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PK_____



「ねぇいいじゃん。どうせリアルの身体には影響ないんだからさ」


「そうそう。せっかくの縁なんだから、この後俺たちのホームで腐れなく楽しもうよ」


そう言って私たちをフィールドの外れにある大木の下に連れてきた男二人が迫ってくる。


木の影にまで追い詰められ、私たちは逃げ場を失った。


クエストクリアのための順路から外れているから、他のプレイヤーが助けてくれるのを期待できない。


「沢石、どうする?」


「どうするってそんなの……無理に決まってるじゃん」


「もし拒否するってんなら、別の楽しみ方で貢献してもらうことになるけど……いい?」


「別の楽しみ方って……」


男二人は笑みを作り、武器を出して戦闘状態になる。


「こういうことだよ」


本来モンスターを倒すための武器を、沢石と中杉目掛けて振り下ろしてきた。


反射的に二人は左右に避けるが、分断された形になってしまう。


「じゃあ君は俺が相手してやるよ」


大剣を持った男の方が中杉についた。


中杉も沢石も咄嗟に武器を発現させたが、レベル差が圧倒的にありすぎていて勝ち目がない。


「なんで!! プレイヤー同士で戦えるの!?」


「お前オンラインゲーム初めてなのか? 教えてやるよ。このゲームはな……PKあり、リマネ取引あり、VR売春ありの極めて希少なゲームなんだぜ。まさに楽園(エデン)ってな」


「ヤバイ奴らとかもいるけど、それは裏の話しだし。リアルだってそんなもんだ。第二のリアルだと思えば、そうおかしなもんでもない」


沢石と中杉はゲーム用語を知らなかったから、最初の方はなにを言っているのかわからなかった。


だが、VR売春。これについては結構前から話題になっていた話しで、こうした仮想世界やVRが流行り出してからは、そういうことも案外普通にあることなのだという社会認識になっていった。


「嫌っ……やめてよぅ」


沢石は大剣を構えたが、相手の男の片手剣にあっさりと吹っ飛ばされてしまう。


「舞!!」


「余所見してないで俺と遊ぼうぜ」


中杉も大剣を持った男に攻撃され、沢石よりも大幅にダメージを受けて大木に打ち付けられる。


このゲームでは痛みはないが衝撃はある。だから攻撃を受けたときに脳を激しく揺らされると思考が思うようにできなくなる。


沢石も中杉も受け身もとらずに倒れたせいで、軽い脳震盪気味になっていた。


「張り合いないな」


「でもこれが楽しんだろ。ゲームならリンチしても許されるしな」


「意識高い系の女とかを滅多打ちにできるのは快感だよな」


「やめられねぇわ」


立ち上がることもできなくなった二人を相手に、最後の一撃を加えようとしたとき、大剣を持った男の方が突然倒れて前の男にもたれかかった。


「おい、どうした――――」


男は振り向いた瞬間、短剣で背中から切りつけられた。


それによって男二人は崩れ落ちる。


「二人とも無事か!!」


「潤!?」


「HPが残り少ないな。妖精の滴を使うから、取り敢えず回復したら逃げろ」


潤はそう言って妖精の滴を振り撒いて沢石と中杉を回復させる。


「行け」


「潤はどうするの?」


「俺はこいつらを足止めする」


「勝てるの?」


「わかんねぇ。でも今お前らを逃がせるのは俺だけだからな」


「潤……」


「いいから行けよ。言ったろ。俺は経験者なんだよ。初心者が二人いても戦いの邪魔になるだけだ」


「うん」


潤の言葉に頷くと、二人は背を向けて逃げていった。


これでいい。さぁてと……なんとかできかな。


さっきの攻撃のダメージもほとんどくらってない感じだった。


あの男二人は経験者で、Edenのプレイにも慣れてるからもう立ち上がってきている。


「おいおいなんだよ」


「お前も初心者かよ」


二人は余裕そうに武器を構え、次の瞬間攻撃に移った。


二人の攻撃は速く、止めどなく続く。それを潤はガードしていることしかできない。


「不意打ちかましてくれたが残念賞。ゲームの世界じゃ後ろから切られた程度じゃ死なねぇんだよ」


大剣のチャージ攻撃を受けてガードが崩れた。そこを狙ってもう一人の片手剣が容赦なく潤を切り刻む。


ゲージが赤になるまで減らされ、潤は朦朧とした意識のなか崩れ落ちた。


「レベル差が大事。これ常識。わかったら死んどけクソザコが!!」


やられる。


「あら、こんなところに害虫(むし)がいるわ。駆除しなくっちゃ」


声の後、赤い花びらが舞ったかと思えば、男たちは屍となって倒れていた。


そこで潤の緊張が切れたのか、意識も一緒に途切れた。


目を覚ましたとき、なぜか逃げたはずの沢石と中杉が潤に寄り添っていた。


「潤、大丈夫?」


目を開けて先に声を掛けてきたのは沢石だった。


「ああ……平気だよ。あれ……マキは?」


「マキ? ああ、あのすっごく綺麗な女の子のこと?」


「うん。助けてもらったはずなんだけど」


「私たちに任せるっていってどっか行っちゃったよ。ねぇ潤知り合いなの?」


「うん。ここに来る前に会って……」


「それよりさっきの奴らから聞きそびれちゃったから、私たちの不具合がちゃんと運営に届いてるのかわからなくなっちゃったわね」


そうだ。中杉が言ってくれたことで思い出したけど、俺たちは不具合で運営に連絡できなくなっていた。そこをあの男二人にお願いして運営からの報告待ちだったのに。


「教えてもらう前にこんなことになっちゃったもんね。はぁ……どうしよう」


沢石がため息をつく。


今回のことと振り出しに戻ってしまったことで、きっと二人とも二重に落胆しているだろう。


一方通行だか運営に報告はできているから、もしかしたらそのうちログアウトできるようになるかもしれないが、そんな呑気に構えてなんていられない。


「もう一度誰かにお願いしてみよう。今度は男じゃなくて女性のプレイヤーに話し掛けて」


女性なら沢石や中杉も安心するだろうし、女性のプレイヤーで今回のようなことをしてくるのはさすがにいないだろう。


「ならさっきのマキって人でいいんじゃない? 潤、知り合いなんでしょ」


「いいと思うんだけど……連絡先知らないんだ」


中杉もそこでため息をついた。


「いつになったら帰れるのよ。枡人も龍平も連絡ないし。ねぇ潤ほんとに大丈夫なの!!」


「大丈夫だよ。運営にちゃんと報告して連絡を取り合える状態になったらなんとかなる」


「本当でしょうね」


「美姫、大丈夫だよ。だってこれゲームじゃん」


不安で気が荒くなっている中杉に、沢石がそう言って落ち着かせようとした。


「ごめん舞……でも私不安なのよ」


「わかってるよ。私も美姫と同じだから」


明るくて元気が取り柄の沢石と気が強いお姫様気質の中杉、二人がクラスでも仲がいいのは知っていたが、思った以上にお互いを大切にしているのが感じられる場面だった。


「なに見てんの潤。早くリュミエールに戻ろう」


「おう!」


そして俺たちはリュミエールに戻ってから女性プレイヤーに声を掛けて事情を話し、運営に連絡を取ってもらった。


だがその後、やはり運営から回答が返ってくることはなかった。




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