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とあるラノベ好きのごにょごにょ  作者: ゆうかりはるる
12/13

【第12回 「西の善き魔女」】

 夏休み、と言うと小学生みたいだが、実は四年制大学の学生がこの世で最も長い夏休みを享受していることは、意外と世間で話題になることはない。春休みと夏休みを合計すると、実に一年間で5ヶ月間も休んでいることになる。これでは大量に無能な若者が社会に排出されるのも無理はない話だ。

 しかしそんな実態が、人様の弱点ばかりつけ狙うマスコミの餌食になっていないのはどういう訳だろう。俺の予想では、年間で半分近くも休みがあることがバレてしまうと、授業料が高すぎるという事実に学生の親たちが気付いてしまうからじゃなかろうか。

 いや、これ以上この話題を掘り下げるのはよそう。古来より、秘密を暴露しようとする者は人知れず闇に葬り去られてきたのだから。


 と言うわけで、夏休みになって最初の1週間こそ、課題の心配をすることなく読書に没頭できると喜んだものだが、もはや飽きてしまった。俺は自分のことを無類の活字中毒者だと思っていたが、どうやらそこまででもなかったらしい。ただ課題から逃避したいだけだったのかもしれない。いや、何事もバランスが大事だということにしておこう。うん、きっとそうだ。


 俺とほぼ同時期に夏休みに入った花の女子校生である妹の穂花は、補講という名の不条理により最初の1週間を失い、その後は部活に精を出しているらしく毎日朝から出かけている。

 したがって家でゴロゴロしているのは俺一人であり、とにかくヒマだ。あと、毎日昼ご飯をどうにかしなければならないのが死ぬほど面倒だ。

 今日はコンビニで弁当でも買ってこようかと外に出た俺はたまたま目に飛び込んできた文字に、ふと足を止めた。

「アルバイト募集。1日2時間、週一回からOK」

 それは近所にある回転寿司チェーンの入り口の脇にデカデカと貼ってあるアルバイト募集の告知だった。こういった文言はファストフード店などでもよく見かけるが、その度に俺はある種の困惑を抱いてしまう。週一回2時間しか働かない人間が覚えられて任せられる仕事などあるのだろうか。大方、応募しやすくするために一見ハードルを下げているけど、本当は毎日5時間週7で勤務してくれる人間を求めているに違いないのだ。

 そんなことを考えながら回転寿司屋を通り過ぎ、程なくコンビニに辿り着いた。コンビニより近くに回転寿司屋があったところで、実はそれほど行くことはないのだ。友人などが近くに来た時には大変便利である。

 コンビニの自動ドアに向かって歩幅を調整しながら、出てくる人に鉢合わせないように進んでいく。

 完璧を期したタイミングでセンサーカメラに向かって足を前に出した瞬間、予想よりも早いタイミングで自動ドアが開き、ソバージュ一歩手前のナチュラルパーマのようなフリフリした金髪の少女が走るような勢いで出てきた。

 咄嗟に脇へ退いた俺を顧みることなく、少女は走り去った。思わず店に入るのを忘れ、遠ざかっていく少女の背中を突っ立ったまま見送ってしまった。

 その時、俺の脳裏にフラッシュバックして浮かび上がる少女の面立ちは、なぜか、ずっと前に読んだ小説の主人公の女の子を思い起こさせた。

 その小説のタイトルは、『西の善き魔女』。


 『西の善き魔女』は、最高のファンタジー小説だ。

 今の俺が断言できるのは、それだけだ。

 というのも、正直なところ、話の大筋は覚えているのだが、第1巻の鮮烈な始まりと、そして、絶対にネタバレできない最終巻の種明かし。正直それくらいしか覚えてない。

 覚えていないからこそ、もう一度読んだら絶対に面白く読めると思うのだが、荻原規子の小説は、なんというか、読むことに対して大変な労力を必要とするのだ。近年では『RDG』というやはり素晴らしい小説を書いているが、この『RDG』がカドカワ銀の匙シリーズという、おそらく若年層向けのシリーズから出ていることに驚いたものだ。主人公が子供だからだろうか。

 ともかく、荻原規子の『西の善き魔女』は、大変な傑作小説であるが、実際には、タイトルの印象と内容にはちょっとした乖離があるとも言える。おそらくタイトルの中に「魔女」という言葉が入っているのは「オズの魔法使い」に登場する魔女たちを意識してのものだと思うし、実際その世界観はどこかオズ的なものを感じさせるが、「西の善き魔女」という言葉が喚起させる正統派ファンタジーっぽさはあるようでない。あるいは、ないようであるとも言える。

 段々言っていることが支離滅裂になってきているが、それは要するに、詳しい内容を覚えてないからだ。しかし、いずれもう一度読みたいとは思うものの、いざ読み始めるとなると、連続して最後まで読み切らないと収まりがつかないタイプの小説だけに、少し、躊躇してしまう。大河的な名作ファンタジーにありがちなことだ。

 しょうがないから、穂花にでも読ませてみようか。中公文庫から出ているのでファンタジーだということがバレないかもしれない。そして、アイツの感想に付き合うためには、やはり俺も読み返さなければならないだろう。


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