表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/251

144話 鉄道の開通式

 ツバキちゃんは拷問……成敗されたショックで寝込み、金ちゃん、銀ちゃん、エルさん、マイさんは二日酔いで寝込んでいた。

 僕たちはと言えば、数日後に控えた鉄道の開通式に招待されたお客さんのお相手で、てんやわんやだった。

 ツバキちゃんには色々と聞きたいというのに、彼女と話す機会はズルズルと後回しにされている。


 そんな中、空港からルビーさんたちグリュード竜王国の一行が到着したとの知らせが入る。

 僕は、アスールさん、ネーヴェさん、アンさん、イーリスさん、ヒーちゃんの五人を呼んで、彼女たちを迎えに行った。




 空港へ到着すると、フリーダさんたちエラン領の一行も彼女たちと一緒に訪れていた。


 「フーカ様、お久しぶりです。姉は大丈夫ですか? 何か、やらかしていませんか?」

 

 「フリーダさん、久しぶり。アスールさんなら、最近は落ち着いてるよ。彼女よりも手におえないのが多くて、何かやらかしたとしても周りが酷すぎて、かすむくらいだよ」


 「そ、そうですか。姉がかすむって……良かったと言っていいのでしょうか?」


 フリーダさんは、僕の言葉に戸惑い、苦笑した。


 「アスールには、私もついていたので大丈夫ですよ」


 ネーヴェさんがフォローを言れると、彼女はホッとした様子を見せる。

 チラッと後ろを見ると、アスールさんは頬を膨らませていた。


 フリーダさんの後ろから、ルビーさんが顔を出す。


 「フーカ殿、久しぶり。詳細は後で放すが、色々とあって、こちらへ来るのが遅れてしまい、申し訳ない」


 「いえいえ、鉄道の開通式には、まだ、日もあるから大丈夫ですよ」


 彼女が頭を下げるので、急いで言葉を返した。


 「ドレイティス王朝の件の報告も聞いている。ネーヴェ、ご苦労だった」


 ルビーさんがネーヴェさんをねぎらうと、さっきまで頬を膨らませていたアスールさんは、さらに不満そうな表情をする。


 「ん? あ、えーと、アスールもご苦労だった」


 彼女のねぎらいの言葉を受けた途端、アスールさんは自慢げな顔へと表情を変えていく。


 「ア、アスールは、フーカ様の妻なのですよ。ルビー様にねぎらいの言葉を要求してどうするんですか……」


 「そうだった。……フーカの妻か、うん、いい響きだ!」


 アスールさんは、ネーヴェさんに向けて、顔を赤らめ、嬉しそうな表情をする。

 僕は表情をコロコロと変える彼女を微笑ましく見つめていたが、ネーヴェさんとフリーダさんは、額を押さえてうなだれてしまった。

 その後、簡単な挨拶を終えた僕たちとルビーさんたちは、一緒に城へと戻るのだった。




 ルビーさんたちが遅れた詳細を聞くために、僕は彼女たちと話す場を設けた。

 会議室には、僕を含めた空港へ迎えに行った五人と、ルビーさんとイーロさん、フリーダさんとディアンタさんが席に着く。

 他の従者たちは、自由行動を与えられ、意気揚々と街へ繰り出しに行ってしまった。


 僕と向かい合うルビーさんの様子がおかしい。


 「ルビーさん? どうしたの?」


 「いや、いつもより、静かというか落ち着いた雰囲気だと思って、何か物足りない感じが……」


 彼女の言いたいことを察した僕たちは顔を引きつらせる。

 いつも落ち着きがなく、騒がしいと思われていることが良く分かった。


 「えーと、金ちゃんたちは二日酔いで寝込んでるし、色々とやらかすメンバーが、鉄道の開通式の件でいないからだと思うよ。でも、いつもはこんな感じなんだよ!」


 「そ、そうなのか?」


 僕の返事に、ルビーさんは半信半疑の表情をうかべ、ネーヴェさんは目を泳がせて、顔を逸らした。

 少し変な間が空く。


 「と、とにかく、話す場を設けたんだし、話しを始めませんか?」


 「そ、そうだな」


 僕が変な間を壊すように口を開くと、ルビーさんは苦笑しながら頷いた。


 「では、我々が遅れた理由なのだが、その前に、話すことがある。我が城の奥には、我が国で祀っている女神、竜神ミコト様の神殿があるのだ。だが、ユナハ国へ向かうために城を出ようとした時、神殿からミコト様の気配がなくなり、大騒ぎとなって出立が出来なくなったのだ」


 ルビーさんの隣に座るイーロさんが黙って頷く。

 彼女の話しを聞いたネーヴェさんの眉がピクピクし、僕もツバキちゃんの部屋に転がっていたグリュード竜王国の酒壺を思い出して、顔を引きつらせた。


 「フーカ殿? その顔は、何か知っているのか?」


 「いやー。まだ、確証はないんだけど、グリュード竜王国の女神とビルヴァイス魔王国の女神がうちに来て、酒盛り……飲み会? というか宴会をしてたような痕跡があったようなないような……」


 「フーカ殿? どっちなんだ?」


 「二国の酒壺が転がっていただけだから、何とも言えなくて……」


 「……ネーヴェ、本当なのか?」


 「はい、神殿に備える酒壺が転がっていました」


 「「……」」


 ルビーさんとイーロさんは、言葉を失って考え込んでしまう。


 「これは、ビルヴァイス魔王国の人たちを呼んで……あと、ミリヤさんとオルガさんも呼んだほうがいいかな?」


 僕はアンさんに視線を送ると、彼女は頷き、退室していく。


 しばらくして、アンさんは、ロルフさん、ブレンダさん、ミリヤさん、オルガさんの四人を連れて戻ってきた。

 彼らが席に着くと、今までの話しを伝える。

 すると、案の定、ロルフさんとブレンダさんは、言葉を失って顔を引きつらせた。


 「フーカ様、ここにいる方々には、ツバキ様がこちらの世界に降臨されたことを話したほうがいいのでは?」


 イーリスさんが僕にだけ聞こえる声でささやく。

 確かにそうなのだが、ツバキちゃんはショックで寝込んでいる。

 その経緯まで話さないとならなくなるかもしれないのは、ちょっと……。

 僕は腕を組んで悩む。


 「フーカ殿? その様子は、何かを知っているように見えるのだが」


 ロルフさんが僕に声を掛けると、ルビーさんたちからも追求するような視線を向けられた。


 「えーと、これは、まだ知られてはいけない情報なんで、口外しないで下さいね」


 彼らは黙って頷く。


 「実は、少し前からツバキちゃん……えーと、うちのボンクラ女神が降臨してまして。……おそらく、そちらの国の女神さまたちを呼んで、飲み会を開いたと僕たちは予想しているんですけど。……まあ、色々あって、今はツバキちゃんが寝込んでいるので、何も聞けないんです」


 僕は、後半部分はうつむいて話した。


 「「「「!!!」」」」


 ロルフさんたちとルビーさんたちは驚愕し、固まって動かない。

 思考が追いつかず、頭の中で整理をしているようだ。

 そのまま、時間だけが過ぎていった。


 皆が落ち着きを取り戻すと、さらに、話しを続けたのだが、ツバキちゃんが動けるようにならないと話しは予想でしかなく、僕たちは、彼女が回復するまでこの一件を保留とした。


 僕たちが解散しようとすると、ブレンダさんが不思議そうに僕を見つめる。


 「フーカ様? ツバキ様は、なんで体調を崩されているのですか?」


 「こ、こっちの環境が合わなかったのかな? きっと、慣れれば動けるようになりますよ。アハハ」


 僕は誤魔化した。


 「いや、フーカ? あれでは女神でも堪えるぞ! 成敗と言っていたから、お仕置き程度のことだと思っていたのに、あれでは拷問だからな」


 アスールさんが余計なことは言いだした。


 「ア、アスールさん。シッ、シー。シー」


 僕は指を立てて彼女に合図を送ると、彼女はハッとした表情を浮かべる。


 「フーカ、あとは任せた。頑張れ!」


 僕に全てを押し付けると、彼女は窓のそばに行き、外を眺め出した。

 ここに来て、やってくれた……。


 僕はブレンダさんたちに問い詰められて、全てを話した。

 すると、彼女たちはテーブルに肘をついて頭を抱え、静かになってしまったのだった。



 ◇◇◇◇◇



 個人的には、何かとバタバタとはしていたが、鉄道の開通式を無事に迎えられることとなった。

 金ちゃんたちも復活し、ツバキちゃんも回復した。

 しかし、彼女への質問は、開通式を終えた後、落ち着いてから聞く方が良いと判断された。




 四本の線路が並ぶユナハ駅のホームに用意された席には、僕たちと招待客たちが座る。

 そして、おそらく車両であろう大きな白い布をかぶせられた二つの塊を見つめながら、開通式が始まるのを待ちわびていた。

 ツバキちゃんも僕たちのそばで、シレっと座っているが、彼女が女神だと気付いている者は、ごく一部だけだ。


 そんなごく一部のルビーさんの隣には、ツバキちゃんの隣が用意されていた。

 ルビーさんは、隣に座るツバキちゃんをチラチラと気にしながら、今までに見たこともないような、強張らせた表情を浮かべている。

 彼女には正体がバレているのだから、隣の席にしても大丈夫かと思ったが、逆効果だったようだ。

 ルビーさん、ごめんなさい。




 ファンファーン、ファファファファーン――。


 鼓笛隊によってファンファーレが演奏されると、集まった市民たちから歓声が上がった。

 そして、演奏が終わるのと同時に、ケイトが壇上へと上がる。


 「お集まりの皆様、これより鉄道の開通式を行います」


 パチパチパチ――。


 拍手と歓声がホームに響き渡った。


 「えー、コホン。この鉄道が開通することにより、物流や人の移動が楽になり、活発となります。この国は、より一層、豊かになっていくことでしょう。また、隣国と協力して、国外にも路線を伸ばしています。これにより、路線の繋がっている国同士の物流や人の移動が楽になり、活発となることで、お互いに豊かとなることも夢ではないのです」


 再び、拍手と歓声がホームに響き渡る。その声をケイトは目をつむり、満足そうな表情で聞いていた。

 そして、歓声が鎮まるタイミングでカッと目を見開く。


 「では、この鉄道に欠かせない乗り物を紹介します!」


 彼女は、白い布で覆われている二つの物体を手で指した。

 皆の視線が白い布に集中する。


 ドルルルルルル――。


 鼓笛隊の太鼓が鳴り響く。


 バッ!


 太鼓の音が止むのと同時に、白い布が外された。

 そして、金色の車体と銀色の車体が現れると、鼓笛隊が景気よく音楽を鳴り響かせる。

 皆からは、今までで一番盛大な拍手と歓声が巻き起こった。

 しかし、僕は、その二つの四両編成の車体を見て唖然としてしまう。

 前方が丸く突き出たそれぞれの先頭車両には、金ちゃんと銀ちゃんの顔がモチーフとしてかたどられていたからだ。


 「これって、あの有名な機関車のパクリだよね?」


 僕は隣に座るヒーちゃんにささやいた。


 「違います。気を狙ったら、たまたま、似てしまっただけです」


 彼女は僕と目を合わせずに答えた。


 「本当は?」


 「調子に乗ってふざけだしたツバキ様とケイトさんを止められませんでした……」


 彼女はうつむいてしまう。




 壇上では、ケイトによって、魔導列車の性能や鉄道の利用方法などの簡単な説明が続けられていた。

 そして、彼女は一通りの説明を終えると、こちらを見つめる。


 「では、この乗り物がいかに安全であるかを証明するために、フーカ陛下たちと来賓の方々に乗っていただきましょう」


 市民たちからは拍手と歓声が起こるが、席に座っている僕たちは、唖然とした。

 今、安全を証明するためって言わなかったか……?


 「さあ、フーカ様。皆様もお乗り下さい」


 彼女に促されて、僕たちは席を立ち、車両へと向かう。


 「金色の先頭車両のほうは『暴走列車・金ちゃん号』。銀色の先頭車両のほうは『やんパチ列車・銀ちゃん号』です。どちらでも好きな車両へ、お乗り下さい」

 

 「「「「「!!!」」」」」


 車両の名前を聞いた僕たちは驚く。


 「ちょっと、待った! ケイト? 今、なんて言った?」


 「はあ? なんのことですか?」


 「とぼけるな! 暴走列車とか、やんパチ列車って言ってたよね? そんな物騒な名前の列車に乗れるか!」


 彼女はやれやれと言った表情でこちらを見つめる。


 「命名したのは、金ちゃんと銀ちゃんです。ほら、フーカ様がそんなことを言うから、二人が落ち込んじゃったじゃないですか」


 僕が二人のほうを見ると、彼らは肩を落としていた。


 「落ち込もうが関係ない! こんな、いかにも事故を起こしそうな名前の列車に乗れるか!」


 僕が叫ぶと、二人は顔を上げて、こちらを見る。


 (カッコいいと思ったのに……)


 (強そうな名前なのに……)


 金ちゃんと銀ちゃんが念話を飛ばしてくると、会場にいた者たちがざわめき始めた。

 マズい。なんで、こんな時に念話を使うんだ!

 僕が焦りだすと、ミリヤさんが真っ直ぐに壇上へ進み、そこへ立つ。


 「皆様! 落ち着いて下さい。今のは、フーカ陛下が最近になって覚醒した能力で、話せない金ちゃんと銀ちゃんの思念を皆様にも伝えて下さったのです!」


 「「「「「おぉぉぉー!!!」」」」」

 「「「「「すごーい、フーカへいかー、さすがでーす!!!」」」」」

 「「「「「お見事です!!!」」」」」

 「「「「「フーカ陛下、バンザーイ!!!」」」」」


 会場から、僕をたたえる声が沸き起こる。

 ミリヤさんは、二人の念話を隠すために言ったのだろうが、僕の能力ではないので、心が痛む。

 一方で、自分たちの念話能力を、僕の能力として紹介された金ちゃんと銀ちゃんは、ショックを受けていた。




 会場が落ち着いたところで、僕たちは金ちゃんと銀ちゃんの周りに集まって、二人に改名を求めた。

 二人は悩みながら、新しい名前を出す。


 「『猪突列車・金ちゃん号』と『猛進列車・銀ちゃん号』って……。二人とも、なんで、そんな停まれないような名前を出してくるんだよ!」


 僕が文句を言うと、『おとこはあゆみをとめたらダメだ』と、金ちゃんがプラカードを掲げ、銀ちゃんは、その隣でウンウンと誇らしげに頷く。


 「カッコいいことを言ったと思ってるんだろ! もし、駅で停まれなかったりしたら、「また、金ちゃん号が停まれなくて、駅を通過していったよ」とか言われるようになっても知らないよ」


 ガーン!


 二人は頬を押さえてショックを受ける。


 「このままでは埒があかないので、フーカさんが名付けたらどうですか?」


 シャルは、面倒くさそうな表情で僕に振ってくる。

 すると、皆も頷いた。

 僕に押し付けてきたな……。


 「えーと、それなら、なんとか列車とか言わないで、金ちゃん号と銀ちゃん号でいいんじゃないの? 今後、列車が増え出したら、今の列車を改装して、金ちゃん号の名前の前に豪華列車とかを付けた特別車両にしていけばいいことだし」


 (つまんない)


 ピク。


 (発想が乏しい)


 ピクピク。


 金ちゃんはガッカリし、銀ちゃんはやれやれと言った表情で、僕を見つめる。


 「お、お前たちが、まともな名前を付けないから、こうなったんだろ!」


 僕が怒鳴ると、二人はアンさんの背後に隠れた。

 ここでの会話が聞こえない人たちは、いきなり飛び込んできた念話に驚き、首を傾げている。

 そして、僕の周りでは、笑いを堪えている人たちが、口を押えて苦しんでいた。




 話しがまとまると、ケイトが壇上へと戻る。


 「えー、フーカ陛下の提案で、この二つの車両は『金ちゃん号』と『銀ちゃん号』になりました」


 会場は少しざわつく程度で、市民たちもこの件に関しては、僕を労わるように流された。

 何故だろう。僕だけが傷つく結果になった気がする……。




 その後、僕たちは、促されるままに車両へと乗った。


 プルルルルルー。


 ホームに発車のベルの音が鳴り響き、扉が閉まる。

 そして、列車がゆっくりと動きだすと、周りからは歓声が起き、興奮している人も多く見受けられた。

 列車は少しずつ加速を続け、ホームから離れると、市民たちが楽しそうに追いかけてくる。


 皆は、楽しんだり喜んだりと満足そうだ。

 しかし、僕だけは、なんの感動もなく、ただ、労わるように流されたことが尾を引きずり、頭から離れないでいた。


 列車は、そんな僕を乗せて、爽快と駆け抜けていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。


ブックマークと評価をしていただき、ありがとうございました。

これを励みに頑張れます。


この作品が、面白かった、続きが読みたいと思った方は

ブックマークをしていただけると嬉しいです。


また、下にある☆☆☆☆☆を押して、

評価をしていただけると、さらに嬉しいです。


よろしくお願いします。


誤字脱字、おかしな文面がありましたらよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ