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その4.襲い来る者

「契約さえすれば、転生者は強大な力を得ると言われておる。それこそ、前人未到のダンジョンを攻略できるほどにの」

「強大な力……お、俺が?」

「……じゃがの、私がカケルに契約をすすめるのはそれだけが理由ではない」



 聞き返す俺をリリィは手で制する。

 彼女は一旦言葉を切ると、また俺の顔を覗き込むように身を乗り出した。



「それは、私がカケルのことが気に入ったからじゃ。中々イケメンだしの?」



 相手がずいっと近づいてきた分だけ、思わず後ずさってしまう。


 瞬間湯沸器のように赤面を繰り返す俺に、リリィがそっと手を差し出してきた。

 彼女の手が、俺の頬に触れる。

 距離が近い。

 心臓がドキドキと脈打ち、気の所為か呼吸も乱れてきてしまうようだ。



「カケルよ、お願いじゃ。私と契約して、私のために一肌脱いでくれないかの? お主さえいてくれれば私は……」



 リリィが俺の耳元で囁いた。

 彼女の吐息を耳で感じる。

 たわわに育った胸が肩に当たっている。


 あああ!


 だめだ、このままでは流されて契約してしまう。

 俺は精一杯理性を振り絞り、彼女の両肩を掴んで引き離した。



「あ、ああああの! 転生者って絶対契約しないといけないもんなの?」

「ん? そうじゃな。別にそこまで急ぐことは無いのじゃが……今のカケルは転生の魔法陣によって魂がこちらの世界にやってきた状態じゃ。世界を跨いだ魂というのは、非常に不安定での。元々こちらの世界に住まう王族と契約することによって、やっとその魂は安定するというわけじゃ」



 テンパって上手く呂律の回らない俺に対し、リリィは淡々と答えた。


 簡単にいえば、契約するのは魂の定着化のためでもあるということか。

 万が一のことを思い、俺は恐る恐るリリィに尋ねてみる。



「……もし、誰とも契約しなかったらどうなる?」



 その言葉を受けて、リリィは少しだけ驚いた顔をした。

 そして腕を組んで難しい表情になる。



「むう。隠しても仕方ないので正直に言うが……誰とも契約をしなかった場合はカケルの魂はその肉体を離れ、永遠にこの世界をさまよってしまうことになるかもしれぬ。私としては、せっかく私の元に来たお主にそんなことになってほしくないのじゃが」



 彼女は申し訳なさそうにそう言った。

 その態度は実質、転生したからには契約以外の選択肢はないということゆえのものだろう。


 ただ、俺がそんな契約なんてして良いのだろうか。


 俺はきっと彼女の期待するようなことはできないだろう。

 現に、俺自信の不幸のせいで自分の母親を殺しかけたくらいだ。


 リリィも俺の不幸に巻き込まれてしまうかもしれない。

 そんなことになるくらいなら、俺はこのまま消えてしまったほうがいいと、俺は思った。



「悪いんだけど、俺は……」



 期待してくれるリリィには悪いけど。


 そこまで言いかけてから、不意に気配を感じて俺は窓の外を見た。

 何かが、何か巨大なものがこちらに迫っている。

 全身緑色の、羽と尻尾の生えた大きな大きな生物。



「な、なぁ。あれ……何?」

「え? ……!! カケル、危ないのじゃ!!」



 突然リリィが俺に覆いかぶさるように、俺を伏せさせた。


 巨大なそれは、ベランダの窓から壁ごと破壊して部屋に突っ込んできた。

 轟音と共に、俺たちがさっきまでいた場所を削り取るようにして全てを破壊していく。



「――ッ、なな、なんだアレ!?」

「ドラゴン!! なんでこんな場所に!?」



 間一髪で、俺達はミンチにならずに済んだらしい。


 あれが、ドラゴンか!

 想像している何倍も大きな生物だった。

 まるでビルが飛んで襲いかかってきているようにすら感じる。


 ドラゴンは城を体当たりで易々と破壊し、そのまま飛び去ったかと思うとまた旋回している。


 ……嘘だろ、また突っ込んでくる気か。

 いくらこの城が巨大とはいえ、あんなの何発も食らわされたら持たないぞ!



「お嬢様、無事ですか! ……あれは!?」

「おお、カプティス! 今は説明している暇はないのじゃ! 城にいるものに避難勧告を出すのじゃ! 急げ!」

「……承知しました!」



 何事かとガイコツ執事が部屋に飛び込んでくる。

 リリィの指示で全てを察したのか、カプティスは呪文を唱えると城全体を覆う巨大なバリアのようなものを張った。



「――全職員に告ぐ! 緊急事態発生! 城が全長15メートルほどのドラゴンに襲われている! 戦えない者は至急、避難せよ!」



 俺の頭の中にも、カプティスの声で同様のアナウンスが流れた。


 これは魔法だろうか?

 突然SF映画の中に放り込まれたような展開に俺は半分パニックになっていた。



「カケル! 大丈夫かの!?」

「あ、ああ……でも……こんなのどうすれば」



 リリィが声をかけてくれるが、眼前ではドラゴンがカプティスの張ったバリアを破ろうと体当たりをかましている。


 一撃で破られることこそなかったが、ドラゴンがバリアに身体を打ち付ける度にカプティスの表情が歪むのが分かった。


 きっと、長くはもたないだろう。



「良いか、カケル。落ち着いて私の目を見るのじゃ」



 そんな中、リリィが俺の目の前にきて俺と目線を合わせて言った。

 彼女は俺の手をとり、もう一方の手を俺の肩に置いて励まそうとしてくれているらしい。



「私は今からドラゴンと戦いに行く。一人になってしまうが、カケルは大丈夫じゃな?」

「なっ、あんな奴相手に!? どうやって!!」

「クフフフ。こう見えても私は魔王じゃぞ? 安心せい、絶対にカケルに被害は及ばせない。……約束じゃ」



 そうして、俺をぎゅっと抱きしめてくれた。


 リリィが俺から離れても俺は何も言えず、ドラゴンに向かっていく彼女の後ろ姿を見つめることしか出来なかった。



「――おい! 不届きなドラゴンめ。誰の許可を得てこのフリージア城に襲いかかっておるのじゃ! 私はこの城の魔王、リリアーヌ・フリージア! これ以上危害を加えるつもりなら、この私自ら迎え撃とうぞ!!」



 リリィは大声でドラゴンに向かって叫ぶ。

 言葉を理解しているのか不明だが、ドラゴンはゆっくりと宙を旋回したのち、急激にスピードをあげた。


 彼女に向かって真っ直ぐに突撃してきている。

 カプティスの魔法の障壁を軽々と砕き、その巨大な体躯がリリィに迫る。


 あああ、もうだめだ! やられる!!


 ……と思った、次の瞬間だった。

 俺の目の前に、突然巨大な壁が出現したのだ。


 いや、それは壁などではなかった。

 それは、漆黒の衣を身にまとっていた。

 クセのかかった銀髪をなびかせ、頭から角をはやし、臀部からは尾が生えていた。



「リリィ……!?」



 ドラゴンと同じくらいの大きさになったリリィが、確かにそこに存在していた。


 ギリギリのところでドラゴンの突進を受け止め、彼女が気合の入った声と共に腕を振るうとドラゴンは空中に投げ飛ばされたのだ。


 ドラゴンは空中で羽を羽ばたかせ、体勢を立て直す。


 まさか自分と同等のサイズの者が突然現れるなどと思わなかったようで、ドラゴンは面食らったように空中で旋回を続けていた。



「どうした、そんなものか! その程度の覚悟で我が城をおそうとは片腹痛い!」



 リリィが大声でドラゴンを威嚇する。


 相手もこうなっては中々手が出せないのか、空中に待機して様子を伺っているようだった。

 このままいけば、ドラゴンが逃げ出してくれるかもしれない。

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