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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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137話 ジン・ブレイギル王との決闘

 僕たちは、いまだに抵抗をみせるブレイギル聖王国の者たちを包囲していた。

 このまま戦闘になってしまったら、この人数の差では勝てない。

 それどころか、死んでしまうかもしれないのに、何で抵抗するのか、僕には全く分からなかった。


 話し合いができないだろうかと、僕とセレストさん、エルさんは、彼らに降伏を促していたシリウスのそばへと移動した。

 すると、ジン・ブレイギル王はこちらを見て、眉を動かす。

 そして、僕をジッと見つめているように思えた。




 「この人数では、もう勝ち目はありません。素直に降伏して下さい」


 僕たちがシリウスのそばに着た後も、彼はブレイギル聖王国の者たちを刺激しないように、穏やかな口調で彼らに声を掛けていた。


 「「「「「……」」」」」


 だが、彼らからの返事は無言のみであった。


 しかし、変化は、突然、起こった。

 急に、ジン・ブレイギルが一歩前に出てきたのだ。


 「お、おい! お前を見た事があるぞ! お前は……、(もり)の……(もり) 風音(かざね)の弟! 確か、名前は……まあ、名前なんてどうでもいいか!」


 ジンは、僕を指差して叫んだ。

 人の名前をどうでもいいって、なんて、失礼な奴だ!

 僕はムッとして、彼を睨みつける。


 「風音の弟の分際で、なんだ、その態度は? 昔みたいに怖気づいてろ!」


 彼は、僕の素性が分かると、急に余裕を見せ始めた。

 それが、またムカつく。




 ヒーちゃんは、何かを思い出そうとしながら、僕の隣へと来て、ジッと彼を見つめる。


 「あー! この人が、カザネお義姉ちゃんのストーカーたちの中でも、一番、たちが悪かった人です!」


 ヒーちゃんは思い出したらしく、彼を指差して叫んだ。


 「誰がストーカーだ! 何度も俺の女になれと誘っても、風音が断るから、嫌がらせをして弱みを握ろうとしていただけだ!」


 「それをストーカーと言うんだ!」

 「それがストーカーなんです!」


 顔を真っ赤にして否定するジンに、僕とヒーちゃんは、声を揃えて世間でいう事実というものを告げた。


 「い、言いたい放題、言いやがって! 俺はストーカーなわけあるか! 俺は気に入った女を手に入れるのに、手段を選ぶことはしねーんだよ! それがわりぃーのか!?」

 

 「「「「「悪い!!!」」」」」


 僕とヒーちゃんだけでなく、セレストさんやエルさんたち皆も声を揃え、彼を否定した。

 こういう奴ほど、自覚がないから、たちが悪い……。


 「それに、この人がフー君を脅して、カザネお義姉ちゃんの脱ぎたての下着を取って来いとか、裸を盗撮してこいとか言っていた人です!」


 ヒーちゃんは、さらに思い出したことを口にすると、皆から冷たい蔑むような視線が彼に向けられる。

 それは、彼のそばにいる高官や、彼を護る兵士たちからも向けられていた。

 盗撮の意味は分からなくても、話しの流れから、何となく察したのだろう。


 「おい、何だ! なんで、お前たちまでもが、そんな目で俺を見ている! あいつらは敵だぞ! 真に受けるな!」


 彼は苛立ちをみせながら、周りの者を怒鳴りつけた。




 ジンは、味方にまで冷たい蔑むような視線を浴びせられたことで、頭に血が上り、冷静さを欠いたのか、彼を止めようとする高官と護衛の兵士を押しのけて、前へと出てくる。

 そして、剣を抜くと、僕に剣先を向けてきた。


 「おい! 風音の弟! 俺と勝負だ! 決闘をしろ! 俺が負けたら、降伏してやる。だが、お前が負けたら、ユナハ連合はブレイギル聖王国の属国だ!」


 そんな責任重大な勝負なんて、受けれるか!

 僕は決闘を申し込まれて、逃げようと一歩下がりたかったが、金ちゃんと銀ちゃんが後ろにいて、邪魔で下がれない。

 かくなる上は、バシッと言い返すしかない。


 「ことわ……」

 「「望むところだ!!!」」


 僕が断ろうとした返事を、レイリアとエルさんの声がかき消してしまった。

 それも、申し出を受けている。

 こ、こいつらは、僕の意見も聞かずに、何を勝手に決めてるんだ! 僕をプレッシャーで殺す気か!?

 僕が二人を睨みつけると、二人は拳を握り、こちらへ向かって自信に満ちた笑顔を浮かべてくる。

 ひよわな僕が戦うっていうのに、どこから、その自信が出てくるんだ? そして、僕に何を期待しているんだ?


 「ちょ、ちょっと、勝手に決めないで欲しいんだけど……」


 「「「「「頑張って下さい!!!」」」」」


 僕は反論するつもりだったが、レイリアとエルさんだけでなく、皆からも期待の眼差しで応援され、断れない状況へと追い込まれてしまった。

 だから、何で、僕に期待できるんだ……?



 ◇◇◇◇◇



 謁見の間の中央が開けられて、その周りに人の輪が出来る。

 僕とジンのために、決闘の準備が進められ、後は僕と彼が戦うだけだ。

 もう、逃げ場はなく、決闘をするしかなかった。

 ジンは、堂々とその開けられた空間の中央まで歩いてくる。

 そして、僕に向かって手招きをして、挑発してきた。

 自分が負けるかもしれないとは、微塵も感じていない態度だった。


 僕も彼の待つ中央まで歩いて行く。


 「「「「「へいかぁー!!!」」」」」

 「「「「「フーカへいかぁー!!! 頑張って下さーい!!!」」」」」


 僕への声援で広い空間が揺れる。

 恥ずかしくも嬉しくてたまらない僕に対して、ジンは、苛立ちを見せていた。

 ユナハ連合によって、ほぼ制圧されているのだから、当たり前だ。

 それでも、彼は自分への声援が少ないことに、我慢できない様子で悔しがっていた。

 バカだ……。




 審判は、公平にシリウスとブレイギル聖王国の騎士団長の二人で行うこととなった。

 

 「これより、ユナハ連合代表、フーカ・モリ・ユナハ王と、ブレギル聖王国、ジン・ブレイギル王の決闘を始める! 両者、立ち位置へ!」


 ブレイギル聖王国の騎士団長が中央に立ち、大きな声で仕切った。

 僕とジンは、指定された位置へたち、睨み合う。

 騎士団長とシリウスで目配せをすると、二人は腕を高く上げる。


 「「はじめ!!!」」


 二人は号令を掛けながら、腕を振り下ろした。


 僕とジンとの決闘が始まった。

 彼は剣を抜くこともせずに、両足でステップを踏みながら、シュッ、シュッと拳を空に繰り出して、シャドーボクシングを始めた。

 剣を使わないどころか、僕に向かってニマーっと蔑むような笑みを浮かべている。

 その余裕からくる態度を見て、さすがに僕もムカついてきた。


 彼は僕に負ける気はしないのだろうが、僕だって、こっちの世界に来てから、何度も修羅場をくぐっているんだ! ……だと思う。……そんな気がする。

 僕が、これといった修羅場しか浮かんでこないことに翻弄(ほんろう)されていると、彼は一気に間合いを詰めてきて、防御も考えずに大振りで殴りかかってきた。


 「うわっ! ヤバい!」


 僕はとっさに身をひるがえして、その拳をかわすと、彼が拳を握る手首を掴み、空いた手でその肘を押さえる。

 そして、彼の勢いと体重を使ったテコの原理で、投げ飛ばす。


 ガシャン。


 甲冑の金属音と共に、背中から地面に叩きつけられた彼は、ポカーンとした表情を浮かべて、僕を見上げていた。


 「何で、俺が倒れてんだ? クソッ! お前、何をした!?」


 バカだろう。答えるわけがない。

 それにしても、背中からもろに叩きつけられたはずなんだけど、全然、効いてない? もしや、肉体強化とかのチート? これはヤバいかも……。

 彼は首を振ったりして、ダメージを受けたかを確かめながら起き上がった。

 そして、僕をキッと睨みつけてくる。


 「よくもやってくれたな! 以前は、俺の前で真っ青な顔をしてビビッてやがったくせに、いい度胸だ! よえーと思って手加減をしてやったのが間違いみてーだな。今度は容赦しねーぞ! ビビッてちびるなよ!」


 彼は鼻息を荒くして、僕に掴みかかろうと手を伸ばしてきた。

 相手はチートかもしれない。

 捕まったら絶対に負ける!

 僕の頭の中に、そんな不安ばかりが浮かんでくる。

 彼が僕の胸ぐらを掴む瞬間に、その手を押さえ、彼の親指を握ってひねるように回す。 

 そして、彼の懐に潜り込んで彼の重心と体重を利用して投げ飛ばす。

 今度は頭から落ちるように、手を放すタイミングを計った。


 ゴチン、ガシャン。


 「ぐぉぉぉー!!!」


 さすがに、頭から固い床に叩きつけられたのは、効いたらしい。

 彼は頭を押さえて床をのたうち回っていた。


 「よえーくせに、よくもやってくれたな! 誰か、手を貸したんじゃねーだろうな?」

 

 血走った目で周りを睨みつけた彼は、周囲が離れた位置にいるのを確認すると、怒りのこもった視線を僕へと向けてくる。

 彼に睨みつけられた僕は、ちょっと、ちびりそう。

 立ち上がらずに四つん這いのままの彼は、僕に向かって左手を伸ばしてくる。

 何をする気なのだろうか?


 カチッ、ヒュン。


 彼の左手から、僕の顔に向かって何かが飛んできた。

 分かってはいるのだが、近すぎるこの距離では避けきれない。

 僕は腕で顔を庇って目をつむってしまう。


 パシッ。


 何かが掴まれる音がした。

 そして、何も起こらない。

 僕は、恐る恐る目を開けてみる。

 彼と僕の間に金ちゃんが立ちはだかり、僕の顔の前で、矢尻の無い先端を尖らせただけの短めの矢を掴んで止めていた。

 これは、レイリアを襲った矢だ! こいつらが、エトムントに隠し弓を渡したのか!

 僕に怒りが募ってくる。

 だが、死にそうになった恐怖からか、身体が動かない。


 「おい! 何だ、この間抜けそうなゆるキャラは! このバカが割って入ったのだから、この決闘は俺の勝ちだ!」


 彼はいまだに四つん這いのまま、金ちゃんを見上げながら叫んだ。


 ブチッ!


 金ちゃんから、何かが切れるような音が聞こえた気がする。

 すると、金ちゃんは四つん這いのジンの顔面に向かって蹴りを入れる。


 バコ!


 彼は顔を押さえて、のたうち回った。


 ゲシ、ゲシ、ポニュッ、ポニュッ。


 金ちゃんは、すぐに彼のそばまで近付き、蹴ったり踏みつけたりと、容赦なく攻撃を加える。


 「グエッ、グハッ。や、やめろ! こ、こいつをどかせろ!」


 彼は叫ぶが、誰も止めには入らなかった。


 ゲシ、ゲシ、ポニュッ、ポニュッ、ゲシ、ゲシ、ポニュッ、ポニュッ――。


 それどころか、銀ちゃんも加わり、二人で彼を蹴ったり踏みつけたりして、ボコボコにしていった。


 ジンは丸くなって防いでいたが、二人に蹴られまくられ、その顔は鼻血で赤く染まり、見事なほどに腫れていた。


 「グハッ。お、俺のも負けだ。も、もう、やめてくれ……」


 彼は涙目で訴えてくる。その言葉を聞いた二人は、彼の上でガッツポーズを取って、勝利を喜ぶ。

 せめてどいてあげたら……。




 ブレイギル聖王国の高官と兵士たちが、ジンの周りに集まると、彼に肩を貸して、起こしていた。


 「私は宰相のジルロ・グランデスだ。魔物の助っ人を入れるとは卑怯だぞ! この決闘は、ジン陛下の不戦勝だ! 何か、言い分があるのなら言ってみろ!」


 宰相と名乗る灰色の髪をした小太りで目の細い中年男性が、僕に向かって怒鳴り散らす。

 金ちゃんと銀ちゃんが僕を庇うように、彼との間へ入ってくる。

 そして、『まぬけそうなゆるきやらじやない!』と金ちゃんがプラカードを掲げ、『ぼくたちは、あいらしいゆるきやらだ!』と銀ちゃんが掲げた。


 「なっ! そんなことでジン陛下をこんな目にしたのか!?」


 宰相の言葉に二人はコクコクと頷く。


 「だ、だが、最初にジン陛下の攻撃を阻止したのはお前ではないか!?」


 彼は、銀ちゃんを指差して叫んだ。

 すると、銀ちゃんはフルフルと首を横に振り、金ちゃんは自分を指差して主張をする。

 

 「そ、そんなのは、同じ顔なのだから、どちらでもかまわん! 二人の決闘に割って入り、助けたことが問題なのだ!」


 ガーン!


 彼に同じ顔と言われた二人は、肩を落としてうなだれてしまった。


 顔を真っ赤にしたエルさんが、金ちゃんと銀ちゃんに駆け寄った。


 「黙って聞いてれば、ふざけんじゃないわよ! 金ちゃんと銀ちゃんの色の違いも分かんないの? それに、そっちが先に隠し弓を使ったのが原因よ!」


 エルさんが反論すると、今までうなだれてた金ちゃんと銀ちゃんは、息を吹き返したようにウンウンと頷いて、彼女に同意する。


 「こちらが武器を使ったとしても、素手の決闘とは決めていないだろう! そちらは加勢が入ったのだから、責められるべきは、そちらではないのか!?」


 宰相も負けてはいない。


 「何か、勘違いをしていませんか? 金ちゃんと銀ちゃんは、フーカ様が神獣創成魔法で生み出したのですから、二人はフーカ様の魔法で召喚されたような存在です。武器を使っていいのなら、魔法を使っても問題はないですよね?」


 今度は、ケイトが横から出てくると、正論を宰相へ浴びせる。

 すると、彼は魔法と言われたことで、言い返す言葉が見つからないのか、唇をかみしめたまま黙ってしまった。

 何故か、金ちゃんと銀ちゃんは、ケイトにしかめっ面を見せると、とても嫌そうにする。


 「おい、二人とも! その態度は、僕に失礼だぞ!」


 僕が叫ぶと、二人はこちらを見る。


 「フンッ」


 二人は鼻であしらうと、再び嫌そうな顔をして、横を向いてしまった。

 こ、こいつらは!

 僕が怒りで身体を震わせていると、皆は苦笑を浮かべつつも毎度のことと、楽しむように僕たちを見つめていた。


 宰相が言い負かされたことで、ブレイギル聖王国の者たちは、負けを認めたようだ。

 

 「では、この決闘は、金ちゃんと銀ちゃんの勝利とする。ブレイギル聖王国の者たちは、武器を捨てて降伏しろ」


 アンさんは、彼らが戦意を喪失しているのを確かめてから宣言すると、ブレイギル聖王国の兵士たちは武器を捨て、高官たちもうなだれてしまった。

 すぐにシリウスが兵たちに指示を出して、ブレイギル聖王国の者たちは捕縛され、連れていかれる。

 ただし、ジンだけは、重傷のようで、担架に乗せられてから運ばれて行った。


 ん? あれ? なんか違う……。


 「ねえ、アンさん? 決闘に勝ったのは僕だよね?」


 「あっ! ……コホン。間違えました。でも、もう、今さらなので、流して下さい」


 「そ、そんな……」


 アンさんは、申し訳なさそうに頭を下げると、横を向いて、僕と目を合わせてくれない。

 肩を落としてうなだれる僕の肩を、金ちゃんと銀ちゃんが、ポン、ポンと優しく叩いて励ましてくれる。

 だが、二人に励まされても、悔しさと嫉妬のような感情がこみ上げてくるだけだった。




 この時をもって、ブレイギル聖王国は滅亡し、ユナハ連合とドレイティス王朝の勝利が確定した。

 連れて行かれるブレイギル聖王国の者たちを見つめながら、僕たちは大いに喜んだ。


 「では、後はセレスト様やエル様に任せて、金ちゃんと銀ちゃんは、フーカ様を危険なところへ連れてきた件について、別室でじっくりとお話ししましょうか」


 アンさんは優しく微笑むが、二人は喜んで腕を上げていた状態で固まってしまった。

 レイリアとオルガさんが固まった二人を引きずって行くと、アンさんは、こちらに向かって軽く頭を下げてから、彼女たちの後を追いかけて行った。

 僕は引きずられて行く金ちゃんと銀ちゃんを見て、どこかスカッとしていた。


 そして、残された僕たちは、話し合えそうな部屋へと移動し、ブレイギル聖王国の国土の分割について話し合うのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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