対エルダーコボルト戦 2
エインパーティー編 15
マホは塔から俺たちのようすをその後もずっとみていたようだ。
エボルトが迫ってきているのをいち早く発見してこちらに助けに来てくれたのだ。
「マホ、どうやってここまで?」
「飛ばした土塊に乗ってきた。」
脳裏に殺と書いてあるピンク色の服を着たおっさんが通り過ぎていくのが思い浮かんだ
誰だ今の。
塔よく見ると、地面から垂直に伸びていた塔こちらに向かって「く」の字に折れ曲がっている。
あれを発射台にしたのか。
なにはともあれ状況は緊迫している。もう目の前までエボルトがせまってきている。
マホは俺と未だべそかいてるチカちゃんの腕をつかんで、
「さっさとおさらばする。」
そう告げると、また地面に魔方陣が描かれて気がつくと目線が地上20メートルまで達していることに気がつく。
あ、これだめだ。
俺は高所恐怖症だったようだ。
恐い、足に力が入らず腰が引けてプルプルと震え、おしりの穴がきゅっと締まる。
俺、飛ぶのかな?
斜めに生えた滑走路の一部が俺たちを覆ってカプセルのように変形した。
カプセルの中は前方が確認できるように穴が開いているだけでほとんど真っ暗だ。
「土魔法応用編 《土カタパルト》!」
マホが叫ぶと同時に慣性力で体が土壁に叩きつけられる。
つづけて地が擦れるおとが聞こえなくなると、体が宙に浮いた。
上方に打ち上げられたカプセルは平行に保ったまま突き進む。
「マホ!これ落ちても大丈夫なのか?!」
「落ちない。」
「落ちないってどう言う…」
「森の岸壁に突っ込む。」
「大丈夫、私を誰だと思っている。」
もうこうなった時点でマホに任せるしかないのだが、今日赤コボルト取り逃がしているだけに不安が残る。
「マホちゃんしんじでだよぉおぉ!!」
「チー、前みえない。」
チカちゃんが正常に動き出したようだ。
暗くてよく分からないが
抱きついてマホを撫で回しているのだろう。
俺もあのときは小便漏らしそうだった。
もしかしたら漏らしてるかもしれない。
ちょっと確認してみたら後ろの方がちびっていた。
「2人とも、頭を抱える。」
マホに促され俺は両足の間に頭を挟んで上から手で覆った。
衝撃に備えて体を硬くする。
次の瞬間、
ドゴツ
という鈍い音がして、体に衝撃が伝わることはなかった。
「上手くいった、やはり私はできる子。」
マホが杖で土を叩くと、カプセルは簡単に崩れた。
外の光が入ってくるかと思ったら、真横からだけ光が差し込んでくる。
周囲の壁に触れてみると、粘っこい土のような壁に囲まれていたのだ。
「粘土かこれ…」
土魔法は土を好きな形に造形出来るだけでなく、形質もある程度変えることが出来るらしい。
マホがやったのはそれだろう。
全員無事に着地出来た。
岸壁に埋まってるわけだから、地には着いてないけど。
カプセルが突き刺さって出来た通路から外に出ると、エボルトの姿がかなり遠くにみえたのだがそのエボルトはマホの造った発射台を全力疾走してくる。
「おい、まさかこっちこないだろうな…」
「流石にここまではこない。でも時間の問題。」
「マホちゃん、エイン君たちはどこ?」
「この上。」
上るしかないのか
仕方なく俺は壁にへばりついてロッククライミングしてみる。
ようやく地に足を付けると安堵して自然に腰を下ろしてしまう。
横を見ると、マホが土で足場を造ってのぼってきていた。
くそう、声掛けてくれよ…
「魔法は万能。」
自慢げに杖をビシッと俺に突き付け頬をぐりくりされる。
や め ろ
すると、後ろから声を掛けられる。
「皆無事で良かった、でもこれからが本番なんだろう?」
エインのその声は久しく聞いていないように感じた。
「エイン…お前怪我してるのか?」
エインの服は手から肩まで血の色に染められていた。
「エルダーコボルトは何とか巻いたんだけど、力尽きてしまってね。 コボルトの集団に襲われてしまったんだ。そこにコトさんとエルさんに助けられてなんとか生きているよ。改めて感謝します。ありがとう。」
「礼には及ばないさ、これから仲間になる間柄じゃないか。」
エルが気さくに答える。
この金髪おっぱいは本当に気前のいい人だよな。
頼んだら一緒にお風呂入ってくれそうだ。
「私が置いていったばかりに…やっぱり残っていれば良かった……」
チカちゃんがボソッとつぶやく。
エインを置いていったことをまだ気にしていたみたいだ。
「チカちゃん、気にしないで。
マホが暴走して赤コボルトを仕留め損なったかことから始まったんだから。」
「あれは済まなかったと思っている…」
「マホちゃん…」
「チカちゃんにルクスとマホを呼んでくるのを頼んだのは僕なんだから、気にしないで。まだやるべきことが残っているだろう。」
「あのぉ…それで私はマホさんの手伝いをすれば良いのですよね?」
マホはコトに手伝って貰えればエボルトをどうにかすると言っていた。
「さっき作戦を伝えたとおり、私の合図で魔法打てばいい。」
「詠唱が終わるまで大犬を足止める、その後私が地面から粘土を出す。それで犬を挟んでコトが土を焼けば、犬の焼き物が完成。これは後に全国コボルト陶芸協会会長最優秀賞を獲る国を代表する傑作になる、間違いない。」
「疑っているわけではないのだが、コト様に危険が及んだら私はコト様を連れて離脱する。それで本当にいいんだな?」
エルがマホに問いかけた。
「問題ない、それよりよ自分の身を案じた方が良い。」
そう、マホとコトが魔法を放つには時間がかかる。
それまでは俺とエイン、チカちゃん、エルの四人でなんとしても詠唱が終わるまでエボルトを足止めしなければならない。
たった数十秒のことだろが、1秒一瞬が命取りとなる。
だが、これが終われば我が家には女の子四人と俺の同居生活が訪れる。
帰ったらエルと一緒にお風呂に入ろう。
気合いを入れ直すため、自分の頬を叩く。
エボルトは深層へ続く山道をものともせず、強靭な脚力で駆け上がってくる。
丁度カタパルトで着弾したあたりにしがみついている。
俺達はマホとコトを後衛に、他四人を前衛でエボルトを迎え撃つ。
「皆、無事に家に帰ろう!」
『『『おう!』』』
決着をつけてやる。
当初予定していた話と大分それてしまいました。
修正路線で進めようか迷ってます。