136話 王都クリスラの制圧
ユナハ連合軍が王都クリスラへ侵攻すると、僕たちは遅れて、ドレイティス王朝軍と共に、金ちゃんと銀ちゃんが破壊した城壁のところから、王都の中へと入って行った。
用心のため、警戒しながら城へ続く通りを馬車でゆっくりと進む。
車窓からは、街の景観や建物が見えるが、そのボロさや汚さなどから、王都なのに潤っていないことが分かってくる。
悪政が敷かれていた証だ。
そして、城へと近付くにつれて、周りには豪華な屋敷などが増え始め、通りとその周りも奇麗になっていく。
この辺りから先の者たちだけが、甘い汁を吸っていたことが良く分かる。
「ハァー」
「ろくでもない王が統治している国の街並みは、どこも一緒ですね」
僕が街並みを見て溜息を吐くと、ミリヤさんも肩を落として、僕に同意を求めてきた。
「そうだね。自分の思い通りにすることしか考えていないんだろうね」
彼女は僕へ同意するように、頷いてみせた。
しばらく進んでいると、前方を歩いている兵士たちの列が騒がしくなった。
そして、こちらへと凄い勢いで逆走してくる馬が二頭。
ヤ、ヤバい!
何となく察しのついた僕はとっさに馬車の扉の鍵を閉めた。
「フゥー。これで大丈夫!」
車内にいた皆は、僕を見て呆れたような笑みを浮かべる。
バンッ!
御者台側の扉が勢いよく開けられ、今は会いたくない人が入ってきた。
「ヒィー! エルさん! どっから入ってくるんだよ!」
「フーカ君が扉の鍵を閉めるからでしょ!」
彼女の後ろには、申し訳なさそうに頭を下げて苦笑するハンネさんがいた。
そして、二人は、そのまま車内の椅子に腰を下ろす。
「それで、フーカ君? こちらの意図とは関係なしに敵陣が吹っ飛んで土煙があがったり、城壁が破壊されたのは、何故かしら?」
エルさんは、僕の顔を覗き込んでくる。
こ、怖い……。
「ふ、不思議なこともありますね?」
「何をすっとぼけてんのよ! 報告は上がってるのよ! そこのお調子者コンビが、やらかしたんでしょ!」
彼女は金ちゃんと銀ちゃんを指差す。
パッ。
金ちゃんと銀ちゃんは、ケイトとヒーちゃんを指差す。
パッ。
ケイトとヒーちゃんは、僕を指差す。
「な、なんで、僕に回ってくるの!?」
僕もと、セレストさんとジゼルさんを指差そうとしたが、二人からウルッとした瞳を向けられ、指を差すことができなかった。
ズ、ズルい……。
「やっぱり、フーカ君が元凶じゃない!」
「そ、そんなー」
僕は肩を落としてうなだれる。
「エル、フーカ殿をいじめるのは、それくらいにしておきなさい。でないと、あなたが我が国へ来訪した時に、おねしょをしたのを誤魔化すため、城の窓からおねしょの証拠を放り投げたこととか、色々とバラしますよ」
「ちょ、ちょっと! セレスト様はいつの話しをしているんですか!? それは、私が子供だった頃の話しじゃないですか!? って、バラさないで下さい!」
エルさんは、顔を真っ赤にしてうなだれてしまった。
「あら、ごめんなさい。ウフフフフ。でも……」
「分かりました。それ以上は口を開かないで下さい。今回の件もフーカ君のことも忘れます。だから、お願いします。黙ってて下さい!」
エルさんはセレストさんの言葉をさえぎって、彼女に懇願する。
「分かったわ! この件は、これでおしまい。皆もいいですね」
僕たちは、セレストさんの豹変したような思わぬ一面に、青ざめて頷いたが、ジゼルさんだけは苦笑していた。
こっちのセレストさんが、彼女の素なのかもしれない……。
僕は、今後の彼女との接し方を見直さねば危ないと、深く心に刻みつけた。
ハンネさんが、何かを言いたそうに、僕のことをジッと見つめてくる。
「あ、あのー、ハンネさん? 僕に何か用事があるの?」
「あっ、はい。実は、フーカ様が捕らえたホレス・フォン・クスケたちを引き渡して欲しいのですが、いいでしょうか?」
「そうだったわ! セレスト様のせいで忘れていたわ! 我が国の面子のためにも、ホレスたちは、こちらでも今までの経緯を調べた後、処刑したいのよ!」
ハンネさんの後から付け加えるように、エルさんも話す。
すると、金ちゃんが『ダメ!』、銀ちゃんが『あれはぼくたちの!』とプラカードを掲げて主張する。
「えっ!? いやいや、何で、金ちゃんと銀ちゃんが勝手に決めてるの? こういうことは、勝手に決めたらダメだよ!」
僕が二人の意見を退けると、二人はプクーと膨れる。
そして、『ぼくたちのぶかにする!』と金ちゃんがプラカードを掲げると、『ぼくたちのぶたい!』と銀ちゃんも掲げた。
二人は、僕を襲ってきたあの一団を部下にして、自分たちの部隊を作るつもりらしい。
僕たちはどうしたものかと悩み、困った表情で二人を見つめる。
すると、少し考え込むようにしていたエルさんが、ニンマリと悪そうな笑みを浮かべた。
い、嫌な予感……。
「えー、そうなの? でも、金ちゃんと銀ちゃんの部下にするなら仕方ないわね。うちで処刑するよりも苦しみそうだから、二人の部下にするなら、私は諦めるわ! 金ちゃん、銀ちゃん、ちゃんと鍛えなおしてね!」
彼女は悪そうな笑みを崩さずに諦めた。
嫌な予感は当たった。
パンッ!
金ちゃんと銀ちゃんは、エルさんの言葉にハイタッチをして喜ぶと、彼女に向かってコクコクと嬉しそうに頷き、親指を立ててみせる。
彼女は、二人の張り切りように、満足そうな悪い笑みを浮かべて頷き返す。
僕を無視して、勝手に話しがまとまってしまった。
そして、僕だけでなく皆も、厄介ごとが一つ増えたと肩を落とすのだった。
◇◇◇◇◇
ユナハ連合軍は、順調にブレイギル聖王国軍を城まで追い詰めた。
そして、城の城壁の閉ざされた門の前では、僕たちが、その門を見つめていた。
「ブレイギル聖王国軍は五千人にも満たない数まで減り、今は城内へ逃げ込んで、籠城をしています」
シリウスが報告をする。
それでも、ユナハ国軍よりも多いんだ……。
僕は自国の軍を見つめて苦笑する。
「敵の兵士が護っているようには見えないけど、そこの門は無人なの?」
「おそらく、かんぬきで閉ざして時間を稼ぎ、その時間で態勢を整え、待ち構えているのでしょう」
アンさんが僕の疑問に答えると、レイリアやハンネさん、各国の騎士や将官たちも頷く。
すると、金ちゃんと銀ちゃんは、城門に近付いてしまう。
コンコン。
銀ちゃんが城門を叩くと、金ちゃんは『はいつてますか?』と、プラカードを城門に向けて振りだす。
「「「「「……」」」」」
僕たちは唖然として、二人を見つめる。
プラカードを掲げても相手に聞こえないんだから、返事をするわけないだろうに……。
「バカですか!? トイレじゃないんだから、返事をするわけないでしょ! 今は、こちらがその門を破るまでに態勢を整えてしまうことを危惧しているというのに、何をしてるんですか!」
ケイトに怒鳴られた二人は、プクーと頬を膨らませると、門に寄りかかって、いじける。
ギィー。
二人が寄りかかったことで、門が開いてしまった。
コテッ。
二人はそのまま転げてしまい、パニックになっているのか、両手足をばたつかせていた。
すぐに、アンさんさんとレイリアが駆けつけ、二人を起こす。
すると、金ちゃんと銀ちゃんは、門をドカドカと蹴って八つ当たりを始めた。
「「「「「……」」」」」
僕たちは、その姿を見つめながら、色々な意味で呆れる。
「門にかんぬきをしないなんて……、敵はバカなの……?」
エルさんも、顔を引きつらせ、呆れていた。
「まあ、ここへ逃げ込んだ者たちは、権力ををかさにしてきた者たちでしょうから、こんなものでしょう」
セレストさんが答えると、皆も納得してしまう。
各国の騎士たちが先陣を切るように城へとなだれ込んでいき、それを掩護するように兵士たちも続々と中へと入って行く。
「城が落とされるのも時間の問題ですね」
「そうだね」
僕はミリヤさんに同意した。
そして、僕たちは、安全が確保された個所が出来てから、城へと入って行く。
城へ入ると、廊下に飾られている豪華な品々を見ても、贅沢をしていたことが良く分かる。
そんな中を歩いていく。
すると、金ちゃんと銀ちゃんは興味があるのか、その花瓶やら置物へと近付いては、次の物へと移動していた。
「金ちゃんと銀ちゃんも、美術品とかに興味を持つんだね」
「そうですね。あの子たちも成長しているんですね」
ミリヤさんは僕に笑顔を向けると、嬉しそうに二人を見つめる。
「ちょっと待って下さい!」
ケイトが僕とミリヤさんの会話に割り込んできた。
「二人が通った後をよく見て下さい!」
彼女に言われて、二人の行動を、よく観察する。
二人が近付いた物は、シュッと消えていた。
そして、二人の通った跡には何も残っていないのだ。
「高価そうな物だけを物色して、盗んでるね」
「そ、そのようです……。私の感動は何だったのでしょう……」
僕とミリヤさんは、呆れた表情で二人を見つめる。
「僕が注意しても誤魔化して反省しないから、アンさん、二人の教育をお願い」
「は、はい……」
彼女も呆れていた。
アンさんは、気配を消して二人の背後に立つ。
そして、二人が収納魔法を使って、飾ってあった物を盗んだ瞬間に、ガシッと二人の頭を鷲掴みにした。
ギクッ!
「金ちゃん? 銀ちゃん? 何をしているんですか?」
彼女は優しく声を掛ける。
ガタガタガタ。
二人は身体を恐怖で震わせながら振り向くと、口までもが震えていた。
「お説教です」
彼女が微笑むと、二人は白目をむいて固まってしまった。
まったく、何をやっているんだか……。
大勢の兵士に護られながら安全なところ進んでいるからって、調子に乗りすぎだ。
僕が疲れたようにうなだれると、皆も疲労感を見せていた。
金ちゃんと銀ちゃんのお説教が終わるのを待ってから、僕たちは先へと進む。
広い城の中は、あちらこちらで戦闘が起きてはいるが、ユナハ連合軍の兵たちによって、次々と制圧されているようだ。
その証拠に、僕たちは、ブレイギル聖王国の王や高官たちがかくまわれているとされる謁見の間のそばまで、安全に辿り着けていた。
カン、カン。キン。
剣がぶつかり合う金属音が聞こえてくる。
謁見の間を扉を護る兵士たちは、手強く数も多いようで、てこずっているようだ。
「レイリア、オルガ、私たちも出向きますよ!」
アンさんは二人に声を掛けると、僕のほうを向く。
「フーカ様、片付けてきます!」
「うん。アンさん、頼むね。レイリアとオルガさんもよろしくね。でも、怪我をしないように、気を付けてよ!」
「はい!」
アンさんは嬉しそうに返事をする。
「「私たちは、ついでのような……」」
レイリアとオルガさんは、少し不服そうだった。
「そんなことはないよ! 二人のことは頼りにしてるんだから! 頑張ってね!」
僕は、二人のご機嫌を取るように声を掛けた。
「「分かりました!」」
二人は、元気よくアンさんを追いかけて行く。
こっそり? と、レイリアとオルガさんの後に続こうとする二人がいる。
だが、ミリヤさんに耳を掴まれ、僕の前まで引きずられてきた。
「何をしているんですか!? アンからお説教をされたばかりでしょ! 金ちゃんと銀ちゃんのお仕事は、フーカ様の護衛ではなかったのですか?」
ミリヤさんに怒られると、二人はハッとした表情を浮かべた。
こ、こいつら、僕の護衛のことを忘れてたな。
ガシッ!
二人は僕に腕を絡めてきた。
ビューン。
「えっ!? ヒィッ! ぎゃぁぁぁー!!!」
二人は、そのまま僕を連れて、前にいる兵士たちにぶつかる勢いで走り出した。
ぶつかる寸前で二人は避けるが、僕は生きた心地がしなくて悲鳴しか出てこなかった。
「「「「「あっ!!!」」」」」
助けを求めようと後ろを振り返るが、皆は唖然としてこちらを見つめていた。
我を取り戻すと、そこは前線で、アンさんたちが戦っている姿を見ることができる位置だった。
相変わらず、凄いな!
三人が加勢しただけで、敵が圧倒されている。って、そうじゃない。
こいつら、自分たちが前線へ行くために、護衛対象の僕を連れて行くなんて、何を考えているんだ……。
こちらにチラッと視線を向けたレイリアが、ギョッとして目をこすり、二度見をしている。
後方の安全なところにいるはずの僕が、戦っているすぐ後ろにいたら、そうなるよね……。
「フ、フーカ様? なんで、そんなところにいるんですか? 危ないから下がって下さい!」
彼女の忠告に、僕は腕をがっちりと絡めている金ちゃんと銀ちゃんに、視線を向けた。
すると、彼女の顔が引きつっていく。
そして、レイリアの異変に気付いたアンさんとオルガさんもこちらを見て、顔を引きつらせる。
周りの兵士たちも僕がいることに気付くと、僕を護るような陣形をとりながら戦い始める。
ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません。
僕は心の中でひたすら謝った。
この城の廊下が広くとられているおかげで、アンさんのデスサイズは自由な動きで敵兵を倒していく。
レイリアも女騎士らしく、剣を振るって何人もの敵兵を倒している。
不謹慎だが、こういう時の彼女は、とてもカッコいいと思う。
パン、パン、パン。
銃声が廊下に響く。
オルガさんは、拳銃とナイフをうまく使い分けて、敵兵と競り合うようなことはせずに、一人一人、確実に敵兵を倒していた。
オルガさんの戦い方が一番怖い。
三人は、僕がここへ来てしまった……連れてこられたことで、余力を残しながら戦うことを止めたらしく、その戦いは凄まじかった。
僕の両隣では、金ちゃんと銀ちゃんが拳を振り上げ、嬉しそうに応援をしている。
二人は、この後、こっぴどく怒られるであろうことを分かっているのだろうか?
アンさん、レイリア、オルガさんの活躍で、敵兵たちは、あっという間に数を減らしていく。
そして、謁見の間の扉を護っていた者たちは、全て倒されてしまった。
すると、三人がこちらへと向かってくる。
金ちゃんと銀ちゃんは、僕をグイグイと押してきて、背後に隠れようとする。
そんな大きな身体で隠れられるわけないだろ!
僕は呆れて、溜息を吐いた。
「金ちゃん、銀ちゃん、今は叱っている暇はないので、後でとことん叱りますから、覚悟しておいて下さいね」
アンさんの優しい声色がかえって怖い。
「アン様、ハァー、ハァー。二人を叱るなら、マシマシでお願いします!」
背後でケイトが叫んでいた。
マシマシって、ラーメンじゃないんだから……。
振り返ると、息を切らしている者もいた。
彼女だけでなく、皆も駆け足で、追いかけてきたようだ。
金ちゃんと銀ちゃんは、皆に囲まれ、隠れる場所がなくなると、僕の背中に顔をうずめてくる。
あ、暑苦しい……。
ドン!
そんなことをしている間に、兵士たちが扉を勢いよく開け放った。
そして、謁見の間へと攻め込んでいく。
僕は、アンさん、レイリア、オルガさんの後ろを、金ちゃんと銀ちゃんにへばりつかれながらついて行く。
歩きづらくて邪魔だ。
歩を進めていると、玉座を中心に兵士たちから護られているブレイギル聖王国の高官とジン・ブレイギル王が見えた。
ジン・ブレイギル王の容姿は、黒い短髪で、いかにもなチンピラ風な男だが、瞳は黒く、顔つきを見ても日本人で間違いなさそうだ。
ブレイギル聖王国の者たちを囲んでいるこちらの兵士たちの中から、シリウスが一歩、前へと出て行く。
「ブレイギル聖王国、ジン・ブレイギル王。我々によって、王都クリスラは制圧しました。抵抗をしているのは、あなた方だけです。降伏をして下さい」
「「「「「……」」」」」
シリウスの言葉に、彼らは誰も答えず、ただ、こちらを警戒するように睨みつけているだけだった。
僕は、ジン・ブレイギル王を見つめる。
何だか見覚えがあるような無いような……。
甲冑とマントをつけているから、知っていたとしても分からないかもしれない。
僕は諦めて、ヒーちゃんはを見る。
彼女はあごに手を当てて首を傾げ、悩んでいるようだった。
はっきりとは思いだせないようだ。
そのまま、何も発することのないジン・ブレイギル王たちを、僕たちは睨み続け、返事を待つのだった。
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