探索 2
エインパーティー編 11
ゴブリンの群れとの戦闘を終えた俺たちは引き続き森を探索していた。
先ほどの休憩の合間に昼食の代わりにマホが街で買ってきてくれた干し芋を腹に入れておいた。
腹が減ってはなんとやら、動けるときに力が出ないといけないからね。
たしかこの芋は食べると魔力がちょっと回復するとか言ってたっけ。
魔術師にとってはかなり重要な食べ物なのに、マホはどうして3人に配ったのだろうか。
しばらく森の中を探索し、道中は魔物がちらほらいたが無理に戦闘を行わずにコボルトを探し回った。
森の奥まで来ているからかだんだん涼しくなってきた。
マホはローブの上から手あてて自分の腕を撫でている。
チカちゃんが鞄の中からブランケット的なものをマホに渡すとマホはマントのようにして羽織った。
「ありがと。」
「確かに少し寒いよね。マホちゃんそれでも寒かったら私がマホちゃんの外套になってあげるねっ。」
「温そう。」
2人が話しているとほんわかする。
マホがへんな発言しないからかな…
すると、遠くのほうから遠吠えが聞こえた。
コボルトの声だと思われる。
エインが声の方へ向かう意図を頷いて示すと、俺たちは声のする方向に走り出した。
しばらく走って、声の大きさからしてだいたいこの辺だろうというところまできたが、なかなか見つからない。
走っている間にも魔物さえ見つからなかった。
近くで戦闘が起こっているわけではないようだ。
付近を捜索すると木々が途切れて開けているところを見つけると、そこにはコボルトの集団がいた。
数は役10匹といったところか。
流石にこの数相手だといくら3人が強くなってマホがいても無事ではすまないはずだ。
よく見るとコボルトの集団の中央には赤い色のコボルトがいた。
初めて見るその個体にエインが反応する。
「コボルトの亜種、コボルト・アトラだ。」
「早く逃げたほうがいい。さっきの遠吠えはアトラのものだ、あいつの遠吠えを聞いたコボルトが引き寄せられて来たのだろう。」
「やっかいな奴だな。」
「じゃあ今回は戦わないの?」
「残念だけど、その方がいいだろう。」
戦ってる最中にあれよりもっと引き寄せられたらたまったもんじゃない、絶対に戦闘になりたくない。
気が付かれないようにさっさと退散しよう。
とするがマホが杖を構えていた。
「私に任せる。数が4匹以内に収まるように屠る。」
「おい、なにやってんだよマホ、話聞いてただろ。失敗したら…
言い終える前に止められるのがわかってやっているのか早口言葉のように詠唱文を読み上げる。
「我、遥かなる異形の獣を食らう者なり、母なる大地の抱擁により、その我の血肉とせん!」
いつもと詠唱が違うようだ。なににしても早く止めなければ…
エインとチカちゃんはすでに諦めて逃げる準備をしていた。
ちょっと!止めてよ!
「マホ、やめろ! 危険だから早く退r『弾圧しろ…《土万力》!』おおおおおぉぉい!!!」
マホが胸の前で両手を合わせパンと音を鳴らすと、コボルトの集団の両脇から地面が割れ、立方体が出来上がる。
コボルトは何事かと周囲を見渡すと、土が盛り上がり、土塊の立方体が出来上がる光景を不思議そうに見ていた。
直後、その土塊は押し迫り、周囲のコボルトは巻き込まれて万力に挟まれた。
「あ、ヤベ…」
「おい、マホどういうことだ…」
「赤いのに避けられた。」
「エイン、チカちゃん!アトラを仕留め損ねたらしい、逃げよう!」
残ったコボルトが周囲を警戒し、俺たちの姿をとらえると、一目散に追ってきた。
確かにマホの土万力は集団の半分をも一瞬ですりつぶしたが、肝心の赤が仕留めそこなっては戦うわけにいかない、逃げの一択だ。
自分の放った魔法の余韻に浸っているマホの首根っこを掴んで、走り出した。
「今度から全員の許可出てからじゃなきゃ魔法禁止な。」
「なぜそうなる。」
「この状況見てわからねえのかよ! 赤いのがコボルト引き寄せたら集団と戦闘になるんだぞ!」
「私の魔法があれば余裕、犬ごときに後れを取る訳がない。」
「近接戦闘やってみてから言うんだな。」
悠長に話している場合ではなかった。
エインとチカちゃんは先に走り出して5メートルほど空いている。
マホは足が遅いので俺が負ぶって走っている。
後方で遠吠えが聞こえた。先ほど遠くから聞こえたものより怒りを含んだような声だった。
次の戦闘指揮は俺の番だったことを思い出してすぐさま指示を出す。
「エイン、ちょっと手が離せないからコボルトがきたら迎え撃ってくれ。チカちゃんは横から追って来てないか見ながら弓でけん制してほしい。」
「「わかった!」」
マホにも指示を出しておく。
「マホ、魔法まだ打てそうか?」
「小さいのならなんとか。」
「後ろから追走してくるやつを迎撃してくれ、頼んだ。」
「私に死角はない、すべての追っ手を駆逐して見せよう。」
「無理しなくていいから、確実に狙ってな? この状況お前が作ったんだから責任もって仕事をしてもらう。」
すると後方から荒い息を吐きながら四足走行でコボルトが迫っていた。
普段は二足歩行だが、コボルトは敵を追うのに四足歩行になり、直線走る速さとスタミナが増える。
方向を変えて切り返しをしたところにマホに撃ってもらうことにする。
気が付いたらエインとチカちゃんとはかなり離れてしまっていた。
「エイン、チカちゃん右に曲がって! マホは曲がった後にコボルトを魔法で撃つ、いいな?」
「外すわけがない。」
そりゃ頼もしい。
大規模魔法に走行しながらの射撃もできる家の高性能ロリは一家に一台あっても足りないかもしれない。ただ、しばしば人の話を聞かなかったり暴走するけど。
エインとチカちゃんは指示通り右へ曲がっていった。
俺も2人を追い、曲がり始める。
マホが詠唱を始める。
「我眼前に捉えられし、異形の獣よ、母なる大地の抱擁により、その身を土塊に帰すがよい!」
「穿て!…《土杭』!」
コボルトはその速度では曲がり切れずに地を横滑りする。
踏みとどまると、こちらに向かってくるが、隆起した地面から土杭が放たれてコボルトの眉間と喉に命中する。
「よし!よくやったマホ!」
「たわいなし。」
前方に視界をもどすと、2人は急に逆走しだした。
そして、逆走した二人とすれ違い、前方へ目を向けると、そこにはコボルトよりも1まわりも大きい筋肉質な巨狼が走ってきていた。
それは俺たちに目もくれずに2人を追いかける。
「ルー君?!見えてなかったの?!」
「チカ、だめだ!早く逃げよう! ルクス、ここで解散だ!なんとか逃げ延びるんだ!」
「ちょ、2人はどうするんだ!」
俺の声に2人は答える暇もなくものすごい逃げ足で駆けていく。
それを追う巨狼はその図体からスピードがあまり出ないのか2人との距離は一定に保たれたままであった。
2人を追うべく方向転換するが、先ほど倒したコボルトの周りに2匹のコボルトが群がり、俺たちを憎らしそうににらみつけている。
くそう、やるしかないか!
「マホ、いけるか?!」
「私を誰だと思っている、今夜は犬鍋に狼の丸焼きだ。パーリナイッ!!」
「うまくいくといいんだがな‥‥」
俺はマホを下して武器を取り出す。
休憩時間に手入れしておいた短剣はいつの間にか晴れて、森に指す陽の光を反射して光っている。
マホも杖を両手で構えてコボルトと対峙する。
周りから他のコボルトの気配はしない。
「行くぞ…」
「応。」
戦闘開始だ!