162話 ルード港の制圧?
東の空がうっすらと明るくなってきた。
夜が明けるまでジッと待機していた兵士たちが動き出す。
僕たちも、彼らの最後尾を火砲馬車などと共について行く。
近付くとルード港への入り口には木製の門があるだけで、城壁は無く、獣除けのためと思われる木の柵や背の低い石垣が並んでいるだけだ。
軍港のある港とは思えない。
街への入り口の門では、リンさんたちが住民に話しをつけたからなのか、その門を護る二人の角を生やした門番が、門を大きく開いて、こちらの軍を招き入れていた。
最後尾につく僕たちは、その護られていない門を通り抜ける。
「ご苦労様です」
僕は窓を開けると、こちらの軍を素通りさせてくれた門番たちに、ねぎらいの言葉を掛けた。
「ここに住む民のためにも、横暴な軍の奴らをやっつけて下さい」
「頑張ります」
「「お願いします」」
僕の返事に彼らは頭を下げた。
彼らの行動を見て、ここの住民の生活は、限界にきているのかもしれない。
漁港側の地域を通ると、そのみすぼらしさに驚くしかなかった。
戦闘に巻き込まれたのではないかと思うほど荒れ果て、壊されている建物などが目に付く。
そして、家屋からこちらを警戒するように覗く住民たちは、痩せこけ、活力が微塵も感じられなかった。
「ミリヤさん、炊き出しの準備をお願い。それと住民の健康診断も行って、病人やケガ人には治療もお願い」
「はい、すぐに手配します」
彼女は、ゆっくりと走る馬車から飛び降りると、輜重部隊のほうへと駆け出していった。
「ここの港を制圧すれば、船で物資を運びこめます。後ろの馬車に無線機が積んでありますので、補給物資を追加するように頼んできます」
「私も行きましょう」
ケイトが立ちあがると、ブレンダさんも立ち上がり、二人は馬車を飛び降りていく。
(じゃあ、僕も補給物資を頼みに!)
(食べ物は多いほうがいいからね)
金ちゃんと銀ちゃんも立ち上がり、ついて行こうとする。
ガシッ!
二人の襟首をアンさんが掴んだ。
((グゲー!))
二人は首を押さえて、奇妙な声を出す。
「二人は、ウロチョロしない! フーカ様の護衛なのだから、そばにいなさい!」
(えー。主はちっこいから護りがいがない!)
(ちっこくて見えないから、護りにくいんだよ!)
金ちゃんと銀ちゃんが文句を言うと、押し殺した笑いが車内のいたるところで聞こえだす。
「見えないほど、ちっこくない!」
僕が反論すると、押し殺した笑いが、さらに増えだす。
言い負かされたみたいで悔しい……。
金ちゃんと銀ちゃんのせいで、こんな状況なのに緊張感がなくなり、にぎやかになってしまった馬車は、ゆっくりと停まった。
アンさんと窓から外を覗くと、軍港側との境界となっている石積みのところで、兵士たちが身を低くして潜んでいる。
皆、茶色の戦闘服を着て、騎士や戦士のような姿はどこにもいない。
敵からは目立たないが、これはこれで、悲しい感じがする。
特に特殊部隊と特戦群は、枯れ草を模したギリースーツを着ているので、異様に感じる。
「うーん。異世界なのに、兵士たちの装備とのギャップがありすぎて、頭が混乱しそう」
僕が率直な意見を言うと、後ろから覗き込んできたヒーちゃんは、苦笑し、納得するように頷いた。
火砲馬車が僕たちの馬車の横を通っては、路地などの目立たない場所へ配置されていく。
コンコン。
僕がその様子をボーっと眺めていると馬車の扉が叩かれた。
扉から入ってきたのはシリウスだった。
「まもなく、艦隊からの艦砲射撃が始まります。フーカ様たちは、艦砲射撃が終わるまでは危ないので、馬車の外へは出ないで下さい」
(花火も打ち込まれる?)
「いえ、残念ですが、花火は打ち込まれません」
シリウスに、金ちゃんが余計なことを聞く。
「シリウス、真面目に答えないで流していいから」
「は、はあ」
彼は困った表情を浮かべる。
そして、金ちゃんはプクーと膨れた。
(そうだ! 艦砲射撃だと建物とかが壊れちゃうから、ツバキちゃんの肥溜め……女神の力で、えーと、肥溜めの雨を降らせてもらおう!)
「そんなこと、出来るかー! それと、私から肥溜めのイメージを外せ!」
銀ちゃんの意見に、ツバキちゃんが立ち上がって叫ぶと、そのまま銀ちゃんに詰め寄った。
グリグリグリ。
(ギャァァァー!)
銀ちゃんは、こめかみに彼女の梅干をくらって、涙目で悲鳴を上げる。
バカだ。余計なことばかり言うから……。
「私は持ち場に戻ります」
その光景を見たシリウスは、巻き込まれるのを恐れたのだろうか? 逃げるように馬車から立ち去ってしまった。
その後も車内には、銀ちゃんの悲鳴が続くのだった。
◇◇◇◇◇
ドーン、ドーン、ドーン――。
遠くから砲撃音が聞こえ始めた。
ドカーン、ドカーン、チュドーン――。
すると、近くで爆発音が鳴り響く。
そして、コツコツと馬車の屋根を叩く音が聞こえだした。
こんな石つぶてが飛んで来るんじゃ、外の兵士たちは大変そうだ。
窓から外を見ると、兵士たちは身体を丸めるように縮めてはいたが、気にしている様子はなかった。
訓練されているとはいえ、たくましいと思ってしまう。
(主には、耐えられそうにないね)
金ちゃんが僕のそばに来て、一緒に外を眺める。
確かに耐えられないと思うけど、いちいち口にしなくても……。
(主なら、大丈夫だよ!)
フォローしてくれる銀ちゃんに優しさを感じ、ちょっと嬉しい。
(ちっこくて、当たらないよ!)
「「「「「ブハッ、アハハハハ――」」」」」
皆が一斉に笑いだした。
銀ちゃんに優しさを感じた僕がバカだった……。
外では爆音が響いているというのに、車内では爆笑が響いていた。
艦砲射撃が終わったのか、辺りは静かになった。
僕たちは外の様子を見るために馬車から降りる。
軍港側では、いたるところから煙が上がっており、立派だった建物も多くが崩れていた。
「ちょっと、やりすぎだったんじゃないの?」
「仕方がないです。徹底的にやって戦意を喪失させないと、攻撃魔法での反撃が来ます。これから制圧に向かう兵士たちのためにも、戦力は削っておくべきです」
イーリスさんは淡々と答えた。
「攻撃魔法って、そんなに厄介なの?」
「人族同士では、そうでもありませんが、相手が魔族となると話しは変わってきます。魔力量も多いですし、同じ魔法でも威力が倍は違います」
「そ、そうなんだ」
僕はチラッとオルガさんを見る。
彼女は僕の視線に気付くと、胸を張ってドヤ顔を見せた。
こんな調子のオルガさんを見ているせいか、魔族への警戒という面では、あまりピンとこない。
軍港側から多くの人がこちらへと向かって走ってくる。
皆、同じような黒い服を着ているので敵兵のようだ。
その敵兵たちは、角の生えたものや獣人、ダークエルフなど種族はバラバラだった。
「こちら側が攻撃されていないことに気付き、安全だと思って逃げてきたようですね」
オルガさんは嫌そうな顔で彼らを見つめながら話す。
「ここで食い止めないと、こちら側に紛れ込まれたら厄介ですよ」
彼女は表情を変えずに話しを続けた。
「ここから先には行かせませんから、大丈夫ですよ」
アンさんが答える。
アンさんの言っていた通り、石積みのとこで待機していた兵士たちが立ち上がり、逃げてきた敵兵たちの行く手を阻んだ。
すると、敵兵たちは、走る速度を落として剣を抜いた。
「その場で武器を捨て、降伏しなさい!」
敵兵に向かって、大きな声で叫ぶ者がいる。
声のする方向を見ると、ブレンダさんが拡声器を片手に、馬車の上から叫んでいた。
「あ、あれは、アルテアン宰相!」
「ビルヴァイスの臆病者が、何を言うか!」
敵兵の中から罵声が聞こえる。
ブレンダさんは罵声に動じず、ざわつく敵兵たちを見据えていた。
その時、敵兵の群れの中で何かが光った。
その光は彼女へ一直線に向かっていく。
「「「「「危ない!!!」」」」」
僕たちは叫んだ。
バシッ。
彼女の前に飛び込んだ姉ちゃんが、裏拳で虫でも払うように弾いた。
「「「「「うそ!!!」」」」」
僕たちも敵兵も驚いて叫ぶ。
「当たり前だ! ドラゴンを拳で殴りつけてくる奴に、あんなちんけな攻撃魔法が通用するか!」
アスールさんは自慢げな表情で話す。
((カザネお姉ちゃん、カッコいい!))
金ちゃんと銀ちゃんは、憧れの眼差しで彼女を見る。
何故か、アスールさんも得意げな顔をしていた。
「その拳で殴られたのは、アスールですけどね」
すると、ネーヴェさんが真実をばらした。
((アスール姉ちゃん、カッコ悪い!))
二人から残念な目を向けられたアスールさんは、顔を両手で覆うと、しゃがみ込んでしまった。
どう見ても自爆だ……。
魔法を手で弾く姉ちゃんの登場で、敵兵たちには動揺が走っていた。
「おい、あの人族の女、どこかで見たことないか?」
「いや、気のせい……いや、見たことがある気がする」
「あの女、いや、あの方は魔皇帝様だ! うちの家には肖像画が飾ってあって、いつも見ていたから間違いない!」
「何を言っているんだ! あの方は一〇〇年も前の英雄なんだぞ! あんなにピチピチなわけがないだろ!」
ピクッ。
「いや、童顔だったからでは?」
「いやいや、きっと、若作りをしているんだ!」
ピキッ。
「魔皇帝様は人族だったんだぞ! ババアに……いや、今頃、骨になっているはずだ! 骨が若作りしたって、骨は骨だ!」
ピキピキッ。
「あの魔皇帝様のことだ。きっと、若い女の生き血を吸って、今の状態を維持してこられたのだ!」
「「「「「おぉぉぉぉー!!!」」」」」
なんだか、酷い言われようだ。
そして、彼らは、その酷い言葉に共感してしまった。
姉ちゃんって、こっちの人たちに、どう思われてるんだ?
ピキピキピキッ。
それにしても、こいつらはバカだ。姉ちゃんの青筋が増えていっているのに気付いていないのか?
現に、彼女の隣にいたブレンダさんは恐怖で真っ青になり、今にも倒れそうだ。
「お前たち、いい加減にしろ! よくあの女を見てみろ! 私は魔皇帝様と謁見をしたことがあるが、あの方は、あんなに顔もスタイルも良くなかった!」
偉そうに出しゃばり、とどめを刺した奴が現れた。
ブチッ!
「ねえ? あんたたち、言いたいことは、全て言い終えたかしら?」
姉ちゃんの左右の手には大きな青い火球が作られている。
その火球を見たブレンダさんは、頭を押さえて縮みこむようにしゃがんでしまった。
「「「「「ギャァァァー!!!」」」」」」
「「「「「下がれー! 逃げろー!」」」」」
敵兵たちから悲鳴が上がると、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げだす。
「私への非礼は! あの世で後悔してこい!」
姉ちゃんは逃げ惑う敵兵たちに向かって左右の手に持つ火球を投げた。
チュドーン! チュドーン!
ものすごい爆音と土煙が起き、そして、爆風が僕たちまでもを襲う。
((痛い! イタタ!))
「コラ! 金ちゃんも銀ちゃんも、何をしてるんだよ! そんなところにいないで、馬車の影に隠れるんだよ!」
僕は爆風に混じって飛んでくる石つぶてをくらって痛がっている二人を呼んだ。
((フゥー! 主、死ぬかと思った!))
二人は額の汗を拭う素振りをする。
こいつらは、本当にマイペースだな……。
爆風がおさまると、シーンと静かになった。
僕は恐る恐る馬車の影から、姉ちゃんが魔法を放った場所を覗いてみる。
「……」
言葉がでない。
(主、どうしたの?)
金ちゃんは僕に寄り添うようにして、馬車の影から顔を出して現場を見る。
(……)
彼も言葉を失った。
(主? 金ちゃん? 何かあったの?)
銀ちゃんは僕たちに寄り添うようにして、馬車の影から顔を出して現場を見る。
(何もないね……)
銀ちゃんだけが率直な意見を述べた。
軍港側の地域は、地面が削り取られて、さっきまで立っていた建物も街並みも何もなく、まっさらになっていた。
こ、これ、どうするんだ? 制圧するにしても制圧するものがない……。
「あっ、味方は無事だよね!?」
僕が叫ぶと、金ちゃんと銀ちゃんは、コクコクと頷いて指をさす。
そこには、へたり込んだままの兵士たちが、何もなくなってしまった軍港側の地域を、ポカーンと放心状態で眺めていた。
ケイトが困惑した表情で近付いてくる。
「フ、フーカ様? これ、どうしましょうか?」
彼女は目の前の惨状を指差す。
「何もないから、どうしようもないよね」
「そうなんです。撃滅の魔皇帝と名付けた人に座布団をあげたいです」
座布団って……。あの番組の録画か何かがパソコンに入っていたのか?
(ねえ? ケイト、主。 こうなるんだったら、艦砲射撃は、なんでしたの?)
金ちゃんが尋ねてきて首を傾げた。
その後ろでは銀ちゃんも首を傾げていた。
「「そ、それは言わないで……」」
僕とケイトは、ぐったりとうなだれるのだった。
一方で、シリウスが、まだ建物が残っている軍港とその一部を制圧しに向かった。
残っている者たちは無条件で降伏をしてくると思うが、形だけでも制圧という体裁を作るために向かってくれたようだ。
僕たちはというと、このおおごとになってしまった惨状を、どう誤魔化すか……ではなく、状況を整理するために集まっていた。
「この惨状では、制圧にならないと思うのですが、どうしますか?」
イーリスさんが口火を開く。
「でも、今、シリウスが制圧に向かってるよ」
「そうですが、それでは、桟橋と艦砲射撃で大破した一部の建物……偶然、被害から免れた少数の敵兵を制圧ということになりますけど」
「「「「「……」」」」」
皆は黙ったまま、言い返す言葉が見つからない。
「そもそも、カザネが張りきるからいけないんだ!」
ツバキちゃんが姉ちゃんを責めた。
「張りきってないわよ! キレたのよ!」
「なお、悪いだろ!」
「ツバキちゃんだって、骨とか若作りとか言われたらキレるでしょ!?」
「最終的にキレたのは、そこじゃないと思う」
思わず口に出してしまった僕を、姉ちゃんがキッと睨みつける。
「ごめんなさい」
すぐに謝ると、皆から残念な視線を浴びせられた。
そんな目で見ないで……。
「私はキレても、暴力は振るわん」
((嘘つき!))
「お前たちは、黙ってろ!」
ツバキちゃんに睨まれた金ちゃんと銀ちゃんは、僕の背に隠れてしまう。
「もう、済んでしまったことを言い合っていても仕方がない。ブレンダ様は、どうお考えか?」
アンさんは、話しを進めようとブレンダさんに振った。
「降伏勧告の途中でこうなってしまったので……。ただ、一応、制圧? ってことで報告をしようと思っています。それしか、思いつきません。ルビー様は竜族ですから、こういった経験がおありでは? あるのなら解決策を教えて下さい」
「えっ? 何故、私に振る? うーむ。うちにも問題児はいるが……いや、いたが、こういった経験はなかったからな。そうだ! エル殿なら、こういった経験は豊富だろう! エル殿は、どうしているのだ?」
ルビーさんはチラッとアスールさんを見てから、エルさんに振ると、皆が彼女に注目する。
「えっ!? 私? ……えーと、私なら、面倒くさくなりそうなことは、見なかった、知らなかった、気付かなかったってことで済ませるわ!」
「「「「「……」」」」」
「アーダ様の意見をお聞かせくださいませんか?」
アンさんは、エルさんを無視して、アーダさんに尋ねた。
「コラー! 聞いておいて、なんで、無視するのよ!」
あんな事を言えば、当たり前だ。
エルさんをサンナさんとハンネさんがなだめて大人しくさせる。
「私は、ありのままを正直に言うべきだと思います。カザネ様の逆鱗に触れることを行い、滅ぼされたと聞かされれば、納得してもらえると思います」
さすが、アーダさん、一番まともな意見が出た。
皆も変に誤魔化すよりも妥当だと考え、彼女の意見に賛成した。
その後、ブレンダさんとケイトによって、ビルヴァイス魔王国、ユナハ連合軍には、無線機でありのままの経緯を伝えてから、一応、ルード港は制圧? したと報告したのだった。
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