脚本「出動せよ!~江原家の宿命~」
登場人物
江原明志(38)消防士・実はレッド
江原青井(61)その父・実はブルー
江原金太郎(10)その息子・小学生
江原桃子(33)その妻・実はピンク
○町の消防署
こじんまりとした消防署。
消防車が一台止めてある。
○社宅
消防署の隣にあるアパート。
○同・江原家
江原明志(38)、江原青井(61)、江原金太郎(10)が食卓を囲んでいる。
江原は赤いつなぎを着ている。青井は青いつなぎを着ている。
江原桃子(33)がホールのケーキを持って入ってくる。
桃子「はーい、ママから金ちゃんへ、バースデープレゼント!」
金太郎「わー、すごい、ありがとー」
青井が、包装された箱を出し、
青井「じいちゃんからはコレ」
金太郎「なんだろー?」
金太郎、包みを開ける。
金太郎「わー、妖怪ウォッチ!」
青井「スペシャルエディシオンだよ」
桃子「スペシャルエディションね」
金太郎、青井、桃子の視線が江原に向く。
江原「金太郎、何が欲しい?何でも買ってやるぞ」
青井「忘れたのか」
桃子「忘れたのよ。去年もそうだった」
金太郎、笑顔で、
金太郎「何でもいいの?」
江原「ああ、なーんでも」
金太郎「じゃあ、僕、名字がいいな」
青井、ふきだす。
江原「名字って、お前、新しい名字が欲しいのか?」
金太郎、満面の笑みで、
金太郎「うん!」
桃子「どうして、名字がいいの?」
金太郎「だって、エバラってエボラと似てるでしょ?友達にエボラって呼ばれていじめられるかもしれないでしょ。いじめられる前に名字変えたい」
青井は金太郎の頭をなでて、
青井「お前は賢いなあ。えらいぞ」
江原「ダメだ」
金太郎「え、なんで?何でもいいっていったじゃん!」
江原「名字はダメだ」
青井「うそつき!」
江原「それくらいのいじめなら耐えろ。俺なんかなあ、子供の頃のあだ名「タレ」だぞ」
青井、吹き出す。
江原「焼肉のタレのタレだ」
桃子「エバラ、焼肉のタレ♪(歌う)」
金太郎「しらねーし」
桃子「さあさ、ケーキ食べましょ」
金太郎「ごまかすな!」
金太郎、腕組みをして江原を睨む。
江原「よし、じゃあ、今日からお前の名字はエハラだ」
金太郎「エハラ?」
江原「どうだ、これでいじめられないですむぞ」
青井「そんなこどもだましが通用するか」
金太郎「エハラ、いいね!」
青井「よくない!」
金太郎、ケーキを見て、
金太郎「あれ?ろうそくは?」
桃子がギクリとする。
江原「あー、ママ忘れちったのか~」
桃子「ごめんね」
金太郎「えー」
江原「よし、これでどうだ!」
江原、線香を10本、ケーキにさす。
桃子「ちょ」
青井「あっ、俺の線香」
江原「火が付きゃいいんだろ~」
江原、火をつける。金太郎、泣き出す。
金太郎「わーん、こんな父ちゃん嫌だー」
青井、爆笑。
と、テレビのニュース。
ニュースキャスター「昨夜、スカイツリーで起きた火災もケスンジャーの活躍でけが人が一人も出ませんでした」
金太郎「ケスンジャーかっこいい!さすが!あーあ、ケスンジャーが父ちゃんならよかったのに」
江原、笑顔で自分の顔を指さし、
江原「実は、父ちゃん……」
青井がさえぎって、首を振る。
青井「金太郎、そんなこと言うもんじゃないぞ、父ちゃんだって、これでも一生懸命生きてるんだ」
金太郎「ふん」
江原「(青井に向かって)ちょっといい?」
江原、青井を連れて襖の影に行く。
江原「(小声で)もう10歳だし、本当のことを話してもいいと思う」
青井「いや、まだ早い。せめて12いや13にならないと」
江原「だけど、このままじゃ、俺はずっとカッコ悪い父親で……」
青井「あの子はまだ幼い。我々が普通の家族じゃないって知ってしまったら……」
と、緊急コールが入る。
アナウンス「五丁目の病院で火災が発生」
江原、襖の影から出てきて、
江原「父ちゃん、ちょっと、行ってくる」
金太郎が江原にしがみつき、
金太郎「え!今日休みじゃないの?行かないでよ、父ちゃん!」
青井「そうだ、今日ぐらい休め。俺が代わりに行ってやる」
江原「しかし……」
桃子「さあ、歌いましょう、ハーピバースデー」
桃子、青井、手拍子。
江原「(しぶしぶ)トゥーユー」
桃子、青井、江原歌う。
江原「やっぱり、行ってくる」
金太郎「行かないで!誕生日くらい家にいてよ!」
江原は、金太郎の肩に両手をのせ、まっすぐ目を見る。
江原「あのな、実は、俺は」
青井がケーキに火をつける。
青井「火事だ、火事だ!」
ケーキが燃えている。
桃子「キャー」
江原が素手で燃え盛る火を消し止める。
目を見開く金太郎。
金太郎「すごい!父ちゃん、すごい!」
江原と青井がにらみ合う。
金太郎「熱くないの?怪我しなかった?見せて、見せてよ」
江原が金太郎に手を見せる。
手は何も変化がない。
金太郎「もしかして、父ちゃんがケスンジャーなの?」
青井「そんなわけないジャー」
江原「じじい!」
金太郎、江原から離れて、
金太郎「うそでしょう?父ちゃんがケスンジャーなんて、うそでしょう?」
江原、拳を握る。
江原「うそだよ」
金太郎は笑顔になって、
金太郎「あーよかった。じゃあ、今日はうちにいられるね」
江原、青井を睨む。
金太郎「もう一度、ハッピーバースデーの歌から」
金太郎、青井、桃子、歌う。
金太郎「ぼくおしっこ!」
金太郎、部屋を出る。
ケスンジャーに変身する、江原、青井、桃子。
江原「レッド、出動します!」
桃子「私も行きます!」
江原「ピンクは家で待っててくれ」
桃子「いやよレッド、私も連れてって」
青井「二人とも来なくていい。俺だけ行く」
江原「待ってくれ、ブルー」
青井、部屋を出る。江原が後を追う。
○消防署
消防車に飛び乗る二人。
運転席に江原、助手席に青井。
江原「ブルーもそろそろ引退を考えた方が……」
青井「何を言ってる、まだレッドには負けん」
江原「だけど、腰が痛いって」
青井「なあに、たいしたことないさ。それよりどこに向かおうとしてる?」
江原「病院だけど」
青井「美容院じゃなかったか?」
江原「え?病院て聞こえたけど?」
青井「バカ、美容院だろ!」
江原「あっ」
青井「どうした?」
江原「ガソリンがない……」
青井「バッカモン!」
と、桃子がきて、
桃子「さっきの火事、誤報だったって」
江原「なにー?」
青井「よかったじゃないか」
桃子「早く戻ってパーティーの続きしよ!」
桃子、スキップで去る。
江原、青井、消防車から降りる。
江原「やっぱり俺、行ってくる。なんか胸騒ぎがする」
青井「から騒ぎじゃないのか?」
江原「金太郎と桃子を頼む」
江原、バイクにまたがる。
江原「父さん、俺たちの宿命、金太郎もいつかわかってくれるよな?」
青井「ああ、きっと、わかってくれるさ」
江原、右手をあげ、バイクを発進。
<完>