171話 飛んで火にいるなんとやら
ファルレイク帝国の兵士たちに取り囲まれた僕たちは、乱戦となっていた。
アンさんはデスサイズを大きく振り回し、レイリアは素早く剣を振るって、ファルレイク帝国兵を次から次へと倒していく。
「ぐわぁー」
「ぐおぉー」
彼女たちの手にかかった敵兵が悲鳴を上げて倒れるが、すぐに代わりの敵兵が彼女たちに襲いかかる。
二人の強さは圧倒的だったが、あまりにも敵の数が多すぎる。
雨が滴るのか、それとも汗なのか、時折、彼女たちは額を拭っていた。
その様子は、少し疲れているようにも見えた。
パン、パン。
そんな二人を、オルガさんが銃で支援しながら、もう一方の手に持つナイフでは、襲い掛かる敵兵を倒していた。
器用に銃とナイフを使いこなしている彼女の姿は、カッコいい。
一方で、ヘルゲさんとシリウスは、猛者であろうギャラート将軍とその一団の前に立ちはだかり、彼らが参戦するのを防いでいた。
彼らが、見た目からして厄介そうなギャラート将軍を抑えてくれていることで、一方的に押されることはなさそうだ。
しかし、時間が経つにつれ、状況は悪化していく。
イーリスさんまでもが剣を抜いて戦っているのだ。
彼女のそばには護衛の兵士たちが付き、彼女と共に僕とシャルに近付く敵兵を阻止していた。
そんな彼女たちを、ケイトとミリヤさんが援護をしながら、敵の魔術師たちとの魔法の打ち合いまでをもこなしている。
二人は、僕とシャルのことも気にしているので、上手く立ち回れないようにも見えた。
お荷物になってる……。
護衛の兵士を連れて来ていても、こうも次から次へと敵兵が現れては、皆の許容を越え、士気も下がる一方だ。
そして、敵の数の多さに、皆は現状を維持するので限界だ。
ボッ、ボッ。
「敵の数が多すぎて、きりがありませんよ!」
ケイトは火の玉の魔法を放ちながら、僕へ向かって愚痴をこぼした。
「ケイト! 隙をみて救援要請を!」
そんな彼女に、イーリスさんが叫んだ。
ケイトは、すぐにミリヤさんを見る。
「敵の相手は私がしますから、その間に救援要請を!」
ミリヤさんは、そう言って腰の剣を抜くと、前へと出て行き、魔法を放ちながら剣を振りかざした。
「ミリヤ様、お願いします!」
ケイトは彼女に返事をすると、何やら集中を始めた。
そして、空に向かって手をかざす。
彼女の手のひらに光の玉が現れると、その玉は上空へと向かって放たれた。
ヒュー、ドン!
それは、上空高く上がると、大きな音をたてて真っ赤な花を咲かせた。
「こんな時に、なんで、花火を打ち上げてるんだよ!」
僕が叫ぶと、彼女はイラっとした表情で僕を睨みつけた。
「救援信号です! 花火のほうが目立つからと採用したじゃないですか! 罠だった時や万が一の時には赤い花火を打ち上げるって、決めましたよね!?」
あれ? そうだっけ? ヤバい、記憶にない。
「う、うん。そ、そうだったね」
僕が誤魔化すように返事をすると、彼女はジト目で僕を見つめる。
そして、僕のそばにいるシャル、金ちゃん、銀ちゃんの三人も同じ視線を浴びせてきた。
うっ、肩身が狭い……。
少し間を開けてから、宿営地のほうでドンという音が聞こえた。
そちらへ視線を向けると、上空に青い花火が咲いていた。
「良し! すぐに援軍が来る! それまで持たせるぞ!」
「「「「「おぉぉぉー!!!」」」」」
花火を確認したアンさんが叫ぶと、味方の兵士たちが声を張り上げて叫んだ。
青い花火を見た皆の士気が、一気に上がる。
(うりゃぁー!)
ドン。
僕とシャルの前に剣を構えて現れた敵兵を、銀ちゃんが掛け声とともに蹴り上げると、彼は、そのまま遠くへと吹っ飛んでいった。
アンさんとレイリア、イーリスさんや他の皆も、僕とシャルにまで敵兵が襲って来たことを知ると、動きに焦りが見え始める。
そして、彼女たちは、こちらをチラチラと見る回数が増え、自分たちの戦いへの集中が散漫していた。
この状況が続くのは良くない。でも、救援が来る気配はまだない。
僕は少し苛立ちながら、宿営地の方角を見つめた。
皆の中で、イーリスさんだけが、こちらをとても気にしていた。
彼女の様子は、何かを悩んでいるようにも見える。
「金ちゃん、銀ちゃん! この乱戦のままではフーカ様とシャル様を護りきれません。二人を連れて、こちらの態勢が整うまで逃げまくって下さい!」
彼女は、意を決したよに金ちゃんと銀ちゃんへ向かって叫んだ。
救援が来るのを待つか、僕たちだけを逃がすかを悩んでいたようだ。
そして、彼女は後者を選んだ。
((合点承知の助!))
二人は彼女に向かって、親指を立ててニカッと笑みを見せる。
すると、金ちゃんは僕を、銀ちゃんはシャルを脇に抱えた。
何だか、扱いが荷物のように感じられる。
そして、二人はもの凄い勢いで走りだした。
急に走りだしたけど、二人は目的を持って走っているのだろうか?
とても不安だ。
右へ左へと自由気ままに走り続ける金ちゃんと銀ちゃん。
「ねえ、金ちゃん。何処に向かって走ってるの?」
僕は金ちゃんに問いかけてみると、彼は眉をひそめて僕を見つめてきた。
(さあ? 捕まらないように走っているだけ)
彼の返事に、僕の不安は的中した。
金ちゃんと銀ちゃんは、何も考えずに、ただ走っているだけだった。
救援が来るまで、このまま走り続けるつもりなのだろうか?
無理があると思うのだが……。
しばらくして、金ちゃんと銀ちゃんの走る速度が落ちてきた。
(主、いつまで走っていればいいの?)
根をあげだした金ちゃんが、尋ねてくる。
ほら、言わんこっちゃない。疲れてきているじゃないか!
「敵兵のいないところまで逃げて、そこで休めば良かったんじゃないの?」
(あるじー、早く言ってよー!)
「それくらい、自分で気付こうよ」
(主は鬼畜だ!)
金ちゃんは、プクーと頬を膨らませた。
「人聞きの悪いことを言うな!」
そして、金ちゃんは辺りをキョロキョロと見回し、敵兵のいない場所を見つけると、そこへ向かって走りだした。
目的の場所に到着する。
(フゥー。ここで少し休憩)
金ちゃんは額の汗を拭う仕草をすると、僕を降ろした。
(やっと、休める)
後をついてきた銀ちゃんは、ホッとした表情を浮かべて、シャルを降ろす。
ずっと、抱えられていた僕とシャルは伸びをして、身体をほぐした。
「こんなところに居やがった!」
僕たちが休む間もなく、目の前に剣を構えた敵兵が現れた。
((ぎゃぁぁぁー!!!))
金ちゃんと銀ちゃんは叫び声を上げると、僕とシャルを再び抱えて、疾走する。
金ちゃんは、キョロキョロと敵兵のいない場所を探しながら走る。
(銀ちゃん、あそこに行こう!)
彼は銀ちゃんに向かって、見つけた場所を指差した。
(うん、分かった!)
すると、二人は二手に別れて走りだす。
後ろを見ると、さっきの敵兵は、僕と金ちゃんを追ってきていた。
金ちゃんは戦っている護衛の兵士たちのそばを通る。
(追いかけてくる奴をよろしく!)
「「「「「はっ!」」」」」
彼に声を掛けられた兵士たちは、追いかけてくる敵兵の前に立ち、道をふさいだ。
金ちゃんはチラッと後ろを確かめながらも走り続ける。
そして、僕と金ちゃんは、目的の場所へたどり着き、銀ちゃんとシャルに合流した。
二人は先に到着して休んでいたようだ。
金ちゃんは収納魔法に入れていた瓶を取り出すと、僕とシャルにもくれた。
(はい、お水! 銀ちゃんも飲んどきなよ!)
(うん)
「「金ちゃん、ありがとう」」
僕とシャルは、彼にお礼を言った。
四人で辺りを警戒しながら、キンキンに冷えた水を飲む。
雨でびしょ濡れなのに喉はカラカラで、冷たい水が喉を通ると生き返った。
皆はどこで戦っているのだろうかと、見つけようとするが、敵と味方が入り乱れすぎて見つからない。
この状況では、また、すぐに敵兵が現れそうだ。
誰かと合流したほうが良さそうなのだけど、ここまで乱戦になっていると、こちらが味方を見つける前に見つかってしまう。
悩ましい。
「救援が来るまで、何処かに隠れていたほうが良さそうですね」
「そうだね」
シャルが辺りを見回しながらつぶやいた言葉に、悩んでいた僕は答えた。
「見つけたぞ! おい、こっちだ!」
再び敵兵が現れ、今度は仲間も呼び寄せた。
((ぎゃぁぁぁー!!! またかー!))
金ちゃんと銀ちゃんは叫び声を上げると、僕とシャルを再び抱えて、疾走する。
考えをまとめる暇さえない……。
ひたすら、敵兵のいない方向へと走りだす金ちゃんと銀ちゃん。
「おっと、ここから先には行かせねぇーぜ!」
敵兵の一人が先回りをしていた。
((ぎゃぁぁぁー!))
金ちゃんと銀ちゃんは悲鳴を上げると、直角に曲がる。
ぐっ、苦しい。
急な方向転換で僕の身体に強い重力がかかる。
シャルは大丈夫だろうか?
彼女のことが気になって、後ろを見ると、平然な顔で銀ちゃんに抱えられていた。
僕が弱すぎるのだろうか?
自分のひ弱さが、恥ずかしくなってくる。
二人が走る先をふさぐように、再び敵兵が現れた。
((ぎゃぁぁぁー!))
(金ちゃん、そっちはダメだ!)
金ちゃんと銀ちゃんは方向を変えると、今度は銀ちゃんが先頭に立つ。
そのまま走り続けていると、また、敵兵が現れる。
((ぎゃぁぁぁー!))
(こっちもダメだった!)
二人は方向を変えると、先頭は金ちゃんへと戻った。
(銀ちゃん、向こうだ!)
金ちゃんが家屋の間にある路地を指差し、二人はそこへと向かって走る。
だが、その路地から敵兵がゾロゾロと出て来た。
((ぎゃぁぁぁー!))
二人はすぐに方向を変えて、走り続ける。
その後も、行く先々で敵兵と遭遇した。
金ちゃんと銀ちゃんは、その度に悲鳴を上げては方向を変える。
二人の速度は、どんどん落ちていく。
これだけ走り回っていれば、疲れるのも無理はない。
それでも、二人は走るのを止めようとはしなかった。
「「ゼェー、ゼェー。ハァー、ハァー」」
さすがに、二人も息を切らせ始めた。
ちょっとだけ、二人をけなげに感じる。
「金ちゃん、さっき、シャルが言っていたことを覚えてる?」
(えっ?)
金ちゃんは首を傾げた。
こいつ、聞いていなかったな。
けなげに感じてしまったことを後悔した。
「逃げ回るだけじゃなくて、救援が来るまで隠れていたほうがいいだろうって話してたんだよ」
(!!!)
彼はピンときた表情を浮かべた。
(あるじー、そういうことは、早く言ってよー!)
「金ちゃんが、聞いていなかったんじゃないか!」
彼は首を傾げてから、澄ました表情で空を見上げた。
誤魔化したな。
金ちゃんと銀ちゃんは、積み上げられた荷物が置かれていた人気のない場所を見つけて、その物陰に隠れた。
(うーん。ここもすぐに見つかっちゃいそうだね)
金ちゃんは周りの戦闘を見ながら悩みだす。
(そうだね。何処か、ジッとしていれば見つからない場所があればいいんだけどね)
銀ちゃんは、彼に返事をすると、同じように悩みだす。
僕とシャルも辺りを注視して隠れられそうな場所を探すが、あちらこちらで戦闘が行われていて、そんな都合の良い場所は見つけられなかった。
それどころか、こちらが見つかりそうでヒヤヒヤする。
金ちゃんと銀ちゃんは、僕とシャルの心労など気にせずに、堂々とキョロキョロと辺りを見回していた。
「金ちゃん。銀ちゃんも、そんなに堂々としていたら見つかるよ」
(主は心配性だなー。こういう時は、変にコソコソとしていたほうが見つかるんだよ)
(そうだよ。僕たちは逃げることと隠れることに関してはプロだからね。任せてよ)
金ちゃんと銀ちゃんは反論してくる。
逃げることと隠れることのプロって……。
確か、隠れることに気付いていなかったような?
そもそも、二人は僕の護衛だよね? なんで、護ることじゃなくて逃げることを重視しているんだよ。
僕は二人を見つめた後に、呆れてうなだれた。
敵兵の数人が、こちらを怪しんで注視し始めていた。
マズい、ここに隠れているのがバレるのも時間の問題だ。
「あそこにユナハ王の使い魔がいるぞ!」
こちらを怪しんでいた一人が叫び、こちらを指差すと、敵兵たちの視線を集めてしまった。
バレた!
((ぎゃぁぁぁー!!!))
金ちゃんと銀ちゃんは、僕とシャルを抱えて走りだす。
「ほら、見つかったじゃないか!」
(主がコソコソしてたからだよ)
この期に及んでも、僕のせいにしようとする金ちゃん。
まったく反省をしていない。
金ちゃんは逃げながらも、辺りをキョロキョロと見回す。
(アレだ!)
彼は何かを見つけて叫ぶと、方向を変えた。
(アレ?)
銀ちゃんは、首を傾げながらも彼の後をついてくる。
金ちゃんの向かう方向には、数台の板で囲われた馬車が見えた。
ん? あの馬車、窓には鉄格子もはめられている。もしかして、あれって、僕たちを捕まえた時のための護送車なのでは?
不安と嫌な予感が僕を襲ってくる。
「金ちゃん? もしかして、あの馬車に逃げ込むつもりじゃないよね?」
(あの馬車に逃げ込んで、後ろの扉を閉めれば見つからなから、大丈夫だよ! 僕に任せてよ!)
何処から、そんな自信が湧いてくるんだ!
「金ちゃん、あの馬車はダメだって!」
(主は心配性だなー。大丈夫だって!)
僕の言葉を無視して、金ちゃんは馬車に乗り込んでしまった。
(銀ちゃん! 早く後ろの扉を閉めて!)
(合点承知の助!)
後から乗り込んだ銀ちゃんは、シャルを優しく降ろすと、すぐに馬車の後方の扉を閉めた。
(フゥー。これで一安心)
金ちゃんは額の汗を脱ぐ仕草をして、ドカッと馬車のベンチシートに座る。
(ここに隠れていれば、しばらくは休んでいられるね)
銀ちゃんもホッとした表情で、彼の横に座った。
護送車に自ら乗ってしまった状況に、僕とシャルは頭を抱えてうなだれるしかなかった。
こいつらは、なんてことをしてくれたんだ……。
馬車の外で、数人の人の気配がした。
僕たちは身を縮めて、息を潜める。
ガチャン、カチッ。
扉の外で金属音が鳴ると、二人の男の声が聞こえる。
「こいつらバカだろう? 自分から檻に飛び込んできたぞ」
「まあ、こっちは苦労せずに褒美がもらえるんだから、いいじゃねぇか!」
「まあ、そうだな」
「せっかく、敵の要人を捕まえたんだ。こいつらの助けが来る前に、早く帝都まで連れて行くぞ!」
「おう!」
男たちの声が遠ざかると、馬車がゆっくりと動き始めた。
そして、速度を上げていく。
やっぱり、捕らえた僕たちを乗せる護送車だった。
そんな馬車に、自分から乗り込むなんて……バカだ。
そして、何とも言えない恥ずかしさが襲ってくる。
僕、シャル、金ちゃん、銀ちゃんの四人は、自ら敵に捕まってしまった。
(いやー、参った参った。これは一本取られた!)
走りだした車中で、金ちゃんは他人事のようなことを言い出した。
「「金ちゃんが、元凶でしょ!」」
僕とシャルは、彼に向かって叫んだ。
(人生、こういうこともあるよ)
再び他人事のようなことを言い出す金ちゃんに、僕とシャルは大きなため息をついてうなだれる。
(そうだね。これもいい経験だよ。えーと、確か、こういうのって、飛んで火にいるなんとやらってやつだよね!)
銀ちゃんまでもが他人事だ。
「なんとやらじゃなくて、夏の虫だよ。ハァー」
((なっ! ぼくたちは虫じゃない! お茶目な狐だ!))
「そういう意味じゃない! っていうか、どこがお茶目だ!?」
つ、疲れる……。
◇◇◇◇◇
今はどの辺だろう?
格子越しに見える外の風景は、すでに街道のようだった。
(なんか、飽きた)
(僕もー)
金ちゃんと銀ちゃんはつまらなさそうに天井を見上げる。
「飽きたって……。そもそも、この護送車に乗る羽目になったのは、金ちゃんのせいじゃないか!」
(えー。主は気付いてたんでしょ? 分かっていたなら、止めてくれればよかったのに……)
(そうだ。止めなかった主が悪い!)
金ちゃんと銀ちゃんが僕を責めてくる。
「あんな速度で走られてたら、止められるか! それに、金ちゃんは、大丈夫だとか任せてとか言って僕の忠告を無視してたよね?」
金ちゃんは首を傾げると、とぼけた表情で僕から顔を逸らせた。
くー、ムカつく……。
シャルは、僕と金ちゃんを見てから、溜息を吐く。
「きっと、イーリスやアンたちは、私たちに呆れているか、激怒しているでしょうね」
ポツリとつぶやいた彼女の言葉に、金ちゃんと銀ちゃんは青ざめる。
(主! ここは主がやらかしたということでお願いします!)
(うん、そうしよう!)
二人は原因を僕に擦り付けることで合致した。
「お、お前たちは……」
僕は呆れて、途中から言葉が続けられなかった。
「「ハァー」」
そして、僕とシャルは、大きく息を吐いてうなだれる。
馬車は、その間も休むことなく帝都へ向けて走り続けていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
この作品が、面白かった、続きが読みたいと思った方は
下にある☆☆☆☆☆を押して、
評価をしていただけると嬉しいです。
ブックマークもよろしくお願いします。




