湖の遊園地
廃墟となり、もう使える遊具も、稼働している機械も無い。そんな遊園地が有った。湖の中に観覧車や回転木馬が2尺ほどの高さの水位で水没して居たが、澄んだ水は底まで明瞭に見え、小さな魚達が泳いで居た。私は屋根付きのボートに乗り、船頭にはガイドの女性が、遊園地の歴史を一つ一つ説明して居た。
廃墟となった後に観光地として有名になったのには、どうにも哀れに感じられる。この観光ツアーには耕と参加する予定だったのだが、予定がずれてしまい、結局は一人で参加することと相成った。だが耕は悔しい様で、電話越しでも良いから参加したい、そんなこんなで、イヤフォンを着け、電話をしながらの観光となってしまった。
遠巻きに観覧車の全景を捉えてから、船はゆっくり観覧車へ近づいて行く。幾つか、円形の観覧籠が無い所が有るが、原型を留めたまま、自然に呑まれかけている姿が、美しくも形容し難い郷愁の様な感覚が、私を魅了して行く。耕は電話先で、ガイドの発言の度に、行きたかった、羨ましいなどと言う。正直喧しく思われたが、暫くすると静かになる、何か作業をし始めた様だった。
暫く無言が続き、私もツアーに集中して居た。
夕陽が差し込む、長い影が延び、黄昏が支配する。
突然、耕が声を発し、折角のノスタルジックな気持ちが何処かへ消え、現実に引き戻されてしまった。
「どうかしたか?」
すると耕は「通話にマルコ呼んで良い?」と言い始めた。誰だ、マルコ。
耕曰く、大学の繋がりで知り合ったらしい。突然出てきた外国の異分子に言語の壁など、様々な不安が錯綜する。此方が決めあぐねていると、耕はその「マルコ」を通話に追加した。ピロンと言う通話に参加した事を示す音が鳴り、心の準備が整う間も無く、私は取り敢えず「ハロー」と声を絞り出す。声が上ずり恥ずかしさが滲み始めた。
だが返ってきた言葉は聞き覚えのある、気の抜けた、やほーと言う声であった。
「真里亞じゃねぇか!」
盛大に在り来たりなツッコミを入れつつ私は布団から飛び起きた。