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9R武神、子供を見る

※この物語はフィクションです。実際の団体名個人名は一切関係ありません。


カァン!


試合のゴングが鳴り、伝説は始まった。二階級の差は大きい。それは並べて見れば良く分かる。谷川は193?と恵まれた体格であるのに対し九鬼は178?程の引き締まった痩せ型。そんな九鬼は谷川に見下ろされるようにして試合は始まった。

タンッ、タンッとボクシング特有のフットワークをする谷川。反対に静謐に柔道の構えを取る九鬼。あくまでその構えは九鬼からすれば癖に近い物で有ったが、谷川からすれば自らの総合格闘技(聖域)を馬鹿にされた様に感じた。


(やっぱ冷やかしかよ……)


熱い実況の裏で一人そう考えたそれは谷川の憤怒を正しく表していた。谷川は許せない。この聖域に混じる異物が。さっさと排除してしまおうと気合いを入れ、初手のジャブに持ち込もうと……。


「過去のビデオを見てまさかとは思いましたが。ここまでレベルが低いとは……」


九鬼の呟く声が聞こえた。独白の様であったが声が大き過ぎる。その決定的な侮辱を谷川は聞いた。聞いてしまった。


「あ?」


谷川の中で怒りが爆発し、ふざけんじゃねぇ、殺すぞ、と続けようとしたその時。それを遮るように九鬼の宣告は届いた。


「隙だらけです」


それは谷川への死の宣告であった。谷川が怒りに支配されていた中、九鬼もまた静かに燻る怒りの炎に薪をくべていた。いや、それは怒りというよりは失望に近い。こんなものか、この一言だ。最強を決める場所。その看板はこの素人上がりが多すぎる場所には似つかわしくない。九鬼はかつての明日奈との誓いが汚された様な気がしていた。

怒りに燃える対戦者を見てみれば何と嘆かわしいことか。自分が若い頃はあんなものを戦士とは呼ばなかった。あれは子供だ。自分の力に溺れた器なき者。戦士とは、内なる器を鍛え上げ、そこに努力という名の水を注ぎ、いかにその水を溢さないように過ごす者のことだ。

対して目の前の若者はどうだ。努力しているのは分かる。だが、努力が下手だ。器に水を注ぎ入れるのではなく、大量に用意した水を器で掬い上げる様なやり方。何処を目指しているのか解らない筋肉の付き方、体格の良さに胡座をかいた動きの精細さの欠如。実に効率の悪い努力の仕方だ。しかもその努力は圧倒的に足りない。質、量共に戦士と呼ぶのは不合格だ。祥平が素人に毛の生えた、と表現していたが正しくその通りだと九鬼は思う。

他に鍛練の仕方は無かったのだろうか。正しく積み上げて居ればもっと高みに居ただろうにと九鬼は残念でならなかった。


隙だらけです。

その死の宣告を聞いた谷川は一瞬の空白、そして何を言われたのか理解した谷川は殴りかかろうと拳を固め……。


「遅過ぎます」

パァン!


しかし次の瞬間糸が途切れた様に崩れ落ちる。人体の急所である顎を打ち抜かれたのだ。アッパーで顎を打ち上げられた谷川は前のめりに倒れる。膝から意識せず倒れた為膝が付くとき凄い音がした。

九鬼が放ったアッパーは教本に載せても良い程の美しい軌道を描き谷川の顎を打ち抜いた。力が最大限に乗ったアッパーは谷川の脳を高速で揺らして軽い脳震盪を起こさせたのだ。

ダウン直前の谷川、しかしそこで九鬼の攻撃は止まない。九鬼は打ち上げた格好のまま、左足を主軸にすると華麗とも呼べる動きで一回転する。総合格闘技ではかなり珍しい回し蹴りである。まるでダンサーが何度も練習したかの様に無駄が無い。九鬼の右足は一度跳ね上げる様にリングを蹴るとそのまままるで測った様に正確に谷川の右側頭部へと迫る。

本来ならこの試合、その回し蹴りで決着は着いて居ただろう。それ程までに強烈な蹴りでありそれを幾ら二階級上の日本チャンピオンだとてノーガードで食らえばひとたまりもない。だが、九鬼武勝という男は運が悪かった。そして九鬼はこの場でも見事に“大凶”を引き当てた。


「ストーーッップ!!ストーーッップ!!」


それはレフェリーの注意。本来総合格闘技ではダウンで止めるということはほぼ無い。何故なら寝技も存在する総合格闘技では倒れた相手への加撃も認められており、ダウンという物が事実上存在しないからだ。あるとすればレフェリーストップでのTKO。だが、この時にレフェリーが止めたのはレフェリーの誤審。膝付きをダウンと判断し、グラウンド状態による頭部への蹴りは反則であると判断した為だ。それがアメリカであれば反則だったであろう。実に残念なことに谷川の本戦、つまりアメリカからの招待選手と戦う時の為にアメリカからのレフェリーも招待していた。それを肩慣らしとして前哨戦でもレフェリーをしたいと志願したことが仇となった。日本とアメリカによるルールの違い。日本はグラウンド状態による頭部への攻撃を認めているのに対しアメリカではそれを反則としている。本戦ではアメリカのルールで行う為にアメリカのレフェリーを呼んだのだが、この前哨戦をアメリカのルールで行う必要性は皆無であり、当然日本団体ルール適応であった。そこをレフェリ

ーは勘違いした訳だ。止める必要は無かった。しかし、九鬼は良くも悪くも“武神”であった。自らの全力の攻撃を何時でも止める事が出来た。そしてそれが可能ならば九鬼は攻撃中であるという言い訳を捨てそれを行う。その高潔な精神故に、後数ミリ。九鬼の右足は谷川のこめかみに後数ミリ届かなかった。

しかもこのレフェリーの注意は少々早すぎるきらいがあった。大抵レフェリーは膝付き程度ではダウンは取らない。いや、取れないのだ。膝付きから倒れるまでは一瞬。その間を縫うような瞬時の判断は人間には不可能。まさに神業であり、普通なら出来ない。つまりこの試合のレフェリーは仕事をし過ぎた。レフェリーの神業と九鬼の神業が合わさった結果の誰も責めることが出来ない間の悪さ。その間の悪さが谷川を生かしたのだ。その為にあの回し蹴りは完全に当たる筈の攻撃であり、回避もストップも効かない筈であった。しかし九鬼はその実現不可能な程の確率をド頭で引き当てた。逆の意味で。

レフェリーの誤審は事務局の介入で取り消され試合は再開の運びとなった。

そして生き延びた谷川は軽い脳震盪から頭を振って立ち直り、その怒りを露にした。


(クソッ!この俺が負ける!?ふざけんじゃねぇ。こんな最初の段階で躓く訳には行かねぇ。俺は日本の総合格闘技の誇りを取り戻す!!その為にはこんな所で油売ってる訳には行かねぇンだッ!!高く飛ぶ為の踏み台を踏み外す訳には行かねぇンだッ!!)


試合が再開した途端、それこそ猛牛か何かの勢いで迫る。別に無策という訳ではなく、谷川なりの考えあってのことである。


(俺に有利に働いて奴に不利に働くのは体格差、そして重量。要はパンチの重さだ。だから自然打ち合いに持ち込めば一撃の差が勝負を決める!)


ノーガード戦法。防御を捨て攻撃のみに特化させる。二階級の差は大きい。相手の攻撃が効果が薄いのであれば多少のダメージは覚悟の上で相手に出来るだけダメージを叩き込む。実に正しい判断だ。

相手が九鬼でなければ……。


「2度目の警告です。隙だらけですよ」


わざわざ相手が攻撃に専念してくれるのであれば多少のダメージは覚悟の上で体重差を引っくり返す一撃を叩き込めば良い。九鬼にはそれが出来る。谷川が生き延びたことが何になる。ただ死ぬまでの時間がほんの少し延びただけだ。

間合いを測りつつ掌をこれでもかという位に開き、反らせる。オープンフィンガーグローブならではの挙動だ。谷川も右手を引いてまで自身最高の威力を叩き込もうと走りながら準備する。そして谷川が体格に添った間合いの長い腕を振り抜こうと……。


「今!」


直前“ほんの少し早く間合いに入った”九鬼はまるで空手の突きの様に体を動かし、谷川の体に掌が当たる直前に拳を固め手首のスナップさえも利用した強烈な当て身を放つ。

波動拳。

当て身に興味を持って日本拳法を創り上げた創始者が、その当て身の極致として編み出した技。


「ガハッ!」


谷川はカウンター気味に強烈な当て身を食らい崩れ落ちる。

本来ならリーチが短い者が先に間合いに入るなんて有り得ない。それは空手などに代表される間合いの長い格闘技などだ。これらは体全体を使う為、攻撃に腕だけを使うボクシングなどとは違い必然的に間合いが長くなる。そして日本拳法も空手を源流とする為に体さばきは空手に近い物がある。その分だけ九鬼の方が先に間合いに早く入ったのだ。

そしてそれが決め手となり、今度こそレフェリーストップによるTKOでの九鬼武勝の勝利となった。そして場内に熱い実況が流れる。


【武神健在!何と二階級上のチャンピオンを30秒で打ち沈めました〜!!】


その壮絶な内容の実況を聞いた会場は一気に歓声を上げた……。


途中の実況と解説は無し!

何故なら知識が無いのがバレるから!


いや、ちゃうねん。

うちのガラケーが過保護過ぎて情報が入らないだけやねん。

情報収集はしたいねん。

例えば日本拳法って検索するだろ?

そしたら299件位iモードで出てくるんだよ。

PC経由はフィルターに掛かって全滅する。

しかもそのたのみのiモードも6件目辺りからサラリーマン金太郎とか何で君出てきたの?とか思わざるを得ない検索結果しか出てこないんよ。

しかもiモードですらフィルター通らんの多すぎて結果日本拳法で出てきたのはウィキペディアとウィキ辞典となんか日本拳法でチャンピオンになった少女の紹介記事?みたいな奴だけなんだよ。

これでどないせいっちゅうねん。

しかもその紹介記事も30秒毎にこのサイトは安全でない可能性があります。接続しますか?って聞いてきてウザい……。

しかもウィキペディアすらフィルター通らん時があるのじゃw

ウィキペディアのどこら辺が性的嗜好じゃ、ハッ倒すぞこの野郎!


ああ……。うちのガラケーが過保護過ぎて泣きたい……。

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