細長い金属製の棒を数本取り出した。
そして、その中から二本を選ぶと、鍵穴に入れて、中を探るようにゆっくりと動かす。
カリカリ、カチカチ、カチャン。
(よし! 金ちゃん、開いたよ)
彼は自慢げな顔で立ち上がる。
(銀ちゃん? 何をしたの?)
(ピッキングっていう鍵開け方法だよ。アカネお姉ちゃんに教わったんだよ)
(なっ、いつの間にそんな高等技術を……。銀ちゃん、ずるいよ!)
(ツバキちゃんに部屋の鍵をかけられたら、物色……コホン。部屋へ自由に入って遊べなくなるって、アカネお姉ちゃんに相談したら、教えてくれたんだよ。僕が教わっておけば、金ちゃんとツバキちゃんの部屋で自由に遊べると思ったんだ)
(銀ちゃん、ありがとう。今度、僕にもピッキングを教えてね!)
(うん、任せてよ。これで取り放題だね)
二人はニッコリと微笑みあう。
その後、二人は音をたてないようにゆっくりと鉄格子の扉を引いて、開けることに成功した。
金ちゃんは、次に控えている鉄製の扉のノブを握って開けようとするが、こちらも鍵がかかっていて開かなかった。
(銀ちゃん先生、お願いします)
(うむ。任せたまえ)
銀ちゃんは調子に乗りつつも、鉄製の扉の鍵穴を覗き込む時は、真剣な表情に変わった。
カリカリ、カチカチ、カチャン。
(よし! 金ちゃん、開いたよ)
(じゃあ、突入!)
(おぉぉぉー!)
金ちゃんが扉を開くと、銀ちゃんは身をかがめて入って行く。
その後ろを、金ちゃんも身をかがめてついて行った。
中に入った二人はキョトンとする。
((ん? ここは出口じゃない?))
二人は顔を突き合わせて首を傾げた。
(金ちゃん、ここ、部屋だよ)
(うーん。確か、パソコンで見た映画だと、牢屋の一番奥の部屋って、凶悪犯がいる特別房だったような……)
(金ちゃん? マジ?)
(マジ!)
二人は抱き合って、辺りをキョロキョロと見回して警戒する。
(金ちゃん。何だか、牢屋というよりも贅沢そうな部屋だよ)
(うーん。ベッドも奇麗で大きいし、部屋も奇麗に掃除されてるね)
(金ちゃん、どうする?)
(うーん。この部屋を調べてみよう)
(うん、分かった)
二人は二手に別れて、室内を調べ始めた。
金ちゃんと銀ちゃんは室内を調べていくうちに、どこか懐かしさを感じていた。
(銀ちゃん、この部屋って、主やシャル様の部屋を思い出すね)
(僕も調べていくうちに、なんか懐かしくなっちゃった)
二人は合流すると、懐かしそうに部屋を眺める。
「誰か来ているのかい?」
部屋の奥から声がして、金髪に黒髪が混じった優しい面立ちの青年が、ガウン姿で濡れた髪をタオルで拭きながら現れた。
((!!!))
その顔を見た金ちゃんと銀ちゃんは、彼がファルレイク帝国のマーカリ皇帝だったことに驚き、後ろへ飛び退いて戦闘態勢に入る。
「えーと、君たちは誰だい?」
((???))
彼が穏やかな微笑みを浮かべて尋ねてきたことに、二人は混乱した。
(あっれー? 銀ちゃん、この人、敵だったよね?)
(うん。いけ好かないやつだった! でも、この人、なんか違うくない?)
((??? 分からん。見なかったことにしよう))
二人は考えることを放棄して、彼にに背を向けて帰ろうとする。
「ちょっと待って下さい。ここを訪れるお客様は久しぶりなので、お茶とお菓子でもてなしたいのですが、どうですか?」
ピク。
彼の言葉に二人の耳が反応する。
そして、数分、いや、数秒の間、葛藤した二人はゆっくりと振り向き、『すこしだけなら』と書かれたプラカードを掲げる。
「ええ、では、こちらにどうぞ」
彼は二人をソファーに案内すると、お茶と山盛りのお菓子をテーブルへと並べた。
『いただきます』
「どうぞ」
お茶を片手にお菓子を頬張る二人を、青年はお茶を口にはしながら嬉しそうに見つめた。
ゲプッ。
『ありがとう』
『ごちそうさま』
金ちゃんと銀ちゃんは、山盛りのお菓子を空にすると、青年にお礼を伝えた。
「お粗末様です。この後はすぐに帰られるのですか? 良かったら、私と少しお話しをしませんか?」
彼の言葉に、二人は腕を組んで悩みだす。
「あっ、お菓子が空ですね。お代わりを持ってきますね」
彼は立ち上がると、部屋の奥からお菓子を載せたお皿を持って戻って来る。
『すこしだけなら、はなそう』
金ちゃんは、お菓子から視線をそらさずにプラカードを掲げ、銀ちゃんはコクコクと頷く。
二人が食べ始めると、青年は口を開く。
「食べながらでいいので、自己紹介をさせて下さい」
金ちゃんと銀ちゃんは、お菓子を頬張りながらコクコクと頷く。
「私はマーカリ・フォン・ファルレイクと申します」
((!!!))
「「ケホッ、ケホ。ゴホッ、ゴホ」」
二人は驚き、むせてしまった。
「だ、大丈夫ですか!? お茶では熱いでしょうから、今、お水をお持ちします!」
皇帝と同じ名を名乗る青年は、急ぎ足で水を持って戻って来る。
「「ゴクゴク、プッハァー」」
二人は彼から水を渡されると、一気に飲み干した。
『なんで、こうていとおなじなまえなの?』
金ちゃんがプラカードを掲げると、彼はジッとプラカードを見つめてから少し悩むと、ハッとした表情を浮かべた。
「そういうことですか……。私が本当のマーカリ・フォン・ファルレイクで、今、皇帝を名乗っているのは、私の双子の弟のダリアス・フォン・ファルレイクです」
((!!!))
彼が答えると、二人は驚く。
そして、腕を組んで悩みまくった。
二人が悩んでいる間、マーカリはお茶をすすりながら待っていた。
(銀ちゃん、こっちが本物で、あの嫌な奴が偽物ってことだよね)
(そういうことになるね)
(うーん。それで、僕たちはどうしたらいいのかな?)
(難しいことは、主とシャル様に押し付けよう!)
(さすが銀ちゃん! そうしよう!)
(それにしても、金ちゃん。僕たち、驚いてばかりだね)
(うん、そうだね。それに、このプラカードも面倒くさい。銀ちゃん、この人なら念話で話してもいいよね?)
(お菓子のお代わりもくれる人だから、僕はいいと思うよ)
二人は頷き合うと、彼を見つめる。
「私と弟のことで混乱しているようでしたが、大丈夫ですか?」
((うん、大丈夫!))
「!!!」
今度は、急に念話を送られたマーカリがキョロキョロと辺りを見回し、驚いていた。
「あのー、今のはいったい?」
(これは念話だよ! 僕たちは話せないから、念話で話すの……? ん? あれ? 話せてることになるのか?)
「プフ。ハハハハハ」
金ちゃんが首を傾げて悩むと、彼は笑いだしてしまった。
「あっ、笑ってすみません。あなたの自問自答が面白かったもので、ごめんなさい」
(ウケたなら、まあ、いいか! それと、僕はアウトローの金ちゃん)
(そして、僕はさすらいの銀ちゃんだよ)
「アウトローの金ちゃんさんとさすらいの銀ちゃんさんですか。何度も名乗るのもおかしいですが、私はマーカリ・フォン・ファルレイクと申します。よろしくお願いします」
((……))
二人は冗談が通じない彼に困惑する。
(えーと、僕のことは金ちゃんと呼んで下さい)
(僕は銀ちゃんと呼んで下さい)
彼に調子を狂わせられた二人は、無意識に丁寧な言葉を使っていた。
「分かりました。金ちゃんと銀ちゃんですね。私のことはマーカリと呼んで下さい」
そして、三人は微笑みあうのだった。
金ちゃんと銀ちゃんは、マーカリと時間を忘れて談笑をしていた。
その話しの内容は、ほとんどが脚色されまくった二人の冒険譚? だった。
「金ちゃんと銀ちゃんは、ご主人のために頑張ってきたのですね」
マーカリの言葉に、二人は自慢げに頷いていた。
「それで、そのご主人もここに捕らえられているのですか?」
((あっ! 主とシャル様のことを忘れてた!))
二人は飛びあがると、オロオロと焦りだした。
「良かったら、二人のご主人方も、この部屋にお呼び下さい。とはいっても、今の私には、兵に命令して牢を開けさせることは出来ないのですが……」
(それなら大丈夫。ここにいる銀ちゃんは、鍵開けのプロですから!)
(エッヘン!)
銀ちゃんは胸を張る。
「そうでしたね。この部屋の鍵を開けて入ってきたのでしたね」
彼はニッコリと優しい微笑みを浮かべた。
((じゃあ、主とシャル様を連れてくるね))
「はい、行ってらっしゃい。お気を付けて」
彼に見送られて、二人は部屋を出て行った。
◇◇◇◇◇
いつの間に寝てしまったのだろう。僕は目を覚ますと、左側に柔らかい感触の重みといい匂いを感じた。
それはシャルが僕に寄りかかって寝たいたからだった。
彼女の可愛い寝顔にドキドキとする。
そして、まだぐっすりと寝ている彼女を見て、この距離ならキスをしてもバレないのでは? と邪な思いが脳裏を駆け巡っていた。
僕は辺りをキョロキョロと確認する。
金ちゃんと銀ちゃんは居ない。
今は僕とシャルの二人っきりだ。
僕は彼女の唇に顔を近付けていく。
((ジー))
「……」
脳裏に視線の効果音が聞こえてくる。
顔を上げると、鉄格子の外側から、両手で突き出た口を押えて覗いている金ちゃんと銀ちゃんがいた。
(主、子作り中のところ、ごめんなさい)
「そこは、取込み中だろ!」
僕は金ちゃんに叫んだ。
(シー! 主、シャル様が起きちゃうよ。それよりも、僕たちは後ろを向いているから、ガバッとやっちゃっいなよ)
(金ちゃんの言う通りだよ。ほら、ガバッと肉欲系……じゃなかった、肉食系なところを見せてよ)
「銀ちゃん、わざと間違えただろ!?」
二人はニマニマしながら、僕をジッと見つめている。
こいつら、後ろを向く気なんて全くない。
「ん? なんで、二人は牢屋の外に出てるんだよ!?」
(えー。なんで、そこで話しを逸らすかな……)
(そうだよ。今は僕たちのことよりもシャル様のことでしょ)
金ちゃんと銀ちゃんは、おもむろにガッカリとする。
「ちょっと寝ぼけて、魔が差しただけだからいいんだよ」
二人は僕の言い訳に残念な視線を送ってくる。
((ヘタレ))
「「ヘタレ」」
二人の呆れる様な声と重なって余計に声が聞こえた。
僕はシャルに視線を向けたが、彼女は、まだ寝ているようだ。
彼女が寝たふりだったとしても、ここにいる人数と声の人数が合わない気がする……。
(あっ、そうだ! ヘタレの主! 会って欲しい人がいるんだよ!)
「ヘタレは余計だ! それに、こんなところで誰と会うんだよ!」
僕は金ちゃんに反論する。
「っていうか、なんで、牢屋の外にいるんだよ!」
(えー。また、それ?)
金ちゃんは面倒くさそうな表情を浮かべた。
(主、この牢屋は忍法を使えば、すぐに出られるんだよ)
銀ちゃんがおかしなことを言いだした。
そして、金ちゃんと銀ちゃんは鉄格子の端に立つと、忍者のように指を組んだ。
((忍法、どんでん返し!))
ギィー。
二人が鉄格子を押すと、鉄格子は中央を起点にしてクルリと回転する。
((ジャーン!))
二人はドヤ顔でポーズを決めた。
「……」
そんな、回転扉のような出方だったなんて、分かるか!
僕は頭を抱えてうなだれた。
金ちゃんがシャルを抱きかかえると、僕たちは鉄格子を回転させて牢屋から出る。
そして、二人が僕に会わせたいという人物のもとへ向かうのだった。
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