124話 玉入れ競争
トリュフを回収するなら、金ちゃんと銀ちゃんの鼻を使えば早いのだが、二人は犬あつかいされたことでお冠だ。
以前、イライザさんもそうだったように、二人も犬と同じにみられるのはプライドが許さないようだ。
二人の機嫌が直っても、鼻を使ってトリュフを探すことはしてくれないだろうから、他の方法を考えるしかないのだが、いい案は浮かばない。
何かないかと悩みながら、アスールさんと子供たちが遊んでいる姿を眺めていた。
金ちゃんと銀ちゃんがこちらで拗ねているので、男の子たちは、アスールさんにトリュフを投げつけるが、彼女はヒラリとかわして落ちているトリュフを拾い上げると、彼らに向けて投げつけ、当てまくっていた。
「ん? 雪合戦ならぬトリュフ合戦なら、遊び終わったトリュフを回収できるかも」
「フー君、トリュフがボロボロになってしまうと思います」
すぐにヒーちゃんから否定された。
うーん。ドッジボールも野球もサッカーも無理だな……。
球技ではトリュフが傷んでしまうし、そもそも、トリュフの数を多くそろえる必要がない。悩ましい。
「宝探しのような遊びを考えたらどうでしょう?」
「森の中にいっぱいあるものを宝とは思えないよ」
「そうでした……」
ケイトの提案を僕が否定すると、彼女は肩を落とした。
「ここは素直に、トリュフを取ってきたら、お小遣いを上げてはどうですか?」
「それだと、子供たちがトリュフの価格を知ったら、お小遣いの額が上がっていってしまいます。それに、子供たちの遊び道具から小遣い稼ぎなってしまうと、無理して森の奥にまで見つけに行く子も現れて、子供たちを危険にさらすかもしれません」
オルガさんの提案はケイトに否定された。
僕たちは溜息をついてうなだれる。
銀ちゃんが輝いた表情を浮かべて、僕の前に立つと「はい、はい」と言わんばかりに手を挙げて主張してきた。
「銀ちゃん、何かいい方法を見つけたの?」
彼は満面の笑みでコクコクと頷く。
そして、『たまいれ』と書かれたプラカードを掲げる。
ポン!
「その手があった!」
「その手がありました!」
僕とヒーちゃんは手を叩いて、同時に声を上げた。
しかし、ケイトとオルガさんは、玉入れが何かを分からずにキョトンとしていた。
「ケイト、こういうものを二つ作って欲しいんだけど、作れる?」
僕は、かごが棒の先端についている絵を地面に描いて、ケイトに尋ねた。
「これならすぐに作れますけど、これをどうするんですか?」
「玉入れ競争っていう競技なんだけど、グループに別れて高い位置に設置したかごに多くの玉を投げ入れたグループの勝ちっていう競い合う遊びなんだ。子供たちには、玉の代わりにトリュフをかごに投げ入れてもらって遊んでもらえば、トリュフに傷もつきにくいし、かごに入れてくれるから、回収も楽だと思うんだ」
「なるほど! これならいけそうです」
ケイトも納得すると、銀ちゃんがドヤ顔で彼女の前に立つ。
「なんか、悔しいですが、銀ちゃんのお手柄です」
ケイトがうなだれると、銀ちゃんはガッツポーズ取った。
僕たちはその光景を見て苦笑する。
「ハァー。では、玉入れのかごを作ってきます」
彼女は落胆した様子で立ち上がる。
「あっ、ケイト! 子供の身長を考えて、かごの位置は、あまり高くしないでね」
「分かりました」
彼女は悔しそうな表情で、チラッと銀ちゃんのほうを見てから、村の男たちを鍛えている特戦群の人たちのほうへと走って行く。
その後ろ姿は、どこか無念そうだった。
「みんなー! こっちに集まってくれるかな?」
「ここに集まってくださーい!」
ケイトがかごを作りに行っている間に、僕とヒーちゃんで子供たちに声を掛けて集める。
すると、彼らは僕たちの前で体育座りをして、こちらを注目する。
アスールさんも子供たちと一緒になって座っている。
なんで、アスールさんも座ってるの……。
「えーと、今、そのトリュフ……じゃなかった、ドロダケを使って遊ぶ道具を作っているから、出来上がったら遊んでみて!」
子供たちは目を輝かせて歓声を上げて喜ぶ。
すると、アスールさんも子供たちと一緒になって喜んでいる。
アスールさんは大人なんだから、参加できないのに、なんで、そんな期待に満ちた目で喜んでるの……。
僕は、子供たちに玉入れ競争のルールを説明すると、身長や性別がバランスよくなるように二つのチームに別けた。
チームに別れた子供たちは、それぞれ金ちゃんと銀ちゃんの周りに集まっている。
「はい、聞いてー! このチームは金ちゃんチームね! それで、こっちのチームは銀ちゃんチームね!」
「「「「「はーい!!!」」」」」
子供たちが大きな声で返事をすると、金ちゃんと銀ちゃんは腕を振り上げて、張りきりだす。
「チームも決まったから、ドロダケを取ってきていいよ! 一人、二個までだからね! それと、森の奥や危ないところのドロダケはとっちゃダメだよ!」
「「「「「はーい!!!」」」」」
子供たちは一斉に森へと駆け出していった。
「なあ、フーカ。わしはどっちのチームだ?」
「いや、アスールさんは、ルールが良く分かっていない小さな子たちが間違えないように補佐したり、危ないことをしないように見守る係だから、参加しちゃダメだよ」
「そ、そうなのか……」
アスールさんは、残念そうな表情を浮かべる。
だから、なんで、参加する気、満々なの? アスールさんが参加したら、そのチームが勝つに決まってるじゃないか……。
子供たちが、両手にトリュフを持って戻って来た。
すると、準備が出来たケイトが、二つの玉入れのかごを、特戦群の人たちの手を借りて、運んでくる。
子供たちは、自分の身長よりも高い位置にあるかごを見つめながら、いつ始まるのかと、ソワソワと落ち着きをなくし始めていた。
「自分のチームのかごに、多くのドロダケを入れたチームの勝ちだからね!」
「「「「「はーい!!!」」」」」
子供たちが元気よく返事をした。
すると、僕と入れ替わるように審判役のオルガさんが前に出てくる。
「これより、金ちゃんチームと銀ちゃんチームの対戦を行います。金ちゃんチームは布がついているかごに、銀ちゃんチームは何もついていないかごにドロダケをを入れて下さい!」
「「「「「はーい!!!」」」」」
子供たちの返事に、オルガさんはどこか嬉しそうだった。
「あの上にあるかごに多くのドロダケを入れたチームの勝ちです。では、はじめ!」
彼女が号令をかけると、子供たちは一斉にかごへ向けてトリュフを投げ入れていく。
そして、手持ちのトリュフがなくなると、森へ取りに行こうとする子供たちが現れた。
アスールさんは、その子たちをすぐに止めて、かごに入らなかったトリュフを拾って、再び投げ入れるようにと教える。
だいたい三分くらいになると、オルガさんは僕が貸したスマホを見つめだす。
「やめ! そこまで!」
彼女は腕を振り上げて号令をかけた。
ケイトとヒーちゃんは、大量のトリュフが入った二つのかごに手を突っ込み、大きな声で数を数えながら用意した袋へと移していく。
「金ちゃんチーム、三二個! 銀ちゃんチーム、四一個! 銀ちゃんチームの勝ち!」
オルガさんが結果を発表すると、金ちゃんチームの子供たちは悔しそうにうなだれ、銀ちゃんチームの子供たちは飛び跳ねて嬉しそうにはしゃぎだす。
そのそばでは、ケイトがかごへ入れられずに放置されていたトリュフを拾い集めていた。
二回戦目が行われると、今度は金ちゃんチームが勝ち、総合では、一勝一敗の引き分けで終わった。
金ちゃんと銀ちゃんは、頑張った子供たち全員に、ご褒美として先端に飴がついている木の棒を配り始める。
彼らは飴を受け取ると、恐る恐る口に含む。
「「「「「あまーい!!!」」」」」
「「「「「おいしー!!!」」」」」
一斉に感想を叫びながら、彼らは満面の笑みではしゃぎだす。
金ちゃんと銀ちゃんは、喜ぶ子供たちを見てウンウンと頷くと、誇らしげな表情を浮かべる。
二人にしては、気の利いたことをしたと思う。
しかし、あんなに大量の飴を、いつの間に買い込んでいたんだ。
そして、どこにしまっていたんだ……?
運動会の景品をもらって喜ぶ小学生のような子供たちを見ていると、そんな疑念を抱くことがバカらしく感じた。
「なんか、微笑ましいね」
僕は、ポツリと素直な気持ちをつぶやいた。
「目的の手段としては、純真な子供の心を逆手に取っていて、えげつないですけどね」
ケイトが横やりを入れてくる。
台無しだ……。
そして、トリュフのほうはというと、一六〇個ほどを回収でき、僕たちは十分な量を手に入れることが出来た。
子供たちが見たこともない遊びをしていたことで、興味を持った大人たちまでもが、いつの間にか集まっていた。
その中にはメリサさんもいて、彼女は不思議そうな顔で、こちらへと歩いてくる。
「これは、何をしていたのですか?」
「えーと、玉入れという遊びを少し改良して、玉の代わりにドロダケをかごに入れて、競う遊びをしていました」
「「コホン」」
僕がトリュフのことを言わずに答えると、ヒーちゃんとオルガさんが白い目を僕に向けながら、咳ばらいをした。
やっぱり、言わないとダメだよね……。
「えーと、メリサさん。このドロダケは、僕の世界ではトリュフといって高級食材なんです。それで、子供たちが遊びながら収穫できる方法として玉入れ競争を教えてました」
僕は袋に入ったトリュフを一つ取り上げ、彼女に渡す。
「そうなのですか。こんなものが高級食材として扱われているのですか」
彼女は手に取ったトリュフをまじまじと見て、信じられないといった表情を浮かべた。
「メリサさん、僕もこっちの世界にもトリュフがあることを知ったのは、今日が初めてなんです。だから、こっちの世界で受け入れられるかは、まだ分からないのが正直なところです。もし、受け入れられたら、ヨスピラ村はトリュフの産地として有名になると思います。それに、村全体も裕福になると思います」
「今まで、子供たちの遊び道具としてしか見ていなかったキノコでしたが、そんな貴重なものになるのかもしれないのですね」
彼女が再びトリュフをまじまじと見つめだすと、バーサさんやダナさんなど、村の女性たちが彼女の周りに集まって、トリュフを覗き込んでいる。
「これからは、子供たちにドロダケを集めさせればいいわね」
女性陣の中から、そんな声が聞こえ始める。
「待って下さい。それでは、子供たちに玉入れを教えた意味がありません。子供たちの仕事として集めさせると、あるだけ集めてしまい、この周辺のドロダケがなくなってしまいます。そうなると、子供たちはドロダケを見つけるために、森の深くまで行ったり、危険なところに生えているものまで取ろうとしてしてしまいます。だから、遊びに使う程度のドロダケを取って来て、それを回収できるように玉入れ競争を教えたんです」
「フーカ陛下の子供たちの身を案じたお考えを無駄にするようなことを言いまして、誠に申し訳ありません」
メリサさんが言ったのではないのに、彼女が謝り、頭を下げると、女性たちも頭を下げた。
「分かってくれれば、それでいいです。子供たちに玉入れで遊んでもらって、大人がかごに貯まったドロダケを回収してあげて下さい」
「「「「「はい!!!」」」」」
女性たちが返事をする。
これで、トリュフが乱獲されることもないし、子供たちが危ない目に遭うこともないだろう。
「フーカ陛下、こんなことをお尋ねするのは恥ずかしいのですが、このドロダケは高級かもしれないことは分かりましたが、どのくらいの価値があるのですか?」
トリュフの価値を言っていなかったので、メリサさんが疑問を抱くのももっともだ。
僕は袋の中から小ぶりのものを七個くらい、両手で掴み上げて彼女に見せる。
「えーと、僕の世界では、これだけで小銀貨三枚から四枚はします。でも、トリュフが食材として認められて市場に出てみないと、もっと高くなるか安くなるかは、まだ分かりません」
「なるほど。……えっ? それだけで、小銀貨三枚から四枚になるのですか!? こ、これは何と言ったら……」
彼女が驚くと、周りにいた女性たちも驚いて、口をパクパクさせている者までいた。
「それで、今回集めたこの袋に入ったものを持ち帰って、ドロダケを使った料理を出したり、市場に出したりと色々と試してみたいのですが、よろしいですか?」
「はい、ぜひともお願いします」
彼女は嬉しそうに了承してくれた。
日も傾きだしてくると、子供たちも家に帰りだしたので、僕たちもトリュフの詰まった袋を回収して村長の家に戻った。
「ケイト、ヒーちゃん。試しにトリュフを使った料理を村の人たちにふるまってみたらどうかな? ここの人たちの感想も聞けるし、どうやって食べるかが分かれば、この村の食材の一つにもなると思うんだ」
「「いいと思います」」
二人はすぐに賛成してくれた。
アンさんとオルガさんにも相談し、メリサさんと村長さにも許可を取ると、村長の家の前の広場でトリュフを使った料理の試食会を始めることにした。
皆も会場づくりを手伝ってくれ、広場にはテーブルと椅子が置かれていった。
そして、アンさんとオルガさんは、メイドさんたちと一緒に、僕とヒーちゃんが提案した料理を作っていく。
テーブルの上には、焼いたお肉の上にトリュフのスライスをのせたものやマッシュポテトに刻んだトリュフを混ぜたもの、オムレツに刻んだトリュフを入れたもの、麦のリゾットにスライスしたトリュフをのせたものなどが、次々と並べられていった。
高級食材をふんだんに使われた料理が並べられているテーブルを見て、僕の方が興奮してくる。
村人たちが広場に集まってきた。
僕は頃合いを見て、彼らの前に立つ。
「えー、皆様、急なお呼びかけに、足をお運びいただいてありがとうございます。今回、子供たちが玉入れ競争で集めたドロダケは、トリュフと呼ばれる高級食材です。乱獲しないで出荷していけるようにメリサさんとも話していますので、彼女の指示に従って、子供たちの遊びの一つとして収穫して下さい。お願いします。長くなりましたが、テーブルにトリュフを使った料理をご用意いたしました。皆さん、この村の名産になるかもしれないトリュフをご堪能下さい」
僕が話しを終えて、頭を下げると、村人たちから歓声が上がる。
彼らは待ってましたと言わんばかりに、料理の並べられたテーブルに向かい、メイドさんたちから取り皿を渡されると、食べてみたい料理を次から次へと皿にのせていく。
そして、席に着いた者から食べ始めていた。
僕もミリヤさんたちのいるテーブル席に着き、初トリュフを味あう。
トリュフだけを摘まんで食べてみると、キノコの歯ごたえがあるだけで味はしなかった。
だが、鼻の奥まで土や森をイメージさせる香りが漂ってくる。
単体では少しきついかもしれない。
今度は料理と一緒に食べてみると、香りが料理の味と相まって美味しい。
僕は他の人の意見が気になって、周りを見回してみると、村人たちからは、「味付けが濃くなって美味しい」という意見が多く聞こえていた。
そして、ネーヴェさんとジゼルさんにも視線を向ける。
「「美味しい!」」
二人も気に入ってくれたようで、うっとりした表情で感想を述べていた。
一方で、アンさんとオルガさんは、目をつむって味を確かめるように食べている。
二人を見ていると料理の審査を受けているようで、緊張してくる。
「これはいいですね」
「はい。各エルフ族が好みそうな味です」
二人からも合格がもらえる。
僕は、高級食材といっておきながら受け入れられなかったらどうしようと、内心、ヒヤヒヤもしていたのでホッとした。
「こちらの世界の料理は、薄味のものが多いので、トリュフをのせるだけで香りが加わり、味が広がりますから、これなら、流行りそうです」
ケイトは、トリュフの肉料理を頬張りながら僕に感想を述べて、満足そうな表情をしていた。
彼女からも合格がもらえた。
隣の列のテーブル席では、金ちゃん、銀ちゃん、レイリア、アスールさんの食いしん坊四人組が、子供たちと一緒にガツガツと食べながら、満足そうな笑みを浮かべていた。
彼らと子供たちも気に入ってくれたようで、何よりだ。
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