135話 ユナハ連合軍対ブレイギル聖王国
ブレイギル聖王国の王都クリスラまでの道のりに点在していた村や町へ支援をしながら、僕たちはユナハ連合軍との合流を果たした。
王都クリスラの城壁の前では、ブレイギル聖王国軍が王都を護るべく展開していた。
「うわー。まだ、こんなにいるんだね」
「二万人ほどでしょうか。国中からかき集めたようですね。最後の悪あがきにも見えますね」
微笑んで答えるミリヤさんを少し怖いと思ってしまう。
「ユナハ連合軍は、どれくらいで侵攻してきたの?」
「約五万人です。ただ……」
「ただ?」
「我が国……。ユナハ国からは、火砲馬車隊や特殊部隊、飛竜部隊などが参戦しているのですが、兵数が……」
「兵数が? もしかして、相当な兵数が来ているの?」
「いえ、その逆で、三千人くらいしか来ていませんでした……」
ミリヤさんは引きつった表情を見せると、僕から顔を逸らした。
「……」
な、なんで、そんなに少ないの?
僕はブレイギル聖王国軍へ向かい合うように展開しているユナハ連合軍を見つめる。
確かに、うちの国旗は、各国の軍勢が掲げる旗に紛れるような感じでチラホラとしか見えない。
「こんなことを言うべきか分からないけど、うちって、少なすぎない?」
「少ないです……。今、我が軍を率いてきたシリウスへ、伝令を出していますから、すぐに兵数が少ない理由が分かると思います」
僕とミリヤさんは、それ以上の話す言葉が浮かばず、二人で黙ったままユナハ連合軍の大勢の兵士たちを見つめ続けていた。
しばらくして、アンさんとレイリアの二人と共に、シリウスが僕のところへ来た。
「フーカ様、お久しぶりです」
彼は笑顔を見せるが、どこか後ろめたそうな表情を浮かべていた。
「うん、久しぶりだね。それで、うちの軍の兵数なんだけど……」
僕が口を開くと、隣にいるミリヤさんは、真剣な表情で彼を見つめる。
「そのことなんですが……。増援が送られる報告は来ていたのですが、しばらくして、「必要最低数の兵員を送った」と報告が来まして……。訳を聞いても、シャル様からは……「頑張って!」、イーリス様からは「一身上の都合で、最低限の増援しか出せなくなった」との伝言が戻って来るだけで、こちらも困惑している状態でして……」
彼は言葉を詰まらせてしまった。
「頑張って! は、ともかく、一身上の都合って何?」
「それは、私にも分からないので……」
彼は苦笑して、再び言葉を詰まらせる。
僕だって、分からない。
そこで、ミリヤさんに助けを求めようと隣を振り向く。
彼女は額を押さえて、僕を見ていた。
「ミリヤさん?」
「最初に言っておきますが、私に聞かれても困りますからね。一身上の都合で、増援を減らすなんて、イーリスが……、おそらく、シャル様もでしょうけど、突拍子すぎて、何を考えているのか予想もできません」
「ですよね……」
僕とミリヤさんは、溜息を吐いて、うつむく。
アンさんとレイリアも、僕たちの会話を聞いていたので、困惑した表情を浮かべていた。
そして、レイリアが首を傾げる。
何か気付いたのだろうか?
「レイリア? 何かあるの?」
「えっ? えーと、ありえないことなんですけど……。シャル様とイーリス様は、フーカ様がいない隙を狙って、クーデターを起こしたとか……? 無いですね!」
「うん、それは無いね! 国を乗っ取るくらいなら、僕に押し付けないだろうからね」
「そうですよね。ん? でも、マイ様なら?」
「「「「……」」」」
僕たちは、彼女が口にした人物ならありえそうで、言葉を発することが出来なくなった。
「マイ様なら、やりそうですけど、イツキ様もいますし……」
ミリヤさんは否定しようとしたが、最後までは言いきらなかった。
そのまま、僕たち五人に沈黙の状態が続く。
すると、こちらへ向かって土煙が上っている。
目を凝らすと、その土煙の先頭には、馬に乗った人物が二人、凄い勢いで、こちらへ向かっているのが分かった。
何かあったのだろうか?
そんなことを思って見つめていると、近付いてくる馬に乗った人物は、エルさんとハンネだった。
「いつまでも、ここで悩んでいても仕方ないから、とっとと戻ろう」
僕が、エルさんたちとは逆方向に置かれたテントの代わりにしている馬車へと歩き出すと、皆は後ろを振り返り、困った表情を浮かべてから、僕の後についてきた。
「ヒヒーン」
馬の鳴き声が近くで聞こえると、僕の歩く速度は自然と速くなる。
「ちょ、ちょっと! 何を逃げてるのよ!」
エルさんが叫んでいる。
僕には何も聞こえない。
まだ、シャルたちの意図が分からないでいるのに、これ以上の面倒ごとはごめんだ!
僕の歩く速度は、さらに加速する。
そして、馬車に乗り込んで扉の鍵を閉めようとすると、エルさんが顔を真っ赤にして扉をこじ開けてきた。
力で敵わなかった僕は、彼女によって馬車から引きずりだされてしまった。
「えーと、エルさん、お久しぶりです。そして、失礼します」
僕は再び、車内へ逃げ込もうとするが、彼女に襟首を掴まれ、引き戻されてしまう。
「フーカ君! 失礼しますじゃないわよ! ユナハ国は何を考えているのよ!」
「えーと、兵数が少ないのは、色々と諸事情がありまして、僕に言われても困ります」
「兵数のことじゃないわよ! これからブレイギル聖王国を叩くって、この忙しい時期に、うちの外交部門へユナハ国から我が国まで、えーと、鉄道だっけ? あれのための線路を引く工事だの何だのと、色々と提案されて、外交部門の職員だけでは手におえないから、サンナを国に戻すことになるし、一部の兵士も線路工事の人員として帰国させることになったのよ! いったい、ユナハ国は何をしてんのよ!?」
線路の工事? 路線の拡張でも始めたのか? プレスディア王朝まで路線を繋げる計画はあったが、何で今?
僕にもさっぱり分からなかった。
「えーと、僕にも分かりません」
「「……」」
エルさんとハンネさんは、僕をポカーンと見つめる。
「ねえ、フーカ君? ユナハ連合軍は、プレスディア王朝、ウルス聖教国、クレイオ公国だけでも、総勢八万人ほどの勢力だったのよ。それが、ユナハ国から急に鉄道の話しが入ってきて、各国も自国へ線路を引いてもらいたいから、人員の調整やらで一部の兵士を戻したから、今では五万人程度の勢力になったのよ。これが、どういう意味だか分かる?」
「えーと、どういう意味でしょ?」
エルさんの額に青筋が立つ。
「向こうの勢力の四倍の八万もいれば、あっという間にブレイギル聖王国を制圧できたのよ。今でも倍以上の勢力だけど、守りに徹せられたら大変なの! 分かる?」
「は、はい、分かります。でも、僕も国で何が起きているのかが分からなくて、皆と頭を悩ませていたところでして……」
「「……」」
エルさんとハンネさんは、黙ったまま僕を見つめると、溜息を吐いて、うなだれてしまった。
シャルー! イーリスさーん! いったい、何をしてんの!?
僕は心の中で叫んだ。
僕とミリヤさんで、シリウスから聞かされたユナハ国の様子をエルさんたちに話すと、二人は口をあんぐりと開けて固まってしまった。
「あのー、エルさん? ハンネさん? 大丈夫?」
「え、ええ。ちょっと、思考が停まっただけだから」
エルさんが答えると、その横でハンネさんがウンウンと頷く。
大丈夫とは思えない……。
「うーん。それにしても、ユナハ国で何が起きているのかが心配ね。さっさとブレイギル聖王国を叩き潰して、ユナハ国へ戻ったほうがいいかもしれないわ」
エルさんは、難しい顔で口を開いた。
「えっ? やっぱり、そんなにマズいの?」
「当然よ! シャルちゃんとイーリスちゃんがいるのに、ユナハ国が暴走しているのよ。きっと、何かあったんだわ!」
彼女は自信満々で断言した。
そんな自信に満ち溢れた顔で、うちの国が暴走したと、断言しないで欲しい……。
「そうと決まったら、とっとと攻め落とさないと! ハンネ! 行くわよ!」
「あっ、は、はい!」
すぐに馬へ戻るエルさんを、ハンネさんは、僕たちに頭を下げてから、追いかけて行く。
エルさんとハンネさんが立ち去ってから、一時間も経たないうちに、ユナハ連合軍は慌ただしく動き始めた。
きっと、エルさんが皆を急かしたんだ……。
ドーン、ドーン。ヒュー。ドカーン、ドカーン。
ブレイギル聖王国軍に対して砲撃が始まった。
そして、軍が陣を敷いている箇所から、複数の爆発と爆炎があがる。
「「「「「おぉぉぉー!!!」」」」」
ユナハ連合軍が掛け声を上げて、ブレイギル聖王国軍に向かって突撃を始めた。
ブレイギル聖王国軍への攻撃は明日と聞いていた僕たちは、唐突に始められた戦闘に急いで準備を始める。
ドレイティス王朝軍も攻撃を始めることを聞かされていなかったらしく、てんやわんやの大騒ぎとなっていた。
そして、セレストさんとジゼルさんが、僕のところへと走ってくる。
「フ、フーカ殿? ハァー、ハァ。こ、これは、どういうことですか? 攻撃は明日のはずでは?」
セレストさんは息を切らせて尋ねてきた。
「えーと、エルさんが……待ちきれずに、始めちゃったみたいです」
「始めちゃったって……。あ、あの子は何を考えてるの!? まったく、せっかちなところは昔から変わらないんだから!」
あの子? 昔から? 彼女の言葉を聞いて、詮索をしてはいけないと思いつつも、セレストさんがエルさんよりも年上であると分かってしまった。
エルさんよりも若く見えるのに……少しショックだった。
ユナハ連合軍は、ブレイギル聖王国軍の前衛を火砲馬車で砲撃すると、混乱する敵にこちらの前衛が攻撃を仕掛け、その間に、火砲馬車は敵の後方を砲撃して、前衛への支援を阻止していた。
おそらく、エルさんが指揮をとっているのだろう。
その効率の良い用兵術に驚かされ、感心してしまう。
金ちゃんは『うるさい!』とクレームを、銀ちゃんは『なにごと?』と、それぞれがプラカードを掲げて近寄って来る。
「戦闘が始まったんだよ! 今まで見かけなかったけど、金ちゃんと銀ちゃんは何をしてたの?」
「お昼寝です」
二人の代わりに、アンさんが答えた。
だから、静かだったんだ。
いや、エルさんが来て、騒がしかったか……。
「この騒ぎは何ですか?」
目をこすりながら、ケイトも現れた。
その後ろには、目をこするヒーちゃんもいた。
二人も、金ちゃんと銀ちゃんと一緒に昼寝をしてたんだ……。
「戦闘が始まったんだよ!」
「そうですか。……えっ!? 何で?」
ケイトは、両目をこすってから戦場を凝視すると、驚いた表情でこちらへ振り向く。
「エルさんが始めちゃった!」
「なっ! 何で、あの女王は、こうも自由奔放なんですか!?」
僕が答えると、彼女は叫びだすが、他人のことを言えた立場ではないと思う。
ケイト、ヒーちゃん、金ちゃん、銀ちゃんの四人は、馬車へ向かって何やら支度を始めだす。
そして、二台の馬車をこちらへと移動させると、馬車の屋根には、金ちゃんと銀ちゃんが現れた。
二人は、それぞれの馬車の屋根から戦場を見つめる。
その間に、兵士が馬車の後部の荷台へ大きな木箱を載せると、側面の壁の一部をパカと開けて、中にあるハンドルを回す。
すると、荷台がせりあがっていき、金ちゃんと銀ちゃんの腰辺りまで木箱が持ち上がった。
「さあ、金ちゃん、銀ちゃん、思う存分投げて下さい! でも、味方と城壁、それと、城壁の中にも投げちゃダメですよ!」
ケイトが声を掛けると、二人は頷く。
金ちゃんのいる馬車にはケイトが、銀ちゃんのいる馬車にはヒーちゃんが乗り込むと、屋根の前方あたりから、頭だけをヒョコっと出した。
な、何をしてるんだ?
僕たちは、四人が何をするのかが分からず、ただ、眺めているだけだった。
金ちゃんと銀ちゃんは、木箱の蓋を開け、中から古びた剣を取り出す。
「「「「「!!!」」」」」
「「???」」
僕たちは驚くが、セレストさんとジゼルさんは、不思議そうに首を傾げる。
金ちゃんと銀ちゃんが剣を投げる構えを取ると、ケイトとヒーちゃんは、後ろを振りむいて、彼らの準備を確かめてから手を挙げた。
そして、二人が手を振り下ろすと、金ちゃんと銀ちゃんは、敵陣に向かって、その剣を投げた。
ヒュン。ヒュン。
ドゴーン。ドゴーン。
風切音がしてからしばらくすると、敵陣から轟音と共に土煙があがった。
「「!!!」」
その光景を見たセレストさんとジゼルさんは、驚愕して固まる。
そして、僕たちは頭を抱えてうなだれた。
「フーカ様、きっと、エル様から怒られますよ」
レイリアが、僕の耳元でボソッと告げてくる。
「うん、きっと、戦闘が終わったら、凄い剣幕で怒鳴り込んでくると思う……」
僕とレイリアが困った表情で戦場を見つめる間も、金ちゃんと銀ちゃんは剣を投げ続け、敵陣からは轟音と土煙があがっていた。
「「金ちゃん! 銀ちゃん! 凄いです! 頼もしいです!」」
セレストさんとジゼルさんは、馬車に近付き、二人を褒めちぎる。
その光景を見て、僕の背筋がひんやりとした。
「うわっ! あんなに褒めたら、マズい!」
「「はい、止めてきます!」」
僕は、二人が調子に乗ってやらかすと思い、声を上げた。
すると、アンさんとレイリアが馬車に向かって走って行った。
馬車の上では、剣を持つ金ちゃんと銀ちゃんが、褒められたことでモジモジと照れている。
それを見たケイトとヒーちゃんは、青ざめた表情で二人を見つめていた。
アンさん、レイリア、間に合って!
僕は心の中で叫んだ。
金ちゃんと銀ちゃんは、セレストさんとジゼルさんに向かってウインクをしてから親指を立て、格好つけると、敵陣を見つめた。
ケイトとヒーちゃんは、二人に向かって何かを叫んだ。
ヒュン。ヒュン。
だが、二人は彼女たちを無視して剣を投げてしまった。
ちょうどその時に、アンさんとレイリアはが馬車へとたどり着いた。
そして、アンさんとレイリアは、その投げられた剣の軌道を見て、頭を抱える。
間に合わなかった……。
剣は、今までの軌道とは違って、すっぽ抜けたかのように上へ向かって大きく弧を描いた軌道で、敵陣に向かって行く。
ドガーン。ドゴーン。ガラガラガラ――。
大きく弧を描いた分、敵陣を通り過ぎた剣は、城壁の真上に落ち、城壁を破壊してしまった。
や、やってしまった……。
「「……」」
セレストさんとジゼルさんは、その光景を見て言葉を失うと、そそくさとドレイティス王朝軍が控えているほうへ向かって、歩いて行ってしまう。
に、逃げた……。
一方で、やらかした金ちゃんと銀ちゃんは、舌を出して頭を掻いている。
「可愛く誤魔化してもダメです! お説教です! さっさと来なさい!」
アンさんに怒鳴られ、二人はしょんぼりしながら馬車を降りると、彼女に連れて行かれてしまった。
レイリアも、その後をついて行く。
残されたケイトとヒーちゃんも馬車から降りて、僕のほうへ歩いてくる。
そして、僕たちは、城壁が破壊され、様子が丸見えとなった街を見つめた。
街では、城壁が失われ、住民たちが逃げ惑う姿も見られ、混乱している。
そんな王都クリスラを見つめながら、僕たちはうなだれた。
突然、城壁が破壊されたことで動揺をし、指揮が取れなくなったブレイギル聖王国軍を、ユナハ連合軍は、あっという間に倒していく。
これはこれで良かったのかもしれないが、作戦とは違うことが起こって、エルさんたちは怒っているだろうな。
それに、支援までなら良かったが、城壁も破壊してしまったからな……。
残ったブレイギル聖王国軍が前線を維持できなくなり、市内へと退却していくと、ユナハ連合軍は、それを追いかけるように、市内への侵攻を開始したのだった。
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