128話 動き出したブレイギル聖王国
僕たちはセレストさんたちと会議室に集まっていた。
金ちゃんと銀ちゃんは、おならがおさまったのを確認されてから合流した。
それでも、二人が室内に入ってくると、皆の顔に緊張が走る。
警戒するのは分かるけど、緊張するところが違うと思う。
まあ、それだけ、二人のおならが臭かったから、仕方がないのだけど。
思い出しただけで、鼻の奥に、あの強烈な臭いが残っているような錯覚が……。
最初の話題は、通話の途中で放りっぱなしになったシャルのことであった。
「シャル様には、あの後、私が金ちゃんと銀ちゃんのおならのことを話したので、シャル様も納得……? どちらかと言うと、呆れて、仕方がないという感じでした」
ケイトの報告に、僕たちはホッとする。
「じゃあ、怒っていなかったんだ」
「ええ、そんなことだろうと思ったと投げやりでした」
「「「「「……」」」」」
皆の顔が引きつる。
「そこ! 何を照れているんですか!? 少しは反省して下さい!」
ケイトに怒鳴られ、モジモジとしていた金ちゃんと銀ちゃんはビシッとする。
「あっ、それと、金ちゃんと銀ちゃんの収納魔法と創成魔法についても話しをしたのですが……、無言で通信を切られました」
「「「「「……」」」」」
僕たちは何も言葉が出ず、ただ苦笑した。
シャルの件が終わり、ここからが本題だ。
「では、ブレイギル聖王国の侵攻を防ぐ案を、思いついた者はいますか?」
ミリヤさんが切り出し、テーブル席に座る僕たちを見まわすす。
だが、誰も手を挙げる者はいなかった。
そんな中、ケイトが中途半端に手を挙げる。
「ケイト? 案があるのですか?」
「いえ、案ではないのですが、おならの一件の後に、各国とも連絡を取ったところ、クレイオ公国、ウルス聖教国、プレスディア王朝、ユナハ国は、すぐに軍をブレイギル聖王国との国境に展開してくれるそうです。そして、各国とも、ドレイティス王朝がユナハ連合の加盟国であり、ブレイギル聖王国がドレイティス王朝へ侵攻した際には、ユナハ連合への敵対行為とみなし、連合軍を展開する声明を明日には宣言するそうです」
ドレイティス王朝の高官たちかは、ら喜ぶ声が聞こえだす。
ケイトは、彼らを見てから申し訳なさそうに口を開く。
「ですが、連合軍が展開できるのは、ブレイギル聖王国の東側です。この国が侵攻を受けて、連合軍が侵攻を始めたとしても、敵の王都クリスラまでは距離があります。こちらは、連合軍が王都にたどり着くまで持ちこたえねばなりません」
彼女の言葉に、喜んでいた高官たちの表情が曇る。
「我が国も、侵攻を防ぐために精鋭を中心とした部隊を送っております。ですが、出来れば、侵攻を遅らせる時間稼ぎの案を誰か出してもらえないでしょうか?」
セレストさんが口を開き、祈るような表情で皆を見まわす。
しかし、案が浮かばずに考え込む者ばかりだった。
そのまま沈黙が続く。
このままでは、ブレイギル聖王国に対し、後手後手に対応する羽目になってしまいそうだ。
それだけは避けたい。
僕は脳みそをフル回転させる。
ふと、金ちゃんと銀ちゃんを見つめると、二人はスライスしたトリュフをホットドッグにのせて、他人事のようにこちらを見ながら食べていた。
相変わらず、自由に収納魔法を使っている。
まったく、こいつらは……。ん? 待てよ。
僕の脳裏に、ちょっとした案が浮かんだのだが、この場にいない人たちをも巻き込むようで提案しづらい。
しかし、このままでは、最終的に、その人たちも酷い目にあいそうだし、言うだけ言ってみるか。
僕が恐る恐る手を挙げると、皆から期待に満ちた視線が向けられた。
うわー、言いづらい……。
「フーカ様、どうぞ」
やっぱりやめようと手を下げる瞬間、ミリヤさんから指名されてしまった。
「えーと、いい案かは分からないんだけど、ヨスピラ村に隠れているメリサさんたちに立ちあがってもらったらどうかな? メリサさんはブレイギル王国の王女、先代国王の忘れ形見なわけだし、あの村には、今では素性を明かせられないブレイギル王国とタジラス国の人たちも隠れているんだから、その人たちが発起してくれれば、ブレイギル聖王国政府に対して不満を持つ者たちが、彼女のところへ集まると思うんだけど」
「その集まった者たちに、ブレイギル聖王国と戦えと言うんですか?」
アンさんが不満そうな表情で僕に問いかける。
「いや、違うよ。メリサさんたちに、ブレイギル聖王国国内で新しい国を造ってもらい、それを周辺諸国が認めるんだよ。たまたま、周りにある国はユナハ連合の加盟国だし、侵攻される前に精霊の谷の周辺を国家として建国してくれれば、連合軍は大手を振って王都の近くまで進軍できるよね。それと、メリサさんたちに、事が治まるまで、連合軍が国内に駐屯することを許してもらえれば、彼女たちは戦わず、国土の一部を貸し出すだけで、自国も守れることになるから、悪い話ではないと思うんだけど、どうかな?」
「「「「「……」」」」」
皆は無言のまま、僕を見つめてくる。
うっ、強引すぎてダメだったかな?
バン!
僕がオドオドしていると、皆が席から立ちあがる。
「ヒッ!」
思わず悲鳴が出てしまった。
「フーカ様! かなり反則的ではありますが、それなら、この状況を打開できます」
ミリヤさんが満面の笑みを浮かべている。
「そうと決まれば、すぐに動く必要がありますね。アルタ、カルとジゼル様を乗せて、ヨスピラ村へ向かう準備をして下さい!」
「はい!」
ネーヴェさんの言葉にアルタさんが答えると、セレストさんはジゼルさんに視線を送る。
「必ず説得してみせます」
ジゼルさんは彼女に答えると、アルタさんと共に会議室を飛び出していった。
皆の視線は、部屋を出た二人から僕へと移る。
パチパチパチパチ――。
僕に向けて笑顔と拍手が贈られた。
「どうせでしたら、このことを秘密裏にマイ様、エル様、カティ様、そして、私の母、ブレンダ・ラ・アルテアンにも漏らしては……いえ、告げてはどうでしょうか? 奥様委員会を動かしてもらえば、きっとうまくいくはずです」
妙なことを言いだすオルガさんに、皆の視線が集まる。
その顔は、なるほどといった表情を浮かべていた。
「そうですね。特にマイ様とエル様には、こと細かく伝えましょう。きっと、面白くしてくれるはずです」
ケイトがニンマリとしながら付け加えると、ユナハの関係者は、悪そうな笑みをこぼしだす。
奥様委員会まで利用するなんて、これって、おおごとになるというか、おおごとにすることが決まったようなものじゃないか!
僕が関わったせいで、おおごとになったと言われるオチが目に見えて、頭が痛くなってくる。
その後、僕の提案に色々と追加されて、メリサさんたちが建国すると同時に、精霊の谷側から展開しているブレイギル聖王国軍に攻撃をする部隊の編成や、連合軍と共に、こちらが王都クリスラまで押し返す算段が成された。
侵攻を防ぐはずが、攻め込む話しになっているんですけど……。
計画の立案がまとまると、各国とマイさんたちに段取りを取るため、ケイトとオルガさんは、楽しそうに部屋を飛び出していってしまった。
そして、アンさんとミリヤさんもセレストさんと楽しげに話しながら、部屋を出て行く。
ブレイギル聖王国は、やっつけるつもりだったけど、僕の意思とは関係なく、勝手に話しは進んでしまっている。
どうしよう……。
◇◇◇◇◇
「「なんで、辛苦を防ぐはずが攻め込んでいるんですか!?」」
僕は、夢の中でシャルとイーリスさんに怒鳴られて、飛び起きた。
なんとも目覚めが悪い朝だった。
そんなことも忘れ、午後になると、ユナハ連合に加盟する各国から、ドレイティス王朝がユナハ連合に加盟し、認められたことと、今後、ドレイティス王朝への戦闘行為はユナハ連合への敵対行為とみなすことが加盟国から発表された。
一歩一歩と、夢の光景が現実に近付いている気がする……。
そして、偵察をしてきたチャロさんから、「ブレイギル聖王国軍の拠点では、各国の突然の発表で、ドレイティス王朝との国境に軍を展開したまま、指揮官クラスが奔走し、慌ただしくしており、少なからず動揺が見られました」と報告を受けた。
一斉に報告があげられてきたため、僕たちとセレストさんは、お茶をしながら、それらをまとめていた。
「これで、メリサ様たちが建国するまでの時間を稼げますね」
アンさんは僕にお茶を淹れながら、嬉しそうに話す。
「う、うん。そうだね……」
「フーカ様は、何だか歯切れが悪いですね。何か気がかりでも?」
「だって、きっと、僕が悪だくみしたように思われるよね?」
「それは、この計画の発案者なんですから、仕方ありません」
「僕は、ブレイギル聖王国を制圧することまでは考えていなかったんだけど。ただ、王都が攻め込まれる要因を与えれば、今、展開している軍を引かざるを得ないと考えただけなんだけど」
「どうせ、ブレイギル聖王国をやっつけるつもりだったんですよね? だったら、色々と省けていいじゃないですか」
レイリアがお茶を片手に割り込んでくる。
色々と省けてって、確かにそうなんだけど……。
「まあ、そうだけど、シャルとイーリスさんに、なんて言われるかと思うと……」
「大丈夫です。呆れられて終わります。いつものことではないですか。今さら気になさることでもないでしょう」
ミリヤさんが僕を諭すように口を開くと、ケイトやヒーちゃんたちまでもが頷く。
そんな、あんまりな……。
僕がうなだれると、クスクスとセレストさんが笑っていた。
◇◇◇◇◇
ブレイギル聖王国王都クリスラにあるブレイギル城の玉座の間では、短い黒髪の男、ジン・ブレイギルが椅子から立ちあがり、激怒していた。
カシャン、カラカラン。
「これはどういうことだ! これでは、ドレイティスに攻め込めねぇじゃねぇか!」
彼は、手にした金の盃を歪むほどの力で床に叩きつけた。
「陛下、どうか、お心をお鎮め下さい。こればかりは、仕方のないことなのです」
小太りの中年男性が彼をなだめる。
「グランデス! 宰相のお前が悪いんだ。責任を取れ!」
「お待ち下さい。ドレイティス王朝がユナハ連合へ加盟するなど寝耳に水、誰も予期できなかったことです」
「それを何とかするのが、お前の役目だろ!」
宰相である小太りの男は、ハンカチで汗を拭いだす。
「陛下、我が国もドレイティス王朝に対抗してハウゼリア連邦に加盟してはどうでしょう?」
「バカを言うな! 宰相のお前なら、ファルレイク帝国がハウゼリアを良く思っていないことは知っているだろ!」
「確かにそうですが、帝国はユナハの王を警戒して動く気配がありません。我が国が攻め込まれても傍観を決めることでしょう。ですから、ここはハウゼリア連邦への加盟を!」
「ふざけるな! いくら俺がバカでも、あの国が得体の知れないことくらいは、わかる。それを知るために、お前がハウゼリアの後ろ盾を持つカーディア正統帝国の建国に力添えをして、ホレスを送り込んだんじゃねぇのかよ!」
「そ、そうですが……。ホレスがハウゼリアの核心的な情報を掴む前に、あっけなくユナハ国どもに滅ぼされてしまっては……」
宰相はひたすら汗をハンカチで拭う。
兵士が玉座の間に駆け込んでくる。
「失礼します!」
「あ? 何ごとだ?」
二人が言い争う中へ入ってきてしまった兵士は青ざめる。
「つい先ほど、メリサ・ブレイギルがヨスピラ渓谷とその周辺を領土とし、『ブレイギル及びタジラス連合国』を建国したことを宣言しました」
彼は言い終えると、逃げるように立ち去った。
「なっ! お、おい、待て! クソッ! グランデス! どうするんだ!?」
宰相は青ざめた表情で彼と目をあわせる。
「これは、おそらく、ユナハ王の仕業ではないでしょうか?」
「あー? ユナハ王とは、いったい何者なんだ!?」
「フーカ・モリ・ユナハ。王印を持ち、英雄ではないかと思われ始めている王です」
「はあ? なんか聞いたことのある名前だな」
「若いながらもユナハ国を建国し、カーディア帝国を滅ぼし、カーディア新帝国を味方につけ、カーディア正統帝国を滅ぼした男ですから、その名は、そこら中に知れ渡っています。陛下もどこぞで耳にしたのでしょう」
「そんな、ぽっとでのひよっこが、本当に強いのか?」
「確か、剣を振るえば城を真っ二つにし、あの竜族と魔族どもまでをも配下として従えているとか」
「それじゃ、おとぎ話の化け物じゃねぇか!」
「武に長け、頭も切れ、最近では凶悪な魔物を二頭も従えているそうです」
「おいおい、それが本当なら、しゃれにならねぇぞ!」
宰相は、彼に困惑した表情で頷く。
「あー、面倒くせぇー。……そうだ! いいことを思いついたぞ!」
彼は何か閃いたのか、悪そうな笑みを浮かべて宰相を見る。
「な、何でしょうか?」
宰相は何を言い出されるのかと、恐る恐る聞き返した。
「まー待て、んー。確か、ホレスには、カーディア正統帝国の一件の責任を取らせていなかったな?」
「はい、保留のままです」
「そうか、なら、ホレスを呼べ!」
「はっ! すぐに」
宰相は手を叩いて兵士を呼びつけると、ホレスをここへ連れてくるように命じた。
しばらくして、ホレスが玉座の間に姿を現す。
「よお、ホレス。お前に頼みたいことがあるんだ」
ジンの言葉に、彼は口には出さなかったが、顔をゆがませて嫌がった。
「なんだ、その顔は!?」
「いやー。きっと、陛下のことだから、面倒くさいことを頼むんでしょ?」
「なっ! 相変わらずな態度だな。まあ、いい。ホレス、お前、ユナハ王を殺してこい。手段は問わん。必ず仕留めてこい!」
彼はジンを見て、ボカンとしている。
「えっ? えぇぇぇー! そんな無茶な!」
彼は手と首を振って拒んだ。
「無茶も何も、お前がカーディア正統帝国に見切りをつけて、戦いもせずに逃げ帰ってきたから、領土を減らすことになり、こんな状況にまでなっているんだろ! 少しは責任を感じろ!」
「陛下、お言葉ですが、我が国が領土を減らしたのは、クレイオ公国とウルス聖教国の存在を忘れて、どさくさに紛れてプレスディア王朝を攻めようとした陛下の失策ですし、私のところに攻め込んできたのは、プレスディア王朝の女王だったんですよ。逃げるに決まっているじゃないですか!」
ホレスがあっけらかんとした表情で言い訳をすると、みるみるうちにジンの顔が赤く染まっていく。
「き、貴様は何様だ! ふざけるな! お前は、この国でもトップクラスの剣士だというのに、そのお前がエルフの女王と一戦も交えずに、逃げ帰って来るなんて思わねぇだろうが!」
「陛下、何を言っているんですか! あの女王は何百年か前に、道すがらの国々を滅ぼしていった殲滅の女王と呼ばれた凶悪な奴とやりあっているんですよ。負けたとはいえ、そんな奴と戦って生き残った女王と戦っても、私が敵うわけないじゃないですか!」
「何を偉そうに言ってるんだ! エルフの女王にビビッて逃げただけだろ!」
「ビビッて何が悪いんですか! 命あっての何とやらです!」
「なっ! 開き直るな!」
「へ、陛下! 話しがずれております。今はユナハ王の始末の件を優先させて下さい」
宰相が二人の間に入り、その場を落ち着かせる。
「あー、そうだった。ホレス、カーディア正統帝国の件は不問にしてやるから、ユナハ王を始末して来い。どんな手段を用いてもかまわん。人材でも何でも必要なものはグランデスが揃える。好きに動いてもかまわん。必ず始末して来い。これは命令だ!」
「ハァー。そこまで言うなら、分かりました。ユナハ王の周りは強者ばかりなんで、こちらも腕の立つ優秀な者を一〇人から二〇人、それとユナハ王の行動を探るために密偵も付けて下さい。あと、装備と資金もそれなりに用意してもらいます。いいですか?」
「かまわん。グランデス、用意してやれ!」
「はっ! かしこまりました」
宰相はジンに頭を下げてから、ホレスに向かって頷く。
ホレスは溜息をつきながら玉座の間を出て行く。
「それと、グランデス、城下から気の強そうな女を連れてこい。今日はその女で、このうっぷんを晴らすことにする」
「はっ! ただちに用意させます」
宰相は頭を下げると玉座の間を出て行き、その空間にジンが一人きりとなると、今までの騒がしさが嘘のような、静寂さだけが訪れたのだった。
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