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その1.謁見

     ◇




「――おい!」



 誰かが俺のことを呼んでいる。

 何で声が聞こえるんだろう。

 俺は、死んだんじゃなかったのか? 



「――起きるのじゃ!」

「う、うう……?」



 何も感じなかったはずが、今はどうやら俺は床に倒れているらしいことが分かった。

 視界が徐々に明るくなっていく。


 俺は、どうなった? 鉄骨に潰されて、確実に死んだと思っていた。

 しかし、どうだろう。

 痛みはないし、身体も自由に動く。


 服装もカバンもそのままだ。

 血で汚れている様子もない。

 俺はゆっくりと身を起こすと、周囲を見回した。


――そこは、見たこともない場所だった。


 洋館、だろうか。

 妙なほど高い天井に、趣味が良いとは言えない悪魔のような生物を象った石膏が並ぶ部屋。

 床には赤い絨毯が敷き詰められ、俺の倒れていた場所はこれまた妙な魔法陣のようなものが描かれていた。


 しかし一番妙なのは、俺の目の前にいる少女である。


 紫がかった白色に近い、くせっ毛のショートヘア。

 その服装はまるでコスプレのようで、私服にしては露出がとんでもない。


 胸元は大きく開き、下半身は水着なんかと変わりなかった。

 何より、その頭には羊のような角が、臀部には悪魔のような尾が生えていた。


 俺は目を丸くして少女のことを見つめる。

 彼女はというと、俺が目を覚ましたことがそんなに嬉しいのか満足気にえへんと胸を張っていた。

 ……反動でたわわに育った二つの果実が、ぷるんと揺れている。

 年齢は、俺と同じくらいだろうか?


 吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な翡翠色の瞳に、俺は思わずドキッとしてしまった。



「ウフフフ。私はやっぱり天才なのじゃ! 見よう見まねではあったが、こうして無事に転生の儀を成功させる技量! 素晴らしい! 人間よ、よくぞ私の前にやって来たのじゃ!」

「え、あ。……どうも」



 何が何だか分からず、間抜けな挨拶を返す。

 とりあえず冷静に状況を分析するため、俺は頭を掻きながらゆっくりと立ち上がった。

 こうして立ち上がってみると、その少女は思ったより背が低いようだ。

 身長は精々百四十センチ後半といったところか。


 うん、ロリ巨乳だな。


 この場所も何処なのかまったく検討もつかないし。

 ふと窓があることに気がついて外をチラリと見てみたが、日本じゃあり得ないような緑や紫色の混じった空をしていた。

 今は夜なのか、月が出ている。


 ……二つも。


 あぁ、頭が痛くなってきた。

 俺はどうかしてしまったのだろうか。

 とにかく、目の前の少女に色々と聞いてみる必要がありそうだ。



「あのう。……ここは何処ですか」

「うむ。お前は転生したばかりで状況が掴めておらんようだな? 私も少々舞い上がってしまった。一から説明してやろうではないか」



 て、転生だって? ひょっとして、今流行りの異世界転生というやつか?

 その言葉に困惑する俺だったが、彼女は突然俺の手をとってニコリと微笑む。

 変な格好はしているが、その笑顔は抜群に可愛かった。


 こんな風にグイグイくる女性に慣れていない俺は耳まで赤くして照れてしまったが、相手は気にした様子もなく無邪気に言う。



「立ち話も何じゃからな。こっちじゃ! 付いてまいれ」

「え、ちょっ」



 そうして彼女は俺の手を握ったまま、ズカズカと歩いていく。

 俺は引っ張られるように彼女の後に続いた。


 先程までいた部屋を出て、館の中を進んでいく。

 廊下には鎧が並び、その壁や床、天井に至るまでゲームの中でしか見たことがないような豪華な装飾で飾られていた。


 何が嬉しいのか、少女は鼻歌なんか歌いながら歩いていってしまうし。

 見たことがないものだらけで俺は混乱してしまっていたが、少女と曲がり角を曲がった瞬間。


 もっと混乱してしまうことになった。



「おや、リリィ様。……その御方は?」

「カプティスか。フフフ、ついに私の前にも転生者がやってきたのじゃ! すごいであろう!」



 紳士的な口調で話しかけてきた者。カプティスと呼ばれた彼はこの館の執事なのか、タキシードスーツのような畏まった服装をしており、背は凄く高いようで普通にしていては顔が見えなかった。


 俺はその顔を拝もうと、視界を上方に向ける。


 その顔は、比喩などではなく頭蓋骨だった。

 骨だけがカクカクと顎を動かして喋っている。

 どうなっているのか、目の部分は白い点のような瞳が存在しているようだけど。



「うわぁ!! な、な、な」



 あるべきものが無いその人物を見て、俺は思わず情けない悲鳴をあげてしまった。


 少女が目の前にいる手前、最後のプライドが働いて腰を抜かすまではしなかったものの。

 ぷるぷると手先を震えさせながら、失礼にも骸骨の顔を指差してしまう。


 そんな俺の反応を見たガイコツの執事は小さくため息をつくと、少女をジロリと見つめて言った。



「……リリィ様。もしかして、何の説明もしていないのですか?」

「こ、これからしようと思っているところじゃ! せっかくじゃから、私の部屋でお茶でも飲みながらじゃな……」



 慌てて弁明しようとする少女に、ガイコツの執事は呆れたように額に手を当てて小さく首を振った。



「やれやれ。……人間様、何の説明もなく館を連れ回されてさぞかし不安に感じることが多かったでしょう。ですがリリィ様はこう見えて悪い方ではございませんゆえ、どうか気を悪くしないで下さいませ。リリィ様のことを、何卒よろしくお願い致します」

「え、あ」



 ガイコツの執事はこうべを垂れて、丁寧な口調で俺にそう言った。

 そんなことを言われても俺は、まともな返事一つできずに間抜け面をさらして固まることしかできなかったが。


 一方で、リリィと呼ばれた少女は不服そうに頬を膨らませている。



「な、なんで人間の方によろしくお願いするのじゃ! ……あっ、そうじゃ。このことはまだ母上には言うでないぞ!」

「いえ、あの、そういう訳にも」



 少女がガイコツ執事に釘を刺すように言った。

 少女の口ぶりからして、いつもこんな感じのやり取りをしているんだろう。

 その証拠に、ガイコツ執事は心底困ったような顔をしているし。



「絶対じゃからな!」



 去り際に少女がそう言い放つ。

 ガイコツ執事は肩をすくめることしかできなかったようで、少女はそれを肯定の意味に捉えたらしい。


 俺はそのまま腕を引っ張られ、廊下を進んでいくことになった。

 チラリと振り返ると、ガイコツ執事が気の毒そうに俺のことを見つめていた。


 あぁ、なんだろう。

 すごく嫌な予感がする。

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