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彼と御一行  作者: あつしーるど
エインパーティー編
15/20

対エルダーコボルト戦

エインパーティー編 14

エルダーコボルト、以下エボルトから逃れるため、5人はまずエイン救出を試みる。



俺とマホ、チカちゃんは来るべき時に備えエボルトの注意を惹き続けなければならない。


 

その間、エインを救出しにコトとエルが別働する。

エボルトとの距離はおよそ30メートル。

マホが詠唱を始める。

と同時に枯渇した魔力を戻すためにあの魔力干し芋を食いちぎる。



あんなに偉そうにしていたが、マホによるとエボルトに今のマホやコトのような初級冒険者程度の魔法で深手を負わせることはできないみたいだ。



エインを探しているであろうエボルトがこちらの気配を感じ取ると、その巨体は俺たちへ向けられ、獲物を狙うようなその眼は殺気に満ち溢れていた。

しかし、俺たちを視界に捉えると、その怒り様よりも、口元は僅かに開かれ、嗤っているように見て取れた。



体長約3メートル、エボルトの発達した筋肉は俺の戦った毛で覆われているコボルトとはだいぶ印象が違う。絵画で見た感じに毛をはやしたらその姿は狼になった筋肉隆々のペリシテの巨人、ゴリアテのように思える。

エボルトもコボルトと同じく肥大した丸太のような足は、その巨体を高速で弾き、獲物を一瞬で仕留める事に特化しているのだろう。



その気になればエインとチカちゃんは一瞬で蹴散らすことができたのはずだ。

だが、あえてそれをしないところから見ると、圧倒的強者であることからか、単に狩りを娯楽として愉しんでいるようにも思える。



エインとチカちゃんはこんな怪物からずっと逃げていたのか…

補足するとチカちゃんはエボルトに恐怖したもののお漏らしはしていなかったようだ。

くそう。


エボルトはこちらとの戦闘態勢に入る。

後ろ足での加速を使わずに四足歩行でこちらに向かってくる。

いくら巨体のエボルトでもその巨体を支える腕と足での突進は相当な速度が出ている体感で30キロは出ているように思えた。



急いで回避行動をとるべく俺とマホ、チカちゃんは散開する。

なお追走するエボルトは俺に向かってきた。



緊急時にどうしてもというときにはマホに助けてもらうことを約束に、マホにタゲがいかなかった場合は、俺とチカちゃんでなんとか時間まで逃げ延びることになっていた。

マホは体力がないのにどうやって俺たちに追いついて緊急時に助けてくれるのかというと、秘密と言っていた。

大丈夫と発展途上の天保山をポンと叩いていたので信じて任せることにした。



後方からものすごい勢いでエボルトが追ってくる。

ただ全速力で逃げるだけでは体がもたない。

エインのいる方角とは違う森の深部へ向かい、木々の多見られる所に逃げ込む。



森の深部へ進むにつれて地形は山なりになっていて、ところどころ凹凸があり、崖になっているところもあるため、迫ってくるエボルトの直進を防いで視界から逃れることもできると踏んでこちらに逃げ込んだ。



すると、平地よりエボルトの追走が緩くなる。

視界に映らなければ準備ができるまで逃げ切れるはずだ。



ドゴォン と地面に衝撃が走る。

後ろを振り向き、エボルトの様子を確認すると、煩わしくなったのか木を倒し始めた。

木はエボルトの蹴りによってなぎ倒されていき、徐々にエボルトの視界を広げ、俺の逃げ場を奪っていく。



まだか?…



準備ができ次第コトから信号弾の代わりに火の玉が打ち上げられることになっている。

それまではなんとか時間を稼がねば…



エボルトはしびれを切らしたように咆哮する。

怒り始めたらやばいよなこれ…

見つかったら一瞬で蹴り飛ばされるのでは?



巨狼を背にして走り続ける。

今日は全力疾走ばかりしている。流石にこれ以上はどうにもならないぞ?

何か逃げなくても時間を稼げる方法を模索する。

俺にできることといえば奇襲、投剣、一瞬でつぶれるサンドバックぐらいだ。

どれも足止めするには向いていない。

敵はあの肉塊で俺の短剣では奇襲をかけても致命傷を与えられないだろう。



すると、正面にゴブリンの集団がいたはずはおよそ10以上。

最悪な鉢合わせだ。



ゴブリンの集団は俺が慌てて逃げる様子を面白がり、こっちに勝ち目がないとみるとケタケタ笑いながら数の暴力のごとく広範囲を囲うように俺を追ってきた。

こいつらも愉しくハンティング気分かよ。



逃げ切れる気がしない…



逃げている先にチカちゃんの姿を発見した。

チカちゃんもなにやら逃げているようだ。

方角からしてエボルトから逃げているわけではなさそうだが…

よく見るとチカちゃんもゴブリンの集団に追われているのだ。

チカちゃんは俺の姿をみると、


「ルーくううん!!どうしようー!!」


と叫んでこっちに向かってくる。こっちも追われてるんですけど…



あ、これならいけるか?



「チカちゃん!そのままゴブリンを引き付けて俺に付いてきて!」


「わかった!なにか考えがあるんだね?」


「ちょっと危険だけど、魔物全部から逃げるよりはましだと思うよ。」



チカちゃんと俺はゴブリンを引き連れて未だ木をなぎ倒して進んでくるエボルトの方へ向かっていった。



見えた!

エボルトは俺たちを見失って怒りのままに吠え散らかしている。



「チカちゃん、エボルトがこっちに気が付いてこっちに向かってきたらすぐさま二手に分かれよう。ゴブリンとエボルトを鉢合わせる。」



「了解! ルー君、グッドラック!」



びしっと手を額あてて敬礼する。おまけにウインク付だ。可愛い。


俺はあえてエボルトに向かって叫ぶ。



「おい、犬野郎!お前の好物の逃げ惑う弱者をつれてきてやったぞ!」



エボルトはエインとチカちゃんに逃げられて怒りを露わにしていた。

それは俺が逃げているときにも同じだ。

俺とマホ、チカちゃんが姿を現すとなると、まるでエインなんて居なかったようにこちらに興味を示した。



要するに、エボルトからしたら狩りを楽しむための弱者は自分の思うがまま屠られるべきだとでも考えているのだろう。

それ以外にはうまくいかないと怒りのままに暴れ出す。

要するに力を得た子供だ。

エルダーじゃねぇのかよ…

俺の戦ったコボルトの方がまだスマートだった気がする。



エボルトはこちらに気が付くと、またしても口を開いて、こんどはガハッと喉を鳴らして嗤いやがった。

こいつ俺のこと覚えていやがるのか。変なのに好かれたものだな。



先ほどとは違う俺たちの状況を見て、ゴブリンたちにも興味を示す。

すると、エボルトはその筋肉の塊である足を折り、体を低く保つと、ドガン と地面を鳴らして突っ込んできた。



「チカちゃん!」


「はい!」



返事をするとチカちゃんはすぐさま散開した、ゴブリンの集団のなかにはまだチカちゃんに夢中で付いてきているものがいるが、数匹は目の前の光景に恐怖しているようだ。



エボルトは巨腕を振りかぶり、俺とゴブリンもろとも捻り潰そうとしてくる。



俺は飛んできたエボルトに向かって土を蹴る。

エボルトの股の間をスライディングで通りすぎ、なんとかエボルトの攻撃を避けることができた。

俺の後方から付いてきていたゴブリンの数匹はエボルトの拳により地面へ叩きつけられて肉片と化す。



エボルトは新しい玩具を見つけて夢中になっている。

仲間が目の前で粉々にされたことで、ゴブリンたちは散り散りになり、なおゴブリン集団で遊ぼうとするエボルトがゴブリンに追いつかないような速度追随する。



俺達から気が反れた今のうちにエインの元でコトとエルに合流するべく、チカちゃんとマホが辺りにいないか探す。緊急時には助けてくれると言っていたからには俺たちの位置を特定できる場所にいるということだろう。



あれか‥



すぐわかった。

エインが隠れていた深層への道の付近で、茶色の塔のようなものが生え、先端に灰色の髪が見え隠れしている。

既にエイン達とマホは合流しているのかもしれない。

塔の高さは20mぐらいだろうか、周りの木々より頭一つでている。

マホは望遠鏡で覗きながらこちらに杖を振っている。



俺とチカちゃんはマホの元へ走り出す。



これでなんとか時間が稼げそうだ、エボルトはゴブリンを追っているようだしなんとか合流できそうだ。

マホの塔まであと300mぐらいだ。

道中はなぎ倒された木々で開けているために最短でマホの元まで行ける。



すると、マホの塔より後方から、待ちに待った信号弾だ。

マホが言っていた程地形からかエボルトからの逃走は難しくはなかった。危険だったことには変わりないが…

このままエインと合流してさっさと家に帰ってしまおう。

そうしたらチカちゃんとの好感度UPイベントが待っている。



「ルー君っ…」



チカちゃんは信号弾を見るなり涙目になってしまった。



エインが自分の代わりに1人で囮になったことをとても心配している様子だった。

自分も残ればよかったと何度か呟いていたことを思い出すと、俺がしっかり2人についていければ2人だけにこんなに危険な思いをさせることにはならなかったのではと考えるが、マホに言われた足りない頭という言葉が脳裏にちらつく。



今頃になって自分の鍛錬不足や判断ミスがパーティーの足を引っ張って今回の事が起きてしまったことに後悔していた。

帰ったら反省会だな。

今度からは夜にはエインと素振りでもするかな。

マホの雑多書斎の本も読み漁ろう。



そんなことを考えながら走っていると、マホの塔は目前に迫っていた。

しかし、その道を塞ぐように1匹のコボルトが待ち受けていた。

ここで止まるわけにはいかない。



「チカちゃん、一瞬で終わらせよう。」



チカちゃんは袖で涙をぬぐうと、いつも通りの元気なチカちゃんで答えてくれた。



「私に任せて!」



前方のコボルトに俺が急接近すると、コボルトは後方へ距離をとる。

その間、俺の後ろで弓を引くチカちゃんはコボルトへ向かい、矢を放つ。

コボルトにはそれが見えていたようで、身を伏せて屋を躱す。

コボルト得意のヒット&アウェイをさせまいと攻撃手を休めることなく、俺は剣を振り下ろす。



その剣戟はコボルトの持つ剣と接触するたびに、火花を散らす。

お互いの腕力は均衡し、剣の打ち合いになる。



拮抗した状況で、後方にいたチカちゃんはいつの間にか俺の脇から躍り出て、ナイフをコボルトの腹部をすれ違い様に切り裂く。



打ち合っていたコボルトにはその痛みから僅かな隙ができた。



甘く入ったコボルトの斬撃は俺の剣に弾かれ、懐ががら空きになる。

俺はさらに接近し、よろけるコボルトの鼻に向けて頭突きを食らわすと、コボルトはたまらず鼻を押さえて後退する。

後退した先にはナイフを逆手に持ったチカちゃんはコボルトの喉元に向けて突き刺した。



コボルトはその痛みに耐えられず、膝から崩れ落ちる。

鼻を押さえていたコボルトの手は、出血が止まらない喉に当てられるも血が止まる様子は全くない。

地面がコボルトの周囲を取り囲むほどに広がると、コボルトは力尽き、血だまりに顔をうずめる。



「チカちゃん、ありがとう…」


「私とルー君にかかればこんなもんよ! ささ、マホちゃんの所に行こっ!」



いつの間にかチカちゃんが前よりも逞しくなっていることに感動を覚える。

前まで剥ぎ取りで青ざめていたとは思えない成長ぶりだ。

このままチカちゃんに養ってもらうのも良いかもしれない…

人をダメ人間にするチカちゃんが全俺の中で流行りそうだ。



足を進めようとしたその時、空気が震えた気がした。

直後、獣の声が森中に響き渡る。




グルオオオオオオオオオォォォォォォオオオオ!!!!!!




その雄叫びが、いつの間にか俺達の後方から近づく地響きにも似た足音を否応無しに気付かせた。



遥か後方、なぎ倒された木々によってエボルトの視界から逃れる術を失った俺達は、目血走らせながら突進してくる猛獣に戦慄していた。



チカちゃんの表情は、先ほどまでの頼もしい表情から一転し、恐怖一色と化していた。



恐怖で体の動きが鈍り、今にも食いちぎってきそうなエボルトを目の前にして、ようやく声を発することができる。



「チカちゃん、逃げて!」



その声はチカちゃんには届いていないようだった。

しかし、チカちゃんの目をもう一度よく見ると、恐怖におびえる目ではなく、覚悟を決めたような目だった。




「ルー君、ごめんね。でも、逃げきれそうにないから私…やってみるよ。」




逃げ腰の俺に対し、チカちゃんはもう一度ナイフを強く握りしめて、深呼吸をした。

ここで俺だけ逃げるわけにはいかないだろう…

まさかチカちゃんにそんなことを言われるなんて思いもよらなかったよ…

俺も腹をくくるとしよう。



「チカちゃん、一人でやるつもり?2人いたほうがいいと思うんだけど…」


「逃げてもよかったのに、ルー君はいつも肝心なところで選び間違っちゃうよね」


「今までは間違っていたかもしれないけど、これは間違いじゃないよ、チカちゃんがいないのに生きているなんて苦行以外のなんでもないからね…」


「あはは、ルー君それプロポーズのつもり?でもごめんね、私、心に決めた人がいるの!」


「なん・・・だと・・・?」



かつてない衝撃に意識が飛びそうにな












飛んだ。


ああよかった、戻って来れた。

これはだめだ、苦行確定だ。

来世は必ず先にチカちゃんにアプローチするぞ…



チカちゃんは俺を気遣ってかどうかはわからないが、言葉を交わしている間には振り返らなかった。



怒り狂う巨狼を目の前にしてこんなやりとりは本来するべきではないだろうが、こんなやりとりはこの時ぐらいしかできないだろう。



俺も深呼吸してエボルトに向き合う。



そんなことをしていると、俺を中心に地面に魔法陣が描かれる。

地面が突き出て渦巻き状の壁が生成されてそれに取り囲まれる。



直後、後方から飛んでくる小さな何かが、灰色の軌跡を描きながら渦巻き壁を滑り土煙を上げながら着地を決める。



その小さな灰色の星は、俺たちに向かい小言を言うのだ。



「チー、どうせならカッコつけて終わりたいなんて蛮勇は見捨てたほうがいい。」



いつものように、俺を貶しながら得意げな表情をするマホの顔はこんな状況でも自信に満ちていた。



マホの顔を見て、チカちゃんの涙腺が崩壊する。



「マホ大先生、遅すぎじゃないか?こっちは来世のことまで考えてたのに…」


とんだ取り越し苦労だったみたいだ。


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