表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

脚本「出動せよ!~江原家の宿命~」

作者: 夏目歩知

   登場人物


江原明志(38)消防士・実はレッド

江原青井(61)その父・実はブルー

江原金太郎(10)その息子・小学生

江原桃子(33)その妻・実はピンク



○町の消防署


   こじんまりとした消防署。


   消防車が一台止めてある。


○社宅


   消防署の隣にあるアパート。


○同・江原家


   江原明志(38)、江原青井(61)、江原金太郎(10)が食卓を囲んでいる。


   江原は赤いつなぎを着ている。青井は青いつなぎを着ている。


   江原桃子(33)がホールのケーキを持って入ってくる。


桃子「はーい、ママから金ちゃんへ、バースデープレゼント!」


金太郎「わー、すごい、ありがとー」


   青井が、包装された箱を出し、


青井「じいちゃんからはコレ」


金太郎「なんだろー?」


   金太郎、包みを開ける。


金太郎「わー、妖怪ウォッチ!」


青井「スペシャルエディシオンだよ」


桃子「スペシャルエディションね」


   金太郎、青井、桃子の視線が江原に向く。


江原「金太郎、何が欲しい?何でも買ってやるぞ」


青井「忘れたのか」


桃子「忘れたのよ。去年もそうだった」


   金太郎、笑顔で、


金太郎「何でもいいの?」


江原「ああ、なーんでも」


金太郎「じゃあ、僕、名字がいいな」


   青井、ふきだす。


江原「名字って、お前、新しい名字が欲しいのか?」


   金太郎、満面の笑みで、


金太郎「うん!」


桃子「どうして、名字がいいの?」


金太郎「だって、エバラってエボラと似てるでしょ?友達にエボラって呼ばれていじめられるかもしれないでしょ。いじめられる前に名字変えたい」


   青井は金太郎の頭をなでて、


青井「お前は賢いなあ。えらいぞ」


江原「ダメだ」


金太郎「え、なんで?何でもいいっていったじゃん!」


江原「名字はダメだ」


青井「うそつき!」


江原「それくらいのいじめなら耐えろ。俺なんかなあ、子供の頃のあだ名「タレ」だぞ」


   青井、吹き出す。


江原「焼肉のタレのタレだ」


桃子「エバラ、焼肉のタレ♪(歌う)」


金太郎「しらねーし」


桃子「さあさ、ケーキ食べましょ」


金太郎「ごまかすな!」


   金太郎、腕組みをして江原を睨む。


江原「よし、じゃあ、今日からお前の名字はエハラだ」


金太郎「エハラ?」


江原「どうだ、これでいじめられないですむぞ」


青井「そんなこどもだましが通用するか」


金太郎「エハラ、いいね!」


青井「よくない!」


   金太郎、ケーキを見て、


金太郎「あれ?ろうそくは?」


   桃子がギクリとする。


江原「あー、ママ忘れちったのか~」


桃子「ごめんね」


金太郎「えー」


江原「よし、これでどうだ!」


   江原、線香を10本、ケーキにさす。


桃子「ちょ」


青井「あっ、俺の線香」


江原「火が付きゃいいんだろ~」


   江原、火をつける。金太郎、泣き出す。


金太郎「わーん、こんな父ちゃん嫌だー」


   青井、爆笑。


   と、テレビのニュース。


ニュースキャスター「昨夜、スカイツリーで起きた火災もケスンジャーの活躍でけが人が一人も出ませんでした」


金太郎「ケスンジャーかっこいい!さすが!あーあ、ケスンジャーが父ちゃんならよかったのに」


   江原、笑顔で自分の顔を指さし、


江原「実は、父ちゃん……」


   青井がさえぎって、首を振る。


青井「金太郎、そんなこと言うもんじゃないぞ、父ちゃんだって、これでも一生懸命生きてるんだ」


金太郎「ふん」


江原「(青井に向かって)ちょっといい?」


   江原、青井を連れて襖の影に行く。


江原「(小声で)もう10歳だし、本当のことを話してもいいと思う」


青井「いや、まだ早い。せめて12いや13にならないと」


江原「だけど、このままじゃ、俺はずっとカッコ悪い父親で……」


青井「あの子はまだ幼い。我々が普通の家族じゃないって知ってしまったら……」


と、緊急コールが入る。


アナウンス「五丁目の病院で火災が発生」


   江原、襖の影から出てきて、


江原「父ちゃん、ちょっと、行ってくる」


   金太郎が江原にしがみつき、


金太郎「え!今日休みじゃないの?行かないでよ、父ちゃん!」


青井「そうだ、今日ぐらい休め。俺が代わりに行ってやる」


江原「しかし……」


桃子「さあ、歌いましょう、ハーピバースデー」


   桃子、青井、手拍子。


江原「(しぶしぶ)トゥーユー」


   桃子、青井、江原歌う。


江原「やっぱり、行ってくる」


金太郎「行かないで!誕生日くらい家にいてよ!」


   江原は、金太郎の肩に両手をのせ、まっすぐ目を見る。


江原「あのな、実は、俺は」


   青井がケーキに火をつける。


青井「火事だ、火事だ!」


   ケーキが燃えている。


桃子「キャー」


   江原が素手で燃え盛る火を消し止める。


   目を見開く金太郎。


金太郎「すごい!父ちゃん、すごい!」


   江原と青井がにらみ合う。


金太郎「熱くないの?怪我しなかった?見せて、見せてよ」


   江原が金太郎に手を見せる。


   手は何も変化がない。


金太郎「もしかして、父ちゃんがケスンジャーなの?」


青井「そんなわけないジャー」


江原「じじい!」


   金太郎、江原から離れて、


金太郎「うそでしょう?父ちゃんがケスンジャーなんて、うそでしょう?」


   江原、拳を握る。


江原「うそだよ」


   金太郎は笑顔になって、


金太郎「あーよかった。じゃあ、今日はうちにいられるね」


   江原、青井を睨む。


金太郎「もう一度、ハッピーバースデーの歌から」


   金太郎、青井、桃子、歌う。


金太郎「ぼくおしっこ!」


   金太郎、部屋を出る。


   ケスンジャーに変身する、江原、青井、桃子。


江原「レッド、出動します!」


桃子「私も行きます!」


江原「ピンクは家で待っててくれ」


桃子「いやよレッド、私も連れてって」


青井「二人とも来なくていい。俺だけ行く」


江原「待ってくれ、ブルー」


   青井、部屋を出る。江原が後を追う。


○消防署


   消防車に飛び乗る二人。


   運転席に江原、助手席に青井。


江原「ブルーもそろそろ引退を考えた方が……」


青井「何を言ってる、まだレッドには負けん」


江原「だけど、腰が痛いって」


青井「なあに、たいしたことないさ。それよりどこに向かおうとしてる?」


江原「病院だけど」


青井「美容院じゃなかったか?」


江原「え?病院て聞こえたけど?」


青井「バカ、美容院だろ!」


江原「あっ」


青井「どうした?」


江原「ガソリンがない……」


青井「バッカモン!」


   と、桃子がきて、


桃子「さっきの火事、誤報だったって」


江原「なにー?」


青井「よかったじゃないか」


桃子「早く戻ってパーティーの続きしよ!」


   桃子、スキップで去る。


   江原、青井、消防車から降りる。


江原「やっぱり俺、行ってくる。なんか胸騒ぎがする」


青井「から騒ぎじゃないのか?」


江原「金太郎と桃子を頼む」


   江原、バイクにまたがる。


江原「父さん、俺たちの宿命、金太郎もいつかわかってくれるよな?」


青井「ああ、きっと、わかってくれるさ」


   江原、右手をあげ、バイクを発進。


<完>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ