嗤うゴブリン
エインパーティー編 5
道中、二匹のゴブリンに遭遇した。
二匹はお互いに離れすぎないように行動はしている。
二匹同時相手は前に1度挑戦して失敗した。
俺とエインで1匹ずつ相手をしてチカちゃんに援護をして貰っていたが、突如ゴブリンが揃ってチカちゃんへと攻撃対象を変えたため、チカちゃんは逃走。
半べそのチカちゃんには嗜虐心をくすぐられました。
当然割って入ろうとするが逃走している間に他のゴブリンを引き寄せてしまいやむを得なく撤退した。
前回の反省を踏まえて、今回は二匹目をチカちゃんがゴブリンの背後から弓で狙撃、注意がそちらに向いたところで木陰に隠れているエインが飛び出し2対1に持ち込む作戦だ。
もう一匹は2人掛かりで倒しにかかっているところに入り込まないように俺がブロックする。
その後その一匹を逃げ出させても良い、余裕があったら追跡という手はずになった。
二手に分かれて配置につく。
俺はゴブリン(左)から死角になっている茂みに入り2人の動きを待つ。
ゴブリン(左)はあぐらを掻いて何かの肉を頬張っている。
ゴブリン(右)は身の丈似合わない剣を振り回して遊んでいる。
まだ慣れないのか剣の遠心力に体を持ってかれている。
きっと冒険者から奪ったもので、試し斬りをしてると言うところか。
ゴブリン(右)が木で試し斬りを始めた。
その木隣にはエインが潜んでいる。
すると、ゴブリンの真横から矢が飛んできた。
剣に夢中なゴブリンは気づかずそのままゴブリンの肩に命中し、悲痛ながらがら声を上げる。
『グギァァ?!』
痛みを堪えたゴブリンは周囲を確認し、矢の飛んできた方向へ剣を引き摺りながら走り出す。
身の丈似合わない剣を持ちながらでは本来のすばしっこいゴブリンの動きは成せずにすぐ傍の木にいたエインがゴブリンに上段から斬りかかる。
しかし、ゴブリンは片手でぎこちなく剣を振り上げて何とかエインの剣戟を防いだ。
あの調子なら大丈夫だろう。
一方俺のターゲットのゴブリン(左)はケタケタ笑いながら肉を食い、仲間がやられている様子をただ見ていた。
予想と違ったゴブリンの行動だった。
仲間を助けに行かないで楽しむとはなんともゴブリンらしいと感じた。
戦闘に加わらないならこちらは暗殺を試みるのみだ。
ゴブリンが逃げずに油断している状況を引き当てることが出来たのは幸運だった。
この絶好の機会に俺の隠密の上手さをチカちゃんにお見せしよう。
あわよくばご褒美を頂戴したい。
気配をできる限り消してゴブリン(左)の背後に近づき、喉元を狙う。
残りの距離は僅か3メートル、ここで茂みは途切れる。
ゴブリンの動きに集中して反応を冷静に伺えるように呼吸を整えて飛び出す。
一気に距離を詰めるべく乾いた土を力強く踏み、ゴブリンの真横へ飛び込む。
まだ気がついていない、この距離なら届く…
敵の接近に気がついたゴブリンは焦って棍棒を掴めずに後ずさる。
俺は最後の一歩を踏み抜くと、短剣を頭上まで振り上げる。
…貰った!
短剣を逆さに立てて体重をかけながら振り下ろす。
ゴブリンは腕で防ごうとするも細い腕では体重のかかった剣先を止めることはできない。
短剣は腕ごとゴブリンの首を完全に貫き、声にならない断末魔を上げながら絶命した。
すぐさまチカちゃんとエインの加勢に向かおうとした時、ゴブリンの額に矢が突き刺さる。
エインと交戦しているゴブリンを狙ったチカちゃんの弓矢だ。
狙ってたならよく当てられたものだな…
普段は弓矢を使うチカちゃんだが、近接戦闘になると短剣に持ち替える。
木や地面に数本の矢が刺さっていたため、今回はゴブリンが大ぶりの剣を振り回していたことから中距離の援護射撃をしていたようだ。
戦闘終了だ。
二人もゴブリンが力尽きるのを確認すると俺に気がついた。
「そっちの方が早かったみたいだな…」
エインは少し消耗しているようだった。
大剣を片手でつかうゴブリンとの戦闘が初めてだったために慎重になっていたのだろう。チカちゃんの方に攻撃が行かないように立ち回っていたのかもしれない。
隣のチカちゃんは胸を張って褒めてのポーズを取っている。
「丁度矢が命中するの見れたよ、最初と最後、狙ってたなら凄いね。」
「狙ってたに決まってるでしょー、やればできる子だもん私!」
有頂天になるチカちゃんをエインがさらによいしょする。
「チカのお陰で大分楽に戦えたよ、すごく助かった。」
「えっ、エイン君息切れてたじゃん、私のこと庇いながら戦ってたし。でもありがと!」
やっぱり庇って戦ってたのか、チカちゃんが道中『最近私あんまり役に立ってないなー』なんて言ってたっけ。
おせっかいエイン君、露骨にポイント稼ごうとしたのが良くなかったな。
皆の無事を確認した後、剥ぎ取りを行う。
あれ、俺ゴブリン暗殺成功した気がしたんだけどな…家に帰って反省会しようかしら。
担当は今回もチカちゃんがやりたいと言ってくれたので、俺の代わりに一匹手伝って頂いた。
エインはその間見張りである。
当然、ドキッ、恋の剥ぎ取りツーショットなんて全くなるわけもなく無言のまま作業が進む。
俺の倒したゴブリンが食べていた肉、これはゴブリンの持っている巾着から人の耳から推測できた。これは土に埋めた。
巾着には他に食べかけの果物と腐った木の実が入っていた。
次に耳、そろそろ換金できるぐらいたまっただろう。
残念ながら今回は魔晶が回収出来なかった。
普通魔晶は魔物の体内のどこかに作られているためどこにあるかは解体しないと分からない。
ゴブリンは比較的小さい体躯で探しやすいが手を血まみれにして魔晶が出ないと少し落ち込む。
チカちゃんのほうはというと魔玉が出たようだった。
魔玉は魔晶が集まって出来る珍しいアイテムだ。
魔晶は加工出来ないために集めても魔玉のようにはならない。このため、装飾品や武具につけて使われることが多くより高い値段で取引される魔晶約10個分相当だ。
「初めてとれたぁ!」
とチカちゃんが興奮していた。
今回の収穫はで大収穫だ。
耳2個、魔玉だった。
今日は探索に時間がかかり、気がつけば日も傾きかけていたため、今日の狩りはここまでになった。
帰り道に兎を発見して捕まえることに成功した。
今日は兎鍋かな…
その後は魔物に遭遇することもなかった。