プロローグ
理想
薄暗い空間の中に二つの球体がある。
一つはどこまでも深く続くような青
もう1つは遥か遠く広がるような緑
2つの球体は宙に浮いている。
それらを見比べていると、意識に選べと流れ込んでくる。
この2つのどちらかを選べばいいということなのだろう。
緑の玉を選んだ。
するとどうだろう。
どこからともなく声が聞こえた。
「そうか、そっちを選ぶんだな…」
その声には落胆の色を見せ、それ以降聞こえることはなかった。
その後、徐々に薄暗かった空間に光が差し込むように照らされていく。
その光は空間すべてを飲み込み先ほどまでそこにあった2つの球体を隠してしまった。
気が付くと、全てを覆っていた光に綻びが生まれる。
光の亀裂からは鮮やかな色が空間を染めていき、いつの間にか光は収まってその空間は一つの風景と化していた。
その風景は、ずっと待ち望んでいたものだった。
それまで見てきた 黒 白 緑 青 それだけでは決して再現することができない芸術。
今、眼前にはどれだけ願っても叶わなかった世界が目の前に広がっている。
手を伸ばすと、帰ってくる感触があった。
大きく強かな手が、俺の伸ばした手を握り返してくれていた。
とても暖かいその手に包まれた後、意識が遠のいてゆくのを口惜しく思うのだった。
「は…まて…、ルクス……れて…と…」
意識が切れる直前に、誰かの名前が呼ばれた。