127話 緊張感がない……
ブレイギル聖王国がドレイティス王朝との国境に軍を展開してくれたせいで、僕たちは国へ帰ることが出来なくなってしまった。
そして、思いっきり、おおごとに巻き込まれてしまっている。
しばらくの間は帰れないため、僕たちはセレストさんのご厚意で、城の客室を自由に使わせてもらい、おもてなしまでもを受けているのだが、さすがに、このままでは申し訳がない。
何かしなければと思いながらも何も思い浮かばず、焦燥感にかられた僕は、皆を集めて相談をすることにした。
僕がドレイティス王朝を支援したいことを話すと、皆はすぐに賛成をしてくれる。
そして、ケイトが手を挙げた。
「ドレイティス王朝とは同盟を結ぶことが目的でしたから、この城に設置するための無線機を持ってきています。許可をもらって、ちゃっちゃと取りつけちゃいましょう。そうすれば、本国や近隣の国とも連絡を取れるようになります」
ん? 何だか、とんでもない話しが飛び込んできた。
「ちょっと待って! 連絡が取れるって、各国には、すでに無線機を配ってるの?」
「そうですけど?」
「僕、聞いてないんだけど?」
「「「「「……」」」」」
何故か、アンさんやミリヤさんたちまで横を向いている。
知らされていないのは、僕だけのようだ……。
「フーカ様、きっと、手違いです。私でも知っているんですから、忘れられていただけですよ!」
グサッ。
レイリアがあどけなく言った一言が、僕を貫いた。
僕、忘れられてたの……。
僕が肩を落としてうなだれると、皆は関わらないようにしたいのか、テキパキと動き出す。
「では、馬車に積んできた無線機を取り付けに行ってきます!」
ケイトが部屋を出て行く。
「「手伝います!」」
すると、ヒーちゃんとオルガさんは、この部屋から逃げるように彼女へついて行った。
「では、私たちはドレイティス王朝の方々と話してきます」
アンさんはそう言うと、ミリヤさんを連れて部屋を出て行く。
残されたのは、レイリア、アスールさん、ネーヴェさん、金ちゃんと銀ちゃん。
そして、僕たちのお世話をするように言われていたジゼルさんだった。
彼女たちは居心地が悪そうに僕を見つめている。
「ハァー。僕が忘れらるのはいつものことだし、ここは開き直って、ドレイティス王朝に協力するため、頑張ろう!」
僕が空元気を見せると、金ちゃんと銀ちゃんは嬉しそうに腕を振り上げるが、他の人たちは哀れむ表情で僕に微笑んでいた。
うっ、虚しくなってくる……。
しかし、ドレイティス王朝のために、何か行動を起こそうと意気込んだものの、何もすることが思い浮かばなかった。
焦っても仕方がないよね。
僕は金ちゃんたちとまったりとしながらお茶をすすり、ことが動き出すのを待つ。
そんな僕を、ジゼルさんとネーヴェさんは苦笑して見つめていた。
ケイトとヒーちゃんが部屋に戻って来た。
まったりとしている僕たちを見た二人は、呆れた表情を浮かべる。
「何をまったりとしているんですか!? 無線機の設置が終わりました。アン様とミリヤ様がセレスト様に無線機の設置の許可をいただいてくれたおかげで、無線室まで用意した頂きました。本当なら、セレスト様から許可をいただくのは、フーカ様の仕事ですよ。それが、ここでまったりとしているなんて……」
ケイトに嫌味を言われてしまった。
許可をもらうのは僕の仕事だったのか……。
それならそうと言ってくれないと分からないよ。
僕はムスッとした表情で彼女を見つめる。
「何を膨れているんですか? とっとと無線室に行きますよ! ついて来て下さい」
ケイトから煽られるように部屋から出された僕たちは、彼女たちの後をついて無線室へと向かう。
無線室として用意された部屋に着くと、壁際の机の上に無線機が置かれ、その配線は壁を伝って窓から外へとのびていた。
中央には大きなテーブルがあり、その上には地図が広げられていて、無線室というよりも作戦室のようだった。
「城の人たちも積極的に協力してくれたおかげで、立派な無線室がすぐに用意できました」
まだ、片付けや掃除をしている人たちに向かって、ヒーちゃんは頭を下げた。
僕も頭を下げると、彼らは僕たちに一礼をしてから、再び仕事へと戻る。
そこへ、セレストさんたちが来た。
彼女たちは様変わりをした部屋に驚きながら、無線機のそばに行くと、無線機の周りに集まり、興味津々で覗き込んでいる。
「これが遠くの者と会話ができるという無線機ですか。木箱に色々と付けられているだけなのに、凄いですね」
セレストさんは感心するように見ていると、ケイトとヒーちゃんが自慢げな表情を浮かべ、嬉しそうにする。
「では、さっそく、各国と連絡を取ってみますね。セレスト様、後で使い方を教えますので、無線機を使う係の人を数人、選んでおいて下さい」
「分かりました」
セレストさんはケイトに返事をする。
そして、無線機に向かって座る彼女が何をするのかと、ジッと見つめていた。
ケイトがボタンを押して電源を入れ、ダイヤルを回したりして調節を始めると、金ちゃんと銀ちゃんは、彼女の顔に頭を近付けて覗き込む。
チクチク。チクチク。
「えーい! 二人のひげが顔に当たってうっとおしい! もう少し離れて下さい!」
彼女は二人に苛立ちを見せると、彼らは頭を机の上にのせ、彼女をジッと見つめる。
そして、彼女が無線機をいじると、二人は視界に入るように頭を寄せて邪魔を始めた。
ケイトの邪魔をしている二人を見かねたセレストさんは、近くにいた女性を呼び寄せ、何かを耳打ちする。
「それは良い考えです。すぐに準備をします」
その女性は、セレストさんに軽く頭を下げると、無線室を立ち去ってしまう。
セレストさんは何を準備するのだろう?
僕がセレストさんを不思議そうに見つめている間も、金ちゃんと銀ちゃんのケイトへの邪魔は続けられていた。
ケイトの額に青筋が浮き出し、ピクピクしている。
彼女の堪忍袋の緒も、そろそろ切れそうだ。
ケイトの我慢が限界に達した瞬間、先ほど出て行った女性が、山積みの赤いお芋を、お盆にのせて戻ってきた。
すると、部屋中に香ばしい甘い香りが漂いだす。
あの赤く細長い形に、この香ばしい香りはサツマイモだ!
クンクン。クンクン。
金ちゃんと銀ちゃんは鼻をヒクヒクさせる。
ジュルジュル。ゴクッ!
二人は、その匂いに垂らし掛けたよだれをすすって飲み込む。
お芋をのせたお盆を抱えた女性がテーブルの方へ向かうと、二人の視線はケイトからお芋へと釘付けになっていた。
「金様、銀様。ドレイティスの特産の『赤イモ』というお芋です。焼きたてなので、ホクホクしてとっても甘いですよ。食べてみませんか?」
二人は、彼女に向かって満面の笑みで頷くと、テーブルに置かれたお芋に駆け寄る。
そして、お芋と微笑む女性を交互に見つめる。
「どうぞ、召し上がって下さい」
彼女から許可が下りると、二人はお芋を掴んで二つに割る。
お芋からは湯気が上がり、香ばしい香りも強くなる。
二人がハフハフしながら食べ始めると、テーブル席には、一緒に食べ始めている者が、もう二人増えていた。
レイリアとアスールさんだ。
い、いつの間に……。
部屋には、香ばしく、とても美味しそうな甘い香りが充満していた。
その匂いを嗅いでいるだけで、こちらまで食欲を掻き立てられ、口の中によだれが溜まってくる。
ゴクッ!
それは僕だけではないようだ。
皆ものどを鳴らして、四人の食べている姿をチラチラと見て気にしている。
ケイトの邪魔をしていたのは金ちゃんと銀ちゃんなのに、これでは僕たちがお仕置きをされているみたいだ……。
一方で、金ちゃんと銀ちゃんの嫌がらせから解放されたケイトは、ホッとした表情で、無線機の操作に集中していた。
「こちらドレイティス王朝に滞在中のケイト・モリ・ユナハです。各国、聞こえていますか? 感度の方はどうでしょうか?」
「ユナハ国、感度良好」
「ウルス聖教国、感度良好」
「ガイハンク国、感度良好」
「プレスディア王朝、感度良好」
「クレイオ公国、感度良好。ただし、ビルヴァイス魔王国の感度は良くないため、我が国が中継します」
「カーディア議会国、感度良好。こちらは、グリュード竜王国との中継を、我が国が行います」
無線機からは各国から返事がくるが、距離が遠いビルヴァイス魔王国とグリュード竜王国までは電波が届かなかったらしい。
「うーむ。まだまだ、改良が必要ですね」
ケイトはジッと無線機を見つめると、残念そうな表情を浮かべる。
「ケイト、無線機のことよりも報告をしないと」
「あっ、そうでした」
彼女は報告よりも無線機のバージョンアップに思いを寄せていたようだ。
「えー、各国に伝えます。ドレイティス王朝はユナハ国と同盟を結び、さらにユナハ連合への加盟もなされました。そして、グリュード竜王国との友好関係も無事に復活しました。ただし、現在、ブレイギル聖王国がドレイティス王朝に向けて軍を展開、侵攻の準備を行っています」
ミリヤさんは、ケイトが話している耳元で何かをささやく。
彼女はミリヤさんに視線を向けて頷く。
「えー、各国にはドレイティス王朝のユナハ連合への加盟が認められたことを公表していただき、ドレイティス王朝への侵攻は、ユナハ連合に対する敵対行為であることを宣言していただきたい」
彼女の言葉に、各国から了承の返事がくる。
「さらに、クレイオ公国、ウルス聖教国、プレスディア王朝、ユナハ国には、ドレイティス王朝への支援を要請します」
僕は自分を指差して、ケイトに僕からのお願いであることを念押しする。
彼女は僕を見て頷く。
「これは、フーカ・モリ・ユナハ王からの要請です。皆様、よろしくお願いします」
彼女が僕の名前を出したことで、無線機の向こう側では、慌ただしくなっていることが雑音として聞こえてくる。
僕たちはお互いに頷き、安堵した。
「ガガッ、ザー。こちらユナハ国、シャルティナです。フーカさんたちは、ブレイギル聖王国とドレイティス王朝の戦いに巻き込まれたようですが、大丈夫ですか?」
懐かしい声が無線機から聞こえた。
シャルは僕たちを心配してくれている。
久しぶりの彼女の声と、その優しさにジーンとくるものがあった。
僕は懐かしさと嬉しさで、少し涙ぐむ。
「ケイトです。このプーでは帰国は無理なので、私たちはプッ、プー残ってドレイティス王朝をププッしプー、プッす」
「はっ? 何かプーという音で遮られて良く聞こえません。ケイト、もう一度、初めからお願い!」
シャルには応答せず、僕たちは音の鳴ったほうに視線を向ける。
金ちゃんと銀ちゃんが鼻をつまんで、アスールさんとレイリアに向けて、消臭剤をまいていた。
皆が、驚いた表情で彼女たちに注目する。
「えっ!? アスールさんとレイリアだったの?」
「ちがーう! わしじゃない!」
「そうです! 私たちじゃありません!」
僕の驚きに、彼女たちは大声で反論した。
そして、皆の視線は、自然と彼女たちから金ちゃんと銀ちゃんへ移される。
こいつら、二人になすり付けるつもりだったな。
金ちゃんと銀ちゃんは、とぼけた表情でこちらを見て首を横に振り、自分たちではないと主張する。
しかし、二人の眉間に皺が寄りだし、お腹を押さえると、尾をピンと立て、毛までもが逆立つ。
「お腹が痛いのですか?」
ミリヤさんが心配そうに声を掛ける。
プスッ、プププー、プー。プッ、プップー、プスー。
二人は彼女にお尻で返事をした。
「「「「「……」」」」」
室内は静かになり、皆は二人を呆れた視線で見つめる。
ん? なんか臭ってきた。
「クサッ! オエッ! なんですか? この強烈な臭さは!?」
ケイトが鼻をつまんで叫ぶ。
室内に黄色の靄がかかっている感じだ。
うっ、目にまで染みてきた。
周りを見ると、皆も鼻をつまんで目をしばしばさせて涙ぐんでいた。
「これはさすがに……。部屋から出ましょう! 退避ー!」
アンさんが叫ぶと、僕たちは一斉に無線室から廊下へと飛び出す。
スーっと流れてくるひんやりとした廊下の新鮮な空気が心地よい。
ブプー。プププー。
一緒に廊下へ退避した金ちゃんと銀ちゃんに、皆の視線が集中する。
二人は頭を掻きながら、恥ずかしがっている。
廊下でもおならをしたら、退避した意味がない。
そんな中、こちらに向かってくる人たちがいた。
「あっ、こちらでしたか!」
アルタさんさんだった。
そして、チャロさん、リンさん、イライザさんが、その後ろにいる。
「国境付近を偵察してきました。ブレイギル聖王国の軍勢は、およそ二万ですが、装備を見たところ、半分は徴兵された民間人だと思われます。そして、敵の拠点は完成しているようなので、ドレイティス王朝へ侵攻するのは、遅くても数日以内だと思われます」
アルタさんの報告に、後ろの三人が頷く。
「ありがとう。これから忙しくなると思うから、今のうちに休んでおいて。ご苦労様」
僕は四人をねぎらうと、振り返ってセレストさんに視線を送る。
彼女は黙って頷き、近くにいた者に声を掛けた。
その者が走り去っていくと、皆の表情が硬くなり、緊張感が戻って来る。
プププー。プスー。
静かになった廊下に、あの音が響き渡る。
「「「「「……」」」」」
ま、またか……。
「クサッ! 何ですか!? この強烈な臭いは!」
獣人のイライザさんが鼻をつまんで、最初に反応した。
その後、僕たちの鼻にも伝わってくる。
「アン様、二人を檻に入れて庭へ放置しましょう! このままでは、行く先々が臭って何もできません!」
ケイトが訴えると、アンさんは頷き、金ちゃんと銀ちゃんに視線を向ける。
「二人を確保!」
彼女の号令で、僕たちに付き添っていたメイド隊の三人と数人の特戦群の隊員が動き出し、金ちゃんと銀ちゃんを捕まえようと迫る。
二人はギョッとした表情をすると、逃げだした。
ポニュッ、プッ、ポニュッ、プッ、ポニュッ、プー。
足音とおならを撒き散らして、機敏に走り去っていく二人を、メイド隊たちは追いかけるが、近付くと臭うのか? 距離をつめられないまま、二人と一緒に廊下の奥へと消えていった。
その後、城内、主に廊下は、金ちゃんと銀ちゃんの撒き散らす悪臭に悩まされることとなってしまった。
二人のせいで、ブレイギル聖王国の侵攻が迫っているというのに、城内では緊張感が感じられなくなった。
これは、いいことなのだろうか……?
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