部屋
四方を白い壁に囲まれた部屋。真ん中に背もたれのついた4本足のイスが1脚。そのイスに座って僕は本を読んでいる。窓や扉はない。床や天井も白く塗られていて、照明器具は見当たらないが、適度に明るい。歩き回るのに十分なスペースはあるが僕は歩かない。天井も、立って歩くのに不自由のなく、かといって不安感を煽るほど高くもない高さ。
イスのほかに家具はない。イスと僕と本と。それだけしかモノはない。僕の読んでいる本ではストーリーが進んでいく。僕も登場人物の1人。その本の中で動き回り、ときに悲しみ、ときに笑い、と僕の感情まで描かれている。でも、本を読んでいる僕は、と言えば、読んでいるページの先にどんな展開があるのか、すでに知っている。登場人物たちが、僕が活動しているのを淡々と読んでいる。
僕がどうこうしようとも、本の中のストーリーは変わらずに進んでいくし、そもそも僕にとってはストーリーがどう進むかは、既知のことであるし、その展開にさして興味はない。本の中の僕は、本の中でもがいている。ストーリーの中で、ストーリーの展開に関わったり、関わらなかったりして。
ときに思う。この無味乾燥な読書をやめようか、と。ただ、本を閉じたところで僕は部屋の中で歩き回ることも寝そべることもしないだろう。読み続ける理由もなければ、読むのをやめる理由もないのだ。
そう。僕は本を閉じることはせず、これからも淡々とこの本を読み続けるだろう。隣にも同じような部屋があって、そこでも誰かが僕と同じように本を読んでいることを願いながら。