探索 1
エインパーティー編 10
先ほどのパーティの戦闘を見終えた俺たちは、コボルトを探して森を彷徨っていた。
森の深層に近づくほど魔物の数は多くなる傾向にあり、道中で、2メートル下の崖にゴブリンの群れを発見した。
本日最初の戦闘指揮はマホからになる。
「マホ今回の指揮を頼む。敵はゴブリン3匹だ。」
エインが告げるとマホは即答する。
「前衛はゴブを一か所にまとめるだけでいい。チーも犬と戦う前に肩を温めておくべき。」
「わかった!私も前衛の二人に混ざってゴブリンをまとめればいいんだね?」
「よろしく。」
マホの作戦はあっさりとしたものだった。
奇襲などではなく真正面から魔法でねじ伏せると言っている。
前衛の三人で下を歩いている3匹はゴブリン語で会話しているようだ。
ゴブリンとの距離は十分に取れているため、そのまま崖から飛び降りても攻撃されることはなかった。
後ろにいるマホは杖を構えて詠唱の準備をしている。
ゴブリン達が何やら顔を合わせ喋り終えると、武器を携え吠えながら突進してくる。
すると、背中からマホの指示が飛んでくる。
「ルクは正面でゴブのサンドバック、チー左、エイは右でゴブを囲う。」
俺タンクかよ!
いくらなんでも短剣使う俺にゴブリン3匹は厳しい。
1匹でもいいから2人のどっちかに攻撃しに行って貰わないと困る。
ゴブリンは3列になって俺に向かってくる。
一番手前から走ってきたゴブリンが棍棒を振り上げる。
そのまま避けるわけにはいかないため、短剣正面に構え、棍棒を受ける。
ゴブリンといえど、全速力で向かってきた勢いのままの一撃はなかなかの衝撃になる。
短剣で受けるも後退してしまう。
棍棒をはじかれた衝撃が返り、ゴブリンはよろけてこける。
今攻撃してきたゴブリンの後ろを見ると、1匹のゴブリンがチカちゃんに襲い掛かっていた。
残り1匹はそのまま俺に突きをかまそうと突っ込んでくる。
突っ込んできたゴブリンは短剣を俺の胸めがけて突き刺す。
腰を落として半身になり、ゴブリンの突きを左に躱すと、右足でゴブリンの腹を蹴り上げる。
ゴブリンは宙に浮き、その場でうつぶせで腹を抱えた。
先ほどの棍棒ゴブリンはすでに立ち上がっており、防がれた腹いせに棍棒を投げつけてきた。
さすがに蹴りで体制を崩したおれは無理によけようとして身をかがめて俯せているゴブリンに躓き、でんぐり返しする。
何とか躱せたが、ゴブリンも武器を失ったところで逃走する。
そこにはエインが待ちかまえてブロックに入り、ゴブリンの逃走を防いで中央に寄せる。
チカちゃんもゴブリンの攻撃を防ぎながら離れすぎないように立ちまわっていた。
短剣ゴブリンを迎え撃つべく、俺も急いで体制を立て直す。
すると、背後からマホの詠唱が聞こえてきた。
「我眼前に捉えられし、人を模した異形の者よ、母なる大地の抱擁により、その身を土塊に帰すがよい!」
マホの攻撃範囲に全てのゴブリンが入ったようだ。
早口でマホが詠唱を終えると、地面が揺れて割れていく。
土の形状が変化し、それぞれのゴブリンの周りを取り囲む。
隆起した土の腹から先端が鋭く尖った、杭が無数に生み出される。
ゴブリンたちはその様子に驚きながら身を武器で防ごうとする。
「貫け…《土杭》!」
マホが声を上げると、杭は土から飛び出し、360度からの一斉射撃になすすべなく体に穴をあけられる。
『『ガアアアアアアアァァァァ!!!』』
ゴブリンたちは悲鳴を上げると、動かなくなった。
マホの土魔法、《土杭》はすべてのゴブリンの命を一瞬で奪った。
さすが高性能ロリ、伊達に魔法を学んではいないようだ。
家にある大量の書物は魔術書ですべて読み漁ったから要らないというりゆうで物置に放置されている。
それほどにマホは魔術師として長けている。
攻撃魔法以外にもマホは色々とできると言っていたが、今のところ俺たちは《土杭》しか見たことがない。
戦闘が終わると、チカちゃんが「すごーい!」と言いながらマホに抱き着く。
エインも土魔法の威力に感心している。
なにせ前衛3人でもゴブリンの群れとは1匹ずつ戦わないと厳しいのに、目の前で3匹同時となると同じパーティー内でも唖然とさせられてしまう。
俺とエインで剥ぎ取りを行うが、ゴブリンが穴だらけなので魔晶が取り出し易くなっていたためにすぐ終わった。
そうだ、今回は何とかなったが一応マホの無茶ぶりでタンク役をさせられたことに文句を言っておく。
「マホ、相手がゴブリンだったから何とかなったけどコボルトだったら俺じゃあ厳しかったぞ。」
「犬2、3匹に負けないと見込んで連れてきたつもり。」
久々のマホの高評価にちょっと驚く。
なんだよ、やっぱりマホはお兄ちゃんのこと信頼してくれているじゃないか。
脳内の妹マホも俺を褒めてくれた。
『にぃに、やっぱりにぃには強いね、マホのことちゃんと守ってくれてア・リ・ガ・ト♡」
「エイとチーなら大丈夫だと信じていた。」
「俺じゃないのかよ。」
普段冷たいのに上げて落とすとはなかなかマホも酷いことをしてくれる。
馬車に乗ってるときに特大のチンさむを体験したかのようだ。
その年でお兄ちゃんを翻弄してくるとは将来、正装のまま畏まって玄関に入ってきておいて、後方に男を何人も連れてきて「私、この人達と結ばれてるから~」とか事後報告してきそうで怖い。
絶対にお兄ちゃんが許しません。
先ほどからずっと歩き回ってコボルトを探していたため、マホが疲れたと言い出した。
ちょうどひと段落したし、この辺で休憩をとることにした。
適当なところに素材を包むための布を敷いて休憩をとる。
座るなり、マホはチカちゃんの太ももを枕にして寝始めた。
「マホ、チカちゃんが休めないじゃないか。」
「大丈夫だよ、マホちゃんずっと歩いてたし、あれだけの範囲で魔法使ったんだから休んでもらわないとね」
「チカちゃんがそう言うなら… 疲れたら俺が膝枕してあげるからね?」
「本当? じゃあコボルト倒したら疲れて動けなくなっちゃうからその時にして貰おうかなぁ?」
マジかよチカちゃんに膝枕権ゲットしたぜ!
あれ、これはどうなんだ?
美味しいのかいまいちわかりにくいが、きっと好感度UPイベントのはずだ!
楽しみだな…
「エイン君は疲れてない?大丈夫?」
くそう、エインのやつチカちゃんに心配されてやがる
「僕は大丈夫だよ、さっきの戦闘でもルクスが攻撃を受けてくれていたし。」
「そんなことないって、大したことはしてないし気にするなよ。」
エインがこっちを向いて僅かに微笑む。
おい、こいつチカちゃんに心配されてるのにこっち見て笑ってきたぞ。
エインホモ疑惑が立った瞬間だった。
今度から部屋に鍵かけて寝よう。
それから10分程休憩して、コボルトを見つけるべく捜索を再開した。
太陽はちょうど真上まで来ていた。