166話 動き出したファルレイク帝国
ファルレイク帝国に動きがあったと報告を受けた僕たちは、詳しい話しを聞くために本陣へと向かった。
そして、本陣となる大きなテントの中へと足を踏み入れると、そこにはビルヴァイス魔王国軍、ユナハ連合軍、グリュード竜王国軍の全ての大将クラスの人たちが大きなテーブルを囲うように座っていた。
彼らは入ってきた僕を見るや否や、スクッと立ち上げり、こちらに向かって敬礼をする。
その光景は壮観だったが、彼らの厳しい表情と鋭い視線を向けられた僕は、睨まれているような気がして怖かった。
「お、お集まりの皆さん、ファ、ファルレイク帝国に動きがあったと聞いたのですが、く、詳しいお話しをうかがっても、よ、よろしいでしょうか?」
(主? 言葉遣いが変!)
(銀ちゃん、主はコワモテだらけの人たちに視線を向けられて、ビビってるんだよ)
((ハァー、情けない))
金ちゃんと銀ちゃんは、手のひらを上に向けて首を横に振った。
確かにそうだが、すぐに逃げては隠れてしまう二人に言われるのは、納得がいかない。
(主、こういう時の振る舞い方を、僕が見せてあげるよ!)
金ちゃんは、僕の返事を待たずにポニュポニュと滑稽な足音を立てて、悠々と皆が囲むテーブルへと向かって行ってしまった。
(うむ。揃っているようだな。皆、ご苦労!)
そう言うと、彼は僕が座る上座の席へとドカッと腰を下ろして、偉そうにふんぞり返る。
(皆も座ってかまわん!)
皆は戸惑いながらも席に着く。
(誰が座っていいといった!)
「あんたが言ったんでしょ!」
マイさんが声を上げた。
(うむ。いいツッコミをありがとう!)
「……」
彼女は引きつった顔で口をパクパクさせた。
(では、報告を聞こうか? ただし、ユーモアが無ければ言い直させるから、そのつもりで覚悟して話すように!)
シュパーン。
彼の背後へ静かに忍び寄ったアンさんがハリセンを炸裂させた。
(アッチ!)
彼は頭を押さえて後ろを向く。
(アン様、今のはダメだよ! 勢いが強すぎて擦れたよ。大事なお毛々が……)
「「「「「……」」」」」
頭を押さえたまま悲しそうな表情を浮かべる彼に、皆は呆然としてしまった。
その後、金ちゃんはアンさんに引きずられて退場する。
僕はイーリスさんに促されて、金ちゃんがさっきまで座っていた席に座ると、僕と一緒に遅れてきたメンバーも席に着く。
金ちゃんのせいで、どこかぎこちない雰囲気が停滞していて居心地が悪い。
イーリスさんが僕の脇に立ち、「コホン」と咳ばらいを一つつくと、場の空気が落ち着き、報告を兼ねた会議の雰囲気となった。
すぐにシリウスが手を挙げて立ちあがる。
「では、報告します。ビルヴァイス魔王国とファルレイク帝国が睨み合う海域へ移動し、ファルレイク帝国を監視、警戒する任務にあたっていた戦狐艦隊からの報告では、ファルレイク帝国本土から二〇隻の軍艦からなる艦隊がこちらへ向かっているとのことです」
「えっ? 戦狐艦隊は金狐の修理のために、ユナハに戻ったんじゃないの?」
「いえ、戻ったのは被弾……した金狐のみで、旗艦を銀狐へ委譲しています。そして、ルード港を制圧した後は、ビルヴァイス魔王国の近海を迂回して、現海域での監視、警戒の任務にあたっていました。彼らがいなければ、ファルレイク帝国の艦隊に気付けなかったことでしょう」
「なるほど。それで、今はどんな状況なの?」
「現状は、戦狐艦隊がファルレイク帝国艦隊を牽制するため、敵艦隊の航行予定の海域に停船させているので、敵艦隊も警戒して停船、対峙している状態とのことです」
「でも、ファルレイク帝国は、なんで、このタイミングで動きだしたのかな? こっちにはユナハ連合軍もいて、戦力が整っていることは、ファルレイク帝国も分かっていると思うけど」
僕の疑問に、シリウスと皆も悩み始めた。
「ハンヴァイス新魔国との戦いを終えたから、戦力が落ちていると想定したか、こちらがハンヴァイス新魔国内をまとめあげることで、手薄になると想定しての動きでしょう」
ブレンダさんが答える。
「なるほど。この機にビルヴァイス魔王国から奪った占領地に戦力を集結させて、こちらの態勢が整わない隙を狙って、侵攻するつもりだったのだろう」
彼女の意見に納得したヘルゲさんが付け加えた。
「ところが、異様な風体の船を見つけたことで警戒してしまって、増援を乗せたまま動きが取れなくなったってところですね。フーカ様はあの形に不満そうでしたが、やっぱり、正解だったようですね!」
ケイトが僕に向かってドヤ顔を見せる。
なんか、悔しい。
彼女の背後では、金ちゃんと銀ちゃんもドヤ顔で僕に視線を向けていた。
お前たちは、関係ないだろ!
ん? 何か忘れている気がする。
僕は思い出そうと、腕を組んで天井を眺め、頭の中にある引き出しを開けていった。
「確か、ファルレイク帝国が、こちらの戦いに横槍を入れてこないように、ドレイティス王朝とブレイラス連合国がファルレイク帝国との国境付近で合同演習を行ってたはずだけど、そっちは警戒されなかったの?」
「ファルレイク帝国は、国境付近の警戒のために軍を展開させていた報告は来ていましたが、現在の状況については、まだ、報告が来ていません」
シリウスは手元にある紙を見ながら答えた。
すると、エルさんが手を挙げる。
「エル様、何かあるのですか?」
イーリスさんが尋ねると、彼女は大きく頷く。
「ドレイティス王朝とブレイラス連合国で合同演習って言っていたけど、私の国、プレスディア王朝も参加してるのよ! 私の国を省かないで!」
「「「「「……」」」」」
彼女は腕を組んで怒っった風な主張をするが、僕たちからしてみれば、今の状況ではどうでもいいことなので、言葉を失って呆然とするしかなかった。
彼女の後ろでは、サンナさんとハンネさんがペコペコと頭を下げている。
二人が気の毒でならない。
「それなら、エルさんには、本国から現況の報告が入って来ているんだよね? それを教えてよ」
僕が尋ねると、皆は彼女へ期待に満ちた視線を向ける。
だが、彼女はギョッとした表情を見せてから、オロオロと焦りだし始めた。
「サ、サンナ! 答えてあげなさい」
「えっ!? 私がですか?」
「そうよ。さあ、言ってあげなさい!」
彼女に振られたサンナさんは、困った表情を浮かべる。
「えー、その、合同演習に参加させている我が軍は、その、ドレイティス王朝女王のセレスト様に指揮権を含め一切を任せていますので、報告等は全てセレスト様経由でこちらに来ています。ですから、その、ユナハ連合へ報告が来ていなければ、こちらへも報告は来ません」
言い終えたサンナさんは、深く頭を下げた。
「そういうことよ!」
エルさんは開き直って、偉そうにする。
「「「「「……」」」」」
何となく予想はしていたのだが、僕たちはうなだれるしかなかった。
((今日イチの使えなさ!))
「うるさいわね。仕方ないでしょ! あんたたちは、黙ってなさい!」
金ちゃんと銀ちゃんのヤジにエルさんが叫ぶと、周辺から笑い声が聞こえだす。
エルさんは眉をピクピクさせながらも動じないようにしていたが、後ろにいるサンナさんとハンネさんは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
「会議中、失礼します!」
本陣のテントの中へ、一人の兵士が入ってくる。
彼は少し焦っているようにも見えた。
「どうした?」
ヘルゲさんが声を掛けると、彼の表情は険しくなる。
「報告です! ビルヴァイス魔王国とファルレイク帝国の占領地との国境で戦闘が始まりました。詳細は分かりませんが、防衛の薄い元ハンヴァイス新魔国側へと向けて侵攻を開始したとのことです」
ガタン!
彼の報告を聞いた僕たちは、驚きのあまり、一斉に立ち上がった。
「増援が戦狐艦隊によって阻止されているというのに、攻め込んできたというのか!? 敵の指揮官はバカなのか!?」
ヘルゲさんは思わず叫んでしまっていた。
「バカなんでしょう」
「功を優先したのだろう」
イーリスさんとアンさんは、呆れた表情で答える。
(今まで、散々、見てきたからね)
(偉い人ってバカが多いよね)
金ちゃんと銀ちゃんも呆れたように言うと、エルさんを見る。
そして、僕を見る。
「なんで、こっちを見てるのよ!」
「エルさんはともかく、僕まで見ることはないだろ!」
「フーカ君? ともかくって、どういう意味よ!?」
「い、いえ、別に……」
僕はエルさんから視線を逸らした。
「バカをやってないで、ファルレイク帝国軍の侵攻を阻止するための作戦を立てたほうがいいんじゃないの?」
「「そ、そうでした……」」
姉ちゃんに諭され、僕とエルさんは大人しくする。
ブレンダさんは、テーブルに広げられていた地図を覗き込んでいた。
「国境付近には、我が軍の駐屯地がありますが、ハンヴァイス側への侵攻となると……。少し厄介ですね」
「そうか。他国内には勝手に駐留できないからね」
「はい、その通りです」
彼女が口にした言葉を僕も理解した。
「駐屯地の兵を動かせば、今度はそちらが手薄になったと狙われるかもしれませんね。ここは、別部隊を増援として、現在、戦闘が開始された地へ送るべきですね」
イーリスさんが提案をすると、皆も彼女に賛成した。
「そのあたりには、ここへ侵攻する本隊とは別に、少数の部隊をファルレイク帝国への牽制として送っていましたから、その部隊と交戦したのでしょう」
ユナハ連合軍の将官の一人が口を開く。
「すぐに動かせる部隊を編成し、送る準備を整えます」
「それなら、人数は限られるが、その兵士たちを我が軍で送ることにしよう」
「ルビー様、ありがとうございます」
シリウスが口を開くと、ルビーさんは彼の意見を支援した。
皆も彼らの意見に賛成すると、二人は近くで控えていた兵士の一人に、命令を伝える。
その兵士は敬礼をしてから、本陣を飛び出していった。
まずは先遣隊を出して、その後、ここの本隊が合流すれば、敵も撤退をするしかないだろう。
ふと、僕の頭を妙案がよぎった。
「ねえ、ファルレイク帝国のほうから攻め込んできたんだから、こちらが押し返して、そのまま占領地を奪還して、彼らを西大陸から追い出しても、文句を言われる筋合いはないよね?」
「「「「「……」」」」」
皆は無言のまま、僕を見つめる。
あれ? この雰囲気は、変なことでも言っちゃったかな?
僕は少し焦りだす。
「フーカ様は相変わらず凄いですよね。そんなことを思いつくなんて、やっぱり、フーカ様はえげつなさの天才です!」
レイリアは、感心したように僕を褒めてくれるが、本当に褒められているのだろうか?
「フーカさんは、こういう時には頼りになりますね」
シャルがレイリアに続くと、ヒーちゃんたちも満足そうな顔で頷いた。
何故だろう? 言葉の言い回しが気になって仕方がない。
そして、僕の案は採用され、ファルレイク帝国軍の侵攻阻止から、彼らを西大陸から撤退させることで話しはまとまった。
「会議中、失礼します!」
僕たちがファルレイク帝国軍を西大陸から撤退させるための作戦を練っていると、再び、兵士が入ってくる。
今度は先ほどの兵士とは別の者だった。
彼も少し焦っているように見える。
とても嫌な予感がする。
皆から嫌そうな表情で見つめられ、彼は困惑していた。
((聞きたくはないけど、どうぞ!))
金ちゃんと銀ちゃんが本音を言いながら、手を差し伸べた。
すると、彼はさらに困惑しつつも口を開く。
「たった今、ドレイティス王朝から報告が入りましたのでお伝えします。ドレイティス王朝とブレイラス連合国との合同演習を、ファルレイク帝国軍の一部が侵攻してきたと判断し、攻撃を仕掛けてきたとのことです。そして、現在は交戦中とのことです」
「ご、ご苦労。下がっていい」
ヘルゲさんはやりきれない表情をしながら、彼を下がらせた。
彼が出て行くのを確認してから、皆は疲れたようにテーブルへ突っ伏してしまった。
少しの間、突っ伏したまま誰も顔を上げなかった。
「ファルレイク帝国は、あちこちで戦火を開いて、何を考えているんだ? 軍の指揮官は考えてから行動が出来ないの? それとも、バカなの?」
僕は最初に顔を上げて、思ったままをぶちまけると、皆は黙ったまま相槌を打つ。
「これって、自ら挟撃されに行ってますよね」
ケイトは引きつった顔で言うと、皆も顔を引きつらせた。
ドレイティス王朝との国境でも戦闘が始まってしまったことで、ファルレイク帝国軍を西大陸から撤退させるための作戦に、ドレイティス王朝側からのファルレイク帝国への侵攻作戦も追加するべきか、僕たちは悩みまくる。
これは、ファルレイク帝国とは、直接対峙しない限り解決できないようだ。
「本国に連絡し、我が軍をドレイティス王朝とプレスディア王朝へ動かすように伝えます」
「うん、お願い」
僕はイーリスさんに頷く。
「私の国にも連絡を入れて、ドレイティス王朝、ブレイラス連合国、ユナハ国と共闘するように伝えてちょうだい」
エルさんは、ついでのようにイーリスさんへと頼んだ。
彼女は頷くと、本陣の入り口にいた兵士に話しかける。
そして、彼が走って出て行くと、僕の隣へ戻ってきた。
また、一から作戦を練り直し、ドレイティス王朝側からの侵攻作戦も組み込んでいく。
すると、また、兵士が入ってくる。
「会議中、失礼します!」
「「「「「ま、またか……」」」」」
皆が口を揃えたことで、彼は驚き、困惑してしまう。
「あっ、ごめん。報告して」
僕が声を掛けると、彼はホッとした表情を見せた。
「はっ! 戦狐艦隊から連絡が入り、現在、ファルレイク帝国艦隊からの砲撃を受け、応戦の許可を求めています」
「うん、分かった。応戦するように伝えて。……いや、待って、敵艦隊を殲滅させて、その後は、敵の軍港にも奇襲攻撃をするように伝えて」
「はっ!」
僕が答えると、彼は敬礼をしてから立ち去って行った。
「フーカ様? いいんですか?」
イーリスさんは少し驚いた表情で僕を見つめてくる。
「かまわないよ。ファルレイク帝国の足をなくさないと、次から次へと送り込んでくるに決まってるから、いちいち相手をしてられないよ」
「そ、そうですね」
彼女は僕の返事を聞いて、苦笑しながら答えた。
その後、僕たちは呆然としていた。
こうも立て続けに交戦中の報告が入ると、皆、各々、頭を休ませる時間が必要となるので、ちょうどよかったのかもしれない。
僕は、皆が落ちついたところで立ち上がる。
「ハンヴァイス新魔国との蹴りがついたばかりだけど、今度はファルレイク帝国との全面戦争となってしまいました。皆さん、引き続きよろしくお願いします」
「「「「「はっ!」」」」」
皆は真剣な表情で僕に返事をした。
「それと、ブレンダさんには悪いけど、ビルヴァイス魔王国との調整のためにも、このまま僕たちと行動を共にして下さい」
「はい、分かりました」
ブレンダさんは頷いた。
「ビルヴァイス魔王国には、強制的にファルレイク帝国との戦争に参加させてしまうことになります。そのことをロルフさんに謝っておいて下さい」
「いえ、フーカ様が謝ることではありません。我が国が発端でもありますから、ファルレイク帝国との戦争に参加することは当然のことです。ロルフ陛下も皆様にお力を貸していただいていることに、感謝しておられます。ありがとうございます」
彼女は立ち上がると、僕たちに向かって深く頭を下げた。
次に、グリュード竜王国にも引き続き協力をしてもらいたいので、僕はルビーさんのほうを向く。
「ルビーさん、このまま、グリュード竜王国軍の力を貸して下さい」
「もちろんだ。いくらでも力を貸そう!」
彼女が即座に答えると、ネーヴェさんとイーロさん、そして、グリュード竜王国軍の大将たちは深く頷いてくれた。
「ありがとうございます。では、僕たちも戦闘が始まっている国境へ向かいます。そのつもりで準備を整えて下さい」
「「「「「はっ!」」」」」
皆は返事をすると、立ち上がり、本陣を出て行く。
僕たちは、ファルレイク帝国との戦争に赴くため、まずはファルレイク帝国が侵攻してきている前線へと向かうことにした。
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