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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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123話 ヨスピラ村はトリュフだらけ!

 ヨスピラ村に滞在させてもらった僕たちは、朝になるとドレイティス王朝へ向かう準備をしていた。

 そこへ、村長が僕を尋ねてきた。


 「フーカ陛下、おはようございます」


 「おはようございます。昨日は泊めていただき、ありがとうございます」


 「いえいえ、お気になさらないで下さい。フーカ陛下(がた)は、今日、お立ちになるのですか?」


 「はい、準備が整い次第、出発するつもりです」


 彼は僕の返事に難しい顔をする。


 「今日の出発は、やめたほうがいいですぞ」


 「えっ?」


 「あの山の周辺にかかる雲が成長すると、荒れた天気になるのです。おそらく、悪天候で進めず、野営をすることになりますし、危険も伴います。明日には、あの雲も晴れるでしょうから、雲の様子を見てから、旅立つほうが賢明でしょう」


 彼は、ドレイティス王朝の方向にある雲を指差した。


 「ご忠告、ありがとうございます。それでは今日の出発はやめて、明日の朝の雲行きを見て、出発を決めることにします」


 僕が納得して返事をすると、彼はウンウンと頷き、ニッコリと微笑んだ。


 「では、皆にも今日の出発の中止を伝えてきますので、失礼します」


 僕は彼に頭を下げると、アンさんたちのところへと向かった。




 アンさんは地図を見ながら、ミリヤさんと道行の相談をしていた。


 「アンさん、今日の出発は中止にしよう。村長さんの話しでは、あの雲が成長すると、荒れた天気になるんだって!」


 僕は村長が示した雲を指差す。


 「そうなのですか。カル、こちらに来て下さい!」


 ミリヤさんが呼ぶと、トッドさんのそばで繋がられていた男が、こちらに駆け寄って来た。


 「どうしたんすか? こ、これは陛下、おはようございます」


 彼は僕を見た途端、顔を強張らせる。


 「フーカ様。彼はカル・ローイン、元タジラス国の兵士で、トッド団長の側近をしています。彼がドレイティス王朝への道案内をしてくれます」


 「フーカ陛下、よろしくお願いします」


 ミリヤさんに紹介されたカルは、僕に敬礼をした。


 「うん、よろしく」


 僕が返事をすると、敬礼の手を下ろした彼は、ミリヤさんに視線を向ける。


 「カル、村長の話しでは、あの雲の影響で悪天候になるそうだが、どうなのだ?」


 アンさんが雲を指差すと、彼は目を凝らして雲を見つめる。


 「うわー。出発する前に現れてくれて良かったー。あれは荒れますね。村長の言った通りっす。今日の出発はやめたほうがいいっす」


 「今日の出発は中止する。今日一日は自由にしてかまわないと、他の者にも伝えてくれ」

 

 彼も出発の中止を提案したのを聞いて、アンさんは軽く頷くと、そばにいたメイド隊の一人に声を掛けた。


 「はい、かしこまりました」


 彼女は軽くお辞儀をすると、立ち去っていく。



 ◇◇◇◇◇



 今日の出発が中止になって、丸一日、暇になってしまった。

 僕は、せっかくなので村の中を観光しようと、ぶらぶらと散策してまわった。

 歩き回っていると、顔を腫らした男性と幾度かすれ違う。

 彼らは僕に気付くと、恥ずかしそうに苦笑して頭を下げ、足早に逃げ去ってしまう。

 彼もトッドさんのように、奥さんからお仕置きを受けたのだろう。可哀相に……。

 ふと、トッドさんの腫れた顔が脳裏に浮かぶと、身震いがしてしまう。




 散歩を終えて、村長の家まで戻って来ると、彼の家の前にある運動場ほどの広場の一角にテーブルや椅子が並べられ、女性たちでにぎわっていた。

 よく見ると、ジゼルさん、ミリヤさん、ネーヴェさんとメリサさんたち村の女性陣が集まってお茶会を開いているようだ。

 離れたところでは、アンさんとレイリアが、リンさんやイライザさんたち特戦群の人たちと一緒に、盗賊団の者たちと村の男性たちを試合げいこで鍛えていた。

 そして、その様子を、ダナさんと数人の女性たちが監視するように見張っている。

 盗賊団に参加していた者のお仕置きも含まれているのだろうか?

 木剣とはいえ、打ち込まれて痛そうに這いずり回っている彼らを見ているだけで、こちらまで痛くなってくる。


 そのまま、広場を見渡していると、何かとやらかしてくれる問題児たちが見当たらないことに気付いた。

 僕は焦りながら辺りを見つけて回る。

 すると、広場と森の境界あたりに子供たちが集まっており、子供たちの遊び相手になっている金ちゃん、銀ちゃん、アスールさんを見つけた。

 そのそばでは、テーブル席でお茶を飲みながら、ヒーちゃん、ケイト、オルガさんが三人と子供たちの遊ぶ姿を笑顔で見つめていた。


 「アスールさんって、子供好きだよね」


 僕は、ヒーちゃんたちのそばに行き、声を掛けた。


 「普段の素行を見ていると、信じられませんけどね」


 ケイトは僕を見上げて、皆があえて口にしなかった感想を述べる。


 「「「ハハハハハ……」」」


 僕たちは愛想笑いで誤魔化すことしかできなかった。




 金ちゃんと銀ちゃんは、子供たちにしがみつかれ、アスールさんは手を引っ張られたりと大人気だった。

 三人のことを知っているだけに、子供って怖いもの知らずだなと思ってしまう。

 ヒーちゃんの隣に座って、しばらく見ていると、金ちゃんと銀ちゃんと遊んでいた数人の男の子たちが彼らから離れ、そばの森へと入っていってしまう。

 森の中に何かあるのかなと森を見ていると、さっきの男の子たちがいくつもの泥の塊を両手で抱えて戻ってきた。

 そして、彼らは金ちゃんと銀ちゃんの近くに行くと、泥の塊を二人に投げつける。

 うわー。お風呂の時に、アンさんが苦労しそうだ。


 クンクン。クンクン。


 二人は、弧を描くように投げつけられた泥団子に鼻を向けて、匂いを嗅ぎだす。

 見た目から連想される汚いものかと思ったのだろうか?


 クルッ。


 すると、二人は顔を見合わせて驚いた表情を浮かべた。

 やっぱり、汚いものだったらしい……。

 しかし、二人は僕の予想とは違って、俊敏な動きで泥団子をキャッチして集めていくという行動を取った。

 あ、あんなものを集めて何をしているんだ……?


 クンクン。クンクン。


 二人は、キャッチした泥団子に鼻を近付け、匂いを確かめている。

 そして、再び顔を見合わせて頷き合うと、満面の笑みで泥団子を抱え、僕たちのほうへと駆けて来る。

 どうしたのだろう? っていうか、あんなものをこっちに持ってこないで欲しいんだけど……。


 「あのー。金ちゃんと銀ちゃんは、あのバッチイものを私たちに投げつけるつもりでいるのでは?」


 ケイトの言葉に僕は血の気が引き、逃げ出そうと立ち上がると、ヒーちゃんとオルガさんは、僕を盾にするように背後に隠れた。


 ガシッ。


 ケイトとオルガさんが僕の肩を掴み、逃げられないように固定してくる。

 ひ、酷い……。


 金ちゃんと銀ちゃんは、嬉しそうな表情を浮かべながら、どんどん近付いてくる。


 「ヒ、ヒィー! 二人がそこまで来てるよ! ちょっと、ケイト、オルガさん、放してよ! ヒーちゃんも何か言ってよ!」


 「「ダメです!」」


 「フー君、頑張って下さい」


 「な、何を頑張るの? 何も頑張れないよ!」


 その間にも二人は距離を詰めてくる。

 もうだめだ! 僕はうつむいて目をつむる。

 しかし、泥団子を当てられることはなかった。

 それどころか、二人は僕に泥団子を差し出して、何かを僕に訴えようとしているようだ。

 銀ちゃんは僕の顔の前に持ってきて泥団子を見せ、金ちゃんは『これ、とりゆふ!』とプラカードを掲げた。


 「とりゆふ?」


 僕がつぶやくと、二人はコクコクと頷いて、泥団子をクンクンと嗅いで見せる。


 「!!! これっ! トリュフなの!?」


 二人は力強く頷いた。

 銀ちゃんが僕の手に泥団子を掴ませて渡すと、『よくみて』とプラカードを掲げる。

 僕は手に取った泥団子を確かめるために、少しついている泥を払いのけて形を見てから、匂いを嗅いでみる。

 森林のような匂いがして、手に取った感じもキノコ類だということは分かった。

 それに、形もテレビなどで見かけた黒トリュフにも似ている。

 だけど、僕はトリュフなんて高価なものには縁がなっかたから、実物を知らないし、食べたことも匂いも知らないので、これがトリュフとは断言できない。


 「実物のトリュフって見たことがないから、形は似ているとは思うけど、これが本当にトリュフかまでは分かかんないよ」


 「「チッ!」」


 カチン。


 二人の舌打ちにイラっときたが、深呼吸をして気持ちを抑える。


 「ヒーちゃん! ヒーちゃんはトリュフを食べたことある?」


 「はい、黒トリュフだけですけど、食べたことはあります」


 「なら、ヒーちゃんは、これがトリュフか分かる?」


 僕が泥団子を彼女に差し出すと、不思議そうな顔をされる。


 「分かると思います。ですが、以前にシズク姉様がお裾分(すそわ)けと言って、トリュフを(もり)家にも持って行っていましたけど、フー君は食べなかったんですか?」


 彼女の言葉に僕は唖然とした。

 家族は、僕に内緒でトリュフを食べていたんだ。

 何とも言えぬ悔しさと諦めのような感覚が襲ってくる。


 「僕は、食べたことない。きっと、姉ちゃんたちで食べちゃったんだと思う……」


 僕がうなだれると、皆から哀れみの視線が送られ、沈黙が続く。




 「コホン。今は、これがトリュフかが重要ですから、確かめてみますね」


 ヒーちゃんは場の空気を和らげるように明るく言った。

 この中で、唯一、トリュフを知っているヒーちゃんは、泥団子を手に取ると、色々な角度から見つめる。


 「オルガさん、これを切ってもらえますか?」


 「は、はい」


 オルガさんは、ヒーちゃんから泥団子を受け取ると、ナイフを取り出して真ん中で二つに切る。

 そして、彼女に戻す。


 クンクン。


 彼女は断面を確認した後、鼻を近付けて匂いを確認する。


 「フー君、トリュフで間違いないです」


 ポン。


 彼女が断言すると、金ちゃんと銀ちゃんはハイタッチをしてから、ドヤ顔で胸を張った。


 「えーと、フーカ様、ヒサメ様。とりゅふ? でしたっけ? それって何ですか? この泥団子みたいなのに価値があるんですか?」


 ケイトは、僕とヒーちゃんを見てから、手に取ったトリュフをまじまじと見つめながら聞いてきた。


 「日本……というよりも、僕のいた世界では、高級食材なんだよ」


 彼女は驚いた表情で僕を見ると、再び半信半疑といったようにトリュフを見つめる。


 「ケイトさん、フー君の言っていることは本当です。だいたい一〇〇グラムで三〇〇〇円から四〇〇〇円くらいだったと思います」


 ヒーちゃんは、金ちゃんと銀ちゃんがキャッチして集めたトリュフの中から、手のひらよりも小さめのものを七個ほど手に取ってケイトに見せる。


 「これくらいで……。えーと、こちらの貨幣価値だと、小銀貨三枚から四枚くらいになります」


 「えっ!? こんなものが、その量で小銀貨三枚から四枚もするんですか!?」


 ケイトは目を大きく見開いて、さらに驚いていた。


 「そうです。このトリュフを薄くスライスしたものを料理の上にのせるだけで、料理の値段が跳ね上がるんです」


 ヒーちゃんの言葉に、ケイトは彼女とトリュフを交互に見て、唖然とする。

 オルガさんも話しを聞いて、二つに切ったトリュフの断面の匂いを嗅いだりしていた。

 

 パンパン。


 ケイトは気を取り直すように両手で自分の頬を叩いて気合を入れると、僕とヒーちゃんに視線を向ける。


 「このトリュフって、流行りますかね?」


 「こっちの人の口にあえば、すぐに広まると思うよ」


 僕の言葉にヒーちゃんが力強く頷く。


 「分かりました。高級食材ということなので、最初は貴族や金持ちを対象に市場を広げるところから試してみます」


 彼女の言葉に、僕とヒーちゃんは頷く。




 ふと、何故、金ちゃんと銀ちゃんがトリュフを知っていたことに疑問を抱いた。


 「ねえ、金ちゃんと銀ちゃんは、トリュフのことを知らないよね? なんで、これがトリュフかもしれないって分かったの?」


 二人は僕の質問に、お互いの顔を見合わせると首を傾げて悩みだした。

 なんで、そこで悩むの……?

 二人は眉間に皺を寄せて、下を向いたり上を向いたりと悩み続ける。

 すると、金ちゃんの顔がパァっと明るくなり、『ぱそこんでみて、おいしそうだつた』とプラカードを掲げると、今度は銀ちゃんが『あれからおいしそうなにおいがした』とプラカードを掲げて、鼻をヒクヒクさせる。

 ほぼ、本能でトリュフと認識したようだ。




 子供たちは、二人に投げたトリュフを全てキャッチされたことで、再び森へと入り、トリュフを両手に抱えて戻って来ていた。

 また、二人に投げつけるようだ。

 ん? この森って、そんなにトリュフが生えてるの?

  

 「ねえ、君たち。その泥団子みたいのは、いっぱいあるの?」


 「ドロダケのこと? これなら、いっぱい転がってるよ!」


 一人の男の子が答えてくれた。


 「これは食べないから、いつも投げ合って遊んでるの!」


 その隣にいた女の子が、彼を見ながら付け加えるように答えてくれる。

 こっちではドロダケというのか。っていうか、投げ合って遊んでるなんて……。

 価値を知らないことの恐ろしさを実感させられた。


 男の子の森にいっぱい転がっているという言葉で、周りの森に生えている木に目を向けてみる。


 「あれって、どんぐりの木だよね?」


 「そうです。ブナ科の木ばかりです」


 僕が子供の頃に、どんぐりを集めて遊んでいた森に生えていた木を思い出しながら口にすると、ヒーちゃんが答えた。


 「この辺りでは小麦が希少なので、この木になる実を粉にしたもので料理を作って食べているのでしょう。この実の粉を料理にしたものはエルフもよく食べますよ」


 オルガさんが転がっていたどんぐりを手に取りながら教えてくれた。


 「フーカ様、このトリュフというものを、投げっこに使われてダメにされるのはもったいないですよ! 何か回収する方法を考えないと、子供たちの遊び道具で終わっちゃいますよ! 何とかして下さい!」


 ケイトはすがるような目で、僕を見つめてくる。

 彼女の意見には賛成だが、ここの森を知らない僕たちでは、すぐに見つかるか分からない。

 それに、まだ、トリュフが流行るかは分からないし、何にもないこの村で、子供たちの遊びを奪ってしまう後ろめたさもある。

 でも、トリュフは回収したい。悩ましい。


 「確か、トリュフは豚や犬を使って探していたような……」


 僕がポツリと口にすると、皆の視線が金ちゃんと銀ちゃんに集中する。


 ガーン。


 二人はショック受けた表情を浮かべると、『ぼくたちはいぬじやない』と金ちゃんがプラカードを掲げて、二人でふくれた顔をする。


 「でも、狐はイヌ科ですよ」


 ガーン。


 ヒーちゃんの言葉に、二人は再びショックを受け、空を見上げて頭を抱えた。


 「なら、話しは早いです。金ちゃんと銀ちゃんは、その鼻を使って子供たちよりも先にトリュフを見つけてきて下さい!」


 んべー。


 二人はケイトに向かって舌を出すと、プクーっと頬を膨らませ、僕たちに背を向ける。

 あーあ、二人を怒らせちゃった。


 「な、何ですか、その態度は! うーむ、仕方がない。かくなる上はイライザに探してもらいましょう。彼女も犬の親戚みたいなものですから」


 「ケ、ケイト? きっと、そんなことを頼んだら殺されるよ」


 「うっ、確かに……。フーカさまー、どうしましょう?」


 ケイトはすがるような目で、再び、僕を見つめてくる。

 そんな目で見られても……。

 でも、何かいい方法を考えないと、トリュフがもったいないし、上手くいけば、この村が裕福になれるかもしれない。

 僕たちは無邪気に遊んでいる子供たちとアスールさんを見ながら、何かないかと考えることとなった。

お読みいただきありがとうございます。


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