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幾多の夢の航海日誌  作者: 明石 暦
14/18

鉄十字

学校からの帰り道、私は幾人かの友人と共に駅へ、小竹を手に持ち歩いていた。

駅付近の商店街は、普段なら閑散としており、開いているかどうかも分からない、暗い扉で来店を拒んでいるかの様に感じられていたが、その日は全体的に活気に満ち溢れ、露店が幾多も立ち並び、多くの人々が買い物を楽しんでいた。露天に並ぶ商品は果物や野菜などの食品類が多く、質の良い品物なれば、其れなりの売値を付け、買い物客もその品質と値段に納得した様子で次々と、商品が買われていく。

私達は駅ビルのエスカレーターに乗り、上へ上って行った。すると真横の階段の最上部に横並びで整列した軍服の人々に目がついた。

きちんと皆が同じ姿で一糸乱れず整列している。左腕にはハーケンクロイツの腕章が付けられており、すぐさま何処の者なのかは理解できた。

不思議なのは、何故彼らが今存在するかだ。

普段からニュースや新聞を見ていない私は、詳しそうな人物にその事を尋ねた。曰く日本の政治に新たな政党として参入してきた彼らは、ネオナチスに相違ないので有るが今の所、人種的な迫害や、反ユダヤ思想を展開しておらず、具体的な政策を元に支持者を増やして、今の地位を確立する事となったと言う。

地域の活性化に成功し、景気の向上に努めているそうだ、かの商店街があんなに賑わっていたのも、この政策が有ったからだと言う。

確かに商店街に並んでいた果物は見事に育ったものばかりで無く、安価で求められる若干品質の劣る物も有り、社会的弱者も満足に暮らす事が出来るだろう。天然の舞茸などは其れを手に入れるだけの苦労に見合った価格で販売されている。

この政党が支持されたのも納得できる結果が其処には有った。


だが彼らの政治的信条は、根底的に変わって居ない。日本ではその事実を隠し、基盤を固める事を目論んでいるのだろう。


そう思ってしまった。

口には一切出さずに居たはず――

だったのだが、鉤十字を腕につけた彼らはじっと私を見詰めていた。明らかなる敵意を持って。

エスカレーターを登りきる前に、私たちは一斉に走り出す。エスカレーターを逆走し、商店街のほうへ、全力で逃げた。彼らも私達を追いかける、軍靴の音が徐々に背後に迫ってくる。

小竹を使い、高飛びの要領で出店を飛び越える。彼らは障害物に見向きもせず、果実を踏み抜き、向かってきた。仲間たちと別れ、出来る限り遠くへ走った。


なんとか上手く逃げることが出来たようだ、彼らは無事逃げおおせることが出来ただろうか。

彼らの思惑よりも、過去に目を背け、見たくないものを見ようとせず、今を生きることに楽する事に執着する者達へ強い恐怖を感じた。

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