120話 商人を装っての旅
数日が経ち、ユナハ市を満喫したロルフさんやヘルマンさんたちが帰国していった。
そして、翌日にはダミアーノさんやレオさんたちも帰国していく。
ルビーさんたちは、フリーダさんとこの国に残る竜族たちとの話しや、対ハウゼリア連邦のため、マイネ領に駐在させている『赤炎軍』のことで帰国が遅れていた。
一方、エルさんたちは、ここが自分の家のように生活している。
帰る気があるのだろうか?
居座る気が満々にしか見えないエルさんに、不安しか抱けない……。
エルさんへの不安をぬぐえないでいる僕は、新居の自室で仕事をすることで、考えないようにしていた。
コンコン。
すると、扉が叩かれた。
「どうぞ」
「フーカ殿、仕事中に失礼する」
現れたのはルビーさんたちだった。
僕は彼女とネーヴェさん、イーロさんの三人にソファー席を勧める。
そして、三人が腰を下ろすのを見て僕も座ると、オルガさんが人数分のお茶を出していく。
「ルビーさん、どうしたんですか?」
「フーカ殿、我々も明日には帰国する。それで、お願いがあるのだが、聞いてもらえるか?」
「はい、僕にできることならいいですよ」
「実は、ネーヴェをフーカ殿たちと一緒に、ドレイティス王朝へと同行させて欲しいのだ」
「えーと、それはかまわないんですけど、そのー、理由を聞いてもいいですか?」
「うむ、かまわん。実は、ドレイティス王朝とグリュード竜王国は懇意の仲にあったのだが、国が離れていることもあり、また、その間には我が国を良く思わない国もあってな……。ドレイティス王朝がファルレイク帝国とブレイギル聖王国に領地を奪われているなか、我々は、手を貸すことが出来なかったのだ。そこで、この機会に、その時のことを謝罪したいのだ」
彼女は場が悪そうに苦笑していた。
ネーヴェさんを、グリュード竜王国の使者として同行させたいことは分かった。
そして、それと同時に、グリュード竜王国を良く思わない国とは、カーディア帝国のことだとも分かってしまった。
「そういうことなら、いいですけど、アスールさんに頼んだほうが楽なのでは?」
「「「……」」」
三人が難しい顔になった。
「いや、アスールでは、ややこしくなるというか……。その、変な方向にこじれる光景が浮かんでしまって、かえって不安になってしまうのだ……」
僕は彼女の考えていることを察して、黙って頷いた。
「分かってくれたか。かたじけない。感謝する」
苦笑しながら、ルビーさんは頭を下げた。
そして、その隣では、ネーヴェさんがニコッと微笑んだ。
「フーカ様、引き続きお世話になります。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
僕がネーヴェさんの同行を了承すると、三人は部屋を出て行く。
僕は窓際に立つと、外を見ながら思った。
アスールさん、もう少し信用されるようになろうね、と……。
翌日、ルビーさんたちの帰国を見送る。
「フーカ殿、ドレイティス王朝でのネーヴェのフォローをよろしく頼む!」
「はい、分かりました!」
僕が答えると、ルビーさんは微笑む。
「わしもいるのだから大丈夫だ!」
「お前がいるから心配なんだ! アスール! 向こうに着いたら、お前は絶対に口を挟むんじゃないぞ! 余計なこともするなよ!」
ドヤ顔で口を挟むアスールさんをルビーさんがたしなめると、彼女はプクーと頬を膨らませた。
「フーカ殿、アスールが余計なことをしないように気を付けてくれ。頼む」
「は、はい。分かりました」
ルビーさんたちはドラゴンに姿を変えると、滑走路から飛び立っていく。
彼女たちが空のかなたに見えなくなると、今まで長い期間、一緒にいたせいか淋しく感じた。
ルビーさんたちを見送った僕たちは、新居にある会議室へ戻り、ドレイティス王朝へ向かうための打ち合わせを始める。
アーダさんたちとジゼルさんが参加しているのは分かるのだが、いまだに滞在しているエルさんたちも、何故か参加している。
イーリスさんが、ドレイティス王朝へ向かうメンバーを発表する。
「今回、ドレイティス王朝へ向かうメンバーですが、フーカ様、金ちゃん、銀ちゃん、アン、オルガ、レイリア、ミリヤ、ヒサメ様、ケイト、アスール様、その部下のアルタさんとチャロさん、ネーヴェ様、ジゼル様、特戦群からリンとイライザを含む一〇人、メイド隊から三人の計二七名。それと、御者として兵士を四名つけます。そして、クレイオ公国のウノートア市までは、アーダ様方が同行してくれることになりました」
「あれ? 私は?」
皆が頷く中、マイさんだけが不服を漏らした。
「私やシャル様、それに、マイ様ほか、外された者には、国政や外交など、やることが山積みの状態です。早く処理するように心がけて下さい」
イーリスさんが宰相らしくビシッと言うと、マイさんが嫌そうな顔を見せる。
「特にマイ様、警察省長官なんですから、各領地との警察機構の連携など、重要な仕事が多いんですから、逃げないでしっかりやって下さいね」
「はーい」
「「「「「……」」」」」
彼女のやる気のない返事に、皆は不安を抱く。
「えー。次に、フーカ様たちのことで捕捉ですが、今回は商人を装って、ドレイティス王朝へ向かって下さい」
「商人って、なんで?」
「ドラゴンで向かうと、ブレイギル聖王国などがドレイティス王朝にドラゴンが配置されたと勘違いをし、何を仕掛けてくるか分からないからです」
「なるほど。なら、船で向かえばいいんじゃないの?」
イーリスさんは、僕の質問に答えず、アーダさんとジゼルさんに視線を向けた。
「私からお話ししましょう。我が国、ドレイティス王朝の近海にはファルレイク帝国の軍艦が配備されていて、海賊行為を行っていて危険なのです。我が国を枯渇させる目的ですから、入国しようとする船は、特に危険なのです。面倒なことになっていて申し訳ありません」
ジゼルさんは話し終えた後に、顔を曇らせた。
「いや、ジゼルさんが謝ることじゃないから、気にしないで」
海路も空路もダメ。
残った陸路で行くなら、身分を隠すために商人に扮して、ブレイギル聖王国をこっそりと通過するってことか。
「でも、ブレイギル聖王国とドレイティス王朝の国境は通れるの?」
「それも私が説明します。我が国とブレイギル聖王国の国境の一部は精霊の谷と呼ばれるヨスピラ渓谷があり、そこを通れば、ブレイギル聖王国に気付かれることなく、我が国へと入れます」
「それって、ブレイギル聖王国側にもバレてるんじゃないの?」
「ええ、知られています。ですが、精霊の谷と呼ばれるには理由があり、その地の住民は精霊の恩恵を受けていますから、ブレイギル聖王国に対して反感を抱く者が多く、さらに、地形の複雑さも相まって、ブレイギル聖王国軍も手があぐねている地域となっているのです」
「なるほど。商人に化けてれば、地元の人から警戒されずに通れるってことだね」
「はい、異国の政府関係者だと、ブレイギル聖王側についていると疑われる可能性がありますが、商人が行商として通るのであれば、ドレイティス王朝へ物資を運ぶ味方だと思われますから」
僕が納得して頷くと、ジゼルさんは微笑む。
「では、フーカ様たちには商人に扮してもらいます。そして、クレイオ公国が占領した元ブレイギル聖王国の都市の一つだったウノートア市まではドラゴンで向かってもらい、そこからブレイギル聖王国へと入り、精霊の谷ヨスピラ渓谷を抜けて、ドレイティス王朝の王都ドリュアス市に向かうルートを通っていただきます。よろしいですね」
イーリスさんに向かって、皆が頷いた。
すると、ケイトが手を挙げた。
「今回、特別仕様の馬車を四台用意しました。四台とも点検と整備は済んでいますから、いつでも出発できます」
僕は特別仕様という言葉に嫌な予感を感じる。
「その特別仕様って、どんな馬車なの?」
「それは見てのお楽しみです」
ケイトはニンマリとする。
もう、嫌な予感しかしない……。
「それと、商人に化けるんですから、皆の衣装も用意しておきました」
ケイトがパンパンと手を叩くと、マネキンに着せられ衣装が運ばれてくる。
戦闘服を紺色と黒色にしただけで、上着としてカーキ色のジャンパーが追加されていた。
その胸のところには狐の顔のイラストと『カプ商会』と書かれた文字が刺繍がされている。
そして、金ちゃんと銀ちゃんの分も用意されていた。
「ジャンパー以外は、迷彩の戦闘服を紺色と黒色の二色を用意しただけだよね?」
「旅なんですから、戦闘服は動きやすく丈夫で最良なんです。そこで配色だけを変えて、カジュアルな作業服っぽくしてみました。でも、冬服ですから生地も厚めにして体温を逃がさない工夫もしてあります。それに、これなら特戦群の人たちも違和感なく着れます」
「でも、これって商人としては目立つんじゃないの?」
「何を言っているんですか!? うちの商会では、こんな服を取り扱っていますという宣伝も兼ねているんですから、目立たないと商人らしくないですよ!」
「な、なるほど……」
彼女の思考は、商人に化けるんじゃなくて、商人そのものだった。
「こっちも見て下さい! メイド服は動きやすさと外見を重視してみました」
旅行用のパンツスタイルは一緒だが、腰のところが細くされ、以前よりスッキリした感じだ。
そして、ハーフコートが追加されていた。
「うん、こっちはおしゃれな感じに仕上がってるね」
「当然です。フーカ様の禁忌書庫の中のメイド服を見まくって、デザインを考えたんですから」
彼女はドヤ顔をするが、その情報はいらなかった……。
皆が僕を白い目で見つめてくる。
ほらー、こうなった……。
「では、商人としての準備は、こちらで整えておきます。フーカ様たちは二日後に出発する予定で準備して下さい」
イーリスさんがまとめると、皆は、黙ったまま頷いた。
◇◇◇◇◇
ドレイティス王朝に向けて出発する当日、空港には、四台の馬車が用意されていた。
僕は近付き、変なところはないかと確かめる。
その黒塗りの馬車は大型のもので、鉄製のものだった。
スライドドアには金色で狐の顔と『カプ商会』の文字が書かれている。
他は観光ツアーの時に乗った馬車を一両にして、少し大きくしただけで、あの時の馬車とたいして変わらないようだ。
「ケイト、ツアーで乗った馬車と変わらないようだけど?」
「よく見て下さい! 御者台が外に出てないんですよ! それに、中をよく見て下さい。水を樽で運ばなくても座席の下にあるタンクで運べるんです。他にも屋根が上がって二階建てになりますし、御者台の後ろにはキッチンもあります。荷物だって後方と屋根にトランクルームがあるので、そこに入れて、後方のトランクルームは車内からでも取り出せるようにもしてあります。さらに、照明と冷暖房完備です」
彼女はドヤ顔で胸を張った。
よく考えたら商人の馬車なのに荷台がなかった。
再び、馬車を確かめなおすと、観光バスのように車体の下側も荷物が入れられるようになっていた。
「この馬車、かなり重いんじゃないの?」
「大丈夫です。木と薄くても強度のある軽い金属を使っているので、このサイズの汎用の馬車よりも軽いし、荷物も多く載せられるんです」
彼女は我が子でも見るような優しい目で、馬車を見つめる。
特別仕様というでけあって、かなりの自信作のようだ。
ウノートア市までは、この馬車をアスールさん、アルタさん、ネーヴェさん、チャロさんがドラゴンの姿で運び、馬はウノートア市で用意するそうだ。
荷物は馬車と彼女たちの背に全部積んでいるので、あとは僕たちが背中に乗れば出発できる。
「アスール様、絶対に馬車を落とさないで下さいよ!」
「分かっている! 足とロープでも繋いでいるから大丈夫だ!」
「それと、着地するときに馬車を踏まないで下さいよ!」
「分かっている! 気を付けるから大丈夫だ!」
「本当に大丈夫ですよね?」
「えーい、大丈夫だと言っているだろ! こまごまとうるさいぞ!」
「本当に、頼みますよ」
ケイトは馬車が心配で、アスールさんに何度も念を押していた。
出発の時間が近付くと、シャルとイーリスさん、マイさんたちとエルさんたちが勢ぞろいで見送りに来た。
「特戦群が同行し、竜族も四人。まあ、戦力の心配はないと思います。だだし、アスール様は何もしないで下さいね」
シャルの言葉に、首だけを彼女のほうに伸ばしたアスールさんは、やるせない表情を見せているようだが、ドラゴンの顔だと分かりづらい。
「それと、ミリヤとアンは、気を抜かないで下さい。フーカさんたちは、きっと、何かやらかしますから」
シャルが不安そうな表情でミリヤさんとアンさんに頼むと、二人は力強く頷いた。
「ネーヴェ様、ジゼルさん、よろしくお願いします」
ネーヴェさんとジゼルさんにシャルが頭を下げると、二人も頭を下げて返した。
僕たちがやらかすことを前提にされている……。
そして、隣にいたヒーちゃんは、やらかすメンバーに加えられたことに、ショックを受けていた。
僕たちは出発する。
「いってきまーす!」
シャルたちに手を振ると、彼女たちは白いハンカチを振る。
そして、アスールさんが滑走路から飛び立つと、後方のネーヴェさんたちも、順に飛び立つ。
ネーヴェさんの背中では、神のような対象でもあるホワイトドラゴンの背に乗っていることに、アーダさんたちが興奮と恐縮の感情にさいなまれ、表情をコロコロと変えていた。
何事もなく順調に目的地へと向かっていた僕たちは、プレスディア王朝、ウルス聖教国の領空を突き進み、クレイオ公国の領空へと入った。
すると、辺りには、ちらほらと雪化粧も見えだした。
「ねえ、ケイト。なんか白い所もあるけど、雪の対策は大丈夫なの?」
「馬車の車輪に取り付けるソリも用意してあるので大丈夫です。でも、この辺りで本格的に雪が積もりだすのは、一月から三月ということですから、使うことは無いと思いますよ」
「そうなんだ」
こっちの気候のことは分からないが、ジゼルさんも頷いているので、信じても大丈夫だろう。
ウノートア市が見えてくると、先導していたアスールさんが後方に下がり、ネーヴェさんが先頭を飛ぶ。
ネーヴェさんはアーダさんと話しをすると、彼女が指差した城の隣に広がる草原に方向を変え、高度を下げていく。
そして、彼女が着地をすると、背中にいるアーダさんがこちらへ向かって大きく手を振った。
それを合図にアスールさん、アルタさん、チャロさんが順に降りていく。
皆が着地を終えると、クレイオ公国の兵士たちが集まってくる。
彼らは、ドラゴンの背中に積んである荷物を降ろす手伝いをしてくれた。
荷下ろしが終わったアスールさんたちが、人の姿に戻るのを待ってから、城へと向かう。
城へ着くと、オレールさんがネーヴェさんのことを兵士に伝え、おもてなしの準備を頼んでいた。
「お部屋を用意しましたから、そちらへどうぞ。マクシム、後は頼んだぞ」
オレールさんはマクシムさんに声尾を掛けると、そのまま兵士と立ち去って行く。
「では、私について来て下さい」
僕たちはマクシムさんの後をついて行く。
廊下を歩いていると、兵士たちがネーヴェさんを見ては、頭を下げて拝んでいる。
彼女がホワイトドラゴンだということが知れ渡ったようだ。
しかし、兵士たちは頭を上げると驚いた表情を見せる。
ネーヴェさんを挟んで、金ちゃんと銀ちゃんが、両脇で偉そうにしていたからだ。
そして、彼女が頭を下げる兵士たちに手を振って返すと、金ちゃんと銀ちゃんも真似をする。
そんな二人を見て、彼女は引きつった笑顔を浮かべる。
うちの金ちゃんと銀ちゃんが、ごめんなさい……。
部屋へ案内されると、アンさんとミリヤさんが金ちゃんと銀ちゃんの頭を押さえ、ネーヴェさんに謝りだす。
そして、僕たちは苦笑していた。
◇◇◇◇◇
翌日、朝早くから、僕たちは城の前に集まっていた。
そして、ケイトとヒーちゃんが、並ぶ馬車を一台ずつ確かめていた。
「こちらは問題はないです。ヒサメ様、そっちはどうですか?」
「こっちも大丈夫です」
二人の確認が終わると、馬車に馬が繋げられた。
そろそろ出発だ。
僕は、アーダさんのそばに行く。
「アーダさん、ありがとうございます。お世話になりました」
「いえ、こちらこそ、お願いを受けていただいてありがとうございます。ジゼルのことをよろしくお願いします」
「はい、任せて下さい。では、いってきます」
「道中、お気を付け下さい」
僕はアーダさんに別れを告げ、馬車へと乗り込む。
皆も別れの挨拶を終えた者から順に馬車へと乗り込んでいく。
馬車が動き出すと、アーダさんたちはこちらに頭を下げて見送ってくれていた。
そんな彼女たちに、僕は窓から手を振って返す。
彼女たちが見えなくり、車内に顔を引っ込めると、ムッとした暑苦しさを感じた。
「ねえ、この中、なんか蒸し暑くない?」
「確かに……。室温は快適な温度に設定してあるはずなんですけど、ちょっと見てみますね」
ケイトは立ち上がると、一点を見つめて動かない。
ポチポチポチ。
彼女の見つめる先では、金ちゃんが壁にあるボタンを押して、銀ちゃんと睨み合っていた。
「フンッ」
ポチポチ。
銀ちゃんが鼻を鳴らしてから、さらにボタンを押し、金ちゃんと睨み合う。
「あ、あんたたちは、何をしているんですか!?」
ケイトが怒鳴ると、二人は彼女を見てキラッと牙をみせてから親指を立てた。
「何、カッコつけてるんですか!? バカですか! それは空調の設定ボタンですよ。何を勝手にいじっているんですか!?」
彼女は、そのボタンに近付き確かめる。
その間に車内の温度は、さっきよりも高くなり、サウナのように感じる。
「なっ! 四五度! バカですか!」
パシン、パシン。
ポチポチポチ。
彼女は二人の頭を叩いてから、ボタンを押す。
すると、涼しい空気が流れてくるが、それでも車内は、まだムッとしていた。
「アン様、オルガ、窓を開けて下さい。外の空気も入れたほうが、早く適温に戻ります」
ケイトに言われ、二人が窓開けると、冷たい空気が車内へ一気に流れ込んできて気持ちがいい。
彼女は疲れたようにうなだれて戻って来る。
「金ちゃんと銀ちゃんが室温を上げて、我慢比べをして遊んでました……」
そして、報告を聞いた僕たちもうなだれた。
出発早々、何をしているんだ……。
コンコン。
馬車の窓が叩かれる。
外を見ると、予備の馬に乗ったリンさんが、馬車と並走していた。
「突然、この馬車から煙が立ち昇ったのですが、故障か何かありましたか?」
リンさんは開いている窓から心配そうに声を掛ける。
オルガさんが困り顔で彼女に説明をすると、彼女の顔は引きつっていく。
そして、敬礼をしてから自分の馬車へと戻って行った。
一方で、金ちゃんと銀ちゃんは床に座らせられ、ミリヤさんからきついお説教を受けていた。
二人はしょぼんとしながら、皆へ助けを求める視線を送る。
しかし、顔を背けて、二人を助けようとする者は現れなかった。
しばらく走っていると、アンさんとジゼルさんが地図を見たり、窓から外を見たりしながら話しをしていた。
そして、話し終えたアンさんが僕のところへと来る。
「ジゼル様にも確認を取りましたが、地図を見ると、この辺りからブレイギル聖王国の領土となります」
「なら、ここからはブレイギル聖王国の兵士と遭遇するかもしれないんだね」
「はい、その通りです。このキャラバンを検閲されたら商人であることを押し通して下さい。念のため、ここからは気を引き締めていきましょう」
彼女が注意を促すと、僕だけでなく皆も引き締まった表情で頷いた。
なんだか緊張してくる。
このまま何事もなく、ドレイティス王朝に着いて欲しい。
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