134話 侵攻、ブレイギル聖王国
ユナハ連合の各国に、僕が襲撃されたことが伝わったことで、ブレイラス連合国でブレイギル聖王国を警戒していたユナハ国、クレイオ公国、プレスディア王朝、ウルス聖教国からなるユナハ連合軍が、いつでも攻め込める準備に入った。
ユナハ連合に加盟している国々の、この好戦ムードは止められないだろう。
僕の予想は正しく、数日も経たたないうちに、情勢が動き出した。
ユナハ連合の各国は、ハウゼリア新教国、シュミット王国、ファルレイク帝国に対して、ブレイギル聖王国、ジン・ブレイギル王が、ユナハ国、フーカ・モリ・ユナハ王に襲撃を行ったことを敵対行為とみなし、ユナハ連合はブレイギル聖王国へ対して報復をすることを発表した。
ハウゼリア新教国とシュミット王国は、その発表を無視し、ファルレイク帝国は中立を宣言した。
ドレイティス王朝は、ユナハ連合加盟国の作戦に合わせ、自国の国境付近に展開するブレイギル聖王国軍に向けて進軍することとなった。
その間に、ユナハ国、ウルス聖教国、クレイオ公国、プレスディア王朝の連合軍が、ブレイギル聖王国の王都クリスラへと侵攻する。
とうとう始まってしまった。
僕は溜息をついてうなだれる。
「フーカ様、私たちは、今回、出陣されるセレスト様と共に、ドレイティス王朝軍へ参加します」
ミリヤさんが、今後の僕たちの予定を報せてきた。
「えっ!? 僕たちも行くの?」
「当たり前です。ここの主が出陣するのに、私たちがここでのんびりとしていたらおかしいと思いませんか? しっかりして下さい」
「でも、僕たちは、一応、客人だし……」
「そもそも、フーカ様の襲撃事件が発端で始まる報復戦争なんですから、フーカ様が参加しないで、どうするんですか!?」
「ごめんなさい」
ミリヤさんが、どこかお母さんっぽい。
そんな僕たちを見て、アンさん、オルガさん、ケイト、ヒーちゃん、ネーヴェさんはクスクスと笑い、レイリア、アスールさん、金ちゃん、銀ちゃんは口をモグモグとして、無表情でジッとこちらに視線を向けているだけだった。
あいつらは、また何か食べてる……。
◇◇◇◇◇
翌日、僕たちは、セレストさんとジゼルさんを僕たちの馬車に乗せて、国境に敷かれたドレイティス王朝の陣地へと向かう。
車内では、金ちゃんと銀ちゃんが収納魔法で花をパッと出して、セレストさんとジゼルさんに、その花を渡す。
パチパチパチパチ――。
彼女たちが拍手をして喜ぶと、二人はモジモジと照れている。
「えーと、金ちゃんと銀ちゃんは、何をしているんですか?」
ケイトが不思議そうに尋ねる。
『せつたいてじな!』と金ちゃんがプラカードを掲げると、ケイトは頬をヒクヒクさせる。
「接待手品って……。それは収納魔法です。そもそも、そんな希有な魔法を手品だなんて……。手品とはまったく違うんです」
彼女がうなだれると、金ちゃんは『てじなというまほう』と掲げた。
「手品と言う魔法じゃなくて、魔法なんです……? ん? あれ? だぁー! ややこしいことを言うな!」
彼女は頭を掻きむしりながら上を向く。
「「シャッ、シャッ、シャッ――」」
ケイトが苦悩する姿が余程面白かったのか、二人は笑い転げてしまう。
「「「「「!!!」」」」」
僕たちは驚いて、金ちゃんと銀ちゃんを見つめた。
「今、声を出して笑ったよね?」
「はい、確かに、シャッ、シャッ、シャッと笑っていました」
僕が念を押すと、アンさんが答える。
「金ちゃんと銀ちゃんは、声を出して笑うことができたんですね?」
ヒーちゃんが二人に尋ねた。
「「……???」」
二人は首を傾けたり、腕を組むようにして上を見たりして悩みだす。
「「「「「……」」」」」
本人たちは自覚していないようだ……。
さっきまで苦悩していたケイトが、金ちゃんと銀ちゃんに近付く。
「二人とも、いえ、まずは金ちゃん、口を開けてのどを見せて下さい。もしかしたら、声帯の発育が遅かっただけで、本当は声を出せるのかを見てあげます」
彼女がそう言うと、二人は、何故かムッとした表情を見せた気がする。
しかし、金ちゃんは素直に口を大きく開けた。
僕の気のせいだったのかもしれない。
ケイトが金ちゃんの口の中を覗き込む。
「ゲプッ。ハァー」
「!!!」
彼女は金ちゃんから飛び退き、鼻を押さえて床に転がりながら、もだえ苦しみだした。
「えっ! 二人の息って毒だったりしないよね?」
「「「「「!!!」」」」」
僕が驚いて口に出すと、皆は驚いて二人のそばから飛び退く。
すると、ケイトが涙目で起き上がった。
「ち、違います。覗き込んでいる私に、ゲップを吹きかけたんです。そ、それが、臭すぎて……」
「「「「「……」」」」」
僕たちは唖然としながら、金ちゃんを見つめる。
「金ちゃん? なんで、そんなことをしたんですか?」
ヒーちゃんが尋ねると、『みてあげますと、うえからめせんがむかつく』と掲げて、彼はムッとした表情を見せた。
すると、銀ちゃんもコクコクと頷き、ムッとした表情になる。
「う、上から目線がムカつくって……。ケイトはあなたたちにとっては、お母さんみたいなものなのですよ!」
ミリヤさんが呆れたように言う。
「違います!」
フルフル。フルフル。
ケイト、金ちゃん、銀ちゃんの三人は意気投合したように首を横に振った。
んー。親子と言うよりは、姉弟といったところだろうか……。
その後も、僕たちの馬車は、これから戦地に向かうとは思えないほど、にぎやかで緊張感のない雰囲気で走り続けるのだった。
◇◇◇◇◇
二日ほどかけて、僕たちはドレイティス王朝軍の陣地へと着いた。
馬車を降りると、すぐにセレストさんたちと一緒に指令所へと向かう。
その中へ入ると、騎士や指揮官の兵士たちが僕たちを見て敬礼をする。
そして、すぐに椅子が用意された。
金ちゃんと銀ちゃんには絨毯と大きなクッションが用意され、二人は満足そうに、そこへ座る。
セレストさんと僕たちが座ると、少し間を空けてから、ここの指揮官の騎士が現状の説明を始めた。
「敵軍は一日ごとに、少しずつ戦力を王都へ戻しています。我々は、その戦力の分散と注意をこちらへ引き付けるため、ユナハ連合軍の侵攻に合わせて侵攻します」
「それで、侵攻するのはいつなのですか?」
セレストさんが尋ねた。
「明朝になります。陛下方は先陣を切る必要はないので、安全が確認されてから来て下さい」
「分かりました。先陣のお勤め、よろしくお願いします」
「はっ!」
セレストさんにねぎらってもらえた彼は、感無量と言わんばかりに気合が入った感じだった。
翌朝、まだ日も登らないうちから、先陣を切る兵士たちが整列していた。
セレストさんは、彼らの前に立ち、ねぎらいの言葉を掛ける。
「皆さん、この戦いを乗り越えた先に、我々の完全勝利が待っています。無理はせず、頑張って下さい」
「「「「「おぉぉぉー!!!」」」」」
彼らは、女王からのねぎらいに士気を高めた。
そして、敵陣へと向かって行った。
そんな彼らを、金ちゃんと銀ちゃんは、ドレイティス王朝の世界樹と蔓をモチーフにした国旗とユナハ国の国旗の小旗を両手に持って振りながら、兵士たちを見送っていた。
彼らは、二人を見て嬉しそうに拳をあげて、出陣していく。
僕は、アルタさんとチャロさんに敵陣の偵察と、戦闘での両軍の優劣の報告も頼んだ。
そして、リンさんとイライザさんには、特戦群から斥候を出してもらうように頼むと、リンさんが考え込む。
「戦闘が始まったら、敵軍の指揮官を斥候に狙撃させたらどうですか?」
「うん、そうしてくれる。ただ、無理はさせないでね。身の危険を感じたら、すぐに撤退させて」
「はい。わかりました」
僕のそばで手を挙げている二人がいる。
「金ちゃんと銀ちゃんも斥候に出たいの?」
二人はコクコクと頷く。
「「フーカ様! それだけは、勘弁して下さい!」」
リンさんとイライザさんが声を揃えて拒んだ。
ガーン!
金ちゃんと銀ちゃんは、頬を両手で押せてショックを受けると、肩を落としてポニュ、ポニュと立ち去って行く。
彼女たちは、二人の後姿を見てホッとした表情を浮かべた。
昼過ぎになると、戦況の報告が続々と入ってきた。
一度戻ってきたアルタさんとチャロさんからも、斥候に出た特戦群の指揮官への狙撃が功をそうして、敵軍は混乱し、我が軍の優勢が続いていると、報告があがった。
そして、敵陣を制圧した報告が上がると、セレストさんは僕たちに声を掛ける。
「そろそろ、私たちも向かいましょう」
「そうですね」
僕が返事をすると、皆は準備を始めた。
僕たちは馬車に乗り込むと、制圧された敵陣へと向かう。
しばらくすると、煙が上がり、あちこちに倒れた兵士が見え始める。
思っていたよりも悲惨な状況に、味方の兵も、かなりやられたのではないかと、胸が苦しくなった。
「フーカ様、ほとんどが敵兵です。徴兵された民間人が多いので、喜べる状況ではないですが、今は、こちらの兵に損害が少ないことを良しとしましょう」
アンさんは、僕の気持ちを察して、不安を取り除いてくれた。
だが、倒れている兵たちが民間人だと思うと、喜ぶこともできない。
「セレストさん、敵兵とかは関係なく、傷ついた者を治療してあげて下さい」
「はい。彼らは無理矢理、戦わされていたのですから、助けられる者は助けます」
彼女の言葉に少しホッとした。
ドレイティス王朝軍は、敵陣を再利用して、拠点を構築し始める。
ミリヤさんは負傷兵の治療の手伝いに行き、ケイトとヒーちゃんは、拠点造りの手伝いへと行ってしまった。
残った僕たちは、セレストさんと一緒に働く人たちを見つめる。
ふと、王都クリスラのある方角を見ると、すぐそばに貧しそうな村があった。
「王都からの距離を考えると、この辺りの村なら、もう少し豊かでもいいと思うんだけど?」
僕は、不思議に思って、地図を見ながら口にした。
「おそらく、税が高いだけでなく、王都からも近いことで、取り立てが厳しいのでしょう」
セレストさんは、村を見つめながら悲し気な表情を見せた。
王都から近かったばかりに、税ですべてを持っていかれるなんて最悪だ。
僕は、目の前にある理不尽の象徴のような村を見つめていた。
「この国の現状を知っておくいい機会です。あの村へ行ってみましょう!」
「えっ!? 行くんですか?」
「はい! 行きましょう!」
セレストさんは、元気よく立ち上がる。
村のそばで戦いを始めた僕たちが行って大丈夫だろうか……?
そんな不安をよそに、僕たちは彼女と共に、村へと行くことになってしまった。
馬車に乗り込んだ僕たちは、敗残兵が隠れ潜んでいることも考慮して、特戦群の護衛付きで村の入り口のそばまで向かった。
手前で馬車を降り、村人たちを刺激しないように、ゆっくりと村の中へ入って行く。
すると、ぞろぞろと手にクワなどの農具や木の棒を持った村人たちが集まってきた。
「怖がらせて、ごめんなさい! 僕たちはドレイティス王朝とユナハ国の者です。戦場となった場所の近くに村があったので、戦闘での被害が出ていないか確かめに来ました。何か困ったことがあれば言って下さい!」
僕は両手を軽く挙げて、敵意がないことを見せながら、声を掛けた。
「「「「「……」」」」」
村人たちからの返事はない。
よく見れば、村人たちは、お年寄りと、女子供ばかりだった。
そして、構えた農具や木の棒をしっかりと握ったままだ。
僕は困って、セレストさんを見つめる。
「皆さん。私たちは、あなた方に危害を加える気はありません。食料や薬など、何か必要なものがあれば言って下さい。すぐに用意します」
「「「「「……」」」」」
彼女も村人たちに声を掛けたが、村人たちからの返事はなく、態度も変わらない。
村人たちの目を見ると、僕たちに対する不信感だけでは無いような気がする。
これは一筋縄ではいかなそうだ。
僕とセレストさんが困っていると、ヒョコっと金ちゃんと銀ちゃんが飛び出してくる。
そして、村人たちの前でダンス? を踊って、最後に決めのポーズをとった。
「「「「「……」」」」」
シーン。
無反応な村人たちに、二人はその場で崩れ落ちた。
こ、これは、きつい……。
しかし、二人はめげなかった。
立ち上がった彼らは、シュッと飴のついた棒を取り出し、口に入れると、美味しそうに食べ始める。
それも、大人の後ろへ隠れるようにしている子供たちへ、見せびらかすように食べてみせる。
「「「「「ゴクッ!」」」」」
これには、子供たちも反応してしまった。
二人は空いている手に飴を取り出すと、「まだ、あるよ!」と言わんばかりにユラユラと飴を振る。
子供たちは飴と大人の顔色を交互に見つめ、悩み始めた。
「その二人は、ウルシュナ様とルース様の二人の女神に使える獣ですから、怖くないし、大丈夫ですよ!」
僕とセレストさんの背後から、アンさんが声を掛けた。
すると、大人たちのほうが戸惑った表情を見せる。
少しの間、迷っていた大人たちが、子供たちへ向かって頷くと、金ちゃんと銀ちゃんを取り囲むように子供たちが詰め寄った。
二人は嬉しそうに、飴のついた棒を配って行く。
「「「「「うまーい!」」」」」
「「「「「あまーい!」」」」」
子供たちは、笑顔で飴にむしゃぶりついた。
その光景を見て、大人たちの表情も和らいでいく。
そして、僕たちは、ホッとした表情を浮かべると、金ちゃんと銀ちゃんを取り囲んで、はしゃぎながら飴をしゃぶる子供たちを見つめた。
すると、一人の女の子から急にしがみつかれた銀ちゃんが、くわえていた飴を落としてしまった。
彼は、飴をすぐに拾い上げると、口に含んでモグモグとしている。
ペッ、ペッ。
子供のいないところへ唾を吐くと、何事もなかったかのように、落とした飴を舐め続ける。
「「「「「!!!」」」」」
その意地汚い光景を見て、僕たちは唖然としてしまう。
「銀ちゃん! 何してんの!?」
僕が思わず叫ぶと、彼はこちらを振り返り、『さんびようるーる!』とプラカードを掲げる。
「そうです! 落ちたものでも、三秒以内なら大丈夫なんですよ!」
いつの間にか、銀ちゃんのそばで、レイリアが子供たちに説明をした。
「「「「「へぇー! そうなんだ!」」」」」
子供たちは、彼女の言葉を真に受けている。
「断じて、ちがーう! そんな訳ないだろ! 落ちたものは汚いから、そのまま口に入れるのも、食べるのもダメだよ!」
僕が叫ぶと、レイリア、銀ちゃん、金ちゃんの三人は「えっ!?」と言った表情で驚く。
「アンさん」
僕は、彼女にハリセンを渡す。
スパーン。スパーン。スパーン。
彼女は、三人の頭を叩いて行くと、彼らは頭を押さえてしゃがみ込んだ。
「「「「「アハハハハ――」」」」」
その光景に子供たちが笑いだすと、大人たちまで笑いだした。
その後は、大人たちも手に持った農具や木の棒を下ろして、僕たちの話しを聞いてくれた。
この村では、主に食料を中心に不足していることを村長と名乗るお爺さんが訴えてくれたので、僕たちは必要な食料だけでなく、薬や着るものなど、他の物資の手配もした。
彼らに事情を聴くと、この村ばかりでなく、他の村や町でも、男たちは兵士として連れて行かれてしまったそうだ。
そして、残った者は、年寄と女子供の弱いものばかりなので、どこの集落でも警戒心が強くなっているそうだ。
「セレストさん、食料などの物資の補給を要請しないと、この先、王都まで侵攻する間に、こっちの兵糧がもたなくなりそうだよ」
「そうですね。すぐに手配させます」
彼女は返事をすると、ジゼルさんと相談を始めた。
ドレイティス王朝軍は、王都クリスラへと進軍を続けるのだが、村長から言われた通り、途中の村や町では食料を中心に不足しており、僕たちは、各集落に寄っては支援をしていくこととなった。
前にも同じようなことがあったような……。
どこの国も、上に立つ者がダメだと、国民が苦労している。
僕は大丈夫だろうか? と少し心配になってしまった。
お読みいただきありがとうございます。
この作品が、面白かった、続きが読みたいと思った方は
ブックマークをしていただけると嬉しいです。
また、下にある☆☆☆☆☆を押して、
評価をしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
誤字脱字、おかしな文面がありましたらよろしくお願いします。




